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プログレおすすめ:YES「Union(邦題:結晶)」(1991年イギリス)


YES -「Union(邦題:結晶)」

第267回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1991年に発表したアルバム「Union(邦題:結晶)」です。
Union(邦題:結晶)

「Dialogue(ダイアローグ)」+「90125YES」=?

Jon Anderson(ボーカル)、Bill Bruford(ドラム)、Rick Wakeman(キーボード)、Steve Howe(ギター)が集い1989年に発表したアルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe」は、1989年当時のモダンな技術が盛り込まれ、「ワールド・ミュージック」や「ニューエイジ」も感じさせる多彩なサウンドに魅了されました。ただし、多くのファンは、名盤「Fragile(邦題:こわれもの)」の制作メンバーが集った新作アルバムなら・・・と考えれば、緊張感や切迫さ溢れるアンサンブルにメロウさやファンタジックさが共存したサウンド・メイキングを期待してしまったかもしれません。

個人的には、それでもなお、YESとして意識せずともプログレッシブ・ロックのスキルフルやテクニカルさが垣間見えるアルバムとして、心に留まる名作なのです。

その4人は、当時は仮タイトル「Dialogue(ダイアローグ)」と呼ばれる新作アルバムの制作をすすめますが、と同時に、1983年に名曲「Owner Of Lonely Heart」をヒットさせた所謂「90125YES」のメンバーであるChris Squire(ベース)、Tony Kaye(キーボード)、Alan White(ドラム)、Trevor Rabin(ギター)が、もともと「90125YES」で一緒に活動していたJon Andersonを通じて、合流したのです!

Tony Levin(ベース)を除く「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバー4人と、Jon Anderson以外の「90125YES」の制作メンバー4人での新作アルバムと言われば、Yesの当時のファンは驚きとともに迎えたことでしょう。その話題やその期待は、耳の肥えたYesのファンにも、月日が経つにつれて情報量が多くなればなるほど、ネガティブなレビューばかりをみてしまいます。それでもなお、

YESの名盤や名作と呼ばれるアルバムの制作に関わったメンバーが集った貴重な音源のアルバムとして、自分は聴いてしまいます。

感傷的になってしまいますが、2015年にChris Squireが他界したことで、1983年発表のアルバム「90125(ロンリー・ハート)」以降のアルバムは、いずれのアルバムもYesと云うバンドを知るべきメモリアルなのです。

楽曲について

アルバムには、

・Jon Andersonがボーカルをとるものの、各楽曲を演奏するメンバーは、「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーと「90125YES」の制作メンバーのいずれかで分かれている。

・Stebe Howeのソロ・アルバム用の楽曲とJon Andersonがメインとなる。

・「90125YES」の制作メンバーによる楽曲(4「Lift Me Up」、6「Saving My Heart」、7「Miracle Of Life」、9「The More We Live-Let Go」)がちりばめられている。

・「90125YES」の制作メンバーによる楽曲は、録音されたオケに後からJon Andersonがボーカル入れをした。

・ベース奏者は、「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーの楽曲はTony Levin、「90125YES」の制作メンバーの楽曲はChris Squireである。

・シングル・ヒットした楽曲が「90125YES」の制作メンバーによる4「Lift Me Up」と6「Saving My Heart」である。

・Steve Howe主導による3「Masquerade」がグラミー賞にノミネートされる。

など、情報が入れば入るほど、アルバムに統一感はない印象を受けます。

そのアルバムを完成へ向けたのは、プロデューサーのJonathan Eliasが楽曲の共同制作者として名を連ねるほどに楽曲制作へ注いだことと、Chris Squireが「Dialogue(ダイアローグ)」と「90125YES」のいずれの楽曲にもYESらしさの象徴の1つ(コーラスワーク)として加わることによると思うんです。

