プログレおすすめ:ASIA「Astra」(1985年イギリス)
公開日:
:
最終更新日:2020/01/05
1980年代, イギリス, メロディック・ハード ASIA, Carl Palmer, Geoffrey Downes, John Wetton
ASIA -「Astra」
第300回目おすすめアルバムは、イギリスのロックバンド:ASIAが1985年8月15日に発表した3rdアルバム「Astra」をご紹介します。
Arcadia(理想郷)に変わるもの
もしも・・・だったならば・・・。
1985年、同国イギリスのロック・バンド:Duran Duranのメンバーを中心としArcadiaが結成され、アルバム「So Red The Rose(邦題:情熱の赤い薔薇)」が1985年11月18日に発表されました。そのアルバムが発売される約3か月前の8月15日に、Asiaは3rdアルバム「Astra」を発売してます。後世に『牧人の楽園』として伝承し、ギリシャにある実地域名である『理想郷』を意味するArcadiaから引用しようとしたのか、今はただその意図を手繰り寄せることが出来ませんが、運命のいたずらともいうべきか、世の中にバンド名として表明があったArcadiaに変わり、Asiaが選択したアルバム・タイトルは「Astra」でした。
遡ること、1982年に、1970年代のプログレッシブ・ロック繁盛期に名バンドで活躍していたjohn Wetton(ボーカル&ベース:元King Crimson~Uriah Heep~Wishbone Ashなど)、Geoffrey Downes(キーボード:元The Buggles~YES)、Carl Palmer(ドラム:元Emerson, Lake & Palmer)、SteveHowe(ギター:元YES)ら4人が集結し、当時のスーパーバンドとして、「プログレッシヴ・ロックのエッセンスをポップスとして鏤めた3分半の楽曲」を掲げたロック史に名盤として輝く1stアルバム「Asia(詠時感~時へのロマン)」を発表してます。続く1983年には1stアルバムほどのヒットにはなりませんでしたが、john WettonとGeoffrey Downesの2名が主導でファンタジックな2ndアルバム「Alpha(邦題:アルファ)」を発表してます。
・・・以降、日本を皮切りに予定されていたワールド・ツアーの直前にjohn Wettonが脱退し、ワールド・ツアー自体は、Greg Lake(元King Crimson~Emerson, Lake & Palmer)をボーカルに迎い入れ乗り切りますが・・・。1984年にjohn WettonがAsiaに復帰したところで、今度は、ギターのSteve Howeが脱退してしまいます。長いオーディションを重ねた結果、カナダ生まれでスイス人のギタリスト:Mandy Meyerが加わり、当アルバム「Astra」は制作され、発表へと漕ぎ着けます。ただ、2ndアルバム「Alpha」以上に充分な売上やチャートの結果を出せず、John Wettonはバンドを解雇されてバンド自体も解散となります。
もしもメンバーが変わらずに発表していたら・・・。
もしもアルバム・タイトル構想が変わらなかったら・・・。
喪失感ばかりを気に留め聴いてしまえば、目の前に映る情報の波に眼を曇らせ、このアルバムが本来持つだろう良さが心へ惹き込まれなくなってしまうかもしれない。その和訳がラテン語で「星」を意味する『理想郷』に変わるアルバムへ耳を傾けてみましょう。
楽曲について
・・・Dig for victory, go for gold・・・I don’t wanna die before I get old・・・
・・・And I wonder where I’m going to・・・There’s some way out, there’s some way through・・・
・・・But I’m lost, I’m lost, I’m down again・・・My direction is changing, which way, Which way can I go…
・・・Get up and go・・・
・・・勝利を探し求め、黄金を目指そう・・・歳老いていく前に死にたくはない・・・
・・・出口はあるし、辿れば通じる場所もあるだろうに、自分は何処へ行こうとしているのだろうか・・・
・・・道に迷い、辿り着けずにまた倒れてしまう・・・いずこへと辿り着くのか目的地は変わっていく・・・
・・・さあ、立ち上がり進もう・・・
・・・チャーチオルガンによる尊厳な旋律で幕を上げる冒頭曲1「Go」で語られる歌詞感には既に2ndアルバム「Alpha」までの「You&I」ではなく、男気溢れる感覚を憶えてしまいます。チャーチオルガンの旋律にガイドするピアノのフレーズに続くは、ハードロック畑のMandy Meyerによる低音を効かせたリフによるギターが印象的で、シリアスさを漂わすプログラミングされたサウンドが合わさり、John Wettonのボーカルも韻を踏むボーカリゼーションで進行するヴァースも、ベースとドラムによるベースラインはタイトで、アルバムの幕上げに相応しい「力強さ」に満ちてます。ポップに口ずさめる唄メロのメロディラインと、ファンタジックさにカラフルさが増したGeoffrey DownesによるキーボードのプレイはAsiaらしさに溢れてるものの、Steve Howeのオブリガードなギター・プレイと異なり、Mandy Meyerによるハードロックなアプローチがあることで、プレグレ・ハード系へと結実したサウンド・メイキングとアンサンブルが眩い仕上がりですね。その後のライブでは、1990年代以降も1stアルバムや2ndアルバムの楽曲と共にラインナップされ、代表曲ともうきべき楽曲の1つです。
