プログレおすすめ:Echolyn「I Heard You Listening」(2015年アメリカ)
Echolyn -「I Heard You Listening」
第148回目おすすめアルバムは、アメリカのシンフォニック系のバンド:Echolynが2015年7月に発表した9thアルバム「I Heard You Listening」をご紹介します。
Echolynは、1991年に、Christopher Buzby(キーボード)、Thomas Hyatt(ベース)、Paul Ramsey(ドラム)、Brett Kull(ギター)らで、1stアルバム「Echolyn」でデビューしました。2015年現在も、若干のメンバー・チェンジがあるものの、長年に渡り、ほぼ変わらぬメンバーによる音楽のルーツには、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Gentle Giantから強い影響を受けています。Gentle Giantのアンサンブルの一翼を担うフェンダー・ローズのピアノが醸し出す静寂さの世界観は、Christopher Buzbyが弾くキーボードがEcholynのサウンドが要だと感じますし、その他楽器も絡み合うアコースティカルなプログレのエッセンスは聴き応えがあります。
また、それぞれがボーカル・パートを取るぐらいにユニークなコーラスワークがあることも特徴の1つです。
当アルバムは、2012年のセルフタイトルとなる8thアルバム「Echolyn」に続くアルバムで、アルバム・ジャケットからはポスト・ロック的なイメージを想起させながらも、
薄暗い空へ飛び立とうとする幾つもの翼がはためく「ひたむき」な想いが、様々なジャンルの音楽性を楽曲に散りばめられ、聴くことの出来る素晴らしいアルバムと思います。
楽曲について
冒頭曲「Messenger of All’s Right」は、ウィスパー・ヴォイスと他メンバーによるコーラスワークが重なり合い展開するヴァースの展開が印象的な楽曲です。3分前後のトレモロを効かせたギター・ソロ、5分前後のピアノの断片などもアクセントに、ポストロック的な感覚を憶えるぐらいに、浮遊さに穏やかなサウンドで敷き詰められてきます。
Echolynが本来持つ音楽性を考えれば、これから当アルバムを聴き入ってしまう心持ちがを抑えるかのように、ゆったりとした展開にためらいさえも感じる素敵なアルバムのオープニングです。
2「Warjazz」は、当バンドの真骨頂ともいうべき、複雑なリズムを変拍子で、ポップ・フィーリングも躍動的に聴かせる楽曲です。コーラスワークも力強さがあり、クロージング直前のボーカルのブレイクも印象的です。
3「Empyrean Views」は、複雑なリズムに、ピアノとアコースティックのアンサンブルとコーラスワークが織りなす音像は、まるで同国のフュージュン・バンド:Steely Danを彷彿とさせてくれます。コーラスワークも時にボーカルのメイン・パートをガイドするハーモニムやカウンター・メロディで聴かせてくれるため、コーラスワークを聴いているだけでも、うっとり聴き入ってしまいます。6分30秒前後からのワルツ風のピアノのアンサンブルも、7分15秒前後のThe BeatlesのGeorge Harrisonを彷彿とさせるギターのフレーズなどもアクセントに、個人的には、カンタベリー系をも想起させるライトなタッチで優雅さを感じさせてくれると思いました。
4「Different Days」は、一定のリズムにピアノとギターがアンサンブルのヴァースと拡がりを見せるヴァースとのコントラストが印象的な楽曲です。まるでYesの楽曲「Changes」(アルバム「90125」収録)を彷彿とさせる展開に、3分20秒前後や5分20秒前後からのハードなギターのリフとシンセによるパートが楽曲を躍動させ、前半部から中間部までで響き渡るローズ・ピアノによるフレーズが優雅さとのコントラストも愉しめるハイライトではないでしょうか。
アルバムの後半部では、ベースがリードし、シリアルさのあるヴァースが印象的な5「Carried Home」、2「Warjazz」よりはハードさは抑えつつもビート感を意識し、同国のバンド:XTCのねじれたポップさ彷彿とさせる6「Once I Get Mine」、ゆったりとしたスイング感あるアンサンブルで迫る7「Sound of Bees」など、バラエティー豊かな楽曲が聴けます。
