プログレッシブ・ロックのおすすめアルバム、楽曲、関連話など

   

プログレおすすめ:Chris Squire「Fish Out Of Water(邦題:未知への飛翔)」(1975年イギリス)


Chris Squire -「Fish Out Of Water」

第133回目おすすめアルバムは、イギリスのミュージシャン:Chris Squireが1975年に発表したアルバム「Fish Out Of Water」をご紹介します。
Chris Squire「Fish Out Of Water」
5大プログレバンドの1つ:Yesで、1968年結成当時から、2015年6月27日に逝去に至るまで唯一在籍したオリジナル・メンバーとして、また、トレードマークとなるリッケンバッカーのベース・ギターを利用したトレブルとベースを効かせた独特なハーモニズムを聴かせるプレイに魅了されたプログレッシブ・ロックファンは多いと思います。

当アルバムは、1974年発表の7thアルバム「Relayer(リレイヤー)」以降、Yesの5人のメンバー(Chris Squire、Patrick Moraz、Alan White、Jon Anderson、Steve Howe)がソロ・アルバムを発売するという企画があり、その企画に合わせて発売されました。

ベース・ギターだけでなく、ボーカルとギターも担当するChris Squireはもちろんのこと、音楽活動初期に在籍していたThe Synの
Andrew Pryce Jackman(ピアノ、オーケストラ・アレンジ)やBarry Rose(パイプ・オルガン)に、元YesのBill Bruford(ドラム)、当時のYesメンバーのPatrick Moraz(オルガン、シンセサイザー)、King CrimsonのMel Collins(サックス)、CaravanのJimmy Hastings(フルート)という錚々たる顔ぶれが揃い、制作されています。

躍動さ溢れるChris Squireのベース・ギターのフレーズに、オーケストラやサックス、フルートを散りばめられたサウンドには、

当時のYesとは異なるけれど、Yesのサウンドは、まさにChris Squireによるイマジネーションが溢れているアルバムと感じるはずです。

メインとなるギタリスト不在にも参加メンバーから、YesとKing Crimsonとカンタベリー系を足して3で割ったようなサウンドと思っていると、その音楽性の豊かさに驚きを隠せなくなる、そんなアルバムです。

楽曲について

パイプ・オルガンとベースがそれぞれに呼応するかのようにフレーズを交わし幕を上げる冒頭曲「Hold Out Your Hand」は、オープニングから、Chris Squireのソロ・アルバムだといわんばかりに、当アルバムの特徴の1つが表れています。Yesといえば、Jon Andersonの高音を活かしたボーカリゼーションが特徴であり、それはYesファンの大半が認めるとも思いますが、Chris Squireによる高音を効かせたボーカリゼーションにもJon Andersonを想起させてくれます。Yesでメイン・ボーカルのJon Andersonのボーカルを高音でハーモニウムを取っているのは、Chris Squireであり、そのYesの楽曲の特徴ともなるコーラスワークのアイデアや再現もChris Squireが持ち込んだということであれば納得しますね。

また、東洋風に聴かせるシンセのアンサンブルに、ベースは、終始、トレブルが効いたレンジ高く、特有のゴリゴリしたフレーズをランニングするものだから、聴き手に躍動さはいやがおうでも伝わってきます。

2「You By My Side」は、1「Hold Out Your Hand」の後半部のオーケストラから切れ目なく始まり、ピアノとベースによるアンサンブルがカントリー調の第一ヴァースが印象的な楽曲です。1分10秒前後からのJimmy Hastingsのフルートと途中から絡み合うChris Squireのハーモニーの醸し出すメロウさは、Yesのメロウな楽曲とはまた異なる側面を魅せてくれます。そのピースフルな感覚は、2分30秒からの続く第2ヴァースに、終始鳴り響くオルガンや3分50秒前後のオーケストラとともに、Chris Squireの人柄が溢れたような穏やかさを感じずにいられません。ゆったりとオルガンがフェードアウトする最後の瞬間まで、楽曲のタイトルを和訳した「自分のそばにいて」というような感覚でも聴き入ってしまいます。

3「Silently Falling」は、お伽噺に入り込みそうな感覚も憶えるフレーズのフルートではじまる約11分30秒にも及ぶ大作です。1分前後からは、1「Hold Out Your Hand」や2「You By My Side」よりも力強いリズムセクションに、Yesを彷彿とさせるスペースを効かせたオルガンにと、コーラスワークが冴えわたり、4分前後からのムーグのソロに、Chris SquireのベースとBill Brufordのドラムのリズムセクションが絡み合う6秒30秒前後までのパートは当アルバムでも1つのハイライトとも云えるアンサンブルが聴けます。いっぽうで、7分前後の幽玄さを醸し出すようなピアノの伴奏とともに、Chris Squireが連呼する「Silently Falling」のフレーズには悲哀さが溢れており、途中から加わるオーケストラがより一層、気持ちを掻き立てながら、むせび溢れる想いを渦巻かせながら、楽曲はクロージングしていきます。まるでYesの楽曲「Starship Trooper」(Yesの3rdアルバム収録)に創造するポジティブなエンディング感と比べれば、真逆ともとれる世界観。聴き手によって異なる印象を与えるかもしれません。