2「Voice of America」はGeoffrey Downesのキーボードをメインとしたスローバラードな楽曲です。ただし、ヴァースに翳りあるメロディラインはあるものの、哀愁を帯びた名曲「The Smile Has Left Your Eyes(邦題:偽りの微笑み)」とは異なり、シンガロングしてしまうぐらいに魅了されるサビ部のぶ厚いコーラス「Voice of America」、3分前後からのMandy Meyerによる伸びやかなギター・ソロ後にコーラス「Voice of America」に添えるJohn Wettonのボーカリゼーションなど、ライブ会場で聴いてるようにサウンドスケープしてしまいますし、1「Go」と同様にライブにラインナップされることが多い楽曲です。
3「Hard On Me」は、ヴァースからサビ部への流麗な唄メロのポップさ、コーラスと唄メロの掛け合い印象的な楽曲です。煌びやかなフレーズ、クロージング直前でのバグパイプの音色?とその旋律を想起させるフレーズなど、やはりGeoffrey Downesによるキーボードのプレイが際立ちます。
キーボードの軽快な音色で幕を上げる4「Wishing」は、マイナー調でシリアスな曲調をミドルを挟みつつ、淡々と進行する唄メロのメロディラインとベースラインが印象的な楽曲です。1分50秒前後からのギターのフレーズや3分15秒前後からのコーラスなどが微笑ましくも唄メロに色を添えていきます。例えば、5大プログレバンドのうちの1つ:Genesisのベーシスト:Mike Rutherfordが、奇しくも同じく1985年にMike + The Mechanicsを結成し発表した楽曲「Take In」をより明るめにした曲調を思い浮かべてしまいましたね。
力強いコーラスで幕を上げる5「Rock and Roll Dream」は、キーボードがシリアスなプレイをメインとしたアンサンブルで進行するヴァース部、哀愁を帯びたミドル部、冒頭部の力強いコーラスを伴うサビ部を軸に、2分前後からのGeoffrey Downesの煌びやかなキーボードの旋律とCarl Pamlerのドラミング、2分30秒前後からのライブ会場の歓声を想起させるSEとMandy Meyerのギター・ソロ、4分前後からのGeoffrey Downesの煌びやかなキーボードの旋律にロイヤル・フィルハーモニー・オーケストラが加わるなど、多種多様なパートを紡ぎ合い、躍動的でドラマチックな展開が冴える仕上がりです。
ジェット機が飛ぶ立つSEへ繋がるTHXのサウンドで幕を上げる6「Countdown to Zero」は、下降するベースラインも含め、前曲のヴァース部と同様にシリアスさとアンニュイさある曲調の楽曲です。「Countdown to Zero」のコーラス、2分20秒前後からのMandy Meyerのギター・ソロ、2分40秒前後からの男性のナレーションなど、蠢くサウンド・メイキングによる悲痛さは、当アルバムの他楽曲よりも従来のAsiaにはないシリアルさに溢れてます。もしかすると、プログレッシブ・ロック系の名バンドから集結したミュージシャンらによるAsiaに対してデビュー時にファンが抱いたイメージからしたら、ポップ然、ロック然、ハード・ロック然とした印象を拭えないアクテビティのアプローチよりも、かけ離れ過ぎたイメージを抱く楽曲だったかもしれません。
だからこそ、可愛らしいお伽噺かのように幕を上げる7「Love Now Till Eternity」には、ヴァースからサビ部へのハードロック系のギター・アプローチは感じるものの、微かに哀愁を帯びた刹那げな唄メロのメロディライン、2分40秒前後からのギター・ストロークやパーカッシブなプレイなど、アルバム楽曲中で最もブリティッシュ・ロックらしさを感じてしまいます。
8「Too Late」は、楽曲「Heat Goes On」(2ndアルバム「Alpha」収録)よりもシンプルに、1「Go」のように力強くもAsiaらしさを感じさせる唄メロのメロディラインが印象的な楽曲です。冒頭部でのコーラスワーク、ヴァースでのシリアスなキーボード・プレイ、2分20秒前後から2分40秒までのキーボード・プレイやコーラスワークによる短めのパートなどを聴くと、Steve Howeがギターをプレイし2ndアルバム「Alpha」に収録されていてもおかしくないと感じてしまいますね。クロージング直前のJohn Wettonのヴォイシングも聴いていてたまりません。
9「Suspicion」は、印象的な一節「Suspicion」へと到達する哀愁さを帯びたAOR風な唄メロの楽曲です。2分25秒前後からのキーボードとギターによるアンサンブルでのプログレッシブ系のサウンド・メイキングが印象的です。
