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プログレおすすめ:Gentle Knife「Clock Unwound」(2017年ノルウェー)

公開日: : 最終更新日:2020/01/04 2017年, シンフォニック, ノルウェー, フルート, メロトロン, 女性ボーカル


Gentle Knife -「Clock Unwound」

第292回目おすすめアルバムは、ノルウェーのシンフォニック系のプログレッシブ・バンド:Gentle Knifeが2017年6月15日に発表した2ndアルバム「Clock Unwound」をご紹介します。
Gentle Knife「Clock Unwound」
Gentle Knifeは、2015年に管楽奏者や男女混成ボーカルを含む10人のメンバーを抱える大所帯で、1st同名アルバム「Gentle Knife」を発表し、音楽シーンにデビューを飾ってます。

イギリスの5大プログレバンド:King Crimson、Genesis、Yesをはじめとした、1970年代前半のプログレッシブ・ロック隆盛期に対するリスペクトや、モダンなエッセンス(ネオ・プログレ系、ポスト・ロック系、ミニマル系)へのアプローチを盛り込んで制作されたアルバム「Gentle Knife」は、男女混成ボーカルという観点も含め、多バンドで表現がし難い音の幅を効かせ、2ndアルバム以降、更なるやスケールアップとオリジナリティを期待させる出来栄えを感じました。

バンド創設からの中心であるOve Christian Owe(ギター)とEivind Lorentzen(ギター)に、Odd Gronvold(ベース)とOle Martin Svendsen(ドラム)のリズムセクション、楽曲に色を添えるPal Bjorseth(キーボード、フルート、トランペット)とBrian M. Talgo(ビジュアル、歌詞、メロトロン)、Astraea Antal(フルート、ビジョン)、Thomas Hylland Eriksen(サックス)ら管楽器奏者らも健在のままに、Charlotte Valstad Nielsen(サックス)が新たにクレジットされてます。ただし、劇的なメンバーチェンジはないものの、男性ボーカル:Hakon Kavliに相棒となる女性ボーカル:Melina OzからVeronika Horven Jensenへとチェンジし、Gentle Knifeの特徴の1つでもある混成ボーカルの編成には変化は生じています。

フロント(混成ボーカル)がもたらすアンサンブルとのバランス、そして、2ndアルバムとして期待せずに入られない想いに駆り立てられながらも、1stアルバムで感じえた抒情さや陰鬱さのあるシンフォニック系のエッセンスは聴き手を裏切らず、

メンバー個々のスキルフルがより切迫さに研ぎ澄まされ、プログレの情景の一端を司る管弦楽器やヴィンテージ・メロトロンなどがもたらすケミストリーで増幅され、聴き手に物憂げで退廃さを掘り下げ夢想へ浸らせる

・・・1つ1つの音の積み重ね、1つ1つの音の鳴りに前作以上の密度があり、筆者が思い描く北欧の地特有の「冷たい情景」も十分に伝わる好作品です。

楽曲について

冒頭曲1「Prelude: Incipit (Instrumental)」は、ヴィンテージ・メロトロンの旋律をバックに、ピアノが低域のフレーズを尊厳に響かせながら、悠々とサックスがテーマを奏でて幕を上げます。ところどころで、ピアノが高域のフレーズを交え、サウンドの見晴らす情景を拡げつつ、ゆったりと楽曲は展開していきます。ピアノとトランペットが交互に呼応するフレーズに聴く耳を研ぎ澄まされていく様は、前作の楽曲「Epilogue: Locus Amoenus」のアンビエント風にサウンド・オブストラクトがポストロック系で展開するよりも、アルバム冒頭から惹き込まれるに十分な感覚を憶えました。

そして、前曲1「Prelude: Incipit (Instrumental)」から小刻みに響き渡るシンバルを合図に、間髪なくエッジの効いたギターで幕をあげる2「The Clock Unwound」は、当バンドの特徴ともいうべきKing Crimson直系のアンサンブルが展開していきます。イコライジングされてるであろうHakon Kavliのボーカルも合わせて、楽曲冒頭部から不気味な様相を呈してます。

1分20秒前後から3分25秒前後までに及ぶ左右を縦横無尽に駆け巡るシンセによる長めのソロは、2分50秒前後からパーカッションとピアノの単音連打がアンサンブルに入るや終始、3分30秒前後から、注目すべきVeronika Horven Jensenのボーカルによるヴァースへ移行します。注目すべきVeronikaのボーカリゼーションは、たおやかで時としてキュートな声質も感じえたMelina Ozよりも楽曲イメージに浸透させてると思いました。Veronika単独のヴァースでは、物憂げに退廃感を掘り下げたトーンでヴォイシングし、Hakon Kavliとの混成のヴァースでは、Hakonよりも抑制を効かせたハーモニウムを感じさせてくれます。

