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プログレおすすめ:Tangent「A Place In The Queue」(2006年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/10 2000年代, イギリス, カンタベリー・ロック, フルート ,


The Tangent -「A Place In The Queue」

第25回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:The Tangentが2006年に発表した3rdアルバム「A Place In The Queue」をご紹介します。
Tangent「A Place In The Queue」
The Tangentは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:PARALLEL OR 90DEGREESのキーボード奏者:Andy Tillisonのソロ・プロジェクトがバンド形態へ発展した3枚目のアルバムです。

2004年に発表された前作2ndアルバム「The World That We Drive Through」制作後、その独特のねばりひきずるようなグルーブのあるギター・プレイが冴えわたるスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンド:The Flower Kingsのギタリスト:Roine Stoltと、ドラムのZoltan Csorszが脱退してしまい、代わりにスウェーデン人のKrister Jonsson(ギター)と
元The Flower KingsのJaime Salazar(ドラム)がメンバーとして加入します。

当アルバムは、バンドのリーダーであるAndy Tillison(ボーカル、オルガン、ピアノ、ムーグ、ギター)に、2003年に発表された1stアルバム「The Music That Died Alone」から参加しているSam Baine(ピアノ、シンセ、ボーカル)、Jonas Reingold(ベース)、Guy Manning(アコースティックギター、マンドリン、ボーカル)と、前作2ndアルバムから参加しているTheo Travis(サックス、フルート、クラリネット)に、Jaime Salazar(ドラム)とKrister Jonsson(ギター)による7名体制で制作されています。

The Tangentの音楽性には、従来、カンタベリー系のエッセンスや5大プログレバンド:Yesのテクニカルさやスキルフルさがありました。2ndアルバムでは、ムーディな唄メロやジャズ系のアプローチに拡がりも示していましたが、ジャズからロックまで幅広い経験をもつギター・プレイのKrister Jonssonと、よりシンプルなドラミングに徹するJaime Salazarに、ギタリストとドラムが変わったことで、プログレッシブ・ロックだけでない1970年代のロック・サウンドにある多種多様なアプローチをバンドにもたらしています。

ジャズ系のエッセンスが包み込み、アダルトなアプローチも際立つアルバムです。

楽曲について

冒頭曲1「In Earnest」は約20分に及ぶ大作です。ピアノのムーディなフレーズに導かれ、フルートが絡み合うイントロのアンサンブルは、ひっそりと静寂な空間を演出し、自然と聴き心地もゆったりとさせてくれます。ピアノのムーディな旋律をベースとした第1ヴァースでの唄メロのメロディラインが終わる2分40秒前後の落ち着いた佇まいは、静寂の中、夜にベランダで佇み、ひっそりと身を委ねるサウンドスケープを魅せてくれます。

2分40秒前後からはアタックの強いシンセとギターによるアンサンブルがロックの躍動さを感じさせてくれる第2ヴァースと、サイケデリック/スペース系のサウンド・メイキングに、6分20秒前後からのジャズ系のエッセンスを醸し出す第3ヴァースを境に・・・

7分20秒前後からのエレクトリック・ピアノのソロ、7分50秒前後からのギター・ソロ、9分前後からのオーケストラをバックにしたフルートのソロ、9分30秒前後の心美良いピアノのシークエンス、10分前後からの綴れ織りのアコースティック・ギターとピアノのアンサンブル、10分25秒前後からのギター・ソロ、11分20秒前後からのオルガン・ソロ、11分40秒前後のシンセ・ソロ、11分50秒前後からのナイロン・ギターとピアノのアンサンブル、12分5秒前後のアコースティック・ギターとエレクトリック・ピアノのアンサンブル、12分20秒前後のギター・ソロなど・・・多種多様な楽器が奏でるサウンドのオブストラクトさを、数小節ごとに入れ替わり重ねていきます。

そして、12分55秒前後からのシンセがミニマルなリフをメインに奏でプログレ・ハード系を彷彿とさせるアンサンブルで徐々に高め、13分44分前後から躍動的な唄メロの第4ヴァースへと繋がります。ただ、徐々に高めて高揚させたアンサンブルは、14分50秒前後に奏でられるギターのフレーズとともに、徐々になりを潜め、オーケストラやフルート、ピアノなどがアンサンブルに加わる楽曲冒頭部のテーマへ戻ります。16分50秒前後からは、第1ヴァースと同じアンサンブルのままにリプライズされます。そして、徐々にリズムセクションが加わり、優美なギター・ソロとともに、第1ヴァースの唄メロをモチーフにした大らかな唄メロの第5ヴァースへ繋がり、第2ヴァースのアンサンブルがお顔をみせ、楽曲はクロージングを迎えます。

新体制でのぞむ各メンバーの緻密でテクニカルな技巧の数々を冒頭約20分でお披露目しているかのようにも感じてしまう。

2「Lost In Londont」は、フルートのリードにも、オルガンのをアンサンブルにした刹那さ溢れるマイナー調のミドルテンポの楽曲です。カンタベリー系のリフや1970年代のハード・プログレにかいまみせるオルガンによるプレイやフリーキーなフルートの旋律、ほどよくジャズ系のエッセンスも含み、クールな佇まいがアダルトなアプローチへと繋げています。ロックやポップスを基調としながらも、ジャズ的なアプローチを魅せるアメリカのバンド:Steely Dan初期のアンサンブルを想起してしまいます。

