プログレおすすめ:Alcest「Shelter」(2014年フランス)
Alcest -「Shelter」
第255回目おすすめアルバムは、フランスのロック・バンド:Alcestが2014年に発表した4thアルバム「Shelter」をご紹介します。
何も知らずに「CDジャケ買い」したCD
ふとCDショップにあるアルバムのアートワークを見て購入してました。それでも、どうしたものか購入直前に試聴機を通じて、音は聴いています。
・・その音に、ただただ衝撃を・・・
どんなバンドなんて知らずに聴いたものだから、アメリカのシューゲイザ―系のバンド:Deerhunterのサウンドが脳裏を掠めたけれど・・・
・・・・でも、しっくりこない、プレグレッシブな感覚がしてたまらない。
・・・・なぜか、サウンドだけでなく、唄メロのメロディラインにも、イギリスのニュー・ウェーブ系、シンセ・ポップ系、ドリーム・ポップ系を感じてしまう。
どこかあたたかみがあり抱擁されそうな懐かしきだけが溢れている。
Alcestは、1999年に、フランスのStephane “Neige” Paut(ボーカル、ギター、ベース、キーボード)がもともとソロ・プロジェクト名義で発足し、その後、トリオ編成で活動を開始します。
ブラック・メタルにポスト・ロックとシューゲイザ―を大胆に取り入れたサウンドには、当時の音楽業界において、革新的で「ブラックケイズ」なる先駆者としてシーンをリードしていたと云います。その異なる音楽ジャンルが大胆なクロスオーバーするさまは、たとえば、楽曲「Tir Nan Og」(1stアルバム収録)で魅せるアコースティカルなアトモスフェリックさなどにも、アルバム全体を占めるブラック・メタルのエッセンスの比重が高く、プログレッシブ・ロックとして取り上げられることはなかったのではないかと思うんです。
当プロジェクトでStephane “Neige” Paut自身が込めた想いは、Wikipediaによれば、幼少の頃に夢を見た「Faily Land」と云う空想世界への憧憬を表現したかったとのことで、1980年代のポストパンク以降のアーティスト(Joy Division、Dead Can Dance、Cure、Depeche Mode)を普段良くアーティストにあげながらも、いずれのバンドにも影響を受けた音楽を表現したくないとも綴られています。
もしかすると、この「プログレの種」でプログレッシブ・ロックのおすすめとして紹介することもそのサウンドは意図に反するのかもしれない。それでもなお、心の何処かにひっかかりがあり、ご紹介させて下さい。
当アルバム「Shelter」は、Jean “Winterhalter” Deflandre(ドラム)と、楽曲「Away」にイギリスの男性シンガー・ソングライター:Neil Halsteadがボーカルとして、また、フォーク系のミュージシャン:Promise And The Monsterの女性ボーカル:Billie Lindahlがゲスト参加し、さらに、アイスランドのThe String Quartet:Meiinaと、プロデューサーにポストロック系のバンド:Sigur RósのBirgir Jón Birgissonを迎い入れ、制作されました。
そのアルバムを耳にした従来のファンは驚きを隠せなかったことと思います。ただ、何も知らずに音に触れた自分でさえ驚きを隠せずにいらなかったのだから・・・。
従来のディスト―ションが効いたギターが響き渡るよりも、煌びやかな音色のトーンのギターが適度に残響し、さらにストリングスカルテットが加わることで白昼夢のような感触が充満していくアンサンブルは、ブラックメタル系のエッセンスが排除されたシューゲイザ―のサウンド・メイキングと思うかしれません。
個人的には、Birgir Jón Birgissonがプロデューサーを担っていることや、ストリングス・カルテットをサウンドの厚みから意識して聴くことで、シューゲイザ―よりも、ポストロック系の感覚を憶えました。それでもまだ、腑に落ちない・・・。唄メロのメロディラインやそのメロディラインにガイドするギターのリフやフレーズなどはどうだろうか。そして、心が辿りついたのは、1980年代のドリームポップ系の旗手:Cocteau Twinsのスイートな感覚だったんです。
誰もが一時的に非難する安全な場所としての「シェルター」を海に・・・と云うコンセプトにで制作されたアルバムは、淡いアートワークとともに、
懐かしさにも「あたたかみ」さえある、メロディックでドリーミーなサウンドに彩られています。
楽曲について
アルバム全体の印象が集約されたような冒頭曲1「Wings」には、アートワークの空から太陽の淡い熱が漂い拡散されているくような、讃美歌風に聴こえてしまいます。この冒頭の衝撃の度合いは、イギリスのゴシック系からアトモスフェリックさ溢れるシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Anathemaの楽曲「Untouchable PartI」(2012年発表のアルバム「Weather Systems」収録)を聴いた時と同様でした。ただし、アンサンブルの感覚を大きく脱皮したようなAnathemaと異なり、Alcentには贅肉を削ぎ取りつつもクリアに重ねられていく感じがしました。
共通しているのは、アトモスフェリックさがあることと、プログレッシブ・ロックとしての楽曲構築性でしょうか。
続く2「Opale」でのシンセサイザー、ストリングス・カルテット、ギターによるアンサンブルのドリーミーさは、シューゲイザ―的に響き渡るのも、冒頭部やサビ部に留め、煌びやかなでマイルドなトーンの音色をディレイなどのエフェクトで残響さに展開するヴァース部、Billie Lindahlのコーラスワークなど、唄メロのメロディラインをドリームポップやシューゲイザ―のパートでプログレッシブ・ロックに構築した感じがしてなりません。
