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プログレおすすめ:YES「Open Your Eyes」(1997年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2021/06/27 1990年代, YES(5大プログレ), イギリス , , , , ,


YES -「Open Your Eyes」

第269回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1997年に発表したアルバム「Open Your Eyes」です。
Open Your Eyes
アルバム「Talk」を最後に、Tony Kaye(ハモンド・オルガン)とTrevor Rabin(ギター、キーボード)が脱退し、事実上、「90125YES」によるバンド形態が終わりを遂げます。

そして、Rick Wakeman(キーボード)とSteve Howe(ギター、スティール・ギター、マンドリン、バンジョー)がバンドに復帰し、ライブ音源とスタジオ音源を混在させたアルバム「Keys to Ascension」とアルバム「Keys to Ascension 2」をそれぞれ1994年と1997年に発表され、当時のYesファンは、アルバム「Tormato」以来の1970年代黄金期メンバーによる完全オリジナル・スタジオアルバムが発売されることを期待したに違いありません・・・。

ただ、諸事情が重なり、またもやRick Wakemanが脱退してしまいます。最終的に、当アルバム「Open Your Eyes」制作時の正式メンバーは、Jon Anderson(ボーカル)、Chris Squire(ベース、ハーモニカ、ボーカル)、Alan White(ドラム、パーカッション)、Steve Howe(ギター、スティール・ギター、マンドリン、バンジョー)に、1991年でのアルバム「Union」以降、楽曲のプロデュースやライブ・ツアーのサポート・メンバーとなっていたBilly Sherwood(キーボード、ギター)です。Rick Wakeman不在の穴埋めをする形として、次作アルバム「The Ladder」では正式メンバーとなるIgor Khoroshev(キーボード)をゲストに迎え入れ3曲(1「New State of Mind」、4「No Way We Can Lose」、5「Fortune Seller」)、アメリカのロックバンド:Totoのキーボード奏者:Steve Porcaroが1曲(2「Open Your Eyes」)でそれぞれキーボード・プレイを魅せてくれます。

アルバム自体は、もともとChris SquireがBilly Sherwoodとともに、自身のソロ・プロジェクト:Chris Squire Experimentとして発表予定だった楽曲をベースになっています。過去にもJon Andersonが主導で制作された1973年発表の名作「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」もありましたが、1987年発表のアルバム「Big Generator」以降、いずれのアルバムは、その時その時にいずれかのメンバーが制作過程だった楽曲やモチーフ、および、1980年代以降に正式メンバーとなったメンバーが主導で制作されています。たとえば、アルバム「Tormato」のような新境地への開拓イメージとは異なるため、アルバム発表毎に、どのような作品に仕上がったのか、耳を傾けるまでドキドキするYesファンも多かったのではないでしょうか。

そう、当アルバムもたぶんにもれず、Chris Squireの人柄が溢れたかのようなメロディが活き活かされた元気さに溢れた作品と思います。結成30周年を記念したアルバムとのこともあり、Chris Squireによる当時の並々ならむ想いが伝わってなりません。

楽曲について

冒頭曲1「New State of Mind」は、重厚なギターのリフとベースがユニゾンで幕を上げ、同じくYESとしては高音のトーンが抑え気味の分厚いコーラスワークが交互に交わすヴァースが進行する楽曲です。前々アルバム「Union(邦題:結晶)」や前アルバム「Talk」の中盤に連なる楽曲を彷彿とさせる重厚さは、「The Calling」(アルバム「Talk」)の爽快さとは異なるアルバムのオープニングとして、Chris Squireのカラーが全面に出ているのではないかと感じれますが、「90125YES」時の楽曲の踏襲とも勘違いされ、損してしまっているのではないかと思います。クロージング直前のスティール・ギターによるオリエンタル・ムードを醸し出す幻想さは、ここ数年にはないアクティビティを感じてしまいます。

アルバムタイトル楽曲2「Open Your Eyes」は、Jon AndersonとChris Squireの掛け合いボーカルが聴けるポップさが弾ける素敵な楽曲です。エレクトリック・シタールの音色に耳を奪われがちですが、Chris Squireのベースラインをメインに考えたと想像しうるインストルメンタル部のリフなど、低音を効かせながらも、思った以上に軽快さにも富んでいるのが印象的ですね。また、「90125YES」でのスタッカートを効かせたギター・アプローチが聴けることが、1「New State of Mind」と同様に、「90125YES」時の楽曲の踏襲とも勘違いされてしまうかもしれません。ただそれも、Steve Howe特有のミドルやクロージングでのギター・ソロとポップさが活きた佳曲に仕上がってます。

