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プログレおすすめ:Amadeus Awad「Death Is Just A Feeling」(2015年レバノン)

公開日: : 最終更新日:2015/12/30 2015年, ヘビィ・メタル, レバノン, 女性ボーカル ,


Amadeus Awad -「Death Is Just A Feeling」

第174回目おすすめアルバムは、レバノンのミュージシャン:Amadeus Awadが2015年8月20日に発表した3rdアルバム「Death Is Just A Feeling」をご紹介します。
Amadeus Awad「 Death Is Just A Feeling」
Amadeus Awadは、レバノン共和国出身のミュージシャンで、もともとDeep purple、Dio、Rainbowなどをカバーするハードロックバンドでキャリアを積み、2010年にソロ・キャリアをスタートしています。2013年発表には1stアルバム「Time of the Equinox」でデビューし、アメリカをはじめとする他国のアーティストとコラボレーションしているのが印象的です。2013年発表の2ndアルバム「Schizanimus」でも、そして、その2年ぶりとなる3枚目のアルバムでも同様です。

Amadeus Awad自身がアコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、ベース、キーボードなど多種多様な楽器のマルチプレイヤーであることから、当アルバムでは、オランダのロック・バンド:The Gatheringの元女性ボーカリスト:Anneke Van Giersbergenがボーカルで、その彼女とThe Gentle Stormで共に活動するArjen Anthony Lucassenが作詞家で、Joe SatrianiやSteven Wilsonの制作に関わったことのあるドイツ人のMarco Minnemannがドラマーに、その他チェロ奏者、クラリネット奏者、ナレーターがゲスト参加しています。さらに、楽曲4「Tomorrow Lies」には、Elia Monsefがボーカルに、2011年からアメリカのプログレッシブ・バンドで活動するJimmy Keeganがドラマーとして参加してます。

オランダ、ドイツ、アメリカなど、大陸を横断し参加する錚々たるミュージシャンが集い、制作された当アルバムのサウンドに期待せずにいられなくなりますね。

Amadeus Awad自身がかつて一度は自殺を試みたというだけでなく、自分の愛する人々(父、兄弟、そして友人)の悲劇も含め、「死」に対する個人的な経験に基づいて、コンセプト仕立てのアルバムと云われています。

当アルバムのサウンドの特徴は、Marco Minnemannが加わることで連想される、そのきめ細やかで繊細なドラミングに、管弦楽器も交え、5大プログレバンドのKing Crimsonや、Steven Wilsonで想起させる陰鬱さを漂わせた抒情性やロマンチシズムなサウンドではないでしょうか。中東地域をはじめとするオリエンタルなエッセンスを垣間見せながらも、

中東の地と云う先入観を捨てて聴いて欲しい、クオリティ高い翳りのあるサウンド
が堪能出来ます。

楽曲について

冒頭曲「Opia」は、おぼろげにもじわじわとシンセの音色が拡がりをもたせる中で、ゆったりと大らかなメロディラインも奏でていきます。そのメロディラインにディスト―ションが効いたギターがユニゾンで応えるさまは、アルバムのコンセプトを忘れてしまうほどに、勝利の瞬間を得たようなサウンドスケープを感じさせてくれるんです。1分50秒前後から3分10秒前後のギターのアルペジオとチョーキングを多用したギターのフレーズをアンサンブルに男性のナレーションのパート、3分10秒から前パートと異なり一定のシークエンスを辿るギターのフレーズに、Anneke Van Giersbergenのハミングを巧みに入れるヴァースが聴ければ、たとえばスウェーデンのプログレッシブ・バンド:White Willowの優雅でトラッド的な感覚を想起させてくれます。

2「Sleep Paralysis」では、変拍子が多用され、ワイルドなメタリックなギターに、中東風のミステリアスなメロディを奏でるシンセによるダイナミックなオープニングから、Annekeによるヴァースでは一気に景色が開けたように展開していきます。圧倒的とも云えるMarco Minnemannのドラミング、スクリーム寸前の咆哮するAnnekeのボーカリゼーション、屋台骨を支えるAmadeusのエッジの効いたギターのリフなど、冒頭曲とは異なるハード・ロックで聴かせてくれます。

3「Monday Morning」は、シンセが不穏に響き渡り、ディレイ処理を施したギターのミニマルなフレーズとオーケストラとのアンサンブルに、繊細なドラミングも含め幾重にも浮遊さあるパーカッシブなサウンドを構築していきます。そのオーケストラによるメインテーマの不穏さが醸し出す様相は、俗に云う「ブルーマンデー」をふとサウンドスケープしてしまいます。

4「Tomorrow Lies」は、モダンな叙情さで唄い上げながらも、そのアンサンブルや唄メロのメロディラインから連想するのは、そう、1970年代初期、King Crimsonの名曲「Epitaph」を彷彿とさせる世界観です。ゲスト参加するJimmy Keeganのその時代を想起させるドラミングと、Elia Monsefによる物憂げにも祈りを捧ぐように唄うボーカリゼーションなど、溜息をつくのを忘れてしまい聴き入ってしまいます。さらに4分前後から加わるオーケストラのアレンジ、4分55秒からのメロディアスなギター・ソロなどが物憂げさに心が押しつぶされそうな思いになっていきます。

