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プログレおすすめ:Cast「Vida」(2015年メキシコ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/03 2015年, ヴァイオリン, シンフォニック, フルート, メキシコ ,


Cast -「Vida」

第165回目おすすめアルバムは、メキシコのネオ・プログレ系にもシンフォニック系にも語られることがあるプログレッシブ・バンド:Castが2015年8月27日に発表した19thアルバム「Vida」をご紹介します。
Cast「Vida」
Castは、キーボード奏者:Alfonso Vidalesが自身が敬愛するプログレッシブ・ロックを活性化し続けるためにシンフォニック系のエッセンスをもつバンドを目指し、1978年に結成されました。

その音楽性は、1990年代のネオ・プログレ系のアプローチに、傑作と謳われる1999年発表の8thアルバム「Imaginary Window」でのシネマチックなシンフォニック系のサウンド・メイキングなど、プログレ5大バンドの1つ:Genesisのフォロワーによるポンプ・ロックからは一歩をすすめたCast独自のロマンチックでコミカルさも心美良いパノラマ的なサウンドスケープが魅力です。

そして、2003年発表の11thアルバム「Al-Bandaluz」と2007年発表の15thアルバム「Com.Union」でのメンバーチェンジをターニング・ポイントに2000年代を駆け抜けるとともに、これまでのロマンチックでシンフォニック系のエッセンスに、メタリックとまではいかないまでもハードロックなアプローチやテクニカルさも感じさせるアンサンブルで移行します。

当アルバムは、前作18thアルバム「Arsis」を制作したAlfonso Vidales(キーボード)、Claudio Cordero(ギター)、Antonio Bringas(ドラム)、Flavio Miranda(ベース)、Pepe Torres(クラリネット、サックス、フルート)、Bobby Vidales(ボーカル)のメンバーに、イタリアのバンド:New Trollsのヴァイオリン奏者:Roberto Izzoと、そのRoberto Izzoもメンバーに連なる弦楽奏のGnu Quartetたち(チェロ奏者:Stefano Cabrera、フルート奏者:Francesca Rapetti、ヴィオラ奏者:Raffaele Rebaudengo)が加わり制作されています。

Phill Collinsボーカル期のGenesisのメロウさとダイナミックさや、抒情的にもアグレッシブなEmerson, Lake & Palmerの影響が濃厚に感じさせてくれるとも云われていますが、プログレッシブ・ロックが衰退する1970年代後半に結成されメキシコを代表するプログレッシブ・ロックバンドに相応しさが
ロマンチシズム溢れるメロディをふんだんに盛り込み、ダイナミックに聴かせるアンサンブルとして、耳に入ってくることでしょう。

楽曲について

ミステリアスにも重厚なサウンドで幕を上げる冒頭曲1「Dragon’s Attack」は、リリカルなピアノからハードロックなアプローチで聴かせた前作アルバム「Arsis」の冒頭曲「Atrida Agamenon」とは異なるアプローチながらも、ベースとドラムによるタイトなリズムセクションに、ギターと弦楽奏がユニゾンを重ねるアンサンブルにただただ圧倒的されるぐらいにダイナミックに聴かせてくれます。

ポンプロックを仄かに感じさせつつもロマンチックなメロディラインを畳み掛けるようにファースト・タッチで聴かせるアンサンブルに、心躍らせるに違いないです。

2「Silent War」は、哀愁を帯びた唄メロのメロディラインを大切にするかのように、終始リリカルに鳴り響くピアノ、震わす弦楽奏、メロディックなギターのフレーズ、コーラスワークなどのアンサンブルが印象的な前半部と、リリカルさのピアノ独奏を合図に、Castらしさ溢れる7拍子によるテクニカルさ溢れるダイナミックな展開を魅せるインストルメンタルな後半部が、鏡面のようにコントラストを成しますが、いずれもCastとも云えるプログレッシブな展開が愉しめる仕上がりです。

3「Change」は、各楽器が変拍子を多用しリズミカルなアプローチで絡み合い畳み掛けるアンサンブルには、やはりわかっていても、どうしても中期Genesis(Phill Collinsボーカル期)でのタイトなリズム・セクションを彷彿とさせられてしまいますが、優美で伸びやかなメロディアスなパートとリズミカルでタイトなパートを何度も行き交いながらも、エモーショナルさとメロウさでたっぷり聴かせるボーカルも素晴らしいです。

4「Run In The Rain」は、長い歴史を重ねてきたCastならではのメロディックさに、1990年代のポンプ・ロックなアプローチと隣国のアメリカ・ハード・プログレ的なエッセンスを最も感じさせてくれる楽曲です。そして、最初のヴァースの唄メロのメロディラインを少しずつテーマを変えてクロージングまで突き抜けていくのが印象深いんです。アコースティカルさ、輪唱されるコーラスワーク、丹精なフルート・ソロ、絡み合う弦楽奏とピアノのアンサンブルの前半部と、ダイナミックなアプローチの後半部はスムーズに展開をしながら、約12分にも及ぶ長尺さをだれることなく聴かせてくれます。

