プログレおすすめ:Pink Floyd「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」(1970年イギリス)
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最終更新日:2021/05/09
1970年代, Pink Floyd(5大プログレ), イギリス David Gilmour, Nick Mason, Pink Floyd, Richard Wright, Roger Waters
Pink Floyd -「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」
第257回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1970年に発表したアルバム「Atom Heart Mother」をご紹介します。
ただ優しい気持ちが残るかのような1枚
Pink Floydの4thスタジオ・アルバム「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」は、前作の3rdアルバム「Ummagumma」での前衛的で実験性に富むメンバーのソロ楽曲を含むサウンドから1年振りのアルバムで、いよいよPink Floydらしさ溢れるプログレッシブ・ロックな展開の大作を含むアルバムを収録するだけでなく、名盤として知れ渡るアルバムです。
バンドは、1968年からRoger Waters(ベース兼ボーカル)、David Gilmour(ギター)、Richard Wright(キーボード)、Nick Mason(ドラム、パーカッション)の4人構成です。
アルバム発売当時、現代の1つ1つのワードに対し「Atom=原子」「heart=心」「Mother=母」と直訳した日本語をそのまま並べて邦題にしたという日本のプロデューサーのセンスは賛否両論があるかと思いますが、個人的には的を得ているかとも思っています。俗にいう5大プログレバンド(King Crimson、YES、GENESIS、EL&P、Pink Floyd)のなかでは、フォークやブルースなフィーリングのある楽曲を制作しながらも、前衛さや幻想さが醸し出すアトモスフェリックなサウンドに対し、なぜだか表現仕切れぬ「音楽のカタチ」を表現する抽象的な言葉として、「Core=コア、核」と云う言葉が脳裏をよぎってしまいます。
当時、「ロックとクラシックの融合」とも云われ、大作に聴きやすさもある名盤として、いよいよプログレッシブ・ロックへと大きく飛翔しうる瞬間となるアルバムなのです。
そして、個人的に、Pink Floydの全アルバムのうち、アルバム全体の印象では、最もアンサンブルもサウンド・メイキングも優しさを感じずにいられないアルバムです。
楽曲について
冒頭曲1「Atom Heart Mother(邦題:原子心母)」は、Roger Watersが、とある番組ディレクターから手渡された新聞の医療ニュースの記事にあった「心臓の悪い母親が電子機器のおかげで生命を維持していること」にヒントを得て、アルバムタイトルにもなったとも云われ、当時発売されたレコードのフォーマットではA面全面を占める楽曲で、6つのパートから成る約23分にも及ぶ大作です。
次作「Meddle(邦題:おせっかい)」に収録された大作「Echos」と比べれば、幻想さよりもメロディアスな面が際立ち、チェロが加わるアンサンブルにはクラシカルな様相を呈してます。ライブを重ねることで完成へと至った経緯は、コーラス、ホーン、ヴィオラとチェロなどの管弦楽器の導入がアンサンブルに加わり、1960年代後半から連なる当時のアートロックが目指したロックとクラシックの融合へと結実しています。
管楽器のアンサンブルに、メインとなるテーマをホルンが奏で、西部劇を想起させるSEが飛び交う中、雄大な響き渡せるは、ロックを聴いていることさえ忘れてしまいそうになりますね。2分50秒前後からはRoger WatersのベースとRichard Wrightのオルガンをアンサンブルに、チェロがテーマを奏でて、ほのかにミステリアスさも漂わせていきます。そして、テーマは、3分55秒前後にDavid Gilmourのギターへバトンタッチされ、徐々に金管楽器、ピアノ、コーラスが加わり穏やかに盛り上がり、5分30秒前後からは女性コーラスによるスキャットが高らかに響きわたります。途中から男性コーラスも感じられ男女混成コーラスがたえまなくスキャットが続くパートは、オルガンの重厚な旋律、9分前後から加わるNick Masonのドラムなども交え、10分前後まで物悲しさが立ち込められていきます。
10分前後からのRoger WatersによるファンキーなベースラインやRichard Wrightのオルガンのリフによるアンサンブルに、David Gilmourがブルーズをベースにもトリッキーなフレーズをギターで繰り広げるアートロック的なアプローチから、男女混成コーラスによるアフリカン・ミュージックを感じさせるパートへの展開に斬新さを感じてしまいます。
15分前後に、楽曲冒頭部のホルンによるテーマの短めのパートを挟み、不協和音にも似たサイケデリック/スペース系の前衛的なサウンドが展開します。18分前後からは楽曲前半の様々なパートが走馬灯のように交錯し合い、19分前後に、再度、楽曲冒頭部のホルンによるテーマのパートから、Roger WatersのベースとRichard Wrightのオルガンをアンサンブルにチェロが奏でるテーマ、続いてギターがテーマを奏で、男女混成ボーカルやホルンが響き渡りクロージングを迎えます。
アルバムのアートワークに、牛が放牧される草原地帯を思い浮かべるよりも、クラシックを彩る金管楽器がロック的なアプローチを繰り広げたかのように印象を受け、壮大な映画の一幕をサウンドスケープしているかのような感覚に浸ってしまいます。
いっぽうで、レコードのフォーマットではB面を占める楽曲は、前作3rdアルバム「Ummagumma」のスタジオ・アルバムに収録されたソロ楽曲からは充実した完成度のある楽曲と、その前衛さや実験性が聴きやすさにも繋がった最終曲が並んでいます。
