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プログレおすすめ:Hypnos 69「Legacy」(2010年ベルギー)

公開日: : 最終更新日:2015/12/29 2010年‐2013年, ヘビー・プログレ, ベルギー, メロトロン


Hypnos 69 – 「Legacy」

第39回目おすすめアルバムは、ベルギーのサイケデリック/スペースロック系のプログレッシブ・ロックバンド:Hypnos 69が2010年に発表した6thアルバム「Legacy」をご紹介します。

Hypnos 69「Legacy」
Steve HoutmeyersとDave Houtmeyersという2人の兄弟を中心に結成された4人構成のバンドです。
もともとは、サイケデリックロックやスペースロックなサウンドを纏うハードロック色が濃いバンドではないかと思うのですが、アルバムを発表するごとに、1970年代のプログレやハードロックが持ち合わせたレトロな感覚のサウンドをたぶんに含む演奏スタイルへと変貌しています。いわゆるヴィンテージ系のサウンドと云われるそうです。

各メンバーは基本楽器以外にヴィンテージ楽器をマルチに担当しています。Steve Houtmeyersはメインのボーカル、ギターだけでなく、テルミン、スペースエコ(※特に2「An Aerial Architect」)、Dave Houtmeyersはドラム、パーカッションだけでなく、ティンパニ、グロッケン、ムーグシンセ(MS20、MS50、SQ10)、Tom Vanlaerはベースギターだけでなく、ムーグ・ペダル、ハモンドオルガン、フェンダーローズピアノ、そして、Steven Marxはテナーサックス、バリトンサックス、クラリネット、フェンダーローズピアノ、ハモンドオルガン、メロトロンを担当しています。

楽曲について

冒頭1「Requiem [For A Dying Creed]」は、硬質でいてテクニカルなギターのリフをメインに、ハードロック的なイントロで幕を上げます。ボーカルも例えばイギリスのDeep Purpleのハードロック調で楽曲ですが、この楽曲を包むリリックなサウンド感が堪らないんです。ヴァースやフィルインに変拍子を重ねながらムーグやメロトロンによる音色。続く「Visions」にあたるパートではクラリネットやきめ細やかなドラムに抑制されたボーカリゼーション。「Within this Spell (Reprise) 」ではテナーサックスにフリージャズな様相。「A Requiem For You」のフェンダーローズ、ドラムのスネアのドタドタ感。などを聴けば、きっとヴィンテージ系と想起させる素材が溢れ、King Crimsonのような緊張感や切迫感、そして抒情性に懐かしくなってしまうんです。King Crimsonをリアルタイムで聴いてなかったとしても、「懐かしさ」という表現に合う心地が染み入ってくるんです。

約17分にも及ぶ1「Requiem [For A Dying Creed]」に触れて「感じた気持ちのまま】にどっぷりとアルバムに浸るだけですね。

2「An Aerial Architect」は、テナーサックスとギターによるリフで始まる楽曲。ボーカリゼーションなども含め、King Crimsonでいえば、2ndアルバム「In The Wake Of The Poseidon」の2「Pictures Of A City(邦題:冷たい情景)」と3rdアルバム「Lizard」の「Indoor Games」を想起させるのに十分なクリエイティブさを感じるんです。フリージャズでいてハードロック調な要素ともいうべきでしょうか。ただそれだけで終わらず、3分前後からはテルミンとスペースエコを交えたサイケデリックなフレーズも聴かせてくれる。違和感なくサウンドが結実していき、前半部のイントロとヴァースが繰り返されると、フリーエンドな演奏でクロージングしていきます。

前半部はフェンダーローズ、メロトロン、クラリネットをメインに、後半部は鋭利で硬質なギターをメインとした3「My Journey To The Stars」は静と動がバランス良く抒情性を感じさせてくれるから、クロージングのテルミンによる残響さがこの楽曲の余韻を強く残すような感じずにはいられません。
そして、4「The Sad Destiny We Lament」は3とサウンド感は違えど、ムーグとアコースティックギターのストローク、ヴァースのボーカリゼーションなどからは抒情性を感じ、共通してどこまでも深く沈み込む陰鬱に悲しみを湛えせずにはいられなくなりますね。

