プログレおすすめ:Artsruni「Cruzaid」(2002年アルメニア)
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最終更新日:2015/12/29
2000年代, アルメニア, ジャズ&フュージュン, フルート Artsruni
Artsruni-「Cruzaid」
第185回目おすすめアルバムは、アルメニアのプログレ・フォーク系のプログレッシブ・ロックバンド:Artsruniが2002年に発表した1stアルバム「Cruzaid」をご紹介します。
Artsruniは、2000年に、コンポンザーでギタリスト兼ボーカルのVahan Artsruniを中心に、Vahagn Amirkhanyan(ギター)、Arman Manukyan(フルート)、Artur Molitivin(ベース)、Levon Hakhverdyan(ドラム)、Lilianna Hakhverdyan(パーカッション)ら6人編成のバンドです。
バンドの音楽性は、プログレ・フォーク系のジャンルに括られるものの、いくぶんジャズ系やフュージュン系によるアンサンブルやサウンド・メイキングも感じさせてくれます。例えば、フルート奏者がいることでJethro Tullを彷彿とさせるナイーブさ、初期Camelのアコースティックギターによる繊細でリリカルさなど、英国プログレなどに代表される王道のエッセンスの断片もさることながら、アルメニアの地独特のセンシティブさがあると思うんです。個人的には、
情熱や喪失など感情表現も豊かにセンチメンタルさがフラットに伝わるアルバムが第一印象のアルバムです。
当アルバム「Cruzaid」ではインストルメンタルな楽曲を中心に、溢れんばかりのセンチメンタリズさとテクニカルでエクセントリックさも垣間見せるフュージュン系のアンサンブルの2面性を愉しむことが出来ます。
楽曲について
アコースティック・ギターのリリカルさあるフレーズに導かれ、フルートが奏でるメイン・テーマが印象的な冒頭曲「Aditon」は、その溢れんばかりのセンチメンタリズムに心はぐっと惹かれてしまうんです。フルートに続き、1分15秒前後からエレクトリック・ギターにもようメイン・テーマにも一層溜息をつく暇ももてせてくれないし、随所にタメやおかずを繰り出すパーカッションとギターのリフがアクセントなど、日本のバンドが演奏しているのかと錯覚さえ起こさせてくれます。
2「Barev」は1「Aditon」と同様にセンチメンタリズム溢れる楽曲ですが、よりエレクトリック・ギターのソロ・フレーズが映えた印象の楽曲です。1分前後、2分15秒前後、3分55秒前後でのフルートやリズムセクションとのリフ・パートや、3分前後のフルート・ソロに並奏するベース・ソロなどもアクセントに、どこまでも切なく聴かせてくれます。
1つの夢が終わり、次の夢へと足を進めなければならない、喪失さから立ち上げる情景を思い浮かべてしまいますね。
1「Aditon)や2「Barev」と同様にフルートがセンチメンタルなフレーズで幕を上げる3「The Lost Symbol」は、1分以降、そのキメのテクニカルなフレーズなど、よりフュージュン系のエッセンスが濃厚なギターとリズムセクションのアンサンブルを堪能出来ます。特に、1分30秒前後からのパーカッションにシンバル、ベースが醸し出す即興にも近いがメロディアスなパートから徐々にテンションを上げ、エレクトリック・ギターのフレーズが思いの丈を吐き出すように弾きまくり、気が付けば、ベース・ソロへと繋がる流れは圧巻です。4分5秒前後に聴ける最初のメイン・テーマもアクセントに、ギターとベースを中心としたアンサンブルはクロージングまでハイテンションに続いていきます。
そして、踊り子のテーマを連想させるオープニングから雪崩込むようにはじまる4「Cruzaid (Part One)」や続く5「Cruzaid (Part Two)」は、当アルバムのハイライトともいうべき、テクニカルなプログレッシブ・ロックのアンサンブルが堪能出来ます。仄かに中東風ともオリエンタルとも思わしきメロディを織り込みながらも、フルート、ギター、ベースが変わる変わるテーマを掲げ主張し合い、タイトなドラムとパーカッションが乱れ合うアンサンブルは、3「The Lost Symbol」とは異なり息詰まる土壇場を感じえると思います。5「Cruzaid (Part Two)」のオープニングから各楽器によるパーカッシブなパートに、そのパーカッシブさを拡げるように展開するミニマルで高速なフレーズを弾くエレクトリック・ギターのパートや中近風のテーマを醸し出すフルートの旋律やベースのフレーズなども聴きどころです。