ヴァースやインストルメンタル部で執拗にリフレインされるエッジの効いたギターも、5分30秒前後から加わるサックスやもう1台のギターによるフリーキーなフレージングも、アルバム・ジャケットに映るイメージが狂気に満ちた存在をサウンドスケープさせてくれます。6分30秒前後から物憂げでアンニュイなフレーズを弾くギター・ソロや8分10秒前後からのギターのフレーズによる衰退したイメージに、さらにフルートが物悲しい旋律を拡げていきます。10分前後からHakonによるヴァースに辿り着く頃には、どっぷりと、この楽曲の世界観へ引き摺りこまれるように耽ってしまいますね。ノイジーさや金物によるサウンド・オブストラクトがバックでコンスタントをもたらし、この世界観が夢想の果てにあるかのようなイメージさえ抱いてしまいます。12時10分前後のテナー・サックスは、さらに聴き手を夢想の深淵の下層へ落とし込んでいくには十分でしょう。聴き集中すればするほど、たとえば、12分20秒前後のサックス奏者の息継ぎまで感じえてしまいます。

13分00秒前後にいったん金物によるサウンド・オブストラクトのみが響き渡ったかと思えば、シンセとギターは、森が狂ったかのごとく、徐々にテンポアップを繰り返し、まるでKing Crimsonの名曲「Starless」や「Mars」で垣間見せた切迫さあるアンサンブルが、畳み掛け、一瞬の静寂とともに、最後の咆哮で、約16分にも及ぶ楽曲はクロージングを迎えます。

3「Fade Away」は、1960年代の英国や米国のクラシック・ポップを想起させる唄メロのメロディラインが印象的な楽曲です。前作の「Eventide」や「Remnants of Pride」で魅せた淡い情景や哀愁と云う部分が、VeronikaとHakonによるデュエットで聴けます。ただ、前作からのGentle Knifeの良さを踏襲するだけでないのは、2分15秒前後から突如として、それまでのヴァースの雰囲気をぶったぎるパートがあるからだと思います。やはりKing Crimsonを想起させるサックスとシンセによる大胆なアンサンブル、3分前後からのドラスティックな短めなフレーズ、3分10秒前後からのギターとベースによるファンキーなリズム・セクション、フルートによる物悲しくもフリーキーな旋律などが交互に繰り広げられるブラス系、ジャズ系、ファンク系が入り乱れたインタープレイを挟み、5分10秒前後には、そのインタープレイの中間部がなんだったのかも忘れるぐらいに平穏に、淡く哀愁ある冒頭部のVeronikaとHakonによるデュエットへ移行します。

中間部のインタープレイなどは、ただ音源を耳にするのではなく、ライブで面前を見ていないと分からない・・・と想像を駆り立ててくれます。

4「Smother」は、ブラック・フィーリングも十分に、全曲の中間部がより洗練されたVeronikaとHakonによるデュエットでの唄モノとして、ブラス系、ファンク系が合わさったクールなアンサンブルが聴けます。たとえば、イギリスでいえば、折衷派のCurved Airあたりのクールネスさがひしひしと伝わります。2分35秒前後から3分前後までのドラムのリズムやオルガンの大胆なフレーズを終えれば、パーカッションもベースもムード純分にサンバ風のリズムへと移行します。3分55秒前後などフリージャズ系のランニングするベースラインを交えたり、驚きのクリエイティビティですね。4分55秒前後からは、前半パートのインストルメンタルへと戻り、ブラス系とファンク系の比重が高まりクールなアンサンブル、6分前後からはフリーキーなサックスがテーマによるジャズ系のインタープレイが繰り広げられていきます。再び前半部のヴァースへと戻り、楽曲はクロージングを迎えます。ライブ映えする楽曲と思いました。

5「Plans Askew」は、冒頭部のハーモニウムを交えたアコースティックギターのつばむく旋律とクリーン・トーンのギターによるテーマで音が積み重なっていく様は、木漏れ日サウンドなプログレ・フォーク系のアンサンブルで展開していきます。1分前後からは、アコースティック・ギターのストロークをバックに、Hakonが唄い上げるヴァースへと移行します。2分20秒前後からは、エレクトリック・ギターによるフレーズが入り、メタル系のリフが拡がりエレクトリック・サイドへと移行します。前作の楽曲「Coda-Impetus」で魅せた殺伐でミニマルなギターのフレーズは、より物憂げに退廃感を交えたクリエイティビティで聴かせてくれます。このエレクトリック・サイドは、まるで同国ノルウェーの初期Gazapachoにも通じる世界観ともいうべきでしょうか。

