プログレおすすめ:Pink Floyd「The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)」(1971年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, Pink Floyd(5大プログレ), イギリス alan parsons project, David Gilmour, Nick Mason, Pink Floyd, Richard Wright, Roger Waters
Pink Floyd -「The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)」
第121回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1973年に発表したアルバム「The Dark Side of the Moon」をご紹介します。
Pink Floydの6枚目にあたるスタジオ・アルバム「The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)」は、1973年3月24日にリリース後、ビルボードチャート200に741週にわたって連続でランクインし続け、2009年12月に再ランクインし現在も記録を更新中とのこです。もちろん、ギネスブックにも記録として残っており、これまでに全世界で約5,000万枚以上の売上とされています!(凄い)。ギネスブック記録や売上枚数云々でも分かるとおり、ロックの名盤の1枚にあげられる1枚です。
当アルバムは、前作「Meddle(邦題:おせっかい)」に続き、ヒプノシスによるアルバム・ジャケットのもと、Roger Waters(ベース兼ボーカル)、David Gilmour(ギター)、Richard Wright(キーボード)、Nick Mason(ドラム、パーカッション)の4人構成でアルバムは制作されていますが、ロングセラーとなった背景には、これまでにないアルバムでのアプローチや変化が見受けられます。
・・・シンセサイザーの導入
・・・すべての歌詞をRoger Watersが担当
・・・シングル「Money」の全米No.1ヒット
・・・アルバム全篇を連なる1曲に
・・・Alan PersonによるSE効果
・・・人間の内面に潜む「狂気」に向き合うコンセプト
など
バンドがアルバムに注ぐクリエイティビティは大幅にスケールアップしたことに違いありません。
前作よりも「音」の立体さに富んだアルバム
として、ヒプノシスが描く「光のプリズム」を表現したアートワークには奥行きのある「音」が聴き手の左右の耳を通じ、心に拡散していくような感覚を憶えるのです。一人の人間の誕生から衝動や苦悩などを映し出す「月の裏側」にも屈託(屈折)していく心地のように。
楽曲について
人間が生まれる瞬間、その象徴とも云える鼓動の音からはじまり、Nick Mason主導で制作されたテープのコラージュとなる冒頭曲「Speak To Me」から、断末魔ともいえる人の声がこだまし、軽やかなギターのフレーズが聴ける2「Breathe」へと、人間が生まれる様を描く様を、ゆったりと浮遊さあるミドルテンポで聴かせてくれます。
3「On The Run」は、ノイズ、飛行機、サイレン、笑い声の音などのSEとシンセサイザーによる斬新さのサウンド・メイキングには、クラウトロックにも通じる感覚が脳裏をよぎっても、無調で展開する楽曲には、アヴァンギャルドさ以上に違和感ばかりを憶え聴いてしまいます。4「Time」もまたタイトルのイメージする時を表現するかのように、アラームの音から一定のリズムのシークエンスと、パーカッシブさによる展開が見受けられますが、より空間処理を意識した幻想感のあるサウンドを聴かせてくれます。2分20秒前後からの荒ぶるボーカリゼーションのヴァースや女性のスキャット、3分10秒前後からのブルース・フィーリングたっぷりにロングトーンを効かせたソロ・フレーズが聴けることで、アルバム冒頭部から辿りはじめて人間味を感じてしまったり、アメリカナイズされた荒涼とした世界観もサウンドスケープしてしまうのは自分だけでしょうか。
リリカルさのあるピアノのフレーズにはじまる5「The Great Gig In The Sky」は、女性の高らかに唄い上げるゴスペル風のスャットによる旋律とオルガンの不規則なリフが不調和にも展開する様に、アルバムのコンセプトともなる人間の苦悩や葛藤を感じずにいられない苦しささえ憶えてしまいます。
