プログレおすすめ:Ataxia「Automatic Writing」(2004年アメリカ)
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最終更新日:2015/12/29
2000年代, アメリカ, ストーナー・ロック Ataxia, John Frusciante
Ataxia -「Automatic Writing」
第54回目おすすめアルバムは、アメリカのスペース/サイケデリック系のサウンドが印象的なバンド:Ataxiaが2004年に発表した1stアルバム「Automatic Writing」をご紹介します。
2004年から2005年にかけて約7か月間で、ギタリスト:John Frusciante(アメリカのロックバンド:Red Hot Chili Peppersの元ギタリスト)がソロアルバムの6連作をリリースをしています。当アルバムは、第1弾ソロ・アルバム「The Will To Death」に次ぐ、2004年8月発売の第2弾となったアルバムなのですが、一連のソロ・アルバムと異なり、プロジェクト的な意味合いをもつトリオ編成で制作されています。FugaziのJoe Lally(ベース)とJosh Klinghoffer(ドラム)をJohn Fruscianteを巻き込む形で、2004年に結成されたAtaxiaは、2週間で10曲が録音されて、うち5曲が当アルバム1stアルバム「Automatic Writing」に収録されています。残り5曲は2007年発表の2ndアルバム「AX Ⅱ」として世の中にリリースされることになります。
前衛性が強く、アルバム発表時にイギリスのバンド:Pabric Image Limitedからの影響があることを伝えていますが、プログレッシブ・ロックではサイケデリック/スペースのカテゴリに括られています。個人的には、アメリカのパンク祖ともいうべきIggy Popがメンバ-だったStoogesの楽曲「1970」やその楽曲を含むアルバム「Funhouse」のサウンドを想起してしまうため、デトロイト・パンクの脈流を強く感じてしまいます。骨太で低音を揺り動かすベースによるミニマルなフレーズのリフレインがドラッグ効果を呼び覚ますかのようなアンサンブルはサイケデリック/スペースとして聴かずにいられなくなるかと思います。
さあ、バンド名がギリシャ語で意味する「混乱」なる世界を感じてみよう。
通常のJohn Fruscianteのソロアルバムの6連作の1つとして聴いてしまうと取っつきにくい印象を与えてしまうかもしれませんが、John Fruscianteのファンであれば抑えて置くべき1枚ともいえます。
楽曲について
冒頭曲1「Dust」は、Josh Klinghofferによるどっしりとしたリズム・キープと、Joe Lally低音を揺り動かすようなベースが醸し出すグルーブがスローテンポで繰り出されながら、時折スクリーム的なヴォーカリゼーションを交えたJohn FruscianteとJoe Lallyの歌声が聴けます。リズム・セクションに重なるギターのノイジーなフレーズや浮遊さある突拍子もないテクニカルなフレーズとともに、ただただ「呪術」を受ける痛々しさを感じるサウンドスケープを魅せてくれます。混乱と混沌につい嫌なことすら吹っ飛んでしまいそうにずっしりとしたサイケデリックさを堪能出来るでしょう。
2「Another」は、他楽曲よりは少々軽やかなフレーズのベースがリードし、シンセとギターによるアルバム中で最もサイケデリック/スペースを感じさせる楽曲です。冒頭曲1「Dust」とは異なり、スキャットを交えた唄メロの弱々しいイメージや、終始唄うかのようにメロディアスなギターを弾く独特のJohn Fruscianteのアプローチも含め、浮遊さ溢れたサイケデリック/スケープ感に浸ってしまいます。
3「The Sides」は、John Fruscianteの直前のソロアルバム「The Will To Death」に入っていてもおかしくないぐらいのリズム・セクションとリリカルなアプローチのギター・リフが印象的な楽曲です。少しずつ印象を変えていくJohn Fruscianteによるボーカルも含め、物悲しげにどこまでも痛々しくどこまでも心を掻き毟られてしまいそうなくらいになってしまいます。2分20秒前後から3分15秒前後までのメインとなるギター1本によるソロ・パート、4分10秒前後から4分50秒前後までのギター2本によるソロ・パート、5分40秒前後から6秒前後前までのギター・ソロなど、John Fruscianteの縦横無尽に冴えわたるギターのプレイが聴けます。従来のギターを基本としたJohn Fruscianteのプレイを聴きたい方には違和感なく感じる楽曲かと思います。
4「Addition」は、シンセ・サウンドが描き出す無機さの比重も高め、2「Another」はより重苦しくしたようなサイケデリック/スペースなサウンドが展開されます。シンセとギターによる不穏でフリーキーな音が約10分の長尺のなかでただただ不気味にこだまし続けます。そう、ただただ不気味な印象を感じるだけですが、エンディングに近づくにつれ、スローにテンポチェンジしていく様はより一層楽曲の世界観へトリップさせるようなサウンド・メイキングが素敵な仕上がりとも感じました。
最終曲5「Montreal」は、フレットのスクラッチなどを交え、アヴァンギャルドなフレーズを弾くギターが印象的な冒頭部から、前曲4「Addition」よりも楽曲全体を不気味なサウンドが埋め尽くし、4分前後からギターの轟音が時折アクセントをつけながらも、終始フリーキーにアヴァンギャルドに奏でられ、約12分の楽曲はクロージングします。
まさにアルバム全篇、最終曲に辿りつくにつれ「混沌さ」溢れたサウンド・メイキングが冴える世界観が拡がっていると思います。
[収録曲]
1. Dust
2. Another
3. The Sides
4. Addition
5. Montreal
アルバム後半の2曲(4と5)のフリーキーでアヴァンギャルドさを感じるサウンドと比べれば、アルバム前半の3曲(1と2と3)は重苦しいグルーブ感にJohn Fruscianteらしさのあるギターも聴けるため、聴き手を選ぶかもしれませんが、Red Hot Chili Peppersの元ギタリスト:John Fruscianteを好きな方にも、サイケデリック/スペースなサウンドが好きな方にもおすすめです。
また、当アルバムのプロジェクトで録音された残り5曲は2007年に2ndアルバム「AW2」として発売されていますので、当アルバムの世界感に感じ入った方には、2ndアルバム「AW2」もぜひおすすめです。
大好きなギタリスト
ワールドワイドに見渡しても、音楽ジャンルを問わず、John FruscianteとJeff Beckは共に大好きなギタリストです。両者が共通しているのは、パーマネントなバンド経験があり、アグレッシブさを留まることを知らずにソロアルバムを発表していることです。また両者は感情を剥き出しにするようなギターのサウンドとフレーズを聴かせてくれますが、Jeff Beckは指1つ1つの感覚やアーム奏法などでギターとの繊細な関わりによる表現しているのに対し、John Fruscianteは1回1回の演奏が全てと思えるぐらいに切迫感のあるイメージをもってしまいます。
それにしても、2004年から約7か月間でアルバムを6枚もリリースし、それぞれのアルバムでは、当アルバムのサイケデリック/スペース以外にも、ヴィンテージなロック、エレクトロニカなど、幅広い音楽性を表現しているJohn Fruscianteのクリエイティブ性には驚かされてばかりです。
アルバム「Automatic Writing」のおすすめ曲
1曲目は、3曲目の「The Sides」
当レビューの「プログレ」としての趣旨とは異なっていますが、アルバムの中で最もJohn Fruscianteらしきギターが聴ける楽曲だからです。
2曲目は、2曲目の「Another」
John Fruscianteの独特なギターの旋律と、サイケデリック/スペースのサウンド・メイキングが、当アルバムで最も有機的に融合した産物と感じられるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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