プログレおすすめ:Steven Wilson「The Raven That Refused To Sing(邦題:レイヴンは歌わない)」(2013年イギリス)
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最終更新日:2016/03/22
2010年‐2013年, イギリス, フルート, メロトロン, ロック Guthrie Govan, Marco Minnemann, Nick Beggs, Steven Wilson, Theo Travis
Steven Wilson -「The Raven That Refused To Sing (and other stories)」
第258回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Porcupine Treeのメイン・コンポンザーであるSteven Wilsonが2013年に発表した3rdアルバム「The Raven That Refused To Sing (and other stories)(邦題:レイヴンは歌わない)」をご紹介します。
当アルバム「The Raven That Refused To Sing (and other stories)」は、2011年に発表された前作2ndアルバム「Grace For Drowing」から2年振りとなるアルバムで、Steven Wilson(ボーカル、ギター、キーボード、メロトロン、ベース・ギター、バンジョ)以外には、Guthrie Govan(ギター)、Nick Beggs(ベース・ギター)、Adam Holzman(キーボード、ハモンド、ムーグ・シンセ)、Marco Minnemann(ドラム)、Theo Travis(サックス、フルート)が制作メンバーとして参加しています。
発表1年後の2014年に、イギリスの雑誌「Prog Magazine」第48号で発表された読者と雑誌、およびミュージシャンによる投票結果に基づく「最も素晴らしいプログレ・アルバム TOP100(The 100 Greatest Prog Albums Of All Time)」で9位(ちなみにPorcupine Treeのアルバム「Fear of a Blank Planet」は18位!)にランキングされていました。
「Prog Magazine」の「最も素晴らしいプログレ・アルバムTOP100」(2014年版)について
イギリスプログレ誌「Prog Magazine」の「最も素晴らしいプログレ・アルバムTOP100」で想う。
発表1年後に雑誌「Prog Magazine」で10位以内にランキングされた現代プログレシーンの孤高の1枚ともいうべきアルバムです。
ご当地イギリスの雑誌とはいえ、10位以内にランキング・・・と文字にすることは簡単ですが、プログレッシブ・ロックと云う言葉が世に出て拡まる1960年後半から約50年余の歴史にも、たった1年間のリスニング期間で得たランキングはどれほどの共鳴を現代に与えたことかと感じずにいられませんね。
楽曲について
冒頭曲1「Luminol」は、タイトなドラムに、リード冴えわたるベースラインで幕をあげる楽曲です。ファーストタッチなアンサンブルに心躍らずにいられませんが、ギターのフレーズとフルートの旋律が交錯し合い、1分15秒前後のコーラスワークを皮切りに、元King CrimsonのIan McDonaldが使用していたと云われるメロトロンによる旋律が拡がるさまは、不穏さを醸し出しつつ、サイケデリックさやカンタベリー系を彷彿とさせてくれます。それぞれのメンバーが織りなすテクニカルさやスキルフルさは一寸の狂いもなく胸に迫ってきます。タイトなリズムセクションにツイン・ギターによるリフのパートが流れ、4分30秒前後からはスロー・テンポへと移行します。
ギターのストロークをメインのアンサンブルに、Steven Wilsonの優しく語りかけるようなボーカリゼーションと分厚いコーラスワークの掛け合い、そして、震わせるフルート、漂わすメロトロン、エレガントなピアノの旋律にはいやがおうにも5大プログレバンドの1つ:King Crimsonの1970年代初期を彷彿とさせる叙情さを思いださせてくれるとともに、聴く心全体を何やら大きな想いに埋め尽くされてしまいそうになるんです。10分前後からのエレガントなピアノの旋律などにも紛れ、初期Porcupine Treeを彷彿とさせるPink Floydのサイケデリックさを仄かに漂わせるサウンド・メイキングは、ソロ楽曲に昇華させたクリエイティビティを感じてしまいます。そして、楽曲は、再度、ツイン・ギターによるリフとともにクロージングを迎えます。
2「Drive Home」は、ギターの寂しげなフレーズで幕を上げ、アコースティック・ギターのストロークやピアノの旋律など、ヴァースの唄メロのメロディラインも含め、流麗でマイナー調な楽曲です。1分25秒前後からのメロトロンも加われば、唄メロのメロディラインは、拡がりをみせながらも、やはりメロディックさは半端なく、ふと琴線に触れることを繰り返し聴き入ってしまいます。3分30秒前後からのサティスーンを効かせたギターのフレーズには、自己主張を感じながらも、楽曲の一部としおさまっていると思いますし、かえって、4分前後からのアコースティック・ギターとフルートとピアノによるアンサンブルから、アコースティック・ギターやサックスによるソロが盛り上がる魅せるパートが描く鮮明なサウンドスケープさがたまりません。そして、待っていたとばかりに、5分前後からはギター・ソロが聴かれます。コーラスをまじえ、ピアノのフレーズとともに楽曲はクロージングを迎えます。各楽器の演奏にメロディックさが際立ち、それでいて統一感のある予測出来そうで予測出来ない素晴らしきアンサンブルを堪能出来ます。
