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プログレおすすめ:Orbital「Pig Farm On The Moon」(2003年ベネゼエラ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/12 2000年代, ヴァイオリン, シンフォニック, ベネズエラ


Orbital -「Pig Farm On The Moon」

第198回目おすすめアルバムは、ベネズエラのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Orbitalが2003年に発表した1stアルバム「Pig Farm On The Moon」をご紹介します。
Orbital「Pig Farm On The Moon」

Orbitalは、2002年に、ベネズエラにて、Lidian(ボーカル、アコースティック・ギター)、Ivanov(エレクトリック・ギター)、Dario Sosa(エレクトリック・ギター、12弦アコースティック・ギター)、Salomon Lerner(キーボード)、Gustavo Borrero(ダブル&フレットレスベース)、Gilberto Finol(ドラム)の6人編成で結成されたバンドです。同2002年、メキシコのプログレッシブ・バンドが主催する「Baja Prog」なるフェステバルに参加後、英語詞で当アルバム「Pig Farm On The Moon」を制作し、翌2003年に「Baja Prog」へ再度参加し
、アルバムの楽曲を披露してます。

バンドの音楽性の特徴は、バンド本来のユニークなメロディラインがありながらも、5大プログレバンドでいえば、Genesisのメロウでファンタジックな奥ゆかしきメロディラインを、Yesのコーラスワークを含めたシンフォニック系のアンサンブルで聴かせてくれます。いっぽうで、時としてアンサンブルはアグレッシブさがあるのも魅力の1つで、アメリカのDream Theaterを彷彿とさせるテクニカルさやスキルフルさや、フュージュン系のエッセンスさえ感じます。

当アルバム制作時には、弦楽奏者3名(Rosa Maria Barrios(ヴィオラ)、Igor Lara(ヴァイオリン)、Darlenys Zamora(チェロ)と鍵盤奏者:Laurent Lecuyerらをゲストに迎え、メロディラインやアルバム・コンセプトをよりサウンドスケープさせるに一役買っていると思います。ビジョンをしっかりもった仕上がりは、ベネゼエラのバンドと云うことを忘れ聴けば、2000年代前半のプログレッシブ・ロックシーンに於いて、スペインのGaladriel、イタリアのH2O、アメリカのGlass Hammerなどメイン・ストリームの地域のバンドを聴いているような心地さえします。

アルバムのコンセプトとアートワークと

「豚が月で巨大な農場でとうもろこしを育て平和に暮らしている・・・。」と云うアルバム・コンセプトを表現しうるファンタジックなサウンドを、どの楽曲でも十二分に堪能出来ます。いっぽうで、デザイナー:Michael Bennettが提供したアートワークには、古代インカ文明で太陽神の象徴として崇められた存在でもある「とうもろこし」に”人面を持つ生き物”が宿り、豚が収穫しているイメージが描かれており、どの楽曲も9分を超え、全66分以上に及ぶ大作であっても、シュールで奇想天外な音の絵巻に最後まで耳を話すことが出来ません。

楽曲について

冒頭曲1「Awaken From Reality」は、ツイン・ギターとキーボードによる空間処理を施したアンサンブルに、Steve Hackettのアルバム「Spectral Mornings」のギター・サウンドを彷彿とさせ、楽曲のイメージがぐっと幅をもたせる印象の楽曲です。オープニングから3分前後までのいくぶん憂いを帯びたパートで一気に心が惹き込まれ、ダンサンブルでタイトなリズム・セクションやヘビーなギターのリフが醸し出すミステリアスなパートを挟みつつ、第1ヴァースのいくぶん憂いを帯びた唄メロのメインテーマとなるメロディライン、8分30秒前後からのコミカルにもユーモアさもあるメロディライン、11分前後からの再度提示されるメインテーマのメロディラインなど、起伏ある展開を魅せながらも、刹那さ溢れるギター・ソロとともに語られる14分30秒前後からのメインテーマのメロディラインが聴ければ、ネオ・プログレ系にも通じる哀感を感じずにいられません。

マーチ風のリズムで幕を上げる2「Genesis」は、複数のパートに分かれ、メインとなる楽器がそれぞれのパートでめくるめく様々なテーマを聴かせるインストルメンタルの楽曲です。メロウさとストロングさを使い分けるシンセの音色と旋律のパート、ギターやオルガンによるヘビーなリフのパート、それまでの展開を一変させてしまう4分10秒前後のピアノやフュージュン系のエッセンス溢れる5分30秒前後のフュージュン系のブレイク、アトモスフェリックなパート、切迫さを醸し出す弦楽奏のパートなど、変拍子とリズムチェンジを多用し、巧みに聴かせてくれます。

3「I Lost My Wings」は、オープニングからギターとキーボードをメインとしたアンサンブルと、ヴァースでの唄メロのメロディラインには、コーラスワークも含めメロディックな展開がメロウさに溢れ聴き心地良くなる楽曲です。ただ、当楽曲もメロウさ1つのテーマだけで終わらせることなく、5分前後からのエッジが効いたギターによるハードなアプローチや、6分30秒前後からの陰鬱さや第2期King Crimsonのメタル系を醸し出すメロディックなエッセンスに、9分前後から思いの丈を吐き出すようなボーカルゼーションを聴かせながら、静と動とは異なるドラマチックな展開を魅せてくれます。