5「The Empty Hourglass」は1「Requiem」のリリシズム溢れるハードロック調と同様に、テナーサックスによるフリーキーなサウンドからの幻想的な演奏で、当アルバムで最もサイケデリックさを感じるかもしれません。

6「Jerusalem」も一見穏やかな曲調でありながら、レンジを拡げることなくとも5のようなフリーキーさが後半部を占めているので、5と6の印象は2や3とは異なるかもしれません。

最終曲7「The Great Work」はメロトロンによる仄かなフィルインから陰鬱なサウンドに心が埋め尽くされそうな想いになってしまいます。痛々しさを感じるギターのテーマからクロージングのサックスとの絡み合いが印象的な当インストルメンタルは、2「An Aerial Architect」で聴かれるギターの硬質なリフが、再度提示され、リフレインしつつ楽曲を混沌に陥れたままにアルバムをクロージングさせてしまうんです。

アルバム1枚を通じ聴き手に1970年代のヴィンテージなサウンドに想いを馳せさせつつも、サイケデリックロックやスペースロックをバンドサウンドのベースした良さをブレンドしクリエイティブな高さを感じさせてくれるのではないかと思います。
素敵すぎる世界観ですね。

[収録曲]

1. Requiem [For A Dying Creed]
– a. Within This Spell
– b. Visions/Within this Spell (Reprise)
– c. A Requiem For You
2. An Aerial Architect
3. My Journey To The Stars
4. The Sad Destiny We Lament
5. The Empty Hourglass
6. Jerusalem
7. The Great Work [excerpt]
– a. Nigredo
– b. Albedo
– c. Citrinita
– d. Rubedo

1970年代と捉えるべきサウンド感なのか、どこか懐かしさを漂わせたと感じた方は愛聴盤になるのではないかと思います。
サイケデリックロックやスペースロックをベースとしたハードロックが好きな方にも、プログレな香りをヴィンテージさと感じる方にもおすすめです。このアルバムを聴き、サイケデリックロックやスペースロックを聴く入り口になるとも感じます。

ヴィンテージ系プログレと「2つの想い」と

いわば1970年代風のサウンドを再現するプログレのバンドを表現するそうです。
サウンドにメロトロンやハモンドなどの楽器を使用すれば、どことなく抒情性さ、センチメンタリズムさ、そして懐かしさを楽曲に感じさせてくれませんか?
それは純然たるプログレ系やプログレ関連のバンドでなくとも、ごく一般的なロックフォーマットでも云えるのではないかと思うんです。メロトロンやハモンドが生み出す音にはデジタルなシンセよりもあたたかみを感じ、一種の異質な世界観を感じさせてれます。

この2014年と云う年にプログレッシブ関連の音楽に「これがプログレ!」と思いながら触れている一方、リアルタイムで触れることのなかった1970年代のプログレに後から触れます。特に1900年代以降に触れたメロトロンやハモンドオルガンなどの音には「霞んだサウンド」と感じてしまうんです。セピア色に染まったサウンドスケープと表現した方が良いかもしれません。それはプログレ関連のサウンドから受けるサウンドスケープと異なる世界観であり、1970年代から順々にプログレッシブ・ロックの音楽を辿り聴いてこなかったことの影響かもしれません。聴けば聴くほど、奥が深いんだなとプログレに感じます。
みなさんはいかがですか?

そして、ヴィンテージ系プログレに触れた時に「2つの想い」が重なったら素敵ですね。

アルバム「Legacy」のおすすめ曲

1曲目は4曲目の「The Sad Destiny We Lament」
当アルバムの中ではムーグの音使いに少し現代的な感覚を感じながらも、楽曲の持つアンニュイな世界観が素敵だから。

2曲目は、3曲目の「My Journey To The Stars」
ハードロックなバンドが持つ静と動による抒情性さを最も強く感じたから。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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