プログレッシブ・ロックのおすすめアルバム、楽曲、関連話など

   

プログレおすすめ:Moon Safari「Lover’s End」(2010年スウェーデン)

公開日: : 最終更新日:2015/12/02 2010年‐2013年, シンフォニック, スウェーデン, メロトロン


Moon Safari -「Lover’s End」

第61回目おすすめアルバムは、スウェーデンのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Moon Safariが2010年に発表した3rdアルバム「Lover’s End」をご紹介します。
Moon Safari「Lover's End」
2010年代以降に発売されるプログレッシブ・ロックのアルバムで、よく「Moon Safariのような」と形容されるぐらいに引き合いに出されることが多いアルバムです。

ヴィンテージ系の鍵盤(ピアノ、オルガン、ムーグ、メロトロン)を兼務するメインボーカルのSimon Akessonや、ハーモニカとギターを担当するPetter Sandstromをはじめ、その他、ギター、ベース、ドラム、キーボードによる6人編成のバンドです。

バンドの最も特徴的なのは、楽曲のアンサンブルで魅せる各楽器のスキルフルさやテクニカルさよりも、例えば、1960年代でいえばThe Beatles、1970年代でいえばQueenのようにメンバー全員がコーラスワークに参加し楽曲を彩っていることです。また、プログレッシブ・ロックというファクターを取っ払っても成り立つ素敵なメロディラインは、コーラスワークが楽器の1つとも云えるような作曲センスを強く感じてしまいます。そして、素敵な唄メロやコーラスワークがあるからこそ、各楽器のアンサンブルも活き、その演奏力も際立っています。たとえば、冒頭曲1「Lover’s End Pt.1」を一聴した時、イントロのピアノやハーモニカ、そしてヴァースのアコースティックなギターとピアノなどのアンサンブルの繊細さに、1980年代にイギリスで隆盛を極めたネオアコ・ブームの楽曲を思いださせてくれます。

にも関わらず、メンバー全員が音楽活動以外に別の仕事をする「二束の草鞋」と知れば驚きの連続です。

楽曲について

冒頭曲1「Lover’s End Pt.1」は先に触れた感覚で妙に穏やかな気持ちになってしまうメロウな唄メロに浸ってしまいます。2012年に「Lover’s End Pt.3: Skelleftea Serenade」が発売された際、日本だけで発売されたEP版でのエディットバージョンを最初に聴いてから、当楽曲を聴くと、EP版ではエディットされた後半3分間は溢れんばかりのコーラスワークの繰り返しや優美でメロウなムーグのソロが聴けます。たとえば1970年代に活躍したイギリスの5大プログレバンドのうちの1つ:GENESISのファンタジックな演奏を感じるかもしれません。

どこまでもメロウでいて、それでもプログレッシブさがある。

1「Lover’s End Pt.1」で感じた楽曲の印象は、2「A Kid Called Panic」以降も期待を裏切らずに繋がっていきます。ギターのフレーズ、カウンターメロディや輪唱などのコーラスワークなど、さらに心を高揚させるエッセンスが満載で、聴いているだけで幸せな気持ちになってしまいそうです。いっぽうで約11分の長尺の楽曲であることに気が付くと、プログレッシブなエッセンスを楽曲内で散りばめていると思い溜息ついてしまいます。アヴァンギャルドさによる不穏さやジャズなどのテクニカルさとは無縁と思えるぐらいに、力強いドラムにギターとムーグのソロが繰り返される中間部、ピアノやオルガンを伴奏に異なるテーマのヴァースの後半部など、ダイナミックもあるファンタジックさのエッセンスが満載なんです。

3「Southern Belle」も、たとえばイギリスのミュージシャンのImogan Heapのヒット曲「Hide And Seek」の讃美歌風のような多重コーラスワークがイントロのアカペラやヴァース途中でアクセントのように印象的に聴かれる楽曲です。そのイントロのコーラスワークが終わると同時に、ミニマルにピアノが音階を弾き、スローテンポに楽曲が進行していきます。当アルバムではマイナー調の唄メロの音階の楽曲はほぼないのですが、逆にマイナー調のメロディラインに不思議な感覚を憶えてしまいます。そう、それだけ当アルバムには「陰」よりも「陽」という言葉が似つかわしい楽曲が並んでいるんです。

4「The World’s Best Dreamers」は前曲3の讃美歌風のコーラスワークの延長上にある清涼さが印象的に、唄メロのメロディラインにオブリガードにガイドするピアノの音階など、これでもかとばかりに終始清々しさ溢れる気持ちでいっぱいにさせてくれる楽曲です。さらにアップテンポとなる次曲5「New York City Summergirl」のコーラスワークは2「A Kid Called Panic」でも聴き手によって感じるかもしれないQueenのようなコーラスワーク感と、The Beatles的なメロディラインを感じえたら、心躍らせるに違いないと思います。楽曲のメロディラインのポップさに心奪われがちになりますが、変拍子で迫るシンセのフレーズがアクセントに盛り込まれています。よく「Moon Safariのような」と云う形容を他バンドのアルバム楽曲のレビューで目にすることがあるのですが、個人的には当楽曲がまさにそう感じさせる典型さですね。

