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プログレおすすめ:Tai Phong「1st Album(邦題:恐るべき静寂)」(1975年フランス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/15 1970年代, シンフォニック, フランス


Tai Phong -「1st Album」

第224回目おすすめアルバムは、フランスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Tai Phongが1975年に発表した同名1stアルバム「Tai Phong」をご紹介します。

Tai Phong -「Tai Phong」

キーワードは「泣き」

Tai Phongは、1972年に、ベトナム出身のKhanh Mai(エレクトリック&アコースティック&スライド・ギター、ボーカル)とTai Sihn(ボーカル、ベース、アコースティック・ギター、ムーグ・シンセサイザー)の兄弟が中心となり、フランスの地で結成されたバンドです。

Jean-Jacques Goldmnan(ボーカル、エレクトリック&アコースティック・ギター、ヴァイオリン)、Jean Alain Gardet(ピアノ、オルガン、ムーグ・シンセサイザー、キーボード)、Stephan Caussarieu(ドラム、パーカッション)らとともに、5人編成で、1975年に、当アルバム「Tai Phong(邦題:恐るべき静寂)」でデビューを飾ります。

その音楽の特徴は、楽曲のアンサンブルを覆い尽くすシンセサイザーがあることから、サウンド・メイキングでは、イギリスのCamelや、ドイツのNovalisと比較されますが、オーケストラ的な視点からは、イギリスのBarclay James Havestや、The Enidを彷彿もします。

比較対象と異なるのは、1975年当時にしては、若干17歳のドラマー:Stephan Caussarieuの堂々たるドラミングも鮮やかに、ハーモニウムを効かせた哀愁さあるメロディラインと、疾走感溢れるハードロックなアプローチのスタイルではないでしょうか。バンドのメンバーは、ギリシャのバンド:Aphrodite’s Childの影響を公言もしていますが、美メロのプログレ・ハードを予見するかのように・・・

ひたすら心苦しくなるぐらいにロマンチシズム溢れるサウンドを、耳で、心で、身体で、浴びてしまいましょう。

・・・いや・・・全曲を聴けば、「泣き」のメロディを自然と浴びてしまうかもしれません。

楽曲について

冒頭曲1「Going Away」は、リズミカルなギターのストロークに、ハイトーンを効かせた唄メロのメロディラインが際立つテクニカルなハード・プログレ系の楽曲です。後年、ハード・プログレと云われるバンドが、メロディック・ハードへと移行してもいきますが、この楽曲での変拍子やテンポチェンジを巧みに盛り込みながらも、テクニカルさを際正せないぐらいに、メロディックさが凄いんです。エレクトリック・ピアノやハモンド・オルガンの音色、ギターを枯れた味わいとサスティーンを効かせ弾き分けるカッティングとソロなど、細部までに音色や音の繊細さにだろうか。それとも、ハイトーンを効かせると云うよりも、ハイトーンをふりしぶり沸点を振り切るような情感溢れるボーカルのインパクトだろうか。

楽曲が終わった時に、息することも忘れ胸がいっぱいになっていることに気がつくぐらいに

・・・にしてもだ。前曲で煽られた心拍と異なるリズムで、音の隙間多くピアノが吐露を吐き出すかのような打音が印象的にも幕をあげる2「Sister Jane」は、いったん心をクールダウンしたかのように思えても、じわじわとハモンド・オルガンが音の波にひたるように響き合い、哀愁を帯びた唄メロのメロディラインが切々と語られ、ファルセットのコーラスも豊かなサビ部の危うい脆さが、何度も繰り返され進行していきます。3分30秒前後に、メイン・ボーカルはまたしてもふりしぼるようにハイトーンが響かせて・・・コード進行や楽器のアンサンブル以外で、こんなにも心が壊れそうなぐらいに儚いバラードはそれほど多くないだろうと思わずにいられません。

3「Crest」は、チャーチオルガンが鳴り響き、ソリッドなベースがラインを添え、ギターとシンセサイザーが流麗なソロを奏で、1分30秒前後のファルセットのコーラスを境に、ハイトーンを効かせて、どことなく牧歌的にもファンタジックにも漂わせビートが満載に聴かせてくれます。

4「For Years And Years」は、アコースティック・ギターのフレーズとエレクトリック・ピアノをアンサンブルに、ハハモンド・オルガンの音色をふくよかに漂わせ、スティール・ギターのフレーズも含め、ここまでのアルバムの展開に、ホッと一息つきさせてくれます。せわしいハモンド・オルガンのソロもギターのソロにも、リズムセクションの妙なのか、ゆったりと大陸的なサウンドが聴けます。

4分前後のエレガントなピアノの旋律に導かれ、つつましき唄メロのメロディラインが綴られ、そのメロディラインのイメージを拡げるかのようにスティール・ギターの流麗さに、メイン・ボーカルにそっと添えられるようなコーラスワークに身を委ねていたのなら、6分30秒前後に、一定のリズムでテクニカルなフレーズを弾くギターに、迸るギター・ソロに、ハッとさせれてしまいます。アルバムの世界観にかなりのめり込んでたのなら、この突然の動のアプローチは驚きをかくせくなると思います。揺りかごに揺られてるところに、突然、地面に落とされたようなサウンドスケープとともに、8分前後にアコースティック・ギターのアルペジオで楽曲は落ち着きます。静の比重が多いプログレッシブな展開です。

