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プログレおすすめ:Pink Floyd「A Momentary Lapse Of Reason(邦題:鬱)」(1987年イギリス)


Pink Floyd -「A Momentary Lapse Of Reason」

第276回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1987年に発表したアルバム「A Momentary Lapse Of Reason」をご紹介します。

Pink Floyd「A Momentary Lapse Of Reason(邦題:鬱)」

はじめて聴いたPink Floydのアルバム

プログレッシブ・ロックバンドのアルバムをうすらうすら聴いてた時分に、はじめて聴いたPink Floydのアルバムです。当時は、いまほどに自身に入ってくる情報は少なく、いずれのアルバムが最新アルバムなのか、いずれのアルバムが名作・名盤であるのかは、帯の情報を辿るか、雑誌を読み知ることしかなかったです(そんな地域で過ごしていました・・・)。

のちに、Hipgnosisによると知ることとなる、実際に700台のベッドを海岸に並べ、のべ3kmにわたった光景に撮影されたアルバム・ジャケットを見て、不思議と手を伸ばし、レンタルしたのがきっかけでしたね。

言い訳かと思いますが、レンタルCDに、日本語のライナーノーツが付いていなかった・・・(よくありますよね?)。そのため、 まずは「耳から入る」音だけに集中出来て、Pink Floydなる音楽なんだなと聴き進めていったわけです。

第一印象は、インストルメンタルの多い流麗なサウンドで美意識を感じたのでした。

・・・そして、後から後から情報は入ってくる・・・。

フロントマンだったRoger Watersなる人物がバンドを脱退後の新体制での最初のアルバムであること。

あらたにDavid Gilmourが主導で制作されたこと。

ドラムには、同国イギリスのThe Beatlesの各メンバーの1970年代以降のソロ・プロジェクトに参加するJim Keltnerや、1960年代後半に名曲「Keep Me Hanging On」などを発表したアートロック・バンド:Vanilla FudgeやJeff Beckとのスーパーバンド:Beck, Bogert & Appiceの元メンバーであるCarmine Appiceが参加していること。

ベースには、Anderson Bruford Wakeman HoweやKing Crimsonなど、プログレッシブ・ロックバンドの名作アルバムに携わるTony Levinが参加していること。

結局のところ、Nick Masonは正式メンバーであるものの、Richard Wrightも含め、ほぼ演奏には触れてないこと。

当時、David Gilmourがソロ・プロジェクトで発表しようとしていたマテリアルであったこと。

「Pink Floyd」として活動するにあたり、Roger Watersから取り沙汰される裁判まで発展し、最終的には、Roger Watersにバンド名の使用料を支払うことと、名盤「The Wall」の権利はRoger Waters側が独占保有することでとり纏まったこと。

などなど。

むしろ、アルバムの第一印象による「美意識」が崩れるのではなく、そのクリエイティビティの高さに溜息がつかずにいられませんでした。

そう、Pink Floydの11枚目にあたるスタジオ・アルバム「A Momentary Lapse Of Reason(邦題:鬱)」は、1983年に発表したアルバム「Final Cut」以来、4年振りのアルバムで、バンドに起きたさまざまな出来事に蠢きながら、制作し発表されたアルバムでした。

Pink Floydとしてのクリエイティビティを維持しているのは、おそらく、名作「The Wall」制作時のカナダ人のプロデューサー:Bob Ezrinが携わっていることや、そのBob EzrinやJon Carin、Patrick Leonard、Bill Payneらキーボード、シンセサイザー、ハモンド・オルガンを操るミュージシャンの存在と思います。他にも、Michael Landau(ギター)、Steve Forman(パーカッション)、John Helliwell(サックス)、Tom Scott(アルト・サックス、ソプラノ・サックス)、Scott Page(テナー・サックス)ら多彩なゲストを迎え制作されたアルバムは、

1980年代当時のモダンなサウンド感がありつつも、1970年代Pink Floydの精巧なるサウンド観が聴けるアルバムと思います。

そして、個人的には、あらためて音楽は変な知識をもたずに聴き愉しむものだと心思わせてくれるアルバムでもあります。

楽曲について

冒頭曲1「Signs Of Life」は、従来のPink Floydなる自然のSEやシンセサイザーをベースにしたアトモスフェリックさに溢れています。名盤「The Dark Side Of The Moon」以降のシリアスさよりも明朗さが漂い、これぞDavid Gilmourであると感じられるギターの旋律とともに、新生Pink Floydなるアンサンブルとしての再現をひしひしと感じます。

当アルバムでは、ミドルテンポでDavid Gilmourの優しげなボーカリゼーションの2「Learning To Fly」でも、鬼気迫るかのようなボーカルゼーションの3「The Dogs Of War」でも、よりヘビーなサウンド・メイキングが成されているのも特徴の1つです。