3「Universal Garden」は、楽曲「Clear Days」(アルバム「Time And A Word」収録)でのメインのアンサンブルや、楽曲「Time And A Word」(アルバム「Time And A Word」収録)での徐々にインストルメンタルに色を添える役割ではなく、楽曲「Love Will Find A Way」(アルバム「Big Generator」収録)のように、インストルメンタル部をドラマチックに映える役割を担うかのような弦楽導入が印象的な楽曲です。冒頭部のアコースティック・ギターと弦楽によるアンサンブルは、ヴァースでもマイナー調のメロディラインをドラマチックに映え、いくぶんマイナー調でポップさのあるファンタジックなサビ部とコントラストを成し展開していきます。コーラスワークやギター・ソロも含め、ドラマチックさとファンタジックさに溢れていますね。

4「No Way We Can Lose」は、古き良き1960年代のオールドスタイルのポップな楽曲に通じるリズム感には、Jon AndersonによるYESのポップでメロウな側面が活きた楽曲かと思います。カリプソ調のSteve Howeのギター・リフやバンジョーによるソロ、Chris Squireのハーモニカなど、楽しげな雰囲気を壊さずに展開するアンサンブルが微笑ましいです。と同時に、2014年発表のアルバム「Heaven & Earth」のサウンド感を予見したかのようなクリエイティブさも感じます。

5「Fortune Seller」は、ベースのリード・フレーズで幕を上げ、ギターとキーボードをメインとしたアンサンブルはアルバム楽曲中、予測つかないフレーズが繰り出されては、水の中を流麗に泳ぐ魚のごとく、テクニカルでスキルフルなYESらしさ溢れるプログレッシブ・ロックな楽曲です。4分前後からのオルガン・ソロ、4分35秒前後のベースのリード・フレーズに幻想的なトーンでのヴァースなど、クロージング直前まで複雑なアンサンブルを聴かせてくれます。

6「Man In The Moon」は、2「Open Your Eyes」と同様に、Chris Squreがソロでの発表を想定していた楽曲で、レゲエのリズムをベースにした楽曲です。やはり、2「Open Your Eyes」と同様に、Jon AndersonとChris Squireによるボーカルで唄うアンニュイなメロディラインをひき立てるかのように、2分前後の弦楽によるアレンジや、3分前後からクロージングまで続くSteve Howeのルーズなフレーズを弾くギター・ソロも含め、エキゾチックで異色なサウンド・メイキングが堪能出来ます。

7「Wonderlove」は、アコースティック・ギターによるフレーズが東洋風のサウンドを醸し出し、スティール・ギターが加わっり「90125YES」を彷彿とさせるスタッカートを効かせたギターのフレーズによるアンサンブルでは唄メロのメロディラインも含め、オリエンタルなムードを、2分40秒前後から3分10秒前後までのパートと、5分5秒前後からクロージングまでは、Steve Howeのギター・ソロを皮切りに、ギター、ベース、弦楽のアンサンブルとヴァースの唄メロのメロディラインがスリリングさにより、静と動ではなく、ドラスティックな構成力で聴かせてくれます。

8「From The Balcony」は、Steve Howeがアコースティック・ギターで時折ストロークを交えつつアルペジオをメインとしたアンサンブルにJon Andersonのボーカルのみの約2分40秒の小曲で、YESの音楽性の1つの要素であるアコースティカルで素朴さに溢れています。

9「Love Shine」は、唄メロのメロディラインのポップさをひき立てるかのように、ギターのリフはリズミカルで心美良いリフを刻み、もう一台のギターがアンサンブルに随所にSteve Howeらしさ溢れるフレーズを散りばめるメロウな楽曲です。弦楽もアンサンブルが突き抜けるかのようなポップさに華を添えるのも印象的ですが、当楽曲でも、Steve Howeによる水を得た魚が如く、特に3分55秒前後からクロージングまでのパートととも弾きまくるギターの旋律は聴いていてたまりません。

10「Somehow, Someday」は、アコースティック・ギターによるヴァースで幕を上げ、30秒前後からは、当アルバムを象徴するかのようなオリエンタルなムードを讃えた唄メロのメロディラインが展開していきます。力強いギターのリフとともに、唄メロのメロディラインをメインのテーマとするならば、サブ・テーマを奏でるようなメロディラインで弾くギターとキーボードのメロウな旋律も含め、春のうららかな午後をサウンドスケープさせてくれます。そのまま展開しても良いところを3分前後からの冒頭部のアコースティック・ギターのみによるヴァースを挟むなど、優しげで温かみのある印象の楽曲です。

