プログレおすすめ:YES「Talk」(1994年イギリス)
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最終更新日:2016/05/01
1990年代, YES(5大プログレ), イギリス Alan White, Chris Squire, jon anderson, Tony Kaye, Trevor Rabin, YES
YES -「Talk」
第268回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1994年に発表したアルバム「Talk」です。
終わらない夢
YESのロゴといえば、Roger Dean作成によるロゴがあるにも関わらず、当アルバム・ジャケットでは、イギリスのロックバンド:Beatlesが1968年に発表したアニメ映画「Yellow Submarine」での、サイケデリックなグラフィック・アートの影響も与えたというPeter Maxの手によるロゴが利用されています。
1970年代のYESがあるからこそ存在したであろう「90125YES」が当アルバム・ジャケットで示したのは、1990年代のYESの存在だったのかもしれません。
・・・1970年代の名盤「Fragile(邦題:こわれもの)」や「Close To The Edge(邦題:危機)」を知りながらも、プログレッシブ・ロックの情報度合いよりも、リアルタイムで体感する音楽への気持ちが高く、1990年代から2000年代にかけて、傑作アルバム「The Ladder」らとともに、当アルバム「Talk」を好きだと云うファンが多かったことも憶えています・・・。
1991年のAnderson-Bruford-Wakeman-Howeに「90125YES」のChris Squire(ベース)、Tony Kaye(ハモンド・オルガン)、Alan White(ドラム)、Trevor Rabin(ギター、キーボード)が加わった8人がメインとなる大所帯でのアルバム「Union(邦題:結晶)」の発表後3年の月日の中で、Yesはレコード会社の変更やレコード会社からの新作アルバムの意向などもあり、結局、Bill Bruford、Rick Wakeman、Steve Howeの3名が離脱し、所謂「90125YES」のJon Anderson(ボーカル)、Chris Squire(ベース)、Tony Kaye(ハモンド・オルガン)、Alan White(ドラム)、Trevor Rabin(ギター、キーボード)が残りました。
アルバム「Talk」は、Tony Kayeがハモンド・オルガンのみの担当となるほどに、Trevor Rabinはギター、キーボード、作曲、プログラミング、プロダクション、エンジニアリングなどマルチに発揮した渾身のアルバムと思いますが、アルバム発表された当時、新しきはグランジなどに代表される音楽ジャンルの台頭、古きは1970年代Yes黄金期のメンバーが少ない点に、新旧の狭間でアルバムの立ち位置は苦しく、結果的に十分な成果(売上)に繋がらなかったことから、Trevor RabinとTony Kayeはバンドを去ることになってしまいます。
最初から有終の美を飾るために制作されたアルバムではなかったかもしれませんが、Trevor Rabinの貢献が有終の美を飾るアルバムとして、YES史上に残る傑作と思うのです。
楽曲について
冒頭曲1「The Calling」は、当アルバムを象徴するかのように、タイトなリズムセクションに歯切れの良いギターのアンサンブルがリズミカルでいて、爽快さに溢れた楽曲です。Trevor Rabinのカントリータッチのギターのストロークやリフといい、タイトなアンサンブルもあり、従来のファンタジックさよりも、アメリカ・ハード系の大らかさも感じえます。サビ直前やサビ部の繰り返しで聴かれるTony Kayeのハモンド・オルガンのフレーズ、3分30秒前後からのTrevor Rabinのギター・ソロと、Tony Kayeのハモンド・オルガンのソロなど聴きどころが多いですね。楽曲「Owner Of Lonely Heart」(1983年発表のアルバム「90125」収録)や楽曲「Rhythm Of Love」(1987年発表のアルバム「Big Generator」収録)などのヒット曲がアルバム冒頭を飾るよりも、このカラフルな色彩のオープニングは、ハードディスク・レコーディングにも関わらず、瑞々しさを感じてしまうんです。
2「I Am Waiting」は、メロディックなミドルテンポの楽曲です。ヴァースでの唄メロのメインとなるメロディラインを活かすように、カウンターメロディを活かしたコーラスワーク、スライド・ギターによるメロディアスなプレイが際立っています。3分30秒前後でのハードなギターと唄メロによるアプローチがコントラストに感じてしまうぐらいに、緩やかに過ぎていく時間は、トロピカルさを讃え異国の地の海でただただ身を委ねてるようなサウンドスケープを思い浮かべてしまいます。決して1970年代の楽曲「Woderful Stories(邦題:不思議な話を)」と比較してはいけないかもしれないが、その立ち位置を感じずにいられない、いくぶんファンタジックなシンフォニックさを感じてしまいます。
3「Real Love」は、重苦しいベースラインに、ギターとキーボードもずっしりとハードさある楽曲です。重苦しく進行するヴァースのメロディラインから、サビ部では解き放たれるかのように唄うJon Andersonのボーカリゼーション、5分50秒前後でのプログラミングによるサウンド処理、7分40秒前後からのブルージでヘビーなギター・ソロなど、ヘビーなギターのリフなど、アルバム「Big Generator」から脈流するハードなアプローチが冴えています。
それは、3「Real Love」以上にもギターによるヘビーでメタリックなリフで幕を上げる4「State Of Play」でも同様なアプローチですが、これぞTrevor Rabinらしさと思われるヴァースから急激にコーラスワークな感覚のサビ部の展開は、3「Real Love」以上にメリハリが効いてるのではないでしょうか。
5「Walls」は、同国のロックバンド:Supertrampのボーカリスト:Roger Hodgsonと、Trevor Rabin、Jon Andersonの3人が作曲者として連なる楽曲です。メロディックな2台のギターが絡み合う冒頭部から、ヴァースやサビ部で感じるのはアルバム随一のポップさです。低音を活かしたヴァースの唄メロのメロディラインやアコースティック・ギターをメインとしたアンサンブル、サビ部のコーラスワークなど、1975年発表のアルバム「Fantastic Mac」や1977年発表のアルバム「Rumours(邦題:噂)」などで一世を風靡した同国イギリスのFleetwood Macのポップさ溢れる楽曲が脳裏に浮かんでしまいます。
