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プログレおすすめ:District 97「In Vaults」(2015年アメリカ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/29 2015年, アメリカ, ヴァイオリン, プログレッシブ・メタル, 女性ボーカル


District 97 -「In Vaults」

第150回目おすすめアルバムは、アメリカのプログレッシブ・ロックにクロスオーバーしたバンド:District 97が2015年6月に発表した3rdアルバム「In Vaults」をご紹介します。
District 97「In Vaults」
District 97は、2006年にアメリカはシカゴにて、Rob Clearfield(キーボード、ギター)、Patrick Mulcahy(ベース)、Sam Krahn(ギター)、Jonathan Schang(ドラム、パーカッション)の4人で結成され、初期は、同国アメリカで、Dream Theaterのメンバーを中心に、結成したプログレッシブ・メタル系のロック・バンド:Liquid Tension Experimentのようなインストルメンタルを奏でるバンドでした。

そこに、アメリカのオーディション番組「American Idol」の2007年上半期「シーズン6」に出場しファイナリストとなった女性ボーカル:Leslie Huntと、シカゴ交響楽団のチェロ奏者をしていたKatinka Kleijnが加わることで、バンドの音楽性が格段に変貌し、ステップアップします。

ボーカルとしてLeslie Huntが加入することで、彼女自身のキャッチ―さあるボーカリゼーションとインストルメンタルのシークエンスに相性が良く、バンドがその音楽性をすぐさまスタイリッシュさへ変貌させてます。また、Katinka Kleijnのチェロもバンドのクリエイティビティを押し上げ、と同時に、ギタリストもJim Tashjianに代わります。プログレッシブ・メタル系のインストルメンタルから、メロディラインのキャッチ―さ、弦楽器による幽玄さ、ギタリスト交代によるスタイル変化により、バンドが目指すモダンでスタイリッシュなサウンド・メイキングに近づきます。

当アルバムは、2012年発表された前作2ndアルバム「Trouble With Machines」に続く3枚目のアルバムにあたりますが、2ndアルバムでもゲスト扱いだったKatinka Kleijnの参加がないアルバムとなりました。

焦点は、1stアルバムや2ndアルバムで垣間見せた陰鬱さやゴシック調がどこまでスケールアップしているかどうか、2ndアルバムにゲスト参加し、さらにライブ・アルバム「One More Red Night: Live in Chicago」をコラボレーションしたイギリスのプログレッシブ・ロックの重鎮となる現AsiaのJohn Wettonから吸収し昇華したものがあるかどうか、そして、Katinka Kleijnによる幽玄さのファクターともなるチェロの音色の不在の影響です。

バンドを取り巻く変化にどのようにサウンドが変貌しているのだろう。

と、既にデビューを飾ったバンドの中で、2015年に注目されるバンドの1つとして、ファンにも気がかりな1枚として手元に届いたアルバムと思います。

楽曲について

冒頭曲「Snow Country」は、アコースティック・ギターによるつづれ織りのフレーズが絡み合うイントロの軽快さを忘れてしてまうほどに、コントラストのあるハード・エッジのあるギターのリフを合図に、ヴァースへ雪崩れ込みます。3分30秒前後からのエモーショナル溢れる空間処理がコントラストに、ヴァースでの重々しく地を這う轟音のベース・ラインがメインとなるアンサンブルのハイブリットに構築された隙間もないヘビィネスは、ゴシックさもたぶんに感じえる従来のサウンドを感じました。

2「Death By A Thousand Cuts」は1「Snow Country」にタイトで緻密なハードエッジなギターをメインとするヴァースで迫る楽曲です。冒頭部や2分前後のパートでの1970年代のヴィンテージさあるサイケデリック/スペース系な音処理を垣間見せながらも、後半部のフリーキーなフレーズも飛び交うギター・ソロも、終始ギター、ベース、ドラムによるアンサンブルはタイトさと緻密さで聴かせてくれます。

3「Handlebars」は、Leslie Huntのアカペラからアンニュイさを感じさせながらも大らかな唄メロのメロディラインが印象的な楽曲です。2分前後からは湧き出る泉の如くキーボードの音色がこだまし、オープンなリズムを奏でるベースに、テクニカルにミニマルなフレーズを奏でるギターのパート、3分30秒前後のフリーハンドなオルガンによるソロを交え、テンポを上げながら楽曲はクロージングします。

4「A Lottery」は、イギリスのバンド:Radioheadが2000年に発表したアルバム「Kid A」の無機質さのあるサウンド・メイキングを彷彿とさせる最初のヴァースも印象的に徐々にアンサンブルはタイトになっていきますし、中間部でまた無機質さを醸し出すパートなど、無機質さとメタリックさが擦れ合い、どことなく零れ堕ちるロマンチシズムさのある歌メロディラインにひとときの清涼さを感じずにいられません。イメージでいえば、5大プログレバンドの1つ:King Crimsonの楽曲「Fallen Angel」を彷彿とさせるサウンド・スケープともいうべきでしょうか。聴き手によって異なる印象を持つかもしれませんが、不思議な感覚も憶えながら、聴き入ってしまいますね。

5「All’s Well That Ends Well」は、ダークさを醸し出しつつもクラシカルな様相のピアノをメインのアンサンブルに最初のヴァースから、変調と変拍子を多用しつつ流麗にも変化していくヴァースが印象的な楽曲です。4分30秒前後のハードなアプローチもアクセントに、カンタベリー系が併せ持つジャズやフュージュンさのエッセンスをハードなアプローチで展開は、その緻密さたるや一寸の隙も見せないようなテクニカルさにただただ舌を巻くばかりです。