トラディショナルなフォーク系で抒情さがある2「If」は、どちらかといえば、アルバムのアートワークに近しいイメージでもあり、アコースティック・ギターとピアノによるアンサンブルで淡々と綴られる呟くような唄メロのメロディラインをもつヴァースに、エレクトリック・ギターによる穏やかな曲調は、「僕がいい人間だったら、きみともっと話すことが出来ただろう」と問う歌詞などを読み、聴き入ってしまうとその裏腹に痛々しい気持ちになってしまいます。
3「Summer’68」は、Richard Wrightのピアノやオルガンの旋律が端正なパートから、スキャット「pa~papa~♪」も印象的に、ホルンも交えフォーク・ロックへと展開する躍動的な楽曲です。3分50秒前後からのアートロック的な可愛らしいサウンド・メイキング、管弦楽器が奏でるカウンターメロディ、激しきギターのストローク、1「Atom Heart Mother」のホルンの雄大さを想起させる旋律など、サイケデリックさから脱却し、静と動を活かしたカッコ良いアンサンブルとサウンド・メイキングを感じずにいられません。
4「Fat Old Sun」は、David Gilmourによる1人多重録音の楽曲と呼ばれ、エコーのかかったギターの旋律とともに浮遊さもある楽曲には、Paul MaCartneyの1970年代前半期のソロからWings期にも通じるのどかさも感じてしまいます。3分15秒前後からは、ほのかに響かせるRichard Wrightがオルガンの旋律に、David Gilmourのギター・ソロやRoger Watersのベースラインも際立つのですが、個人的には、Nick Masonのタムを多用したドラミングに腫れてしまいます。
最終曲5「Alan’s Psychedelic Breakfast」は、冒頭部の蛇口から滴る水の音に、1分前後からのマッチを擦る音をハイハットに見立てたリズムセクションのように幕を上げる楽曲です。曲中を彩る日常生活のSEがあることで、前衛的な楽曲と捉えがちですが、前作3rdアルバム「Ummagumma」のスタジオ・アルバムからの実験性と比べれば、各SEを引き立たせるか如く、ピアノやオルガンをメインとした室内音楽風なアンサンブル、アコースティック・ギターが異なるアルペジオによるアンサンブル、オルガンとリズムセクションをアンサンブルにピアノによるリリカルな旋律と優美なギター・ソロなど、Pink Floydがサウンド・スケープさせるに質の高い音楽性を盛り込んでいるため、1「Atom Heart Motherでの「ロックとクラシックの融合」ならぬ、「SEとサウンド・アンド・ビジョンの融合」を感じずにいられません。
朝日が昇り、目覚めたとある日曜日の朝に、3部構成(「Rise and Shine」「Sunny Side Up」「Morning Glory」)を表現するかのように、寝床から這い出た勝手口の蛇口で水が滴り、マッチに火をつけ、朝食を食べると云ったありふれた朝の情景が最も素晴らしいと云わんばかりなサウンドスケープを魅せてくれます。
そう、アルバム全篇、サイケデリックさ、前衛さなどに溢れたパートや楽曲もありますが、1「Atom Heart Mother」ではじまり、この最終曲5「Alan’s Psychedelic Breakfast」で聴き終える頃には、ふと目覚めた朝から、穏やかにも爽やかな昼時を迎えられそうな感じのする素敵なアルバムです。
[収録曲]
1.Atom Heart Mother(邦題:原子心母)
1) Father’s Shout(邦題:父の叫び)
2) Breast Milky(邦題:ミルクたっぷりの乳房)
3) Mother Fore(邦題:マザー・フォア)
4) Funky Dung(邦題:むかつくばかりのこやし)
5) Mind Your Throats, Please(邦題:喉に気をつけて)
6) Remergence(邦題:再現)
2.If(邦題:もしも)
3.Summer ’68(邦題:サマー’68)
4.Fat Old Sun(邦題:デブでよろよろの太陽)
5.Alan’s Psychedelic Breakfast(邦題:アランのサイケデリック・ブレックファスト)
1) Rise and Shine
2) Sunny Side Up
3) Morning Glory
サイケデリックさやプログレッシブさによる幻想さがありながらも、クラシックを奏でる金管楽器を交えたロックの一大交響詩のような楽曲を聴きたい方にを感じたい方におすすめです。
当アルバムを聴き、Pink Floydを好きになった方は、次作5thアルバム「meddle(邦題:)」以降、順を追って聴くことをおすすめいたしますが、いずれかのタイミングで前作の3rdアルバム「Ummagumma」にも触れて欲しいです。その後に続く、一連の名盤や傑作アルバム(「Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」、「Wish You Were Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)」、「The Wall(ザ・ウォール)」など)の原点となるサウンド・メイキングが見受けられると思います。そして、それを聴きやすくプログレッシブなアプローチへ移行したのが当アルバムと思います。
アルバム「Atom Heart Mother」のおすすめ曲
1曲目は、3「Summer ’68」
なぜだか、ホルンの旋律に、名曲「Atom Heart Mother」のホルンの雄大なパートも感じられ、ほのかにサイケデリックさを残しつつ、アートロックの静と動を活かした楽曲構成がカッコ良いです。
2曲目は、5「Alan’s Psychedelic Breakfast」
本当に、ありふれた休日の朝の、目覚めから朝食を摂るルーチンとなるタイム感が、どれほど大切なのか、あらためて感じさせてくれる、なぜだか優しい気持ちにもなれる楽曲です。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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