プログレおすすめ:Beardfish「+4626-Comfortzone」(2015年スウェーデン)
公開日:
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最終更新日:2015/12/03
2015年, エクレクティック[折衷派], スウェーデン beardfish
Beardfish -「+4626-Comfortzone」
第149回目おすすめアルバムは、スウェーデンの折衷派のプログレッシブ・ロックバンド:Beardfishが2015年1月に発表した8thアルバム「+4626-Comfortzone」をご紹介します。
Beardfishは、David Zackrisson(ギター)とRikard Sjoblom(ボーカル、ギター、キーボード)を中心に、Robert Hansen(ベース)、Magnus Ostgren(ドラム)の4人構成のバンドです。1stアルバムは、Stefan Aronsson(キーボード、フルート)も交え、制作されています。
バンド初期の音楽性には、Frank Zappa、King Crimson、Gentle Giantの影響も見受けられ、テクニカルな演奏に、フルートやメロトロンなどをアンサンブルに交え、1970年代のヴィンテージのサウンド・メイキングを聴かせてくれます。
当アルバムは、現代社会が抱える人と人、人と自然など、関係し合う2者が異常をきたし、軋轢が生じ、現実逃避をすることから生じる葛藤をテーマにしたコンセプトと仕立てのアルバムですが、
独特のキャッチ―な唄メロのメロディにただただ聴き入ってしまいそうになる
オリジナリティ溢れる1枚です。
楽曲について
男性のナレーションから幕を上げる冒頭曲「The One Inside Part 1: Noise in the Background」に次ぎ、2「Hold On」をはじめとし、まず驚かせられるのは、特にアルバム前半部の各楽曲に、プログレッシブ・ロックの皮を被ったポップさもたぶんに感じえるキャッチ―な唄メロのメロディラインです。そして、タイトでいて緻密さもあるギターをはじめとする各楽器のアンサンブルは、ドラマチックさにも、時に緩やかに、時に高らかに奏でられます。2「Hold On」でいえば、冒頭部のギターのリフのパートをアンサンブルにする5分前後から5分30秒前後の展開など、キャッチ―な唄メロのメロディラインと各楽器が織りなすバンド一体となったサウンドには、時に、1970年代や1980年代の西欧のパワー・ポップバンドにも通じるキャッチ―さを濃厚に感じさせてくれます。デジタル楽器のCMの楽曲としても流れていてもおかしくないぐらいに、耳に馴染みやすく心躍り、爽快さな気持ちへ導いてくれるフレーズが溢れています。
3「Comfort Zone」は、メロトロンの音色が鳴り響き、哀愁を帯びたギターから、リリカルなピアノを踏まえた冒頭部と、冒頭部のテーマを踏襲し展開するヴァースの唄メロのメロディラインは、5分20秒前後のミドル・パートや6分20秒前後からの2人で掛け合うボーカルをアクセントにも、今にも消え入りそうで儚く喪失さに、遠く郷愁さをサウンドスケープしてしまいます。
4「Can You See Me Now」は、ビートルズ・チルドレンを直系とする唄メロのメロディラインやコーラスワークだけでなく、ギターや鍵盤のアプローチまでも感じさせてくれます。
ハードロック的にもオルタナティブ的なアプローチに比重を置いた5「King」、トラッド寄りのフォーク系のアンサンブルに、カントリー風味のギターのフレーズが飛び交う6「The One Inside Part 2: My Companion Throughout Life」、スラッシュ・メタルを彷彿とさせる7「Daughter Whore」の3曲は、唄メロよりも、ジャンルの特性に合わせたアンサンブル主体の緻密さが印象的です。