5「Field Of Gold」は、淡々と弾くピアノのフレーズがかえってもの悲しく、それ以上に冒頭から囁くように唄われる重奏のボーカリゼーションに、2「Sister Jane」と同様な心地になりながらも、45秒前後に、ギターのブレイクと同時に、力強さをましたピアノと、ギターの流麗なフレーズに盛り上がりをみせるサビが聴けます。再度、ハープシコードかチェレステのような音色の楽器をアンサンブルのヴァースに、盛り上がりを魅せるサビへと・・・3分前後から、シンセサイザーの響きわたるなか、ナレーションと爆音のSEが飛び交い、まるでイギリスのCamelのサウンドの特徴である冷ややかでスペーシ―なサウンドが拡がっていきます。徐々にハイハットとうねるベースラインによるロックのリズムが紛れ、イコライジングされたギターのソロも飛び交い、ファンタジックさに敷き詰められていきます。サビ部でのほのかな朗らかさを消し去るように、終わってしまう・・・。

最終曲6「Out Of The Night」は、雷と暴風を想起させるSEに、ハモンド・オルガンが響き渡り、幕を上げる約10分にも及ぶ、4「For Years And Years」や5「Field Of Gold」以上に、プログレッシブ・ロックな展開となるアルバムのクロージングに相応しいハイライトとなる楽曲です。

2「Sister Jane」や5「Field Of Gold」と同様に、哀愁を帯びた唄メロのメロディラインが綴られていきますが、3分前後からのシンセサイザーによる歪んだサウンドを皮切りに、リズムセクションも加わることで、唄メロで感じえる悲しくて刹那さだけで、胸がいっぱいになっていく心地になってしまいます。いっぽうで、たえまなく響くハモンド・オルガンに、無作為なギター・ソロ、メロディックにもむせび泣くようなフレーズを弾くギター・ソロ、徐々に疾走感をともなうギター・ソロもまた、痛いほど胸に問いかけるように奏でられていきます。

・・・ひたすら、耳で、心で、身体で、いつまで受け止め続けていたら良いのだろう・・・。

・・・楽曲の尺は分かっているのだから、後これぐらいの時間だろうと客観的になっていいだろうに、途中で再生をストップしてしまってもいいだろうに・・・

そんな考えをもったとしても、何度も何度も繰り返されるヴァースとサビのメロディラインに押しとどめられるかのように曲に聴き入り、9分前後からは、クロージングまでピアノが悲しげな旋律を奏で続け、雨のSEに紛れるようにフェードアウトしていきます。

アルバム全篇、歌詞を読まないでも、ハモンド・オルガンとシンセサイザー、ギターによるアンサンブルに、ハイトーンを効かせたメイン・ボーカルとコーラスワークで、ただただ心脆く哀しみを落ち込んでいくような、ひたすら「泣き」を浴びることが出来る、稀にみるアルバムであり、プログレッシブ・ロックの名盤です。

最後まで聴き続けてしまうのは、「泣き」の世界観が半端ないからかもしれません・・・。

[収録曲]

1. Going Away
2. Sister Jane
3. Crest(邦題:聖使の羽飾り)
4. For Years And Years(邦題:時の流れの中に)
5. Field Of Gold(邦題:黄金の草原)
6. Out Of The Night(邦題:闇の彼方へ)

ハード・プログレや、(プログレ色のない)メロディック・ハードで、マイナー調で哀愁のあるサウンドが好きな方におすすめです。

ただし、アルバム全篇にわたり、ここまでひたすら心沈み込ませるサウンド・メイキングとアンサンブルは、自分は知らないため、比肩しうるのは分かりません。それでもなお、無作為に羅列しますが、King Crimson、Uriah Heep、Gazpacho、Aisa、Boston、Foreigner、Bad English、Toto、Roxy Music、The Charltansなどの楽曲で、物悲しい楽曲が好きな人にはおすすめです。

当アルバムを聴き、Tai Phongを好きになった方は、結成当初の中心人物であるTai Sihnは脱退してしまう有終の美とも云える次作1976年に発表した2ndアルバム「Windows」もおすすめです。

アルバム「Tai Phong」のおすすめ曲

1曲目は、2曲目の「Sister Jane」
「泣き」に満ちたアルバム全篇を聴くのが苦しくなるぐらいなら、少なくとも当楽曲は聴いて欲しいです。名曲です。そして、「泣き」に満ちたサウンドも、プログレッシブ・ロックの「サウンドでのコンセプト」と感じさせてくれる、きっかけとなった素晴らしい楽曲です。

2曲目は、最終曲6の「Out Of The Night」
たんたんと繰り返されるヴァースとサビの唄メロのメロディラインと終始鳴り響きハモンド・オルガンの音色がかえって、10分にも及ぶ悲哀に満ちた楽曲にもたらすクリエイティブの高さを伺えます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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