Trevor Rabin主導によるポップにもハードなアプローチが魅力の「90125YES」の制作メンバーの楽曲は、おそらくアルバムの大半を占める「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーによる楽曲にも、プロデューサーのJonathan Eliasの尽力により多少なりと重厚さあるイメージがもたれます。1989年に発表されたアルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe」での「ワールド・ミュージック」や「ニューエイジ」よりも、アルバム・ジャケットを含め、ずっしりとした印象を与えてしまうことは避けて通れないのかもしれません。

当アルバムが世に出たことに感謝しつつ、「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーによるアルバム冒頭曲が1「I Would Have Waited Forever」であれば、「90125YES」の制作メンバーによるアルバム冒頭曲が4「Lift Me Up」と思い聴いていきましょう。

Jon Andersonがサビ部の印象的なメロディラインで幕を上げ、随所に1970年代のYesらしさを感じさせる1「I Would Have Waited Forever」、アンサンブルをリードするヘビーなギターのリフが「90125YES」の印象をもつもののSteve Howe独特のギターフレーズが聴ける2「Shock To The System」、そして、Steve Howeによるギター・ソロの3「Masquerade」でいったん落ち着き、4「Lift Me Up」でアルバム第2幕があがると考えればいいんだ。

4「Lift Me Up」は、変拍子を多用したギターやキーボードの旋律が1990年代に復活を遂げたアメリカのロックバンド:Aerosmithを想起させる冒頭部から、ヴァースではクリーントーンのギターによるストロークで大らかに唄い上げられるメロディラインが印象的です。3「Masquerade」に続きアコースティカルさや牧歌的なアンサンブルを感じさせつつも、アルバムのこの位置に選曲されていることで、どことなく感じられる違和感は少し和らげ聴けるんです。

5「Without Hope You Cannot Start the Day」は、ピアノとシンセサイザーによる数少ない音数のアンサンブルにJon Andersonが唄い上げる冒頭部から1分40秒までのパート、エッジの効いたギターがメインで展開する1分40秒前後以降のパート、エレクトロの比重が強くなり変拍子も交え変則的でプログレッシブな構成となる3分50秒前後からのパートも一貫してシリアスな印象です。

6「Saving My Heart」は、Chris Squireがメインボーカルを担当しレゲエのリズムを活かした軽やかな楽曲です。名曲「Owner Of Lonely Heart」などのギター・プレイにも影響を感じさせる同国イギリスで1980年代に活躍したロックバンド:The Policeのレゲエ系の側面を感じさせるも、楽曲7「Teakbois」(アルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe」収録)と較べて、楽曲のコンポンザーのコアが異なることでこれほどまでに印象が変わるのかと感じてしまいます。

ただ、この冒頭部からの3曲(1、2、3)と次なる3曲(4、5、6)の流れに、ファンタジックさ、ハードさかシリアスさ、軽快さの流れの印象を感じてしまいます。そう感じることで、バラバラな印象と感じるアルバム前半部も心落ち着け、次に1曲1曲の世に出た大切さを噛みしめて聴き入ってしまいます。

7「Miracle of Life」は、6「Saving My Heart」に続きChris Squireがメインボーカルによる楽曲で冒頭部と6分前後以降にアンサンブルで聴かれるハモンド・オルガンの旋律が印象的な楽曲です。ハモンド・オルガンとアコースティック・ギターが入れ替わり輪舞曲を高速テンポで展開するようなリズムカルなフレーズを含む冒頭部に、2分前後からは4「Lift Me Up」に近しいヴァースのアンサンブルやメロディラインでミドルテンポに進行していきます。

8「Silent Talking」は、リードするギターのリフがハードに、シンセサイザーによるサウンドが不穏さを醸し出し、いくぶんシリアスさのある楽曲です。2分25秒前後からのSteve Howeらしさあるギターのフレーズとともに、一変し楽曲タイトル「Silent Talking」がメロディラインやコーラスで繰り返し聴かれるYESらしさ溢れるコーラスワークがたまらないです。

