プログレおすすめ:Yesterdays「Holdfenykert」(2006年ハンガリー)
公開日:
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最終更新日:2015/12/02
2000年代, シンフォニック, ハンガリー, フルート, メロトロン, 女性ボーカル Molnar Kinga, YESTERDAYS
Yesterdays – Holdfenykert
第8回目おすすめアルバムは、ハンガリーとルーマニアの混成バンドのYesterdaysが2006年に発表した1stアルバム「Holdfenykert」をご紹介します。
Bogati-Bokor Akos(ギター、ベース、シンセサイザー)を中心とし、女性ボーカル:Janosi Kingaをフロントに立てた、プログレ・フォーク寄りのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンドです。その他、ベース、ピアノ、メロトロン、ハモンド、ムーグシンセ、フルート、パーカッション、ドラムなど全9人のメンバーで構成されています。
楽曲の特徴は、Janosi Kingaの優しげな歌声を包み込むように、アコースティックな響きを大切にしたアンサンブルで魅せるサウンドと思います。フルートとメロトロンがアンサンブルに彩りを加えながらも、5大プログレバンドのうちの1つ:YESの初期アルバム(3rd「The Yes Album(邦題:サード・アルバム)」や5th「Close To The Edge(邦題:危機)」)の楽曲にもある牧歌的なサウンドに近しいかもしれません。
そして、
東欧の地特有のメロディセンスや構成力が新鮮に素敵な響きをもたらすアルバムです。
楽曲について
冒頭曲「Napfenykert」は、アコースティック・ギターの快活なストロークとフルートの躍動的なフレーズが響きわたり、朗らかさ溢れる楽曲です。2分も満たない楽曲ですが、全体のアンサンブルを大切に仄かにメロトロンの音色を響かせることで、楽曲が引き締まって聴こえる感じもします。たとえば、日曜日の穏やかな昼下がりに緑生い茂る芝生に寝転がり、木漏れ日が頬に触れるような情景をサウンドスケープさせてくれます。ハンガリー語にもよる
心地良さ溢れるサウンド・メイキングにゆったりと心も弾みます。
イギリスで1980年代初期に流行ったネオアコのエッセンスが漂うボサノバ調の2「Vegtelen」、ムーディで寂しげな旋律を奏でるムーグとギターのフレーズの冒頭部や4分前後からのムーグ・ソロが印象的な3「Ne felj」も、メロトロン自体は控えめに、楽曲全体をフルートのフレーズがガイドしていきます。
4「If ever」は、プログレ・フォーク然としたアコースティックギター独奏の楽曲です。YESのギター奏者:Steve Howeのような超絶なテクニカルさはないものの、残響音を活かしたエレクトロ感覚も想起させるフレーズを聴かせてくれます。
5「It’s So Divine」はアコースティックギターのアンサンブルとヴァースでの唄メロに呼応するかのようなフルートのフレーズ、コーラスワークも含め、冒頭曲「Napfenykert」のような快活さ溢れた楽曲です。The BeatlesやMoon Safariのような甘酸っぱさのあるメロウな唄メロのメロディラインに心弾みますね。
6「Hol vagy?」は前半部と後半部でイメージが異なる楽曲です。前半部はアコースティックギターのつまびくフレーズとシンバルによるシンプルなアンサンブルから、物憂げな歌声が印象的です。じわじわと展開していくメロトロンの音色や、ボーカルの「Hol vagy?」の連呼には緊張感から解き離れたかのような音のバランスが心地良く響き聴かせてくれます。後半部(6分前後)からはテンポアップし、一定のシークエンスを奏でるローズ・ピアノとコーラスワークが聴かれ、7分前後からはピアノの打音と息遣いとともにクロージングします。前半部の2分30秒前後の独特なコーラスワークや後半部のパートは、イギリス、イタリア、フランスなどの代表的なプログレッシブ・ロックバンドにはないハンガリーの地特有のメロディセンスを感じずにいられません。
7「Varj meg」はアコースティックギターではなくメロトロンとドラムをメインとしたアンサンブルで聴かせる楽曲です。6「Hol vagy?」と同様に、楽曲タイトルをボーカルが連呼するヴァースが印象的です。3分前後からはムーグが一定のシークエンスのアンサンブルで楽曲を動へシフトさせて、よりプログレッシブなエッセンスのインストルメンタルなパートへ繋げてくれます。4分50秒前後には、突如、小鳥のさえずりのSEと同時に、アコースティックギターのフレーズが響き渡り、楽曲はクロージングします。その小鳥のさえずりのSEは次曲の表題曲8「Holdfenykert」へと繋がっていきます。8「Holdfenykert」は終始小鳥のさえずりのSEが響くなかで、左右に分けられた2台のアコースティックギターが互いに異なるフレーズで並奏を交わし合いながら、ほんのりと聴かせてくれます。
そして、小鳥のさえずりのSEは、それまで以上に音のバランスを上げて、さらに9「Seven」でも続きます。