2「Death By A Thousand Cuts」をよりメタリック系のテクニカルな比重の高いギターのリフが心地良く先導する6「Takeover」、2台のギターが絡み合うプログレ・フォーク系のアンサンブルに抑え気味のトーンのボーカリゼーションのヴァースとエッジの効いたギターによるサビ部がコントラストを成す7「On Paper」に次ぎ、

8「Learn From Danny」は、めくるめくヴァースは変貌していく楽曲です。エッジの効いた動のパートと行き交いながらも混沌さに溢れる楽曲の展開は、当アルバムでもハイライトの1つに数え上げられる瞬間だと思います。ヴァースのパートでさえ、インストルメンタルと同等に、両者が入れ替わり先の読めない展開を示す6分30秒前後までの展開は、特に圧巻です。最初のヴァースで魅せてくれた、残暑から薄ら消えていきそうな蜉蝣、照りつける太陽に崩れ落ちてしまいそうな灯とも取れるサウンドは、アヴァンギャルドに展開を魅せ、ノイズが入り混じりながらも余韻を残しつつクロージングするラストまで聞き逃すことは出来ません。

伴奏もなしにヴァースからはじまるのが印象的な最終曲「Blinding Vision」は、ヴァイオリンをともなうストリング・カルテットによるクラシカルさのあるアンサンブルで聴かせながら、メタリックでダークさを伴うヴァースへと拡がりを見せ、ドラマチックな展開を示します。4分10秒前後に、いったんサウンドは落ち着きを払い、乱れ散るシンバルさによるアンサンブルが空間を埋め尽くしつつ、最初の唄メロのテーマとなるヴァースへと立ち戻ります。重々しいシンセのもと、陰鬱にもダークに切り裂くか如く、ロングトーンを効かせたギターのフレーズは鳴り響き、高揚するも停滞するもなく、ピンと張り今にも切れてしまいそうな糸を震わすかごとく、モダンなテイストの音色を意識しつつ重ねていく様は尊厳さも感じられ、11分前後に力尽きたように、ヴァイオリンとピアノの伴奏とともに、Leslie Huntが唄い上げる一節とともにクロージングしていきます。

1stアルバムや2ndアルバムと比べて、Katinka Kleijnのチェロが醸し出す幽玄さがなくなったことは確かではありますが、従来のメタリックさあるタイトで緻密さあるアンサンブルは研ぎ澄まされた感があります。また、その研ぎ澄まされ、ギターとキーボードをメインによる中で、ダークさやクラシカルさを聴き手に届け、その擦り切れるまでのサウンドに、4「A Lottery」、8「Learn From Danny」、9「Blinding Vision」などで感じえるようなロマンチシズムや殺伐さといった抒情さを生み出しているような気がします。ある楽器の音色を聴けば、即座に幽玄さ、刹那さと云った印象を与えるのではなく、一寸の隙も見せない各メンバーの演奏から生み出させるケミストリーからクラシカルでダークなモダンなプログレッシブ・ロックの陰鬱さを響き渡らせた素晴らしいアルバムと思いました。

[収録曲]

1. Snow Country
2. Death By A Thousand Cuts
3. Handlebars
4. A Lottery
5. All’s Well That Ends Well
6. Takeover
7. On Paper
8. Learn From Danny
9. Blinding Vision

陰鬱さという点では、イギリスの代表的なバンド:Porcupine TreeやポーランドのRiversideが代表格であり、好み聴く方におすすめです。ただし、Porcupine Treeよりもサイケデリック/スペース系のエッセンスは、スムーズにではなく混沌さを生み出し、Riversideの東欧ヨーロッパに代表される大らかなメロディ感よりも、キャッチ―さすらあるソフィケイトさが濃いと思います。

当アルバムでは、District97を好きになった方は、さらに、2010年発表の1stアルバム「Hybrid Child」や2012年発表の2ndアルバム「Trouble With Machines」を聴いてみてはいかがでしょうか。

また、John Wettonが在籍していた第2期King Crimsonの3枚のアルバム(「Larks’ Tongues In Aspic(邦題:太陽と戦慄)」、「Starless And Bible Black(邦題:Starless And Bible Black)」、「Red」)や、UKの同名1stアルバムを聴くことをおすすめいたします。現代の陰鬱さもある薄暗いサウンドのエッセンスを持つアンサンブルの原点を見いだせるかもしれません。

アルバム「In Vaults」のおすすめ曲

1曲目は、5曲目「All’s Well That Ends Well」

カンタベリー系をキーポイントに展開するだろう当楽曲の緻密なアンサンブルは、一度、耳すれば忘れることが出来ないからで
す。

2曲目は、9曲目「Blinding Vision」

4曲目の「A Lotter」や8曲目の「Learn From Danny」も甲乙つけがたいが、冒頭部で聴かれるヴァイオリンを含めたストリング・カルテットは、クロージング直前にヴァイオリンの音色が聴けるものの、楽曲全体でそれほど目立たせず、終始、基本メンバーによるギターとキーボードで創り上げていく楽曲の構成が素晴らしいと感じたからです。もしも、もっともヴァイオリンをはじめとし、弦楽器が大きく楽曲を彩っていれば、異なる感想を抱いたかもしれません。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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