8「Ode To The Rock‘N’Roller」は、アルバム前半部の楽曲にある心躍るようなリフのインストルメンタルのパートと、オルガンを交え、6「The One Inside Part 2: My Companion Throughout Life」以上に、フォーク寄りにも大陸的な感覚を憶える1970年代のロック然としたヴァースがコントラストを成す約15分にも及ぶ大曲です。このコントラストを成すパートが5分20秒前後に重なり合い、展開し続ける楽曲の構成に驚きを隠せずにいられません。8分前後から高らかに唸るギターのリフを合図に、まるでイギリスのハードロックバンド:Deep Purpleに代表されるブルーズを下敷きにしたオルガン主体のハードロック調のパートへ移行します。時折、Black Sabbath的な断末魔を想起させるパートをアクセントにしながらも、楽曲のタイトルの和訳「ロックンローラーの歌」に似つかわしい展開が聴けます。徐々に後半部へ楽曲が進行するにつれて、ハードロックも似つかわしきボーカリゼーションだと気が付くです。そして、14分前後からは、冒頭部のフォーク寄りにも大陸的なアプローチに戻り、男性のナレーションとミニマルなギターに導かれ、ヴァースは途絶えます。続く9「If We Must Be Apart (A Love Story Continued)」は、前曲8「Ode To The Rock‘N’Roller」の後半部のパートを踏襲したようなイメージで展開する楽曲で、まるでリプライズしているかのようです。
そして、最終曲「The One Inside Part 3: Relief」は、後半部の混沌としたサウンド・メイキングにもバイクの爆音やノイズのSEがこだまし、クロージングします。まるで、アルバムのコンセプトとなる現実逃避から戻ることも出来ずに、ただただ絶望を抱くことも忘れ、社会に消え入ってしまうかのような殺伐さが溢れたようなサウンドスケープを感じてしまいます。何を喪失してしまったかも忘れてしまい、最後の時を迎える。コンセプトに気持ちを馳せて、アルバムを最初から最後まで聴いていたら、どんな想いで、最後の一音を感じえるのだろうか。自己啓発にも繋がり考えさせられてしまいます。
アルバム前半部のキャッチ―な唄メロのメロディラインを聴き入っていると、中盤から後半部にかけてのハードロック調のアンサンブルに違和感を憶え、気が付いた時には、最終曲の最後の一音を耳にした瞬間に「これでアルバムはクロージングなのか?」と何も感じえずに聴き途絶えてしまうのか、言葉の壁を越え、プログレッシブ・ロックという括りでより一層、聴き手にも葛藤を頂かせるアルバムと思います。
[収録曲]
1. The One Inside Part 1: Noise in the Background
2. Hold On
3. Comfort Zone
4. Can You See Me Now
5. King
6. The One Inside Part 2: My Companion Throughout Life
7. Daughter Whore
8. Ode To The Rock‘N’Roller
9. If We Must Be Apart (A Love Story Continued)
10. The One Inside Part 3: Relief
コンセプト立てたアルバムを好きな方におすすめです。
唄メロや楽器のアンサンブルにキャッチ―さもありますが、いっぽうで、1970年代のハードロック調のアンサンブルでアルバムを2分する印象もあるため、いずれか好きと云うのではなく、1970年代をはじめとし1980年代の音楽性を聴きたい方におすすめです。また、メンバーが織りなす楽器はタイトでありながらも緻密なアンサンブルがあり、密度の濃いテクニカルなプログレッシブ・ロックを聴きたい方にもおすすめですね。
アルバム「+4626-Comfortzone」のおすすめ曲
1曲目は、3曲目「Comfort Zone」
楽曲全体を包括する儚さ、その儚さの世界観を損なうことなく、各楽器が緻密なアンサンブルを聴かせてくれるからです。
2曲目は、2曲目「Hold On」
個人的に、アルバムのコンセプトとは相反する爽快さを最も感じる楽曲です。アルバム全篇を聴き終わってから、当楽曲を意識してしまうと、そのアンバランスさに違和感を憶えてしまうからです。救われない絶望ささえ分からずに終わってしまうかのような最終曲を聴いた後で、再度、当楽曲を聴いても、アルバムのコンセプトの1つにしか過ぎず、それもアルバムでいえば、前半部にあたることが、どうしても切なくなります。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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