プログレおすすめ:Ana Never「Small Years」(2012年セルビア)
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最終更新日:2015/12/12
2010年‐2013年, ヴァイオリン, セルビア, ポスト・ロック Ana Never
Ana Never -「Small Years」
第175回目おすすめアルバムは、セルビアのポスト・ロック系のプログレッシブ・ロックを聴かせてくれるバンド:Ana Neverが2012年に発表した2ndアルバム「Small Years」をご紹介します。
Ana Neverは、2002年にセルビア北部ヴォイヴォディナ自治州のスボティツァで、Srdjan Terzin(ギター)、Dejan Topic(ギター)、Goran Grubisic(ドラム)の3名を中心に、結成されたバンドです。結成後、Ivana Primorac(ベース)と3人目のギタリスト:Ivan Ckonjevic(ギター)が参加することで、当初からバンドが音楽コンセプト「ギターのどっしりとしたサウンドの壁で魅せるサウンドスケープ」(=massive waves of guitar lead sonic scapes」)に近づきます。
バンドの特徴は、複数のギターが重なり合い押し寄せる波のように、時として心の内面へどっと押し寄せては受け止めきれない感情の渦をサウンドスケープするアンサンブルやサウンド・メイキングではないでしょうか。たとえば、カナダのバンド:Godspeed You! Black Emperorやアメリカのバンド:Explosins In The Skyのようなポスト・ロック、アンビエント系、エクスペリメンタル・ロック以上に、楽曲進行のプロセスや、到達する音のクライマックス、そして音の断片は、繊細にもサイケデリックなインストルメンタルのトーン、ノイズや残響さがあり、プログレッシブ・ロックのエッセンスを濃厚に感じさせてくれます。
当アルバムは、2011年発表の1st同名アルバム「Ana Never」に続く2ndアルバムです。従来のメンバーに、新たにDavor Basic Palkovic(ベース)とBoris Cegar(キーボード)が加わり、さらにヴァイオリン奏者:Tijana Stankovicがゲスト参加することで、
仄かにも色彩は豊かに、受け止めきれない感情の渦に包まれたサウンド
をじっくりと堪能出来る1枚と思います。
楽曲について
冒頭曲「Future Wife」は約26分強にも及ぶ大曲です。オープニングからリズムセクションがゆったりとリズムをキープさせながら、メインとなるギターのアンサンブルがじわじわと音を重ねてはエッジを増していき、後半部にクライマックスに達します。ゲスト参加するTijana Stankovicによるヴァイオリンのフレーズとクリーントーンによるギターのフレーズが淡々と語られる様は、まるで揺りかごに揺られているかのような心地をサウンドスケープしてしまうかもしれません。たとえば、約12分前後でのアンサンブルがクライマックスを迎え、そのまま数分間にもわたり轟音の壁ともいうべき渦巻くカタルシスを持続させるギターのプレイが聴きどころです。
アルバムの楽曲中で最も短く約4分強の2「Half Way」でさえ、冒頭曲「Future Wife」のカタルシスへの到達を速めた印象で、楽曲が短くても同様なサウンドスケープへ近づけるAna Neverのクリエイティブの良さを感じさせてくれます。
3「Gorgeous One」は、よりクリーントーンのギターのフレーズとヴァイオリンの音色がフロントに際立った印象を与える約16分の楽曲です。1「Future Wife」や2「Half Way」のようにクライマックスへじわじわと昇り詰めるようなアンサンブルでありながらも、奏でられるメインのテーマは、より大らかでピースフルさを感じさせてくれることや、くっきりとした輪郭をもちミニマルでもあるため、他楽曲よりもリラックスな心地になるでのはないかと思います。
最終曲4「To Live For」は冒頭曲「Future Wife」と双璧を成す約28分にも及ぶ大曲です。オープニングはドラム・ロールが強調されクロージング・ナンバーに相応しく、タイトなリズムで幕を上げます。約5分前後にクリーントーンによるギターのフレーズと軽やかさのあるリズムをやっと耳で感じられるぐらいに、オープニングから、タイトなリズムと早々に轟音さ溢れるギターのプレイによるアンサンブルが力強くて圧巻です。さらに、じわじわと音が重なり約20分前後からの超絶なドラミング、約22分前後からのノイジーなギター・ソロなど、各楽器により重なり合うアンサンブルはどこまで昇天していくのかと、心の内面で受け止めようともするのですが、受け止めた音を頭の中で整理し、もしくは感じるままに感じようとしても、どめどなく音の洪水にただただ押し流されそうに息つくことでさえ忘れてしまいそうになるんです。フィードバック音と残響がこだまするエンディングでさえ、既に打ちのめされて放心状態で迎えてしまいます。
アルバム全篇、変拍子や移調転調などによる複雑なリズムや各楽器が織りなすスキルフルさやテクニカルさの比重が高いわけではありませんが、ポスト・ロックにだけは括れない各楽器による音と音の構築美は素晴らしと思います。
時にじわじわと、時に早々と、そして持続させたり、仄かに漂わせたり、残響さとノイズもあるアンサンブルは、プログレッシブ・ロックのコンセプトさやサウンド・メイキングを強く感じさせてくれます。また、ゲスト参加によるヴァイオリンを大きくフューチャリングするのではなく、バンドのアンサンブルの1つとして響かせるバランス感覚は、バンド結成当初の音楽的なコンセプトを感じさせてくれますし、ギター中心の1stアルバムから、ダブル・ベースとヴァイオリンを加えた当アルバムを聴き、続く3rdアルバムでのサウンドの「魅せ方」を期待せずに入られませんね。
[収録曲]
1. Future Wife
2. Half Way
3. Gorgeous One
4. To Live For
仄かにもサイケデリック/スペース系を感じさせてくれますが、5大プログレバンドの1つ:Pink Floydを想起させるよりも、やはりポスト・ロックの延長とも感じさせる残響さやノイズと云ったサウンドを感じさせてくれますので、普通にポスト・ロックを聴き続けている方におすすめです。
特に、ページ冒頭でも触れた、アメリカのバンド:Explosins In The Skyの初期や、カナダのバンド:Godspeed You! Black Emperorを聴く方にもおすすめです。
アルバム「Small Years」のおすすめ曲
※アルバム全篇、インストルメンタルな楽曲のため、控えさせていただきます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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