刹那すぎる。

5「Lonesome Clown」は、チェロの幽玄な響きをメインにギターとのアンサンブルと、男女混成によるスキャットがクライマックスを迎えたかのようなオープニングで始まる約12分30秒にも及ぶ大作です。Annekeによる唄われるアンニュイなメロディライン、クラリネットと繰り返されるギターのシークエンスを一聴した時には、こんなにも息をするのが苦しくなってしまうのかと思うぐらいに、当楽曲の緊張感や切迫さは、前曲3や4とはまた異なるスタイルで心へ訴えかけてきます。4分前後のオーケストラを交え、ギターとドラムをメインとする変拍子を多用したパートからはまさに土壇場であり、まるでPorcupine Treeのヘビィネスを想起もさせてくれます。6分30秒前後のPink FloydのDavid Gilmourを彷彿とさせるギター・ソロが他モチーフやパートと比べたら、ひとときの安息を感じるぐらいといえば良いかもしれません。後半の畳み掛けるソリッドでエッジの効いたギターとドラミングに、フィードバックするサウンドにナレーションに鼓動を整えるだけで精いっぱいになってしまう、そんな衝動にかられる素晴らしいクオリティです。

最終曲6「Temporary」は、冒頭曲1「Opia」に立ち返ったかのように、メロディアスな唄メロが聴ける楽曲です。チェロの響きと綴れ織りのピアノにウエスタン風のギター奏法も交え、大らかにも大陸的なアンサンブルが進行していきます。2分前後からのクラリネット・ソロ以降は、じわじわと心に染み入っていくメロディ進行の妙が素晴らしいのですが、決して楽曲2「Sleep Paralysis」から5「Lonesome Clown」までの緊張感や切迫さとは異なる趣きで、4分30秒前後からクロージングまでの約3分弱にかけて、Amadeus Awadが圧巻のギター・ソロが聴けます。刹那さ溢れるメロディアスなフレーズがこれでもかと聴けるのは、アルバムのクロージングに相応しいです。

アルバム全篇、チェロやクラリネットにオーケストラを加え、幽玄な世界観を醸し出しながら、時にメタリックなギターを加え緊張感と切迫さに聴かせるサウンドは半端なくクオリティが高いです。また、耳で感じえるサウンド感では、ゲストの女性ボーカル:Anneke Van Giersbergenや、二人のドラマーによる繊細にもスキルフルなドラミングなど、彼らの良さをうまく引き出し制作されたアルバムと感じます。

[収録曲]

1. Opia
2. Sleep Paralysis
3. Monday Morning
4. Tomorrow Lies
5. Lonesome Clown
6. Temporary
7. Time Of The Equinox from Time Of The Equinox (BonusTrack)
8. Poetry Of Time Schizanimus (BonusTrack)

なお、アルバムは全6曲に、ボーナストラックとして2曲が付け加えられています。King Crimsonでも第1期(1969年~1974年)の抒情性のあるサウンドが好きな方、また、イギリスのミューシャン:Steve Willsonやその所属バンド:Porcupine Treeのサウンド・メイキングやクリエイティビティを好きな方におすすめです。

当アルバムを聴き、Amadeus Awadの音楽嗜好を好きになった方は、1stアルバム「Time of the Equinox」と2ndアルバム「Schizanimus」にも手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。個人的には、引き合いに出させて頂いたWhite Willowのゴシック色が薄れた3rdアルバム「Sacrament」のサウンド・メイキングなどが好きな方にもおすすめです。

そして、個人的には、アルバム全篇を聴き追えて、発売後2週間以内に入手出来たにも関わらず、どうしてもっと早く触れることが出来なかったのだろう。そして、ワールドワイドに目を向けていたのに、いつから狭められた閉塞の空間に敷き詰められていたのだろうと思い知らされたことです。当アルバム以前に2枚もアルバムを発表しているのだからと、もっと早くAmadeus Awadの存在を知ることが出来たのではないか、いつの間にか自分の好きな地域のプログレッシブ・ロックに固執してしまっていたということですね。

まだまだ自分のプログレッシブ・ロックな音楽を聴く気持ちは狭すぎる。

そんなプログレな気持ち・・・。

アルバム「Death Is Just A Feeling」のおすすめ曲

1曲目は4曲目の「Tomorrow Lies」

レバノン共和国のSteve Willsonと評されてもおかしくないぐらいのクリエイティビティで迫る当楽曲に触れるだけでも、当アルバムを購入するに値すると思います。言葉にせずに聴き入って欲しい1曲です。

2曲目は最終曲の「Temporary」
前半部の大陸的なメロディ感と後半部の圧巻のギター・ソロ、テクニカルさやスキルフルが発揮されていることは重々分かるのですが、そのサウンド・メイキングの良さが際立っていると思える1曲です。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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