プログレおすすめ:Fields Burning「1st Album」(2015年アメリカ)
Fields Burning -「Fields Burning」
第134回目おすすめアルバムは、アメリカのプログレ・フォーク系の:Fields Burningが2015年2月に発表した1st同名アルバム「Fields Burning」をご紹介します。
Fields Burningは、ワシントンを拠点に活動していたEthan Foote(ギター、ベース、マンドリン、パーカッション、チェロ)と、女性ボーカルのWanda Perkinsの2人を中心とし、ドラム、オルガン、トランペットなどを擁するバンドです。
当アルバムでは、ストリング・カルテットのInvokeのNick Montopoli(ヴァイオリン) Zach Matteson(ヴァイオリン)、Karl Mitze(ヴィオラ)、Geoff Manyin(チェロ)が加わることで、室内弦楽や宮廷音楽を彷彿とさせる格調高い気品さのある音楽を聴かせてくれます。
プログレ・フォーク系に、室内弦楽を基調としたアンサンブルを加わることで厚みを増したとしても、ポエムを綴り織りのように、囁きかけるかのようなWanda Perkinsの実直に素直さが伝わるようなボーカリゼーションには、
誠実にもしっかりとした叙情さを伝えてくれるアルバムとして、憂いを帯びたメロディラインに、時間を忘れて聴いていたいと思わせてくれるんです。
楽曲について
冒頭曲「Tigris (No Tomorrow)」をはじめとし、どの楽曲にも、Ethan Footeによるクリーンなギターのアルペジオと、女性ボーカルのWanda Perkinsを中心としたアンサンブルには、物悲しさがありながらも叙情さが溢れ琴線に触れてしまいそうになるかもしれません。ストリング・カルテットやトランペット、オルガンなどの管弦楽器は、芯となる楽曲のメロディラインを損なうことなく、幻想さを醸し出すに十分なアンサンブルをしており、よりいっそう、ギターとボーカルだけのパートになれば、心を掻き毟るかのような想いになってしまうんです。
冒頭曲「Tigris (No Tomorrow)」には、下降するベースラインとギターのアルペジオと、ストリング・カルテットが大胆にも絡みあうアンサンブルとにコントラストを成し、ヴァースでの流麗なギターのアルペジオや透明さのあるボーカルでぐっと惹き込まれていきます。イギリスをメインとするプログレ・フォークを感じさせてくれる楽曲には、1970年代のイギリスのプログレ・フォークの楽曲を聴いているような錯覚ともいえます。
より一層繊細さを彩るマンドリンがアンサンブルに絡む2「Joy’s Desire」、中間部で高らかに謳い上げるトランペットが聴ける3「The Light on the Water」、変拍子にディスト―ションやフランジャーがかかったギターが混沌さをうむ4「At the Break of Day」、クロージング直前のアンニュイなストリング・カルテットが印象的な5「Maysong」、他楽曲以上にギターの一音一音がリズミカルにも、変拍子やリズムチェンジを多用した6「Standing on the Shore」など、1つの楽曲でコントラストを成すエッセンスを聴かせてもくれます。
そして、最終曲7「White Mountainside」の1分30秒前後から2分前後までのボーカルのみの30秒間にただただ息をのみ、3分以降のアイリッシュ風ともとれるギターと手拍子によるアンサンブルに、その後、ストリング・カルテットがメインのテーマをリフレインしながら、クロージングします。アルバムのラストにも関わらず、
オーガニックさがタイムレスを感じさせてくれる素敵なアルバムです。
[収録曲]
1. Tigris (No Tomorrow)
2. Joy’s Desire
3. The Light on the Water
4. At the Break of Day
5. Maysong
6. Standing on the Shore
7. White Mountainside
イギリスでいえば、アンサンブルの妙に輪郭がくっきりとしたPentangle、華麗さもあるRenaissance、ドイツでいえば、霞がかった向こう側に仄かに香るようなCarol Of Harvestなど、プログレッシブ・ロックとフォームが融合した夢見るようなアンサンブルは魅力的ですが、四季や朝夕夜をも感じさせないタイムレスに聴けるプログレ・フォークとしておすすめです。
管弦楽器をともなうプログレ・フォークを聴きたい方におすすめです。
春夏秋冬に聴きたい、寝ぼけたおもむきのまま朝に聴きたい、夕暮れに聴きたい、真夜中に聴きたい、など、聴き手がその時想う気持ちのままに音楽と直面するかと思います。プログレッシブ・ロックといえば、冗長さ、難解さ、長尺さなど、聴き込むことで分かる比重が高いこともありますし、たった一瞬のワンフレーズで感銘してしまうこともあるかもしれません。ただ、Fields Burningの奏でる芯となる音楽は、ポップなメロディラインやアンサンブルによる装飾といった次元を超えた「忘れていた何か」を想い出させてくれるバンドの1つと感じました。個人的には、プログレ・フォーク系のプログレッシブ・ロックを好きである理由は、この感覚なのかもしれません。
アルバム「Fields Burning」のおすすめ曲
1曲目は冒頭曲の「Tigris (No Tomorrow)」
一聴した時には、サブタイトルの和訳「明日はない」とメインタイトルの地「チグリス」は、古代に栄えたバビロニア文明をイメージさせているのか、河の流れを表現したかのようなスケールさを感じさせてくれました。また、女性ボーカルを男性ボーカルに置き換え、演奏スタイルは異なるままに、まるで同国アメリカのコーラスグループ:Rascal Flattsの代表曲「What Hurts The Worst」の美旋律を聴いているかのような感覚を憶えたからです。
2曲目は5曲目の「Maysong」
最後のストリング・カルテットが楽曲の印象を変えてしまうに十分なほどに、他楽曲以上にオープニングから切実さ溢れた唄メロのメロディラインが溢れているからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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