11「The Solution」は、エレクトリック・シタールによる旋律で幕を上げ、15秒前後からのキーボードの音色を活かした幻想的なサウンド・メイキングのヴァースと唄メロから、40秒前後からはギターとリズムセクションが力強いアンサンブルとメロディライン、そして、1分15秒前後から15秒前後の幻想さあるパートへ戻れば、その後は、ハードなアンサンブルのパートも交え、いくつかに曲調を変えて進行していきます。たとえば、アルバム「The Yes Album」での組曲形式の楽曲を想起させる約5分20秒ほどの楽曲です。

約5分20秒前後でクロージングする11「The Solution」に、しばしの無音とともに7分20秒前後に自然のSEと人工音が交じり合ったサウンドが進行し、途中途中に、冒頭曲1「New State of Mind」のヴァースのパートなどが挟み紡ぎます。そう、自然のSEと人工音を聴いていてふと脳裏をよぎるのは、楽曲「Gates of Delirium(邦題:錯乱の扉)」や楽曲「Close To The Edge(邦題:危機)」による内なる生命や漲る活力なんです。そのサウンドが絶え間なく約15分に渡って展開していきます。この長尺のサウンド・パノラマは、聴き手によっては冗長さに聴き失せてしまうかもしれません。個人的には、1973年発表の名作「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」の延長上なる楽曲と思うとともに、楽曲「Close To The Edge(邦題:危機)」の冒頭部の自然のSEをポジティブな気持ちで受け止めているため、時間を許す限り聴いていたいクリエイティビティに溢れた楽曲と思うのです。

アルバム全篇、ここ「90125YES」期のアルバムに溢れる音楽性を盛り込みつつも、Chris Squire主導によるChris Squireの人柄と重しべき、爽快さよりも、活きの良さ、みなぎる元気に溢れた感覚を憶えてしまうサウンド・メイキングを感じるアルバムです。惜しむらくは、その元気に溢れた感覚がプログレッシブ・ロックの切迫さや緊張感、テクニカルさよりも上回ってることや、Jon Andersonの高音を効かせたボーカリゼーションよりも、他メンバーによるコーラスワークやChris Squireがボーカルを担当する楽曲があるため、「90125」の制作メンバーの楽曲よりも、1970年代黄金期の名作アルバムよりも、さらにトーンが落ちたと感じるために、印象が薄くなってしまったアルバムと思うのです。

春の季節に似つかわしく、「元気さ」が前向きな気持ちへ繋げる、聴いていて最も涙ぐましくなるアルバムでもあります。ぜひメロウなYESのサウンドが好きな方には聴いて欲しいアルバムです。

[収録曲]

1. New State of Mind
2. Open Your Eyes
3. Universal Garden
4. No Way We Can Lose
5. Fortune Seller
6. Man In The Moon
7. Wonderlove
8. From The Balcony
9. Love Shine
10. Somehow, Someday
11. The Solution

随所に、プログレッシブな展開の楽曲(「Fortune Seller」、「Wonderlove」など)もありますが、アルバムの大半の楽曲は、1970年代のYes黄金期のプログレッシブ・ロックと比べれば、全体的な緊張感や切迫さは薄れ、どちらかと云うと、オリエンタルなムードのあるメロディックでポップな楽曲が占めており、ポップ・ロックを聴く方にもおすすめです。

当アルバムを聴き、Yesを好きになった方は、1987年発表のアルバム「Big Generator」、2014年発表のアルバム「Heaven & Earth」を聴いてみてはいかがでしょうか。

また、ひろくロックのカテゴリーとして、シーズンとしての「春に聴くアルバム」としてもおすすめですし、YESのファンの方々で、あまり聴き十分ではない方には、Chris Squireを意識し聴くアルバムとしてもおすすめですね。

アルバム「Open Your Eyes」のおすすめ曲

1曲目は、7「Wonderlove」
エレクトリック・シタール、スティール・ギター、アコースティック・ギターによるフレーズが醸し出すオリエンタルなムードが当アルバムのサウンド・メイキングを象徴させる楽曲と同時に、スリリングなパートへの展開もあるドラスティックな構成力がたまりません。

2曲目は、5「Fortune Seller」
アルバム中では最も楽曲の展開が予測出来ないフレーズに溢れたプログレッシブな楽曲だからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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