心の秘めたシェルターのように「それでもね、難しいことを考えずに聴いて心地良ければいいんだ、って思うんだ。」
3「La Nuit Marche Avec Moi」以降に連なる楽曲には、たとえば、楽曲「Solar Song」(アルバム「Ecailles De Lune」収録)や楽曲「Summer’s Glory」(アルバム「Les Voyages De L’ame」収録)など、過去のブラックメタル系のエッセンスに埋もれ隠れてしまっていたウィスパーヴォイスにも、時にマイルドで、時にメロディックさに溢れたメロディラインが際立っています。
従来の音楽性からメタル系を取り除いたかのようにソフィスティケイトされた3「La Nuit Marche Avec Moi」、引き合いにも出したAnathema風とも取れるアコースティックさの静のパートからアトモスフェリックさに溢れた動のパートへ展開する4「Voix Sereines」、トラディッショナルさから音と音が構築された印象を受ける5「L’Eveil Des Muses」、より大陸的なリズム感に解放されたアトモスフェリックなアンサンブルが綴られる6「Shelter」、Neil Halsteadのボーカルによるアイリッシュでトラディッショナル・フォーク系から拡がりを魅せる7「Away」など、さまざまなカタチで、従来のサウンドよりも心へ淡く拡散していくような、昼下がりの公園で白昼夢にまどろむサウンドスケープを感じてしまいます。
そして、最終曲8「Delivrance」は、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギターの力強いストロークや旋律に、綴られるヴァースで幕を上げ、トレモレが盛り込まれ、Billie Lindahlによるコーラスワーク、ストリングス・カルテットが奏でる旋律が重なり壮大なサウンド・パノラマを描く約11分に及ぶ大曲です。
重なり合う旋律は6分30秒前後まで続き、ただただ身を委ねていれば、いったん鳴りを潜めます。気がつけば、ふとノイジーなサウンドの残響の真っただ中と感じながらも、徐々にメインのテーマとなる唄メロがストリングス・カルテットのアンサンブルの波に揺れるか如く綴られていきます。聴き終わる心を和らげるかのようにリフレインされるのが聴いていてなんだか嬉しく感じてしまうクロージングですね。
アルバム全篇、ブラックメタル系のエッセンスから解き放れ、Stephane “Neige” Pautの「Faily Land」への憧憬の表現は、よりクリアにしたような音楽を聴くことが出来ます。
誰もが持ちたい心の「シェルター」は、音楽を聴いている時だけでも存在していても良いじゃないか、これからまだ着実に歩き続けるためにも・・・と感じてやまない、アルバム全体でしっかりとした世界観を感じる素晴らしいアルバムと思います。
最後に、9「Into The Waves」は、CDのボーナストラックですが、Billie Lindahlの女性ボーカリストとしての特性が活きたフィーメール・アーティストのドリームポップ系のような仕上がりの楽曲です。Billie Lindahlのボーカルが全面に出ているため、アルバム本篇の世界観からは漏れたと思いますが、ビートが効いていて、楽曲個体としてみても素敵な楽曲なんです。
[収録曲]
1. Wings
2. Opale
3. La Nuit Marche Avec Moi
4. Voix Sereines
5. L’Eveil Des Muses
6. Shelter
7. Away(feat. Neil Halstead)
8. Delivrance
9. Into The Waves
当プロジェクトで影響を受けたJapan、Roxy Music、Prefab Sprout、The Blue Nileなどの1980年前後にイギリスで隆盛したロマンチック・ムーブメント期のニュー・ウェーブ系によるサウンドの表現にも、ドリーム・ポップ系のCocteau Twins、Orchestral Manoeuvres in the Darkを聴いてきた方々におすすめしたいです。
また、White Willowの全アルバムに連なるノイジーさや薄暗さのある楽曲が好きな方にもおすすめです。
また、Stephane “Neige” Pautが普段聴くという、1980年代のポストパンク以降のアーティスト(Joy Division、Dead Can Dance、Cure、Depeche Mode)あたりを聴く方にもおすすめです。個人的には、Cureで最も好きなアルバム「Wish」などの垢抜けたポップさ(「High」「Friday I’m In Love」)やアンビエントさ(「To Wish Impossible Things」)などが好きな方には聴いて欲しいアルバムです。
アルバム「Shelter」のおすすめ曲
1曲目は、2「Opale」
1「Wings」から当楽曲を通じ聴いた衝撃は、すでに「ジャケ買い」をしたいと想う気持ちをグっと後押してしてくれそうな感じがしました。Alcestの音楽に出逢えて良かったと思った瞬間です。
2曲目は、8「Delivrance」
壮大に拡がりを魅せる中間部の展開も素晴らしいのですが、楽曲後半のノイジーなサウンドの残響さからクロージングに向けて、アルバムを聴き終えてしまう「さびしさ」さえもほんのりとさせてくれるサウンドが優し過ぎてたまりません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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