3「The Holy Drinker」は、1「Luminol」で感じえたフュージュン系よりもディープに、フリーキーなサックスの旋律やメロトロンをまじえ、よりサイケデリックさを漂わせ幕を上げます。ヴァースでは、ヘビー・プログレにも通じるアンサンブルが展開していきます。5分前後からのサックス、フルート、ベース、エレクトリック・ピアノ、オルガンが入れ替わる交わすアンサンブルには、フュージュン系やサイケデリックさや語り尽くせないモダンなテイストに落とし込んだ楽曲のクオリティの高さが伺えます。7分前後からのサイケデリック/スペース系の浮遊さを漂わせたヴァースの唄メロのメロディラインのなんともいえない幻想さ、8分35秒前後からのギターをメインとしたヘビーなアンサンブルなど、アルバム楽曲中では最もPorcupine Treeを想起させてくれます。
4「The Pin Drop」は、前曲とは異なる幻想さを醸し出したオープニングが印象的な楽曲です。エコーかかったギターのストロークをメインとしたアンサンブルに、あれぶるうドラムやコーラスワークがサウンドを重厚に拡げていきます。1分30秒前後のサックス・ソロを挟みつつも、楽曲全体を印象付けるのは、冒頭部のエコーかかったギターのストロークをメインとしたアンサンブルなのですが、コーラスワークも含め、アンサンブルが醸し出す溢れんばかりの幻想さにただただ夢見心地にもなりそうに聴き入ってしまいます。
5「The Watchmaker」は、静と動、フォーク系からサイケデリックさへとプログレッシブな展開が聴ける楽曲です。冒頭部は、ギターのつばぶく繊細なフレーズをアンサンブルに、唄メロのSteven Wilsonの語りかけるようなボーカリゼーションと随所でハーモニーを効かせるコーラスワークの聴き心地良さにやはり幻想さを感じずにいられません。2分前後からの唄メロのメロディラインに呼応するかのようなギター・ソロに、ピアノの旋律もまじえ、1970年代のプログレ・フォーク系やアシッド・フォーク系を彷彿とさせるアンサンブルが聴けます。
4分30秒前後からの力強いギターのストロークとともに、テンポ・アップし、静から動のパートへ移行します。ギターのストロークとメロトロンの旋律をアンサンブルにフルート、サックス、ギターが織りなすソロに、流麗なフレーズが印象的なピアノをアンサンブルにしたヴァースへと繋がるスムーズさに溜息をつきそうになるところで、さらにユニークなコーラスワークが聴ければ、ただただ押し寄せる音の波を受け止めているだけになってしまいそうです。ただ、それだけで終わらず、9分前後からはテクニカルなビートによるシンセの旋律を挟み、サイケデリックさ溢れる混沌さ寸前のヘビーなパートへ雪崩込み、クロージングを迎えます。
最終曲6「The Raven That Refused To Sing」は、ピアノとヴァースで幕を上げ、徐々に、音に幅をもたせつつも、幻想さよりも幽玄さを感じずにいられません。ヴァイオリンやシンセが盛り上げ、6分前後からのギターのホワイトノイズをまじえたアンサンブルとともに、ポスト・ロック的なサウンド・メイキングでプログレッシブに聴かせてくれます。プログレッシブ・ロックにしてもポスト・ロックにしてもロックの未来と云われ、その二つのエッセンスを感じるところに、現代のプログレッシブ・ロックのシーンに於いて、重要人物と云われることに、遠く離れた日本のリスナーとしても納得してしまうクリエイティブですね。
・・・Come With Me・・・
・・・Stay With Me・・・
その先に問いかけるのは、まだまだ絶えることのないプログレッシブ・ロックの音楽の世界への問い掛けとも感じてしまいます。
[収録曲]
1. Luminol
2. Drive Home
3. The Holy Drinker
4. The Pin Drop
5. The Watchmaker(邦題:時計職人)
6. The Raven That Refused To Sing(邦題:レイヴンは歌わない)
サイケデリックさ、フュージュン系、カンタベリー系、ヘビー・プログレ系、ポスト・ロック系などの幅広い音楽性を1つの楽曲に盛り込みつつ、それでいて、アンサンブルは違和感なく、さらにメロディックな唄メロも聴かせてくれる希有なアルバムとして、おすすめです。
また、Porcupine Treeのファンはもちろんのこと、King CrimsonやPink Floydが好きな方にもおすすめです。
現代のプログレッシブ・ロックの名盤の1つとしても、ぜひ聴いて欲しい1枚ですね。
アルバム「The Raven That Refused To Sing (and other stories)」のおすすめ曲
1曲目は、5「The Watchmaker」
2「Drive Home」の各楽器の演奏するメロディックさ溢れた旋律が綴られるアンサンブルも甲乙つけがたいのですが、アンサンブルのパートして、プログレ・フォーク系からクロージング直前でのサイケデリックさへと繋がっていく展開や、ユニークなコーラスワークに美意識を感じずにいられません。
2曲目は、6「The Raven That Refused To Sing」
プログレッシブ・ロックから派生したポスト・ロック、ポスト・ロックからクロスオーバーしたプログレッシブ・ロックと云われるジャンルには、数多くのバンドが溢れています。なかでも、当アルバムがアルバムの楽曲を追って感じるプログレッシブ・ロックのエッセンスに聴き入りつつも、さらに、当楽曲では、ポスト・ロックのエッセンスを取り込んだような楽曲構成が素晴らしいと感じてしまいます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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