8「All This Time We’re Given」は、アダルトタッチなメロディラインを感じさせながらも、1970年代のシンガー・ソングライター・ブームを彷彿とさせるエッセンス(ブルーズ調のボーカリゼーション、ギター・ソロ、リリカルさを感じえる唄メロ、コ
ーラスワークなど)に懐かしささえ感じるかもしれません。そして、躍動的なリズムも意識し聴けば、より同国のBostonを彷彿とさせてくれる後半部の展開に、ただただ聴き入ってしまいます。
ファズを効かせたベースがアルバム中で最も躍動的なオープニングで聴かせる最終曲「Vanishing Sun」は、オルガンが加わる
と同時に、1950年代風のリズムによるロックン・ロールへ移行します。オールディーズな展開にも、同国のミュージシャンのBilly Joelがロックン・ロールをオマージュした代表的な楽曲「It’s Still A Rock And Roll To Me(邦題:ロックンロールが最高さ)」と比較しても、ギターのフレーズ、コーラスワーク、オルガン、シンセなど、Echolynの各メンバーが彩るサウンドがあることで、決して古めかしくなく聴かせてくれます。冒頭曲「Messenger of All’s Right」の穏やかさや、大抵のバンドが疾走感溢れる楽曲でアルバムをクロージングさせるところに、穏やかに心を揺り動かしながらクロージングさせるのも新鮮と思いました。
同国アメリカのプログレッシブ・ロックのシーン以外のジャンルのエッセンス(ジャズ、フュージュン、ブルーズ、シンガー・ソングライター、ロックン・ロールなど)を楽曲の随所に盛り込み、Echolyn特有の優雅なピアノのタッチとコーラスワークでコンパイルし、アルバムを聴き終える頃には、晴やかな気持ちを感じえるような素敵なアルバムです。
[収録曲]
1. Messenger of All’s Right
2. Warjazz
3. Empyrean Views
4. Different Days
5. Carried Home
6. Once I Get Mine
7. Sound of Bees
8. All This Time We’re Given
9. Vanishing Sun
コーラスワークを主体としたオペラ的な展開の解釈でいえば、より近しいイメージもある同国のThe Dear Hunterや、イギリスのカンタベリー系のプログレッシブ・バンド:The Tangentを聴く方におすすめです。
当アルバムは、通常のシンフォニック系のプログレッシブ・ロックで連想するメロウさ、ファンタジックさ、叙情さよりも、古き良きアメリカをはじめとする音楽のエッセンスをリスペクトし吸収したアンサンブルに、ネオ・プログレ系やポンプ・ロック系とは一線を描すサウンド・アプローチのため、とっつきにくいイメージがあるかもしれません。
共通して言えるのは、Gentle Giantに代表される複雑なリズムの多用によるパート展開を盛り込んでいることで、様々なジャンルのエッセンスを楽曲に自然と溶け込ませるスキルフルでしょうか。ぜひGentle Giantの影響もありますが、Echolynらしさという観点で、まずは耳を傾けて欲しい1枚と思います。
アルバム「I Heard You Listening」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲「Vanishing Sun」
1950年代的なロックンロールのエッセンスを自然と楽曲に溶け込ませるクリエイテビティが素敵と感じました。同様なアプローチを行うプログレッシブ・バンドでいえば、例えば、イギリスの5大プログレバンドの1つ:Yesは3rdアルバム「The Yes Album」でロックンロールを織り交ぜても、Yes特有のテクニカルさや組曲の一部として聴かせてるし、Yesの影響を受けるカンタベリー系のThe Tangentもモダンなテイスト構成で聴かせてくれるため、よりシンプルにも感じる構成には一聴した時には、驚きを隠せませんでした。それでいて、プログレッシブ・ロックとして違和感もなく、また聴いてみたいとも思う素晴らしい仕上がりと思いました。
2曲目は、3曲目の「Empyrean Views」
複雑なリズムに各楽器が奏でるアンサンブルからは優雅さを感じ、カンタベリー的な展開が素敵だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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