プログレおすすめ:Traquilty「Silver」(1972年イギリス)
Traquilty -「Silver」
第251回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレ・フォーク系のロック・バンド:Traquiltyが1972年に発表した2ndアルバム「Silver」をご紹介します。
Traquiltyは、1971年に、イギリスにて、シンガー・ソングライター:DonovanのマネージャーであるAshley Kozakが目を向け、Terry Shaddick(ギター、アコースティック・ギター、ボーカル)をメイン・コンポンザーに、Eric Dillon(ドラム)、Paul Leverton(ベース)、Kevin McCarthy(ギター、ボーカル)、Tony Lukyn(ピアノ、エレクトリック・ピアノ、クラビネット、ヴィブラフォン、オルガン、メロトロン)らが集い結成したバンドです。
Ashley Kozakが目を向け、切望したのは、ポップス、ロック、エレクトリック・フォークが融合した優しげで穏やかなアンサンブルを持つバンドであり、Traquiltyが奏でる音楽には、その音楽性が溢れ、ふくよかなハーモニーが溢れています。ただ、それがかえって、1970年代初頭、フォーク寄りなのか、プログレ寄りなのか、と云う部分で、いずれのファンからも目を向けられなかったそうです。そのファジーな印象が損をしてしまうと感じずにいられません。
当アルバムは、同名1stアルバム「Traquilty」に続く2枚目のアルバムで、ベースとドラムはBernard Hagley(ベース、フルート)とPaul Francis(ドラム、パーカッション)に代わり、さらに、Berkeley Wright(ギター、ボーカル)が加わった5人編成で制作されています。リズムセクションが変わることで、1stアルバムよりもきめ細やかなリズムセクションにて、
キャッチ―なメロディと高音のコーラスワークによるスイートさと、英国フォークの翳りあるサウンドが聴けるアルバムです。
楽曲について
まるでBee GeesやCrosby Still And Nashを彷彿とさせるコーラスワークや、さらにポップさ溢れるメロディラインに、キャッチ―さが溢れる楽曲が多く、おそらくプログレッシブさとは無縁と感じてしまうかもしれません。
スライド・ギターが加わったアンサンブルも印象的なカントリー調のバラードによる3「Linda」、3「Linda」よりもジャングル・ビートを活きたカントリー調の5「The Driver’s Engine」、ハードロックバンド:Deep PurpleのBurn期を想起させるファンキーなアンサンブルが展開する6「Couldn’t Possibly Be」、1960年代のバンド:The Monkeysを想起させるメロディラインの7「Nice and Easy」、The Beatles時代をはじめPaul MacCartnetyが得意とする1950年代スタイルのビルボード調のメロディラインの8「Dear Oh Dear」、まさにDonovanを想起させるアコースティックな小品の最終曲10「The Tree」など、バンドのコンセプトであるポップ、ロック、エレクトリック・フォークが融合したさまざまなタイプのアンサンブルにも、男性だけのバンドにも関わらず、女性が唄っているかのようなボーカリゼーションやコーラスワークに、ただただ驚かされてしまいます。
特に、2「Can I See You」は、スワンプ・ロック風のアンサンブルによる泥臭いイメージと、そのアンサンブルが奏でるミドルテンポでのスイートなハーモニーのイメージとのギャップに、とても新鮮さを感じてしまいます。
いっぽうで、冒頭曲1「Eagle Eye」は、キャッチ―なメロディとコーラスワーク、ファースト・タッチでの疾走感には、爽快さ溢れるロックを感じてしまう楽曲ですが、それでいて、2分20秒前後からの変拍子を交えたギターやベースのパートなど、ベースの手数の多さといい、聴きもらしがちなプログレッシブのエッセンスを感じえるし、4「Whip Wheel」は、ギターの歯切れの良いストロークを交えリズミカルなアンサンブルに、つい口ずさみたくなる甘酸っぱさ溢れるポップなヴァースが展開しながらも、3分前後からPink FloydのDavid Gilmoreを彷彿とさせるハードなアプローチのギター・ソロが展開されてクロージングする様に驚きを隠せくないです。
そして、最もプログレッシブらしさ感じるのは、アルバムのタイトル楽曲の9「Silver」による約7分の大曲です。そのスイートさ溢れるヴァースのパートにやはり耳を奪われがちですが、3分前後からのギター・ソロのパートに続き、4分前後からの冒頭部のアンサンブルから徐々に3分前後のスリリングなアンサンブルによるヴァースへと移行し、5分30秒前後からのエクスペリメンタルなパートを挟さみつつ、再度スリリングなヴァースに戻りクロージングする楽曲構成には、変拍子やリズムチェンジなどのスキルフルさの比重が低くとも、プログレッシブな展開力を感じてしまいますし、ミドルテンポからはじまるハーモニーのスムーズな展開が約7分と云う長尺さをそれほど感じさせないのです。
アルバム全篇、スイートなハーモニーが活きた楽曲が聴けます。たとえば、フランスのプログレッシブ・ロックバンド:Tai Phongのような変拍子やスキルフルさを活かしたアンサンブルがあれば、あらためて、フォーク寄りなのか、プログレ寄りなのか、と云う部分で、いずれのファンからも目を向けられなかったファジーさにならなかったのではないかと思います。
それでもなお、フォーク寄りではブリティッシュ・ロックにある翳りさを感じるスイートなハーモニー、プログレ寄りでは部分的に展開力を仄かに漂わせるため、つい忘れた頃に聴きたくなるアルバムです。
[収録曲]
1. Eagle Eye
2. Can I See You
3. Linda
4. Whip Wheel
5. The Driver’s Engine
6. Couldn’t Possibly Be
7. Nice And Easy
8. Dear Oh Dear
9. Silver
10. The Tree
キャッチ―な唄メロのメロディラインに、男性が唄うのに女性っぽさに溢れたボーカルとコーラスワークが生み出すスイートなハーモニーは、初期Bee GeesやCrosby Still And Nashなどを好きな方におすすめです。
当アルバムを聴き、Traquiltyを好きになった方は、そのスイートなハーモニーを活かしたままに、キーボードをメインとしたファンタジックさの比重が高い同名1stアルバム「Traquilty」を聴くこともおすすめしたいです。
アルバム「Silver」のおすすめ曲
1曲目は、9「Silver」
リズムチェンジを巧みに活かしつつ、緩急をつけて、スイートなハーモニーを聴かせる構成力が素敵です。
2曲目は、2「Can I See You」
スワンプ・ロック風のアンサンブルによる泥臭いイメージと、そのアンサンブルが奏でるミドルテンポでのスイートなハーモニーのイメージとのギャップが、とても新鮮に感じてしまいます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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