5「House By The Forest」は、クラシカルさ溢れる冒頭部から哀感ある唄メロのメロディラインの前半部と後半部に挟まれて、ハードロックなアプローチでダイナミックに聴かせるインストルメンタルの中間部でコントラストを成していますが、4「Run In The Rain」よりも唄メロとインストルメンタルを使い分けた印象がある楽曲です。

最終曲6「Door Of The World」は、ファーストタッチで当アルバム楽曲中でも最も畳み掛けるリズムセクションをメインに幕を上げる楽曲です。その冒頭部の畳み掛けアンサンブルのアプローチから想像してしまう勢いのままに、弦楽カルテット、ピアノ、エレピ、ギターなど、いずれの楽器もアルバムのクロージング・ナンバーに相応しいダイナミックなアプローチで11分前後まで一気に突き抜けて聴かせてくれます。そして、11分前後からテンポをスローにシフトしながらも、ロマンチシズム溢れ哀感ある唄メロのメロディラインを讃えるかのようにピアノ、シンセ、アコースティック・ギターが交互にリードするアンサンブルもまた、アルバムのクロージング・ナンバーに相応しいシンフォニック系のアプローチで聴かせてくれます。前半部と後半部で異なるアプローチながらも、違和感なくアルバムをクロージングさせるパノラマ的なサウンドスケープを魅せてくれる素敵な楽曲ですね。

前作アルバム「Arsis」では、アルバム前半から後半にかけて、徐々に心を高揚させるかのようにインストルメンタルな楽曲を配置し「アルバム全篇で聴かせる」印象を受けました。いっぽうで、当アルバムでは、いずれの楽曲にも、静と動のメリハリよりもロマンチシズムとダイミナックさを兼ね備えた各楽器のアンサンブルに、スペイン語で唄われるボーカルパートがあり「1つ1つの楽曲でパノラマ的に聴かせる」印象を受けました。

いずれにせよCastの目指すプログレッシブなアプローチに、メンバー個々のスキルフルがクオリティ高く盛り込まれ、長いバンドの歴史から「落ち着き」と云う言葉は相応しくないアクティビティを強く感じるアルバムです。また、たとえば、やるせない気持ちが溢れた時に、ふと耳を傾け、くすぶる想いを奮い立たせる・・・そんなイメージのアルバムです。

[収録曲]

1. Dragon’s Attack
2. Silent War
3. Change
4. Run In The Rain
5. House By The Forest
6. Door Of The World

Phill Collinsボーカル期のGenesisのメロウさとダイナミックさ、その後のポンプ・ロックやネオ・プログレ系のサウンドが好きな方におすすめです。また、バンドの長い歴史の中でも、オランダのFocus、イギリスのGenesis、Jethro Tull、Camel、Marillonなどをリスペクトや彷彿とさせるサウンド・メイキングやアンサンブルの楽曲を発表しているため、引き合いに出されるバンドを聴く方にもおすすめです。

当アルバムを聴き、モダンなギター・サウンドにハードロックなアプローチの比重もある一面も含めてCastを好きになった方は、2007年の15thアルバム「Com.Union」、2009年発表の16thアルバム「Originallis」、2011年発表の17thアルバム「Art」、2014年発表の18thアルバム「Arsis」など、2000年後半のアルバムがおすすめです。また、唄メロも含めたメロディックさやシネマチックでパノラマ的なアプローチを好きになった方は、まずは1999年発表の8thアルバム「Imaginary Window」、2000年発表の9thアルバム「Legacy」、2002年発表の10thアルバム「Infinity」の1990年代終わりから2000年代初頭のアルバムがおすすめです。

アルバム「Vida」のおすすめ曲

1曲目は、最終曲6曲目の「Door Of The World」
決して複雑なリズムチェンジや変拍子によるテクニカルさやアヴァンギャルドなアプローチを盛り込み、聴く視点をずらしたり、気を惹かせるというわけではなく、王道ともいうべき展開が、ハードでダイナミックなアプローチの前半部と、ロマンチシズムでシンフォニックなアプローチの後半部と、2つの側面に圧倒されてしまったからです。

2曲目は、4曲目の「Run In The Rain」
他楽曲と比べても、クラシカルさあるアンサンブルから、シンフォニックでダイナミックなアプローチのアンサンブルへパートを変えても、唄メロは、メロディラインが形を変えて1つのテーマとして進行していくように、流麗さを強く感じるからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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