キャッシュ・レジスタの音が執拗に繰り返されるイントロで有名な6「Money」は、ギターとエレピをメインとしたアンサンブルがファンキーに彩り、4「Time」と同様に荒ぶるボーカリゼーションのヴァースとともにブルース・フィーリング映えが印象的な楽曲です。2分前後からのサックス・ソロ、3分前後からのチョーキングを多用したギター・ソロ、4分前後のエレピとのユニゾン風のフレーズなど、5分前後にヴァースに戻るまでのパートには当アルバムの楽曲でも「動」のハイライトともいうべきアンサンブルが聴けます。
7「Us And Them」はオルガンが醸し出す残響さに、エレクトリック・ギターのアルペジオがアンサンブルで続き、サックスのソロパートでヴァースに入る楽曲です。2「Breathe」のようにゆったりとしたテンポに各楽器が重なる音の交錯具合に空間処理された心地良い浮遊さが、黄昏を想起させてくれそうにサウンドスケープを魅せ、この楽曲でアルバムがクロージングしてしまってもおかしくないぐらいのクオリティで迫ります。楽曲中盤からアンサンブルに加わるサックスのフレーズもサウンド感に色を添え、気が付けば、シンセサイザーのフレーズで幕を上げる8「Any Colour You Like」では、3「On The Run」にビートやギターのフレーズが加わりながらも洗練された混沌としたアンサンブルへ繋がっています。そして、9「Brain Damage」を通じ、10「Eclipse」では、かの有名な一節「There is no dark side of the moon, really」(=「本当は月の裏側なんてないんだ。すべてが暗黒そのものなのだからさ。」)が読み取れ、図らずも人生の絶望の底を感じアルバムはクロージングします。
冒頭でも触れたとおり、アルバム全篇が連なる1曲となるよう制作されています。発売時には、レコードの特性ともなる盤面(A面とB面)の影響で、6「Money」と7「Us And Them」の境目には音の途切れは与儀されなくなったことを抜きにしても、1曲1曲を独立して聴くことや解釈することは適切ではないと思うアルバムです。4「Time」、6「Money」、7「Us And Them」など、唄モノとして独立した楽曲があっても、しっかりと時間を持ち、アルバムを最初から最後まで一度に通して、そのサウンドの臨場感を歌詞の世界とともに感じえたいアルバムですね。
[収録曲]
1. Speak To Me(邦題:スピーク・トゥ・ミー)
2. Breathe(邦題:生命の息吹き)
3. On The Run(邦題:走り回って)
4. Time(邦題:タイム)
5. The Great Gig In The Sky(邦題:虚空のスキャット)
6. Money(邦題:マネー)
7. Us And Them(邦題:アス・アンド・ゼム)
8. Any Colour You Like(邦題:望みの色を)
9. Brain Damage(邦題:狂人は心に)
10. Eclipse(邦題:狂気日食)
現代のエレクトリックなサウンドをメインとしたアルバムの原型ともなり、多くのアーティストに多大な影響を与え、プログレッシブ・ロックだけでなく、ロックの名盤の1つとして、ぜひおすすめしたいアルバムです。
また、前作「Middle(邦題:おせっかい)」までにあった明確なサイケデリック/スペースさのエッセンスや洗練されたトリップ感よりも、仄かな幻想さがありながらも、コンセプト重視の歌詞の世界観に、SEとシンセサイザーを用いたサウンド・メイキングは取っつきにくさがあるかもしれません。プログレッシブ・ロックと云うカテゴリーの垣根を越え、コンセプト・アルバムと云う括りで、例えば、同国イギリスであれば、ロックバンド:The Whoが1969年発表の「Tommy」、ミュージシャン:David Boweが1972年発表の「Ziggy Stardust」、プログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1974年発表の「Lamb Lies Down on Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」などのように、コンセプト・アルバムとしてのロックを好きな方におすすめです。
当アルバムを好きになった方には、1980年発表の9thスタジオ・アルバム「The Wall」もおすすめです。
アルバム「The Dark Side of the Moon」のおすすめ曲
※当アルバムはコンセプト・アルバムのカタチを成し、他アーティストが発表した数々のコンセプト・アルバムと比べて、個人的に1曲を独立した解釈をし難いと感じているため、1曲としてのおすすめを今回は控えさせていただきます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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