アルバム前半部のセンチメンタリズムなアンサンブルで幕を上げる6「I’m Ser」は、Vahan Artsruniによるボーカルのパートも交えた楽曲です。アルメニア語によるVahan Artsruniのボーカリゼーションには、どことなくイタリアの地を想起してしまいます。ただ、このボーカル・パートの楽曲の一部の印象のため、2分30秒前後からの伸びやかなトーンで繰り広げられるエレクトリック・ギターのソロ・パートをはじめとし、タイトなリズム・セクションも含めて1980年代や1990年代のメロディックなロックの仕上がりの印象ですね。
7「Anush Garun」は、フルートやギターがエクセントリックなフレーズで交錯し合い幕を上げ、前半部ではベースも交え、どことなくイギリスのプログレッシブ・バンド:Gentle Giantを彷彿とさせる一寸の隙もなく変拍子やリズムチェンジを繰り返す応酬が堪能出来ます。4分前後からの中東風のメロディックなフレーズを奏でるギターもアクセントに、フルートが終始リードするエクセントリックなアンサンブルは聴いていて快活です。
最終曲8「Call of the Wind」は、Vahan Artsruniによるヴァースをはじめとし、フルートやギターが奏でるインストルメンタルの旋律など、アルバムのクロージングに相応しく溌剌とした展開が愉しめる楽曲です。アルバム中盤でのフュージュン系のエッセンスも濃厚な変拍子を多用したプログレッシブな展開や、アルバム前半や随所で魅せるセンチメンタルでメロディックなテーマを纏め上げ、最後のドラの音まで、Vahan Artsruniの唄メロを中心とし清々しくも安堵を感じてしまう楽曲ですね。
アルバム全篇、いちど聴けば、もう一度何故か聴きくなってしまうセンチメンタルさのあるフレーズや、テクニカルやスキルフルな展開でのエクセントリックなフレーズなどが満載です。特にフルートの旋律が印象が強いと感じるかもしれませんが、エレクトリック・ギターやベースも対等にテーマを繰り広げていると思います。パーカッシブさやルメニアの地特有、もしくは中東を醸し出オリエンタルなテーマと、Vahan Artsruniによるアルメニア語によるボーカリゼーションがイタリアの楽曲も想起してしまう類をみないユニークさがあるアルバムと思いました。
[収録曲]
1. Aditon
2. Barev
3. The Lost Symbol
4. Cruzaid (Part One)
5. Cruzaid (Part Two)
6. I’m Ser
7. Anush Garun
8. Call of the Wind
インストルメンタル系で、センチメンタルなフレーズ、テクニカルでエクセントリックなフレーズが聴けるバンドを聴きたい方におすすめです。
センチメンタルな面では、ポーランドのプログレッシブ・バンド:Amarokのギターを中心とした旋律にも通ずるものがありますが、AmarokがMike OldfieldやPink Floydを想起させるような仄かな幻想さに繊細で綴れ織りなイメージでじわじわ心へ問いかけてくるとすれば、よりストレートでフラットに心へ迫ってくる感覚かもしれません。
特に、センチメンタルなフレーズを弾くフルートやギターが醸し出すサウンドスケープには、個人的に、当初、日本人によるバンドかと錯覚してしまった1曲目「Aditon」の印象に、日本のジャズ系やフュージュン系でメロディックなテーマを奏でるバンドを聞く方にもおすすめかもしれません。
アルバム「Cruzaid」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲1の「Aditon」
アルバムを聴きいくにつれてましていく、テクニカルさやエクセントリックなフレーズを微塵とも感じないぐらいに、センチメンタルさが溢れており、2「Barev」で何度か繰り返されるタメのパートを除いた楽曲の展開など、アルバムを一聴した時に、聴き入ってしまう理由となってまったからです。センチメンタルな旋律には仄かなほろ苦さもまじえ、どこまでも切なく響き、1つの夢が終わり、次の夢へと足を進めなければならない卒業直後の喪失した想いにやるせさを感じてもしまいます。名曲。
2曲目は、3曲目の「The Lost Symbol」
楽曲中盤でのギターからベースへテーマが移行するのですが、その移行の流れのスムーズさに演奏力だけでなく、構成力によるクオリティの高さ、素晴らしさを感じたからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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