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プログレおすすめ:Siddhartha「A Trip To Innerself」(2009年トルコ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/29 2000年代, スペース・ロック, トルコ


Siddhartha -「A Trip To Innerself」

第197回目おすすめアルバムは、トルコのネオ・プログレ系のプログレッシブ・ロックバンド:Siddharthaが2009年に発表した2ndアルバム「A Trip To Innerself」をご紹介します。
Siddhartha「A Trip To Innerself」

Siddharthaは、1993年にトルコの地で、Özgür Kurcan(ボーカル、ギター)、Ege Madra(ギター)、Ulas Akin(ベース)の3人で結成されたバンドです。その後、1998年に1st同名アルバム「Siddhartha」を発売するまでに、ライブ活動をしていく過程で、Volkan Yildirim(キーボード)、Orkun Öker(キーボード)、Kaan Sezgin(ドラム)が参加します。

1stアルバム発表時には、さらに、Nil Karaibrahimgil(ボーカル)、Kerem Özyegen(ボーカル)、Neslihan Engin(キーボード)、Berke Özcan(パーカッション)、Serkan Yilmaz(パーカッション)が加わることで、3人のボーカル、3人のキーボード、5人のリズム・セクションによる11人編成の大所帯となっています。メンバー構成をみるだけでも、キーボードを活かしたバンドであることが分かるかと思いますが、3年後の2001年にバンドは解散してしまいました。

それが、トルコのレーベル:Ada Muzikから発売されていた、その1stアルバム「Siddhartha」の一部を差し替え、リミックスとリマスタリングしなおし、アルバム「A Trip To Innerself」として、2009年にアメリカのレーベル:Trail Recordsから発売されました。そう、過去の埋もれていた音源をモダンなカタチに復刻させた1枚なのです。

バンドの特徴は、3台のキーボードを擁し、アトモスフェリックさよりも、サイケデリック/スペース系のエッセンスに溢れたサウンド・メイキングと思います。ベースのフレージングがPink Floydの元ベーシスト:Roger Watersを彷彿とさせたり、サイケデリックさや幻想さを醸し出すために、5大プログレバンド:Pink Floydを引き合いにだされることが多いです。ただし、Pink Floydの音楽の側面にあるブルース系のフィーリングは薄く、その点では、現代のプログレッシブ・ロックでも重要なバンド:Porcupine Treeの初期サウンドに近しいイメージがあるかもしれません。

音楽史上に埋もれかけた「内なる問いかけ」にようこそ。

楽曲について

シンセサイザーやディレイのかかったギターによる混沌寸前のようなサウンドが充満し、女性ボーカルや男性ボーカルによる独特なスキャットとディスト―ション・ギターの音の断片やリード・ソロが舞うさまは、まさにサイケデリック/スペース系を醸し出しながら展開する冒頭曲1「A Trip to Innerself」には、楽曲タイトルの意味する「内なる自分の旅」へと繋がるようなトリップ感に満ち溢れているのではないでしょうか。また、日本でいえば、お経のような独特なスキャットには、トルコの特有の音階に溢れ、そのユニークさに心はたやすく惹き込まれてしまいそうです。6分前後からのパイプオルガン、ベースのリード・フレーズ、シンセの旋律などによる不穏さを煽るアンサンブルは徐々に盛り上がりをみせ、8分前後からは、堰を切ったように、ディスト―ション・ギターのソロが聴けますが、男性によるアナウンスとともにフランジングするサウンドには、バッドトリップへの感覚を憶えてなりません。

2「The Explorer」は、まさにPink Floydやアイルランドのバンド:U2を思わせるディレイかかったギターに統制のとれたリズミカルなアンサンブルが印象的な楽曲です。ヴァースの唄メロのメロディラインには、一瞬、ブリティッシュ・ロックのマンチェスター・サウンドのインディーズ・シーンを想起させるものの、Pink Floydを彷彿もさせてくれます。また、インストルメンタル・パートでの軽快に奏でられるギターのカッティングに、並奏するギターのソロ・フレーズやベースのミニマルなフレーズ、パーカッションによるアンサンブルは、東ヨーロッパやトルコの地特有のメロディラインを堪能出来ると思います。

影響を受けたであろう音楽性を垣間見せながらも、最終的にバンド特有のアンサンブルに惹き込んでいく。

プログレ・フォーク寄りにもアコースティカルな3「Desert」と、よりメロディックな旋律を聴かせつつも混沌さに交錯し合う両者のアンサンブルが印象的なインストルメンタルの楽曲4「Baroque」を経てはじまる5「Nervous Breakdown」は、空間処理を巧みに活かしつつサイケデリックさ寸前のトリップさに溢れたアンサンブルが聴けます。