4「Lucky Seven」はエレクトリック・ピアノによるフレーズに、Mel Collinsのサックスと他楽曲よりも低音を抑え独特のハーモニウムのフレーズが冴えるベースのアンサンブルからは、1980年代のオリエンタルなムードを先取りしたようなジャージーさを醸し出すかのような楽曲です。ヴァースの合間を埋めるChris Squireのベースのソロ・フレーズのカッコ良さといったら!時に、3分30秒前後からのBill Brufordのパーカッシブさに絡み合うベースの数秒のプレイは、もっと引き伸ばし聴きたい、と思わせる欲求が働いてたまらなくなります。5分前後からのMel Collinsのサックス、楽曲のイメージに沿うコーラスワークもより楽曲を際立たせており、カンタベリー系や第1期King Crimsonの4thアルバム「Island」を彷彿とさせるかもしれません。また、他楽曲とは異なり、Chris Squireの緊迫さ溢れるボーカリゼーションも聴きどころの1つです。

最終曲5「Safe (Canon Song)」は、静寂さあるメロウさからファンタジックさある前半部、ベース・ギターとオーケストラの各楽器が織りなす中間部、ピアノの打音とともに、壮大なオーケストラとうなるベースの世界の後半部が印象的な楽曲です。特に、5分前後から、Chris Squireによる3連符4拍によるベースのフレーズが展開しつつ、オーケストラの楽器がリレー形式で11拍子で代わる代わる続くパートにはジャム・セッションではなく、よく練られたクリエイティブを感じずにはいられません。哀愁を帯びた楽器による音色やフレーズとは異なる変拍子を逆手に取ってテクニカルさを効かせた構築美が素敵過ぎます。そして、後半部の残り2分間にも及ぶベースをゆったりと効かせるパートでは、後に音源として発表する楽曲「Amaging Grace」や「New Wolrd Symphony」の世界観ともいうべき普遍なピースフルのエッセンスを感じさせてくれます。

同時期(1975年、1976年)のYesの他メンバーのソロ・アルバムと比べて最もYesを彷彿とさせてくれるサウンド、Yesのサウンド・メイキングやバンドの方向性に大きく関与していることが垣間見えるアルバムです。また、2001年に発表したキーボードレスのオーケストラと共演したアルバム「Magnification」を予見するかのようなオーケストラとの音像も聴けて、必聴なアルバムです。

[収録曲]

1. Hold Out Your Hand
2. You By My Side
3. Silently Falling
4. Lucky Seven
5. Safe (Canon Song)

プログレッシブ・ロックのみならず、アンサンブルにベース・ギターが冴えたアルバムとして聴いてみたい方におすすめです。

また、オーケストラ編成を利用していることもあり、オーケストラをメインとしたシンフォニック系のアルバムを聴きたい方、1970年代初頭のYesのアルバム(「Yes Album」「Fragile」「Close To The Edge」「Relayer」「Going For The One」「Drama」など)を気に入り、そのクリエイティブ性を他にも感じたいという方にもおすすめです。

Yesの「核」として逆転の発想として

当アルバム「Fish Out Of Water」は、Yesの黄金期を飾ったボーカリスト(Jon Anderson)、ギタリスト(Steve Howe)、キーボード奏者(Rick Wakeman)の個性が収録されていないアルバムです。

1980年代以降のアルバム「Drama」以降、その3人の個性の比重が下がったアルバムを発表していきます。ということは、逆の発想でいえば、1980年代から2015年代にかけて数々のアルバムの「核」には、よりChris SquiareがYesに持ち込んだバンドとしての方向性が溢れていると感じています。その「核」が当アルバムには大きく溢れていると思うのです。このアルバムを機に、あらためて、過小評価されがちな1980年代以降のYesのアルバムに手を伸ばしてみるのはいかがでしょうか。

プログレッシブ・ロック衰退期から、さまざまなロックのフォーマットが台頭していく中で、時流を乗り越えていくために、Yesもたぶんに含まれず、その時代々々の音楽性を吸収していきます。それでもなお、2021年現在、最新アルバム「Heaven & Earth」までには、そんなYesの「核」が感じずにいられません。

移り変わる時代が緩やかでも急でも、プログレッシブ・ロックはずっと同じで在り続けない。

・・・分かっているけれど、プログレッシブ・ロックが文字通り示す「プログレッシブさ(=発展性)」を、いつまでも聴きたい。欲をいえば、好きになったアーティストであればあるほどに。

そんなプログレの気持ち。

みなさんはいかがですか?

アルバム「Fish Out Of Water」のおすすめ曲

1曲目は最終曲「Safe (Canon Song)
中間部のベース・ギターに、オーケストラの楽器が代わる代わる絡み合うフレーズが特筆です。そして、「うねる」イメージを先入観が多いChris Squireのベース・ギターが、クロージング直前で魅せてくれる穏やかで優しげに、それでいて悲しく消えていくのではないサウンド・メイキングまで、一気に聴きとおしてしまいます。

2曲目は3曲目「Silently Falling」
ゲスト参加によるYesとはまた異なるクリエイティブ性を魅せてくれるからです。King Crimsonの混沌さやカンタベリー系の独特な優美さが、Yesのマイナー調の楽曲とは異なる展開に、ソロ・アルバムとして個性を出してくれたChris Squireに感謝せずにいられません。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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