9「Seven」は、前半部(i. Your Colours)が5「It’s So Divine」のようにヴァースでの唄メロのメロディラインを活かすコーラスワークが印象的です。ムーグによるソロ・パートやギターもアクセントに、まるでYES、Moon Safari、The Beatles、The Bearch Boysのようなコーラスワークが聴ける心地良さが素晴らしいんです。後半部(ii. My Words)は、Janosi Kingaではなく、男性ボーカル:Bazso Tiborがメインのボーカルで、そのメロディラインにカウンターメロディで絡み合うJanosi Kingaの歌声が印象的です。7分20秒前後から10分前後までのギター、フルート、ハモンド・オルガンが交互に取るソロ・パートも聴きどころで、プログレ・フォークというよりも、シンフォニック系のクリエイティブを感じます。10分30秒からは、おそらく他楽曲であればフルートが担当するだろうと推測できるフレーズをローズ・ピアノが躍動的に聴かせ、Janosi Kingaによるスキャットとともに楽曲はクロージングします。
最終曲10「Valahol a terben」は、6「Hol vagy?」や7「Varj meg」にも近い唄メロのメロディラインやアコースティックギターをメインとしたアンサンブルでありながらも、打込みのバッキングやエコー処理されたディスト―ションを効かせたギターのフレーズを聴けば、全体的に他楽曲とは異なるアンニュイさを感じずにいられません。全曲9「Seven」のクロージング直前で聴かれたローズ・ピアノのフレーズがなければ、おそらくもっとも違和感を感じた楽曲かもしれません。2分55秒前後から3分15秒前後のフルートのソロ・フレーズ、3分50秒前後からの「Valahol a terben」の一節を2回繰り返しながら、シークエンスのように変わる多重歌唱でのボーカリゼーション、5分前後からのローズ・ピアノのフレーズ、5分20秒前後のEボーを利用したスライド・ギターのフレーズなど、が醸し出すエッセンスは、当アルバム中でも西ヨーロッパ風のサウンド・メイキングを感じずにいられません。他楽曲とは世界観が違えど、アルバムの最後を締めくくる大曲としても相応しい楽曲ですよね。
個人的にメロトロンの音色が好きなのですが、どの曲も唄メロやテーマとなるメロディラインがしっかりしているからこそ、メロトロンの控え目な演奏がより一層際立つアルバムではないかと思います。
[収録曲]
1. Napfenykert
2. Vegtelen
3. Ne felj
4. Ha majd egyszer
5. It’s So Divine
6. Hol vagy?
7. Varj meg
8. Holdfenykert
9. Seven
i. Your Colours
ii. My Words
10. Valahol a terben
Janosi Kingaによるハンガリー語による歌詞の響きやメロディラインにつくアクセントが独特であり、アコースティカルな演奏にもマッチングしていると思いました。
イギリスのプログレ・フォークなバンド:Heronなど、唄メロが際立ちながらアコースティックでいて、サウンドがしっかり際立つバンドが好きな方にはぜひおすすめしたいアルバムです。
「メロトロン」という楽器
プログレッシブ・ロックを聴きはじめ、多くのバンドを聴くきっかけとなったのは「メロトロン」という楽器の存在です。プログレッシブ・ロックの楽曲を聴くだけでも多くのサウンドスケープを垣間見せてくれるのに、「メロトロン」の危うく揺れる音だけで個人的にはそれ以上に感じ入ってしまうんです。
以前は、King Crimsonの1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」のタイトル曲や挿入歌「Epitaph(邦題:墓碑銘)」のように、メロトロンで曲が覆い尽くすぐらいに(いわゆる音の洪水のように)利用されているサウンドも好んでいましたが、楽曲一部を彩り際立たせる利用も好きなんです。
このYESTERDAYSの楽曲は、どの曲にもメロトロンがちらほら利用されていますが、それほど「音の洪水」のようなイメージで利用されていないと思います。他楽器の音色やフレーズを際立たせたり、各楽器のアンサンブルを整えるイメージがあります。
アルバム「Holdfenykert」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲の10曲目「Valahol a terben」
他の曲が爽やかな印象が強いため、アンニュイさが溢れ、マイナー調の物憂げなサウンドにはアルバム中では新鮮さを感じるとともに、異なったサウンドスケープを魅せてくれるからです。
2曲目は、6曲目「Hol vagy?」
プログレッシブ・ロックの楽曲に限らず、静と動のパートに分けて楽曲を展開するのは良く見受けられるパターンです。しかし、当楽曲はYESTERDAYSが根ざす東欧の地:ハンガリーでの独特な感覚やハンガリー語で唄われる唄メロもあることで、ユニークな構成力で聴けるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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