徐々にテンポアップし、6分前後からのどんよりとしたサイケデリックさをアクセントにも、フォーカスされるささくれたったギター・ソロは、1台から2台に増え、さらにシンセや男女のあざわらうか如くSEも舞い上がるさまは、まさに断末魔へと繋がるようなサイケデリック/スペース系の世界です。8分15秒前後には、ギターのリリカルなギターのリフとパイプオルガンの旋律をメインとしたアンサンブルに、メロディックにも憂いを帯びた唄メロ、パイプ・オルガンとギターのソロも進行し楽曲はクロージングしますが、2つの楽曲に分けても成り立つクオリティを1つにしてしまう楽曲構成に、バンドが表現したかったことが表現しきれたのかと、考えさせられる1曲です。

6「Beyond Destiny」は、前曲5「Nervous Breakdown」の後半部の音楽感を踏襲するかのように進行する楽曲です。パイプ・オルガンの旋律が舞い、ギターのアルペジオによるアンサンブルに展開する最初のヴァースから、シンセとパイプ・オルガン、ギターによるサイケデリックなサウンドとなるインストルメンタルのパートは、不穏さと荘厳さが交錯し合うアンサンブルに、楽曲が終わるまでただただ耳と心を傾けてるだけです。クロージング直前の一定のシークエンスで弾かれるギターのストロークを活かしたリフが心を少し落ち着かせると思いきや、次曲へと繋げるSEに、結局、混沌さが続きます。

前曲からSEへ繋がる7「Distant Cry」は、マイナー調にクリシェの下降する唄メロのメロディラインが展開する楽曲です。並奏するロングトーンのギターの音色に紛れ、重なるリリカルなピアノやギターのアンサンブルと同時に、最も印象的なのは、寂しげにも甘美も感じられるボーカルの声質です。アンサンブルとボーカルから感じられるのは、楽曲タイトルの意味する「遙かなる鳴き声」を表現したかのような世界観が素晴らしいと思いました。他楽曲よりもサイケデリックさは抑え、空間処理を豊かに、あまりにも儚く切ないメロディラインを際立たせた素晴らしい出来と思いました。

最終曲8「Black」は、冒頭曲1「A Trip to Innerself」で聴けた男性の独特のスキャットで幕を上げ、さらに女性による独特のスキャットが綴られていきます。ためを効かせたベースとドラムによるリズムセクションをメインとしたアンサンブルに、念仏を唱えるように繰り広げられるコーラスワークやクワイヤ、たどたどしいピアノの旋律、パーカッションのリズム、ディレイを効かせたフュージュン系やSE風を醸し出すギターのフレーズの断片、パイプ・オルガンの旋律、徐々に重なり合い、消えていくサウンド・コラージュのようにもサイケデリックなサウンドを拡げていきます。アルバム全体に包み込むサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングを総括したかのような展開がなされ、8分40秒前後にクロージングします。

そして、20秒前後の無音後、ディレイを効かせたギターによる憂いを帯びたメロディックなテーマはリフレインされ、並奏するギターのフレーズに余韻を残しながら、アルバムはクロージングします。この最後のメランコリックなアンサンブルは寂しげな心地にもなりますが、無音前のサイケデリック/スペース系な展開で終わることなく、前曲7「Distant Cry」の向こう側にある回答とも取れるリプライズな展開に、なぜか安堵すら感じてしまいます。

アルバム全篇、冒頭曲1「A Trip to Innerself」から最終曲8「lack」の無音後のアンサンブルを聴き終えた後に、「内なる自分の旅」で自己意識へ触れることを考えながら聴いた方には、それぞれに抱く回答は異なると思います。ただし、その回答云々に限らず、基本的に、当アルバム1枚でバンド活動が終わってしまっている事実を残念に感じ、次の展開を聴きたかったと思う方が1人でもいて欲しいアルバムと思います。

[収録曲]

1. A Trip to Innerself
2. The Explorer
3. Desert
4. Baroque
5. Nervous Breakdown
6. Beyond Destiny
7. Distant Cry
8. Black

なお、1998年発表の1stアルバム「Siddhartha」から2曲(「Kervan」と「Om」)が楽曲「Black」に差し替えられてます。アメリカのレーベルがリミックスとリマスタリングし再発した理由も頷けるサイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングによる創造性豊かなクオリティが高いアルバムと思います。

キーボードやシンセを利用したサイケデリック/スペース系としてPink Floydや、よりハードエッジさもあるドイツのプログレッシブ・ロックのバンド:Eloy、さらにメランコリックさに初期のPorcupine Treeを聴く方におすすめです。

「A Trip To Innerself」のおすすめ曲

1曲目は曲目の「Distant Cry」
アルバムの楽曲中では最もリリカルさの比重が高いサイケデリック/スペース系を醸し出し、唄メロの良さを際立たせた、儚くも悲痛な叫び声を聴きとりたいと思わしきクオリティに溢れていると思います。

2曲目は5曲目の「Nervous Breakdown」
約11分にも及ぶ楽曲です。前半部のサイケデリック/スペース系のサウンドは、当アルバムでもハイライトととも取れる混沌さに、8分後からのパートでの憂いを帯びたメロディラインの唄メロやアンサンブルの相反する音楽性には、楽曲のタイトルの意味する「ノイローゼ、神経衰弱」を表現するかのように、うつろうことすら自意識ももてないふり幅が溢れてるような感じがしてなりません。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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