プログレおすすめ:Gazpacho「Demon」(2014年ノルウェー)
Gazpacho -「Demon」
第26回目おすすめアルバムは、ノルウェーのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Gazpachoが2014年3月に発表した8thアルバム「Demon」をご紹介します。
1996年に、Jan Henrik Ohme(ボーカル)、Thomas Alexander Andersen(キーボード)、Jon Arne Vilbo(ギター)の3名を中心に結成され、当アルバムでは、Mikael Krimer(ヴァイオリン、マンドリン)、Kristian “Fido” Torp(ベース)、Lars Erik Asp(ドラム、パーカッション)の6人に、アコーディオン奏者やクワイアがゲストで参加しています。
バンドの特徴は、どことなくイギリスのRoxy Musicをより物憂げに、退廃感を掘り下げたロマンチシズム溢れるサウンドを感じていました。また、ボーカリスト:Jan Henrik Ohmeの声質には、イギリスのロックバンド:Queenの元ボーカル:Freddie Mercuryの声質やボーカリゼーションを思い浮かべてしまい、耳を捉えて離れず、ただただ溜息をつくのを忘れ聴き入ってしまいます。
当アルバムでは、過去制作アルバムでもメランコリックに楽曲を彩っていたマンドリンやアコーディオンが、よりアコースティカルなアンサンブルに際立ち、静寂さの中に幽玄さを引き出していると感じるんです。アルバムタイトルの和訳「悪魔」をテーマとし、太古から現在までの人間の内面と葛藤を描いたというコンセプトのもと、その幽玄さが身震いすることも忘れるぐらい心へ染み入ります。
楽曲について
冒頭曲1「I’ve Been Walking(Part 1)」は、Jan-Henrik Ohmeの静寂を切り裂くようなボーカリゼーションからヴァイオリンの音色が不安げに響き、印象的なピアノのフレーズが聴ける導入部をもつ楽曲です。ヴァースにコーラスが入ってくるまでの緊迫感は引き寄せ難い何かを感じさせてくれるのは、Gazpachoらしさのあるサウンド・メイキングが当アルバムでも健在であることを示してくれます。いっぽうでチャントのようなコーラスは当楽曲のみならず、アルバム全体に漂う幽玄さのキーにもなっています。静と動を行き交うアンサンブルにも、楽曲全体で祈りを捧げるような曲調に包まれており、ただただ目を閉じて聴き入りたい楽曲ですね。
2「The Wizard of Altai Mountains」は、マンドリン、もしくは琴のような音に導かれ始まるオープニングも合い間って楽曲全体に「和」をイメージさせてくれる楽曲です。ヴァースでボーカルに呼応するかのようなアコーディオンの旋律も印象的です。当アルバムでは小曲の部類に入りますが、当アルバムの中でも最も落ち着いて聴ける存在の楽曲かと思います。
3「I’ve Been Walking(Part 2)」は、ピアノの旋律がエコー処理され残響し、冒頭曲1「I’ve Been Walking(Part 1)」よりも心の深層へ訴えかけるように染み入ってきます。2ヴァースからは曲全体にクワイアが響き渡り、唄メロとオブリガードで綴られるパートでは、幽玄さが色濃く感じさせてくれます。過去制作アルバムの楽曲よりも音数を減らし研ぎ澄まされた印象もある中で、楽曲の後半部で過去作のアルバムで感じえた物憂げさや退廃感も聴くことが出来ます。
最終曲4「Death Room」は、2「The Wizard of Altai Mountains」のイントロ同様に、琴のような音が「和」をイメージさせてくれる楽曲です。楽曲はところどころに弦をかきむしるような旋律をアクセントに取り入れ、そのアクセントがコラージュ風にも印象強く聴き手に迫り、不穏さを醸し出しながら、唄メロは綴られていきます。3分40秒前後にコラージュから解き放たれるように控えめではあるがピアノとパーカッシブなサウンドがリードし、唄メロが繰り返されていきます。再度、12分30秒前後にコラージュともとれる音の歪みがサウンド全体に覆いかぶさるかの如く展開し、気が付けば、楽曲がクロージングするまでに一聴しただけでは受け止め理解出来ないほどの音の粒が待っています。
全4曲、アコースティカルな音の比重が高いアンサンブルは、静寂のなかに幽玄さという言葉が似つかわしく、危うさの中に美しさが滲み出てくるような感覚があるかと思います。音数が少なくともGazpachoらしさが存分に感じられ、更に、次作でどのようなサウンドへ変貌するのか期待してしまう好アルバムです。
[収録曲]
1. I’ve Been Walking(Part 1)
2. The Wizard of Altai Mountains
3. I’ve Been Walking(Part 2)
4. Death Room
たとえば、1990年代にイギリスのロックバンド:Blurが脱ブリティシュ・ポップを高らかに宣言し、その後発表した5thアルバム「13」の冒頭曲「Tender」の曲調に代表される楽曲群と同様な感覚を憶えました。これまでのGazpachoのファンの方にも、物憂げさや退廃感が溢れたメランコリックさを好む方にもおすすめです。
物憂げさや退廃感
1970年代初期のグラムロックに対し、個人的に抒情的とはまた異なる感覚を感じてしまいます。プログレシッブ・ロックに同様な感覚を抱いた時には、やはり音楽にジャンルの垣根はないものだなと思いました。今回ご紹介したGazpachoでは、特に、2005年発表の3rdアルバム「Firebird」にその感覚を色濃く感じてしまったんです。取り返しのつかない何かにもがき苦しみながら、理由もない不安にさいなまれ、あまりにも切なく心を掻き毟られてしまう・・・・聴いていては心が辛くなってしまいのに聴かずにはいられない唄メロやアンサンブルが溢れています。
アルバム「Demon」のおすすめ曲
1曲目は冒頭曲「I’ve Been Walking(Part 1)」
楽曲に占める緊迫感だけでなく、音数の少ないアンサンブルに祈りを捧げるようなイメージを抱き、目を瞑り聴き入ってしまうからです。
2曲目はラスト4曲目「Death Room」
コラージュともとれるサウンド処理は実験的であるかのようにも感じます。楽曲タイトルの和訳「死の部屋」をイメージするように長尺約18分で展開される1つ1つの音に耳を傾けてしまいますが、いまだに受け止めるだけで理解するまでの聴き込みが出来ないからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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