4分30秒前後からは、それまでの悪夢が覚めたかのように、前半部の木漏れ日サウンドなプログレ・フォーク系のアンサンブルのパートへ戻り、フルートが流麗でメロウなテーマを奏で、リズミカルな木管?のフレーズが合わされば、サックスが当アルバムでは最も淡い情景を想起させるかのような旋律を聴かせてくれます。6分10秒前後からはクリーン・トーンのギターがスタッカートが効いたメロウな旋律を奏で、7分前後や7分30秒前後にヴァースを挟み、少々、フリーキーなギターやサックスの旋律が聴けるも、楽曲は程よい安寧を感じさせながら、テナー・サックスの独奏だけが残り楽曲はクロージングを迎えます。総じて、楽器それぞれの音のバランスが楽曲を通じて計算されたかのように整うことで、プログレ・フォーク系をベースに展開する様が素敵な楽曲ですね。

最終曲6「Resignation」は、シンセの重たいベースラインから各楽器1つ1つの旋律がシンフォニックに積み重なりを魅せる約10分にも及ぶ長尺な楽曲です。冒頭部では、ドラムがパーカッシブに響き、フリージャズ的なKing Crimsonを想起させてくれます。サックス、ギターが、冒頭部のシンセの重たいベースラインから拡がるかのように1つ1つの音を重ねては、徐々に盛り上げていきます。当アルバムが持つ物憂げで退廃さ溢れるサウンドスケープが最も発揮されてますが、圧倒的な音圧で大円団を迎えるなど安易なアンサンブルに留まらず、5分前後からは地を這うようなスピーディなベースのフレージングのもと、前半部とは異なるチャーチ・オルガン風の音色で旋律が場を埋め尽くしていき、サックス、ギターがフリーキーな旋律を繰り広げていきます。7分前後には、それまでどちらといえば控えめだったギターがフォーカスされ、ドラスティックにも物憂げなソロが弾かれます。7分40秒前後からはテナー・サックスによる旋律が、8分20秒前後からは主にフルートをバックに男性のナレーションが進行し、徐々に音数は減少し、ベースラインのみで楽曲はクロージングを迎えます。

アルバム全篇にわたり、後味の悪いお伽噺話に足を踏み入れ、物憂げなファンタジックさに包まれ、アルバム中盤の楽曲に時には希望をもたらすかのような心地をしながらも、最終的には、ただただ堕ちていくかのような情景をアルバム最終的でサウンドスケープしてしまいます。この世界観は、たとえば、突発的な発狂や狂気に満ち過ぎたゴシック・ロック風で仰々しく聴き疲れを起こし、アルバム途中で聴き止めるような感覚に陥らず、しっかりとアルバムの世界観を堪能しうる素晴らしい仕上げりとも感じました。

こうなると、3rdアルバムで目指す音楽の世界観は、当アルバムで感じえたクリエイティビティの方向性(物憂げで退廃さを掘り下げ、メタリックさやファンタジックさのシンフォニック)をよりスケールアップさせるのか、はたまた異なる方向性へ転換するのか、心躍らされ待ちわびてしまいます。

[収録曲]

1. Prelude: Incipit (Instrumental)
2. The Clock Unwound
3. Fade Away
4. Smother
5. Plans Askew
6. Resignation

イギリスの5大プログレバンド:King Crimson、Genesis、Yesをはじめとした、1970年代前半のプログレッシブ・ロックの隆盛期のアンサンブルやヴィンテージなサウンドが好きな方におすすめです。

しかし、当アルバムのクリエイティビティの方向性(物憂げで退廃さを掘り下げ、メタリックさやファンタジックさのシンフォニック)という観点では、イギリスの5大プログレバンド:King Crimsonが好きな方におすすめといえます。たとえば、1974年発表の名盤と誉れ高きアルバム「Red」や、2000年発表の名作アルバム「The ConstruKction of Light」で共通する世界観が好きな方に。

また、北欧であれば、King Crimsonの音楽性の影響を受けた同国ノルウェーのGazapacho、White Willowの初期3作品を好む方にもおすすめです。

まだプログレを充分に聴いたことがない方には、アンニュイで物憂げに退廃さという観点では、男女混成ボーカルで共通するカナダのThe Dearsを聴いたことがある方には、ニンマリするかもしれません。

・・・そんなプログレな気持ち。皆さんはいかがですか?

アルバム「Clock Unwound」のおすすめ曲

1曲目は、2曲目の「The Clock Unwound」
冒頭曲1「Prelude: Incipit (Instrumental)」に身を任せ、耳を澄ませば澄ますほど、続く当楽曲での不気味で狂気に満ちたサウンドスケープを十分に感じてしまい、最終楽曲「Resignation」まで連なる、物憂げで退廃さを掘り下げ、メタリックさやファンタジックさのシンフォニックの一端として、素晴らしきプログレッシブな展開力が好きだからです。

2曲目は、5曲目の「Plans Askew」
そう、当アルバムに於いて、一瞬、悪夢から覚めたかのような感覚を憶える展開が堪能出来ます。特に、次曲でアルバム最終曲「Resignation」であるからこそ、アルバムを聴き終えた時にそう感じずにいられなくなります。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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