6「Where Will You Be」は、パーカッシブなベースのプログラミングに、アコースティカルなアンサンブルで展開する楽曲です。2「I Am Waiting」以上にトロピカルさを感じる軽快さも、2分30秒前後からマイナー調に移調し、特に、3分前後から4分30秒前後まで続く枯れた味わいのあるギター・ソロによるレイドバックなアプローチは聴きどころの1つです。
最終曲7「Endless Dream」は、「a) Silent Spring」と「b) Talk」と「c)Endless Dream」の3部構成による約15分以上にも及ぶ大作です。
「a) Silent Spring」は、そのピアノと途中からユニゾンするハモンド・オルガンの高速フレーズの疾走感に、タメの効いたリズムとギターのリフで幕を上げ、スリリングなギター・ソロが聴けます。Rick WakemanとSteve Howeが不在にも、ハードディスク・レコーディングだとしても、Trevor Rabin、Jon Anderson、Chris Squareがメインであろう、緊張感あるアンサンブルは1990年代のYESらしさを感じさせてくれます。それはまた、「b) Talk」でのTrevor Rabin自身によるエコライジングされたヴォイシングで導入部を唄うことからも強く感じてしまうのです。
「b) Talk」は、ピアノの断片的なアンニュイなフレーズとTrevor Rabinによる導入部の唄メロのパートは、サイケデリック/スペース系の幻想さを醸し出し、随所にきめ細やかでギターの豊富なアイデアやフレーズが聴かれます。2分前後からは、Jon Andersonによるピアノをメインとしたヴァースの唄メロへと移行します。3分前後からのギターのリフとともに、無機質なサウンド・エフェクトがリードし、タイトなリズムとヴァースのパートを挟み、再度、2分前後からのJon Andersonによるヴァースの唄メロがバンド・サウンドへ展開します。5分30秒前後からの新たなる無機質なサウンド・エフェクトはアトモスフェリックさを拡げ、「a) Silent Spring」で聴かれたピアノによる高速フレーズが徐々にアンサンブルに加わると同時に、あらためてタメの効いたリズムとギターのリフに導かれ、Jon Andersonによるヴァースの唄メロがバンド・サウンドで展開します。10分前後からは、心持ち、それまで以上に力強く唄い上げるJon Andersonのボーカリゼーションと、続くコーラスワーク、ギター・ソロにより壮大なシンフォニックへと展開していきます。
「c)Endless Dream」は、「b) Talk」のJon Andersonによるヴァースの唄メロが、パーカッシブなベースラインとともにスピリッチュアルなイメージでゆったりと奏でられ、クロージングを迎えます。
一聴した時には、数秒先を予測の出来ないRick WakemanとSteve Howeのプレイに比べれば、メインとなるモチーフの繰り返しでの展開にも、たとえば、楽曲「Awaken(邦題:悟りの境地)」、楽曲「Gates of Delirium(邦題:錯乱の扉)」、楽曲「Close To The Edge(邦題:危機)」などの1970年代のYESの大作となる名曲と肩を並べて語られることは希薄かとは思いました。それでも、1990年代のYESを代表する緊張感と切迫さ、ファンタジックさ、メロウさなどが詰まった傑作です。
アルバム全篇、楽曲5「Walls」を除き、Trevor RabinとJon Andersonの2名がメインのコンポンザーとなる楽曲で占められることや、Trevor Rabin主導により仕上げられたアルバムには統一感を感じます。発売当時の音楽状況などにアルバムの素晴らしさが埋もれてしまったかもしれませんが、プログレッシブ・ロックの「終わりのない夢」を魅せてくれる最終曲まで、ぜひ聴いて欲しいアルバムです。
[収録曲]
1. The Calling
2. I Am Waiting
3. Real Love
4. State Of Play
5. Walls
6. Where Will You Be
7. Endless Dream:
– a) Silent Spring
– b) Talk
– c) Endless Dream
1970年代のYes黄金期のプログレッシブ・ロックと比べれば、全体的な緊張感や切迫さは薄れているものの、プログレッシブ・ロックでは、ポップさもあるシンフォニック系やメロディック・ハード系が好きな方におすすめです。
当アルバムを聴き、Yesの「90125YES」期のサンプリングも導入しポップでハードなアプローチのサウンドを好きになった方は、1983年発表のアルバム「90125」、1987年発表のアルバム「Big Generator」、1991年発表のアルバム「Union(邦題:結晶)」を聴いてみてはいかがでしょうか。
また、Yesファンでは、「90125YES」が1987年に発表したアルバム「Big Generator」を好きな方、大作を聴きたい方におすすめです。
アルバム「Talk」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲7「Endless Dream」
高速なフレーズによる緊張感、アトモスフェリックさとサウンド・エフェクトによる幻想さ、アンサンブルにバリエーションを持たせてリフレインさせる唄メロなど、1970年代のYESにあったサウンド・メイキングやアンサンブルが、1990年代YESとしてプログレッシブな展開で構築してくれた楽曲が嬉しくてたまりません。
2曲目は、冒頭曲1「The Calling」
過去3作(1983年発表のアルバム「90125」、1987年発表のアルバム「Big Generator」、1991年発表のアルバム「Union(邦題:結晶)」)のアルバムのオープニングよりも、楽曲全体で爽快さを感じさせてくれるロック然とした印象だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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