アルバム中でも最も尺の長い約18分にも及ぶ4「The Queen Maibe」は、第1パート(Into The Globing’s Woods)、第2パート(Meeting The Queen)、第3パート(The Journey Through The Shadow’s Rift)、第4パート(Facing Lot)、第5パート(What I Left Behind)の大きく5つに分かれ物語が綴られていく楽曲です。ただし、それぞれのパートには明確な傾向やカラーがあると云うのではなく、パートのイメージを流麗に繋げるかごとく、さまざまなアンサンブルが場面を切り替えていくのが印象的です。浮遊さ溢れるアコースティカルなアンサンブル、タイトなリズム・セクションにもファンタジックなアンサンブル、フュージュン系の室内楽風のアンサンブルによる唄メロのメロディラインなど、何度も楽曲中に顔を出します。

最終曲5「The Return Of The Rain」は、アコースティック・ギターのストロークをベースに、メロウなアンサンブルと他楽曲以上にメロディックな唄メロとコーラスワークが印象的なメロウさ溢れる前半部から、メタル系の楽曲を聴いてる心地にさせられる拡声器を利用した唄メロのボーカリゼーションやベネズエラのネイティブな音楽性を活かしたようなユニークなスキャットなど、印象的なヴォイスパートを挟みつつ、シンセによる不穏さも渦巻くサウンドに導かれユニークなナレーションとともに、8分20秒前後でいったんクロージングします。

1分経過後(9分20秒前後)、アコースティック・ギターとシンセがミニマルな旋律を奏でる約2分間の小曲が聴けます。アルバムの最後にシークレットトラックとして加えられたであろう印象もありますが、まるで幻想的で奇想天外な物語を綴り終えたアルバムに、「御伽話」として終焉を迎えるために準備されたリアル・ワールドのネイキッドさをサウンドスケープしてしまいます。そして、本当のクロージング直前に、心へ語りかけるようにリフレインされる1小節が心にずしっとした余韻を残すんです。

アルバム全篇、哀愁さもある唄メロのメロディラインに、ネオ・プログレ系のメロウさやファンタジックさがありながらも、シンフォニックに聴かせるアンサンブルは、アルバムのコンセプトから連想する幻想的で奇想天外なストーリーを表現するアクテビティに満ち溢れています。

[収録曲]

1. Awaken From Reality
(Including The Trial, The Voice and The Reason To Live)
2. Genesis (Instrumental)
3. I Lost My Wings
4. The Queen Maibe
I- Into The Globing’s Woods
II- Meeting The Queen
III- The Journey Through The Shadow’s Rift
IV- Facing Lot
V- What I Left Behind
5. The Return Of The Rain

南米ベネゼイラの地と思わしき、ネイティブな感覚(独特なスキャットやパーカッシブさ)は僅かにパートとして反英しているだけで、聴きやすいアルバムですので、これまでもネオ・プログレ系、シンフォニック系が好きな方におすすめです。

また、当レビュー前半に引き合いにだした、YesやGenesisを聴く方、および、スペインのGaladriel、イタリアのH2O、アメリカのGlass Hammerを聴く方にもおすすめです。

2015年現在、唯一のアルバムというのは個人的に悲しいです。

「Harvest Moon」

当アルバムのアートワークは、デザイナーのMichael Bennettによるものですが、当初は「Harvest Moon」とタイトルもある独立したデザインでした。当アルバムの発表時に、アートワークとして採用されたというのが良いかもしれません。

Michael Bennettによるアートワークは、プログレッシブ・ロック系のミュージシャンのアルバムのアートワークにも活かされており、他にもイタリアのSailor Freeが1994年に発表した2ndアルバム「The Fifth Door」やノルウェーのWobblerが2005年に発表した1stアルバム「Hinterland」のアートワークなどがあります。

「穀物を豊かに実らせる満月」を意味する「Harvest Moon」に、アルバム・コンセプト通りいえば、月で平和に暮らす豚が巨大な農場で、”人面を持つ生き物入りの”とうもろこしを収穫しているイメージとも取れます。それほどアートワークを凝視せずに、アルバムを聴いてしまえば、ファンタジックさあるシンフォニック系のサウンドを愉しむばかりですが、アルバム・コンセプトとともに、凝視したアートワークからは、シュールさに不思議な感覚を憶えてなりません。服を着用する豚のイメージと合い間って、人を育て支配する豚を創造してしまいます。

そう、Pink Floydがロックの名盤「Dark Side On The Moon(邦題:狂気)」のタイトルとアルバム・コンセプトや、傑作アルバム「Pigs」のアルバム・コンセプトが脳裏をよぎり妄想がやみません。

そんなプログレな気持ち。みなさんはいかがですか?

「Pig Farm On The Moon」のおすすめ曲

1曲目は4曲目の「The Queen Maibe」
めくるめく様々なパートを聴かせてくれますが、特に、8分30秒前後からのファンタジックなエッセンスを延長し聴かせるパートには、Pill Collins期のGenesisのダイナミックなアンサンブルさを彷彿したり、その延長上にあるネオ・プログレ系を感じてしまうぐらいに、テクニカルさスキルフルを活かし変拍子やリズムチェンジが印象的だからです。当アルバム発売2002年から10年後にて、2000年代でプログレッシブ・ロックシーンで有名なスウェーデンのMoon Safariが2012年に発表した楽曲「Lover’s End Pt.2」のアンサンブルでも同様なパターンを感じるため、このアンサンブルとサウンド・メイキングの感覚を忘れることは出来ません。

2曲目は冒頭曲の「Awaken From Reality」
オープニングからのツイン・ギターとキーボードによる空間処理を活かしたアンサンブルにモダンなプログレッシブ・ロックさを感じさせてくれるからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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