冒頭部からシンセサイザーをメインとしたアンサンブルが重厚さを醸し出した9「The More We Live – Let Go」は、「90125YES」の制作メンバーの楽曲の中でも、シリアスな楽曲が多い「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーの楽曲に近いミステリアスなミドルテンポの楽曲です。同じくミステリアスさにも無機質でアトモスフェリックさのサウンドの比重を高くした10「Angkor Wat」、真逆にハードなギターのリフによるギター・ロックな11「Dangerous (Look in the Light of What You’re Searching For)」と続いて聴くと、12「Holding On」では、その10「Angkor Wat」と11「Dangerous (Look in the Light of What You’re Searching For)」を足して2で割ったイメージの素晴らしきサウンド・メイキングとアンサンブルが聴けます。「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーによる当アルバム楽曲中で最もシリアスさが濃厚に感じられるとともに、冒頭部、ヴァース、サビ部で聴かれるSteve Howeのキャッチ―なギターのメロディラインや、Tony Levinのリリカルでパワフルなベースラインが印象的です。

Rick WakemanのキーボードとBill Brufordによるパーカッションによる約50秒ほどのインストルメンタル楽曲13「Evensong」に続く、14「Take the Water to the Mountain」は、前作アルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe」で展開したニュー・エイジ系のアンサンブルに、当アルバムによるシリアルなエッセンスも醸し出した楽曲です。Jon Andersonが主導で制作されただろうスピリッチュアルな印象を感じずにいられません。

アルバム全篇、「Dialogue(ダイアローグ)」の制作メンバーと「90125YES」の制作メンバーの楽曲が混在しつつも、1991年当時の異なる2組のYesプロジェクトのクリエイティブさバラエティ豊かにもパラレルな流れを感じさせてくれる前半部(1~6)、徐々にシンセサイザーや当時のテクノロジーによるサウンドが醸し出すアトモスフェリックさに近しいシリアスな楽曲が占め、1973年発表の名作「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」をふと思い出してしまう後半部(9~14)な印象を持ちました。

[収録曲]

1. I Would Have Waited Forever
2. Shock to the System
3. Masquerade
4. Lift Me Up
5. Without Hope You Cannot Start the Day
6. Saving My Heart
7. Miracle of Life
8. Silent Talking
9. The More We Live – Let Go
10. Angkor Wat
11. Dangerous (Look in the Light of What You’re Searching For)
12. Holding On
13. Evensong
14. Take the Water to the Mountain

YESでいえば、「90125YES」の1987年発表のアルバム「Big Generator」、Anderson-Bruford-Wakeman-Howe名義の1989は年発表の同名アルバム「Anderson-Bruford-Wakeman-Howe(邦題:閃光)」、さらに、1973年発表の名作「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」、Jon AndersonとVangelisの一連のアルバムなどを聴く方におすすめです。

といっても、それらに共通する音楽を等しい聴き手は少ないと思います。Yesの音楽活動は長い歴史を誇り、プログレッシブ・ロックの名のもとに、また、1980年代以降の音楽市場を乗り越えようと幅広い音楽性の提示やメンバーチェンジを繰り返してきたことの裏付けとも思います。

1999年のYESの活動状況も踏まえ、ぜひ聴きたいアルバムですね。

アルバム「Union(邦題:結晶)」のおすすめ曲

1曲目は、12「Holding On」
当アルバムでシリアスな印象を与える楽曲でも、Anderson-Bruford-Wakeman-Howe名義でのベースプレイで貢献したTony Revinと、随所にキャッチ―なフレーズを盛り込んで聴かせるSteve Howeのギタープレイに、最もスキルフルさや切迫さを感じさせてくれるからです。

2曲目は、4「Lift Me Up」
Anderson-Bruford-Wakeman-Howe名義ではなく、Trevor Rabin主導による楽曲ですが、冒頭部のギターとキーボードによるアンサンブル、ヴァースでの1970年代YESの牧歌的な側面を感じさせる楽曲構成は、シングル・ヒットとした事実も含め、YESに「近い人間」による「YESチルドレン」的なアンサンブルとして素晴らしい仕上がりと思います。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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