6「Heartland」はイントロのシンセの変拍子によるフレーズや当楽曲までの甘酸っぱいボーカリゼーションとは異なるヴァースの力強さなどに、たとえば、5大プログレバンドの1つ:Genesisの「A Trick Of The Tail」期や、アメリカのプログレッシブ・ロックバンド:KANSASの中期の楽曲にも通じるようなプログレッシブ・ロックの躍動さを感じさせてくれる楽曲です。特に、3分前後から4分前後までは、当アルバムでも異色とも感じるインプレを活かしたようなアンサンブルも聴けます。シンセをバックにギターのうねるようなフレーズは冒頭曲1や2では感じえないテクニカルさもある感覚です。そして、この楽曲でも3「Southern Belle」の讃美歌風なコーラスワークが後半部にアクセントとして加わり、力強くクロージングします。

7「Crossed The Rubicon」は、冒頭曲1のようにピアノとアコースティックなギターのアンサンブルが印象的な楽曲です。楽曲途中の3拍子のヴァースや、2拍子でのシンセ、ギターのフレーズなどが可愛らしい印象も与えてくれますが、アンサンブルの中心となる鍵盤やアコースティック・ギターのフレーズ、そしてコーラスワークは繊細にも複雑に絡み合い、聴いているうちに、約9分強の尺を忘れてしまいそうになります。7分前後からクロージングまでの約3分にも及ぶ伸びやかなギター・ソロが圧巻です。

ラスト8「Lover’s End pt.II」は4「The World’s Best Dreamers」を楽器パートの音数を少な目にし、コーラスワークが重なりあう印象的なミドルテンポの楽曲です。ゆったりとアルバムをクロージングさせる、余韻を少しだけ残すように囁かれるラストの「I Love You」の歌詞が耳に残ります。

マイナー調の音階やインプレゼーションと思わせるアンサンブルをアレンジに盛り込み、奥ゆかしさを見せつつも、やはり、バンドの特徴ともいうべきメロディセンスとコーラスワークに幸せな気持ちにさせてくれそうなメロウさがいっぱい詰まったアルバムと思いました。気持ちが滅入っている時に聴くと、少しでも心を晴々としてくれるような清々しさと勢いの良さを感じさせてくれます。よく先の見えない世界と云われますが、先が見えなくても、ひとときの清涼感がとても嬉しくさせてくれる1枚のアルバムです。

[収録曲]

1. Lover’s End pt.I
2. A Kid Called Panic
3. Southern Belle
4. The World’s Best Dreamers
5. New York City Summergirl
6. Heartland
7. Crossed The Rubicon
8. Lover’s End pt.II

イギリスのバンド:Queenやアメリカのバンド:The Beach Bandの直系と感じてしまうようなコーラスワークやThe Beatlesを彷彿させてくれる唄メロのメロディラインを聴くと、個人的にどうしてもアメリカのバンド:Jellyfishを想い出してしまうんです。そのJellyfishもまたMoon Safariで感じえるバンドをフォロワーとしていたようです。たとえばJellyfishをはじめとするThe Beatlesに影響を受けたバンドが好きな方で、これからプログレッシブ・ロックを聴きたい方におすすめです。

もちろんGenesisに代表されるメロウさやファンタジックさのエッセンスが満載のアンサンブルを好きな方にぜひおすすめです。

また、「プログレッシブ・ロック」と聴き、「難解なロックのこと?」と思われてしまうぐらいなら、このバンドを紹介してしまいたくなるぐらいに、この2010年以降で異彩を放つバンドであると思います。ぜひぜひ耳を傾けてみて下さい!

「Lover’s End」の完結

当アルバムの冒頭曲1「Lover’s End pt.I」と最終曲8「Lover’s End pt.II」に続き、Moon Safariの初シングルにして約25分にも及ぶ長尺のシングル「Lover’s End Pt.III: Skelleftea Serenade」が発売されています。
pt.1とpt.2を経て、完結編に当たる楽曲であり、日本では当3曲をEP版に編集し独自発売していました。

そんなEP「The Lover’s End Trilogy」については、

▼EP:「The Lover’s End Trilogy」のレビューは下のリンクから▼
プログレおすすめ:Moon Safari「The Lover’s End Trilogy」(2012年スウェーデン)

「Lover’s End pt.I」と「Lover’s End pt.II」に続く、Moon Safariからのメッセージをぜひご確認下さい。素敵な時間に出逢えるはずです。

アルバム「Lover’s End」のおすすめ曲

1曲目は7「Crossed The Rubicon」
曲の解説でも書いたとおり長尺な楽曲であり、プログレッシブなエッセンスがあることを分かっていながらも、いつの間にかMoon Safariの世界観に惹き込まれ「長尺」と「プログレッシブ」を忘れて聴きいってしまう1種の魔法を感じてしまうんですよね。聴き手による感想は異なるかもしれませんが、それぐらいに素敵な構成力なんです。

2曲目は2「A Kid Called Panic」
普通のアルバムであれば、静かに幕を上げながらも盛り上がる冒頭曲やさらにアップテンポとなる2曲目があることも考えられるのですが、そうとわかっていても2曲目の当曲を聴くことで驚きは隠せなくなりますし、更に長尺な楽曲なのだから、7「Crossed The Rubicon」と異なる観点で心躍らせられてしまうんです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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