3「DIY Surgery」は、ブラス・セクションをまじえ、まるで、5大プログレバンド:King Crimsonの第1期で魅せたフリー・ジャズを基調としたロックを聴かせてくれます。大胆なブラス・セクションに、拡声器を通じたヴォイシングなど、不気味なフリーキーさを漂わせ、唐突にクロージングします。

4「GPS Culture」は、イントロからの心美良いシンセのリフや、唄メロやメインのコーラスに、Yesの楽曲にもつ特徴が溢れていると考えずにいられません。もろにJon Anderson風のコーラスワークが聴けてしまうと、ファンであれば、ニンマリしてしまいます。3分10秒前後からは、メタル系のギターのリフ、スパニッシュ風のギターのフレーズ、Steve Howe風のギター・ソロ、サイケデリック/スペース系を醸し出すカンタベリー系のアンサンブル、オルガン・ソロ、ピアノのフレーズなど、1「In Earnest」と同様に多種多様な楽器が奏でるサウンドのオブストラクトさを重ねていき、Yes風に女性のコーラスワークが拡がる7分40秒前後からは、冒頭部のYes風のアンサンブルへと戻ります。クロージング寸前まで、だしおしみなくYesを彷彿とさせるアクティビティを魅せてくれるため、バンドのYesに対するリスペクトを感じずにいられません。

5「Follow Your Leaders」は、シンセ、オルガン、ギターをメインに、ダイナミックにもカンタベリー系ならではのファーストチューンです。ムーグ・シンセのソロをはじめ、サイケデリック/スペース系を仄かに感じさせるアンサンブル、オルガンをバックにしたギター・ソロなどのパートにもカンタベリー系のエッセンスが存分に溢れています。

6「The Sun In My Eyes」は、R&B調のグルーブにも、1970年代後半のブラック・コンテンポラリーでのディスコ系のビートを効かせた楽曲です。当アルバムでは最も違和感とともに、聴く耳に戸惑いを感じてしまいますが、跳ねたリズムに、ブラス・セクションやオルガンのソロなど惜しげもなく盛り込まれダイナミックなアプローチはとてもいかしています。

短めのドラムロールではじまる最終曲7「A Place In The Queue」は、約25分にも及ぶ大作です。

ムーグ・シンセサイザーによる重厚な旋律の質感、アコースティック・ギターによるフレーズやサックスの旋律、不穏さもあるサウンド・エフェクト、ギターのメタリックな質感のリフなど、冒頭部から約10分10秒前後にわたり、第2期King Crimsonの5thアルバム「Lark’s Tongues In Aspec」以降の「硬質さにある抒情さ」を感じてしまいます。

そして、ギターのメタリックな質感のリフに10分10秒前後からはファンキーなギターのストロークをまじえR&B調のグルーブのヴァース、11分30秒前後のKeith Emersonを彷彿とさせるオルガンのプレイなど、他楽曲以上に雑多にともいえる多種多様なアプローチにもカンタベリー系のエッセンスを随所に散りばめながら、パートを繋げていく印象が強いです。

そして、シンセによる旋律が徐々に第2期King Crimsonのギターによるメタリックさのリフへと繋がる20分55秒前後からは叙情さ溢れる唄メロが高らかに唄われます。22分40秒前後からはサックスも「硬質さにある抒情さ」を讃えるかのように加わり、クロージングを迎えます。

長尺20分を超す冒頭曲1「In Earnest」と最終曲7「A Place In The Queue」、10分前後の4「GPS Culture」と6「Follow Your Leaders」など、過半数が長い尺の楽曲が収録されており、聴き応え十分にも約80分もあるため、落ち着き時間を取りながら耳を傾けたいアルバムです。

[収録曲]

1. In Earnest
2. Lost In London
3. DIY Surgery
4. GPS Culture
5. Follow Your Leaders
6. The Sun In My Eyes
7. A Place In The Queue

特にスリリングでいて、特にムーディでいて、テクニカルな演奏を聴かせながら、カンタベリー系のプログレッシブ・ロックを聴かれる方や、キーボードに興味を持たれる方におすすめです。

よりカンタベリー系のエッセンスを感じえたい方は、名作となる1stアルバム「The Music That Died Alone」も合わせておすすめします。また、楽曲によっては、1970年代のプログレッシブ・ロックを代表するバンド(Yes、King Crimson)のサウンド・メイキングやアンサンブルの特徴が活かされており、その雰囲気を好きになった方は、ぜひこれを機会に、各バンドのアルバムに耳を傾けることもおすすめします。

アルバム「A Place In The Queue」のおすすめ曲

1曲目は、最終曲7の「A Place In The Queue」
楽曲全体に漂う懐かしき「硬質な抒情性」を感じてしまうからです。

2曲目は、冒頭曲1の「In Earnest」
このバンドを好きになるきっかけとなった楽曲であり、快活なメロディラインに、カンタベリー系のエッセンスや、オブストラクトなサウンドなど、多種多様なサウンドに溢れています。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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