メロディックな旋律を奏でるキーボードのプレイが印象的なイントロの10「After the War」は、当アルバムを覆うシリアスな曲調ながらも、ギター、ベース、キーボードのプレイにはプログレ・ハード系のサウンド・メイキングやアンサンブルが溢れ感じさせてくれる楽曲です。「After the War」のコーラスと何かが破壊されたかのような効果音が繰り返され、3分20秒前後から畳み掛け盛り上がるアンサンブルがありながらも、決してプログレッシブ・ロックの長尺な構成力へと導かず、なるべくコンパクトにレコーディングしたかのような仕上がりを感じさせてくれます。メロディックなギター・ソロに続いて、4分20秒前後からは、ピアノとクリーン・トーンのギターがメインにJohn Wettonによるヴァース部から「After the War」の印象的なボーカリゼーションが響き渡り、楽曲の途中途中で聴かれる何かが破壊された効果音とともに、楽曲はクロージングします。まるで「星(=Astra)」が消滅したかのようなイメージを残して・・・。ライブでよりラウドにドラマチックなプレイをしていたら想像してしまいますが、それはきっと、レビュー当初に書いている「喪失感ばかりを気に留めてしまう」ことになりかねないかもしれません。
アルバム全篇、やはりJohn WettonとGeoffrey Downesがメインとなる唄メロのメロディラインの骨子には魅了されてしまいます。ただし、Steve Howeのオブリガード気味のユニークなギター・プレイは唯一無比かと思いますので、ギターリストがMandy Meyerに変わったことでアンサンブルを大きく印象付けるギター・サウンドにハード・ロックな要素の比重が高まり、ベースラインにも変調や変拍子よりもロック然とし変貌したことは、キーボードや効果音が織りなすシリアスなサウンド・メイキングがアルバムのトーンが重くしたことも合い間って、従来のAsiaファンに違和感を憶えさせたかもしれません。
当アルバムを最後に解散をしようと考えずに解散状態となってしまい、解散前の有終の美を感じさせる仕上がりでないからこそ、ややAOR風なメロディラインが際立つもAsiaらしさ溢れる唄メロのメロディライン(たとえば「Go」、「Love Now Till Eternity」、「Too Late」など)や、「After the War」のアメリカ・プログレ・ハード系にも通じるプログレ・ハードなアプローチと、「Rock and Roll Dream」での躍動さやダイナミックな楽曲の展開は、Asiaが残した貴重なレコーディング記録として聴き継ぐ財産の1つと思いました。
[収録曲]
1. Go
2. Voice of America
3. Hard On Me
4. Wishing
5. Rock and Roll Dream
6. Countdown to Zero
7. Love Now Till Eternity
8. Too Late
9. Suspicion
10. After the War
このアルバムを最初に聴くことで次に関連アルバムを聴こうとする時、もしくは、他アルバムを聴いて当アルバムを聴こうとする時、何かしらの違和感を憶えてしまう方もいるかもしれません。最初に聴くアルバムとしてよりも、1982年発表の1stアルバム「Asia(邦題:詠時感~時へのロマン)」と1983年発表の2ndアルバム「Alpha(アルファ)」を聴き、当アルバムを聴いていない方に、Asiaの忘れてはならないアルバムの1枚としておすすめしたいです。また、メロディックさやポップさが好きな方で、John WettonとGeoffrey Downes、その2人で結成したICONなどを聴き、まだ当アルバムに巡り合ってない方にも。
アルバム「Astra」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲「After The War」
アルバム制作時には、当アルバムを最後に有終の美をもって解散となることを考えてなかったかもしれませんが、ライブでどのようにパフォーマンスをするだろうかと想像してしまうプログレ・ハード系の展開が聴いていてたまりません。
2曲目は8曲目の「Too Late」
アルバム全篇にも云える2ndアルバムの楽曲以上にコンパクトでシンプルな楽曲展開でありながらも、1stアルバムや2ndアルバムを想起してしまいます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
関連記事
-
プログレおすすめ:King Crimson「Lizard」(1970年イギリス)
King Crimson -「Lizard」 第123回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッ
-
プログレおすすめ:King Crimson「The ConstruKction of Light」(2000年イギリス)
King Crimson -「The ConstruKction of Light」 第213回目
-
プログレおすすめ:Mr.So & So「Truths, Lies & Half Lies」(2013年イギリス)
Mr.So & So - 「Truths, Lies & Half Lies」 第60回目おすすめ