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プログレおすすめ:Kansas「Point Of Know Return(邦題:暗黒への曳航)」(1977年アメリカ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/30 1970年代, アメリカ, アメリカン・プログレ・ハード, ヴァイオリン


Kansas -「Point Of Know Return」

第225回目おすすめアルバムは、アメリカのシンフォニックなプログレッシブバンド:Kansasが1977年に発表した5thアルバム「Point Of Know Return」をご紹介します。

Kansas -「Point Of Know Return」

戻るべきを場所を知っている

楽曲タイトルとしてアルバムタイトルとして異なる邦題を持つ印象的過ぎるアルバムがここにある。

・・・いまや船は海の果てで崖っぷちだ・・・。

楽曲の邦題「帰らざる航海」なのか、アルバムの邦題「暗黒への曳航」なのか、Kansasのコンセプトの元にRod Dyerが手掛けたカバーアートは一見し不吉なイメージがつきまといますが、邦題に左右されることなく直訳してれば、「戻るべき場所を知っている」とも解釈出来るんです。つまり、

・・・崖っぷちだけど、まだまだいける・・・。

と、ふと気持ちが滅入りそうな時に手を伸ばしたくなるアルバムの1枚です。

1976年に発表された前作4thアルバム「Leftoverture(邦題:永遠の序曲)」は、楽曲「Carry On Wayward Son」がアメリカ映画「幸福の旅路(現代:Heroes)」の主題歌に起用され、ビルボード・チャートの11位まで上昇し、より「アメリカン・プログレ・ハード」としての揺るぎないルーツや知名度を上げる名作でした。

英国プログレッシブ・ロックとアメリカン・スピリッツが強くブレンドした感覚のサウンドには、たとえば、5大プログレバンド(Genesis、King Crimson、Yes)とは比較しようとも、比較するのではない素晴らしきアイデンティがあります。1970年代後半から1980年代にかけて隆盛するプログレ・ハードやメロディック・ハードのエッセンスやジャンルの音楽に満ちています。

当アルバム「Point Of Know Return」は、1970年のデビュー時から変わらぬ、Kerry Livgren(ピアノ、クラリネット、シンセサイザー)、Phil Ehart(ドラム、チャイム、ティンパニ、パーカッション)、Steve Walsh(ボーカル、オルガン、ピアノ、チェレスタ、シンセサイザー、ヴィブラフォン)、Robbie Steinhardt(ボーカル、ヴァイオリン、ヴィオラ)、Rich Williams(アギター)、Dave Hope(ベース)の6人で制作されています。

キャッチ―なメロディラインとコーラスワークに、オルガンとヴァイオリンの旋律が添えるクラシカルさな佇まいと、何よりもロック・スピリット感じさせる骨太なアンサンブルに魅了される前作4thアルバム「Leftoverture」をよりスケールアップさせて、

爽快でポップさ溢れるプログレッシブ・ロックなアルバムです。

楽曲について

冒頭曲1「Point of Know Return」は、オルガンのリフにリズムセクションがタイトに絡み合い、何かを高らかに宣言するかのように幕を上げます。

リズミカルなピアノとドラムによるアンサンブルに、Robbie Steinhardtによる澄んだ声が響き渡るメロディアスな唄メロのヴァースと、タメをうむユニークなベースラインに、唄メロとヴァイオリンが掛け合うサビ部を2回も繰り返されるだけで、十分に心を弾ませてくれます。さらに、オルガンとヴァイオリンがユニゾンする躍動的なインストルメンタルのパートに続き、途中ヴァイオリンの旋律も彩りを添え、張り上げるボーカリゼーションの1分25秒前後のブリッジ部では「爽快」と云う言葉が似つかわしすぎますね。そして、2分前後からの繰り返されるヴァースでは、ヴァイオリンの旋律も加わり、サビでは、ピアノのアタックの強い小刻みなフレーズも加わり、さらに華やかさを増していきます。

・・・あとどれくらいだ?・・・

・・・俺たちはあとどれくらで引き返せなくなくなるんだ?・・・

・・・俺たちはいつどこで戻ろうって気がつくんだ?・・・

いやがおうでも心弾ませてくれる。

2「Paradox」は、オルガンやヴァイオリンのリフが前のめりに猪突猛進なイメージもあるアンサンブが際立つ楽曲です。1分50秒前後からのベース、ヴァイオリン、パーカッションによるインストメンタル、2分30秒前後からのヴァイオリンの旋律、ギターのソロなどを盛り込みながらも、終始、ファーストタッチで突き進むアンサンブルは、続く変拍子を盛り込み、フライジングされたオルガン、ヴァイオリンなどもまじえタイトなインストルメンタルの小品3「The Spider」でも同様であり、イギリスの5大プログレバンド:Emerson, Lake & Palmerを彷彿とさせるアンサンブルに、たただた圧倒されてしまいますね。

4「Portrait (He Knew)」は、イギリスのプログレ・ハードロック系のバンド:Uriah Heepを想起させるベースラインとオルガンで幕を上げますが、異なるのは、ヴァイオリンとヴィオラがアンサンブルに加わる点と、ギターのリフとタイトなリズムセクションによる骨太なロックを感じさせる点ではないでしょうか。Robbie Steinhardtによる力強いボーカリゼーションとともに、1980年代以降のプログレ・ハードのバンドに影響を与えたのだろうと、あらためて思わずにはいられません。

