プログレおすすめ:Moon Safari「The Lover’s End Trilogy」(2012年スウェーデン)
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最終更新日:2015/12/02
2010年‐2013年, シンフォニック, スウェーデン, メロトロン Moon safari
Moon Safari -「The Lover’s End Trilogy」
第5回目おすすめアルバムは、スウェーデンのMoon Safariが2012年に発表したEP「The Lover’s End Trilogy」をご紹介します。
約25分近くある3「Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade」は、Moon Safariにとって最初のシングルだそうです。シングル発売後、本来3rdアルバム「Lover’s End」の冒頭曲「Lover’s End Pt.1」と最終曲「Lover’s End Pt.2」を並べ、新たに長尺の「Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade」を制作・追加し発表したのが当EP盤です。
バンドの最も特徴的なのは、楽曲のアンサンブルで魅せる各楽器のスキルフルさやテクニカルさよりも、例えば、1960年代でいえばThe Beatles、1970年代でいえばQueenのようにメンバー全員がコーラスワークに参加し楽曲を彩っていることです。また、プログレッシブ・ロックというファクターを取っ払っても成り立つ素敵なメロディラインは、コーラスワークが楽器の1つとも云えるような作曲センスを強く感じてしまいます。自分は限りなくPOPの延長線上ではないかと当初錯覚したぐらいです。
楽曲について
冒頭曲1「Lover’s End Pt.1(Alternative Cut)」は、原曲として3rdアルバム「Lover’s End」の冒頭部に収録されたバージョンをはじめて聴いた時には、1980年代のイギリスで隆盛したネオアコ・ブームのバンドが発表する繊細さやメロウさを感じましたし、2「Lover’s End Pt.2」には、アメリカの有名なボーカル・グループ:The Beach Boysを彷彿とさせるコーラスワークを思い浮かべてしまいました。それほどまでに清涼さ溢れる綺麗なハーモニーだと思うんです。3rdアルバム「Lover’s End」のエディット版とはいえ、Moon Safariの特徴が良く分かると思います。
ただし、このEP盤のハイライトともいうべき、約24分にも及ぶ3「Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade」を聴けば、1「Lover’s End Pt.1(Alternative Cut)」や2「Lover’s End Pt.2」のフレーズが聴けたとしても、Moon Safariがメロディラインは素敵ながらも、プログレッシブ・ロックのバンドであることを再認識させてくれます。
楽曲は、冒頭から4分18秒前後まで、Moon Safariらしさ溢れる唄メロのメロディラインと、カウンターメロディや輪唱などの多彩なコーラスワークが印象的に、アンサンブルがリズミカルに進行していきます。4分18秒前後からは「起承転結」でいえば、「承」や「転」に近しく大きく展開をみせます。例えば、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Alan Peason Projectの楽曲「Silence And I」(6thアルバム「Eye in the Sky」収録)のように、生のオーケストラを利用し場面を大きく展開し変えるでもなく、あくまでバンド・メンバーが担当する個々の楽器(アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、ベース、ドラム、シンセ)を利用し、ファンがMoon Safariでイメージするエッセンス(メロウさ、ファンタジックさ)を満載し、ダイナミックにパートを重ねていきます。特に、11秒30秒前後から14分30秒前後までのパートの流れ(変拍子によるリズミカルなパートを挟み、メロディアスなギター・ソロへとなだれ込み、オーケストラをバックにピアノのフレーズがスローダウンさせるパート)は圧巻です。15分前後からは、1つ1つが独立した1曲としても成り立つぐらいに魅力的な異なる唄メロのメロディラインをふんだんに聴かせてくれます。本当にもったいぐらいに素敵なメロディに満ち溢れた時間を愉しめると思います。そして、20分10秒前後からメロディアスなギター・ソロが哀愁を帯びたフレーズを交えながら、消え入るとともに凛々しさ溢れるピアノの伴奏に導かれオーケストラやギターが交わり、オクターブの高いアカペラ、オクターブの低いアカペラがこだまし楽曲はクロージングします。
[収録曲]
1. Lover’s End Pt.1(Alternative Cut)
2. Lover’s End Pt.2
3. Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade
「Lover’s End」の3つのバージョンはMoon Safariのバンドの特徴を思う存分に感じさせてくれる素敵なEP盤と思います。当EP盤を聴き、Moon Safariが気になったら、名盤といわれる3rdアルバム「Lover’s End」をぜひ聴いてみてください。また、1stアルバム「Doorway to Summer」と2ndアルバム「Blomljud」も3rdアルバム「Lover’s End」よりもメロウさを抑えてはいますが、アヴァンギャルド風、テクニカル風、ジャズ風などが苦手な方にはおすすめです。
5大プログレバンドの1つ:YESのコーラスワークやポップさを彷彿させながらも、より弾けたポップさやメロウさが特徴です。
1980年代にイギリスで隆盛したネオアコ系のサウンドが好きな方には懐かしさを感じてしまうかもしれません。(全然イメージが異なりますが、個人的にThe Pale Fountainsの「Thank You」が懐かしくなりました。)
当サイトでは、3rdアルバム「Lover’s End」のレビューも書いています。、
▼アルバム:「Lover’s End」のレビューは下のリンクから▼
プログレおすすめ:Moon Safari「Lover’s End」(2010年スウェーデン)
北欧のバンドに抱く想いを壊させたバンド
最初は北欧の他のプログレッシブ・ロックやポストロックのバンドでは味わえない1種異質の存在ではないかと思いました。自分が北欧のバンドに想像してしまうのは、音がイメージする「冬の情景」です。翳りがあり、愁いを帯びたメロディにどこまで沈み込んでいくが、繊細で琴線に触れるメロディを感じさせてくれます。同国スウェーデンには、もともと口ずさみやすくThe Beatlesを彷彿とさせる代表的なデュオ:Roxxeteも存在しますが、このMoon Safariは自分の先入観を壊してくれるぐらいにメロウさで曲全体を包み込み、さらにプログレッシブ・ロックのエッセンス(スキルフル、テクニカルさ)と忘れられないメロディのフックで魅せてくれる希有な存在なのです。
EP「The Lover’s End Trilogy」のおすすめ曲
1曲目は3曲目の「Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade」
一聴した時に、楽曲「Lover’s End Pt.1」と楽曲「Lover’s End Pt.2」のフレーズを交えながら展開するため、楽曲の基本構成が組曲なのか長尺なプログレッシブ然とした楽曲なのかと聴きながらいつの間にか楽曲にのめり込んでいました。また、プログレッシブ・ロックのテクニカルなエッセンス(変拍子、リズムチェンジなど)も交じえ、約24分にも及ぶ長尺の楽曲なのに最後まで飽きさせません。
2曲目は1曲目の「Lover’s End Pt.1」
3rdアルバム「Lover’s End」の冒頭曲です。プログレッシブ・ロックと知らずに聴けば、自分にとって、1980年代に隆盛したネオアコ・ブームのエッセンスに溢れており、印象的過ぎるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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