5「Closet Chronicles」は、オルガンが鳴り響きつつ歌唱する冒頭部にまたUriah Heepを想起してしまいますが、随所にピアノやシンセサイザーがアンサンブルに加わり、センチメンタリズムなメロディラインへと移行するヴァース、シンセサイザーにアコースティック・ギターがメインのアンサンブルのヴァース、アコースティック・ギターのストロークにビートが効いたヴァース、パーカッションやヴィブラフォンを交えパーカッシブさに続き、ヴァイオリン、シンセサイザー、ギターが変わる変わるソロをとるインストルメンタル部、ハードなギターのリフとシンセサイザーによる壮大なアプローチ、シンセサイザーをメインとしたヴァースなど、オルガンが響き、高らかにトランペットの音色が放たれ、クロージングするまで、プログレッシブな展開を堪能出来ます。

当アルバムの楽曲には、すべて邦題がつけられていますが、なかでも6「Lightning Hand」は、楽曲につけられた邦題「稲妻の戦士」が的を得た、ギターをメインにハードロック系のアンサンブルとボーカリゼーションが稲妻のように突き進むさまを感じます。

そして、7「Dust in the Wind」は、多くのTV-CM、世界のミュージシャンのカバー、コンピレーションなどで取り上げられることが多く、どこかでふと耳にしたことがある楽曲ではないでしょうか。アコースティック・ギターによる流麗なアルペジオがメインのアンサンブルに唄われるバラードは、華麗なソロを弾くヴァイオリンがクラシカルな奥ゆかしさを感じさせて、2分50秒前後からクロージングまでのパーカッシブさにはほのかにファンタジックさを醸し出しだしています。そして、感傷的な気持ちにもなる、憂いを帯びた唄メロのメロディラインは、強く記憶に留まってしまう・・・そんな言葉の数々もいらない、普遍的な名曲でしょう。

8「Sparks of the Tempest」は、アルバム中で最も2本のギターがそれぞれ異なる役割を強く感じさせてくれる楽曲です。1分50秒前後でのギターとリズムセクションの重厚なリズムセクション、3分40秒前後のブラス・セクションをイメージするサウンドなどもまじえ、ソウルフルなボーカリゼーションからもイメージするかごとく、R&B調の大らかさを感じえます。

ドラムとシンセサイザーによるオーケストラな壮大なアンサンブルから、ヴァイオリンとピアノがメルヘンタッチなフレーズで幕を上げる9「Nobody’s Home」は、「Nobody’s Home」と唄う歌詞が物悲しくもロマンチックに溢れたアンサンブルと唄メロのメロディラインが聴けます。ヴァースやインストルメンタル部でのヴァイオリンの旋律は、ひときわ優美さを感じさせてくれますし、3分前後からのベースラインや、随所でアンサンブルに加わるピアノやヴィブラフォンもまじえ、メルヘンチック、お伽噺のなかのようなサウンドスケープを魅せてくれます。

オリエンタルなムードを醸し出すヴァイオリンの旋律に、オルガンが鳴り響きギターのハードなリフとリズムセクションが重厚さを漂わせ幕を上げる最終曲10「Hopelessly Human」は、1分10秒前後からのたゆまないピアノをメインとしたアンサンブルのヴァースとともに、壮大な「希望のない人間(=Hopelessly Human)」の物語が綴られるシンフォニックな楽曲です。

・・・なら、今、直面する現実に対し、おまえは、どう感じ、どう決断するんだ?・・・

今から先の未来には、決められた結果はない(と考えたい)けれど、必ず結果はあります。その結果は自然と目の前に突き付けられるのか、自分の手で手繰り寄せるのか、それともあやふやに付きまとうとしてしまうのか、どんな困難なことがあっても、自分自身で考え行動しなければいけないと、最後の歌詞の一節だけを切り出して、楽曲全体の歌詞に関係なく、最後の歌詞の一節だけにいつも思うんです。

アルバム全篇、Kansasの代表作とも頷ける、爽快なアンサンブルが楽しめるアルバムです!

[収録曲]

1. Point of Know Return(邦題:帰らざる航海)
2. Paradox(邦題:逆説の真理)
3. The Spider(邦題:スパイダー)
4. Portrait (He Knew)(邦題:神秘の肖像)
5. Closet Chronicles(邦題:孤独な物語)
6. Lightning Hand(邦題:稲妻の戦士)
7. Dust in the Wind(邦題:すべては風の中に)
8. Sparks of the Tempest(邦題:閃光の嵐)
9. Nobody’s Home(邦題:遅れてきた探訪者)
10. Hopelessly Human(邦題:望みなき未来)

ポップで弾むプログレ・ハードのエッセンスが好きな方、Boston、Journey、Totoなど含め、アメリカン・プログレ・ハードが好きな方、1977年以降、アメリカナイズされたハードロックなアプローチをするUriah Heepを好きな方、オルガンやヴァイオリンがアンサンブルに加わるアルバムに興味を示す方におすすめです。

また、楽曲「Point of Know Return」のキャッチ―な唄メロやポップさ、楽曲「Dust in the Wind」の叙情さ溢れるバラードが好きで耳にしたことがあるけれど、アルバム単位ではKansasをまだ聴いたことがない方にもおすすめです。

当アルバムを聴き、Kansasが好きになった方は、前作1976年発表の4thアルバム「Leftoverture」を聴き、より深めるために、1974年発表の同名1stアルバム「Kansas」を聴くことをおすすめいたします。

アルバム「Point Of Know Return」のおすすめ曲

1曲目は、6曲目の「Closet Chronicles」
さまざまなモチーフを盛り込んだプログレッシブ・ロックの展開が聴けます。

2曲目は、冒頭曲1の「Point of Know Return」
気が滅入りかけている時に聴くと、本来のアルバムの世界観とは裏腹に、大いに心を弾ませてくれます。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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