2「Learning To Fly」は、シンセサイザーのサウンドと、、中間部での男性の声によるSE、ヴァースでのサウンド・コラージュのようなプログラミングの彩り、女性のバッキング・ボーカルなどがありつつも、ハードなエッジを効かせたギターのリフと1980年代のサウンド感を彷彿とさせるたたみかけるリズムセクションが、ヘビーなアンサンブルの楽曲のアンサンブルへと仕上がっています。

3「The Dogs Of War」は、「Dogs」と云う単語からも、1977年発表の傑作アルバム「Animals」の世界観を連想してしまうぐらいにヘビーなサウンドが溢れた楽曲です。ただ、アルバム「Animals」ではDavid Gilmourのハードエッジでブルージなギターの旋律が脳裏に焼き付くも、当楽曲の前半部では、鬼気迫るかのようなボーカリゼーションとシンセサイザーやハモンド・オルガンのリフによる重厚さ、女性のバッキング・ボーカルでじわじわと聴かせてくれます。3分前後からの後半部では、期待を裏切らぬDavid Gilmourによるエッジの効いたギターがソロを繰り広げ、テンポチェンジ後にはテナー・サックスの荒ぶるソロは圧巻です。名曲「Money」を系譜としたブルージ―で強烈なパッセージがあるからこそ、Pink Floydのファンとして迫りくるアンサンブルと唄メロのメロディラインのボーカリゼーションがたまりません。

4「One Slip」は、Phil Manzaneraが作曲に関わり、Tony Levinが参加していることで凄まじいベースラインが堪能出来る楽曲です。デジタルなSEとパーカッションと、ベースラインに呼応するかのように歯切れ良いギターのカッティングがあることで、楽曲は晴やかなイメージを抱かせてくれますが、1980年代当時のモダンなサウンドとともに、やはりヘビーなサウンドに仕上がっています。

5「On The Turning Away」は、シンセサイザーとアコースティック・ギターをアンサンブルに、プログラミングされたサウンドで幕を上げ、David Gilmourによるジェントルなボーカリゼーションが聴ける楽曲です。2分前後からのギターのリフやハモンド・オルガンによるハードなアプローチのパートも1つのアクセントの印象と捉えるぐらいに、清涼さを感じずにいられません。そして、楽曲後半を彩る3分30秒前後からの枯れた味わいのあるDavid Gilmourのギター・ソロの凄まじさに聴き入ってしまいます。

6「Yet Another Movie」は、スペーシ―な空間処理が冴えた雄大なるサウンド・メイキングに、ヴァースとヴァースの間で繰り広げられるDavid Gilmourの情感をクールに抑制しつつも放たれるギター・ソロの旋律が鮮やかに脳裏に残ってしまいます。

曲間なく繋がる約1分30秒前後の小曲7「Round And Round」に続き、プログラミングされたヴォイシングと二重奏するコーラスワークで幕を上げる8「A New Machine Part One」は、9「Terminal Frost」に続く10「A New Machine Part Two」とともに、楽曲「Welcome to the Machine」(アルバム「Wish You Were Here」収録)をふと思い浮かべてしまいます。ただ、その悲痛な感覚も、女性のバッキング・コーラスをほのかに漂わせ、ギター、サックス、キーボードの旋律が繰り広げられる9「Terminal Frost」のアンビエントな佇まいを楽曲として中間部に挟み込むことで、連なる楽曲の印象と、やはり、Roger Waters期のクリエイティビティを踏襲しようとしたのかと感慨深げに聴いてしまいますね。

最終曲11「Sorrow」は、David Gilmourがボーカリストとして唄を牽引し、真骨頂であるギターリストとしてのプレイが縦横無尽に発揮された楽曲です。冒頭部から1分50秒前後にわたりギターは高らかに旋律を刻み、1分50秒前後からはアルバム全篇に通じるヘビーなサウンド・メイキングによるアンサンブルでは、David Gilmourは淡々とヴァースを綴り、6分前後からクロージングまではギター・ソロが繰り広げられ、フェードアウトします。

アルバム全篇、Roger Watersが脱退したとはいえ、David GilmourがPink Floydを存続したいと云う気持ちと、そのDavid GilmourがPink Floyd観が伝わるかのような音楽が堪能出来ると思います。そして、次作アルバム「The Division Bell(邦題:対)」で、より明朗なサウンド・メイキングへと変貌し、ワールドワイドな成功を収めることとなります。アルバム「Final Cut」に続き、「Pink Floydの終焉」と一部のファンに印象を与えてしまった当アルバムも、実は、更なる飛躍を前にした序章にしか過ぎなかったのです。

[収録曲]

1. Signs Of Life(邦題:生命の動向)
2. Learning To Fly(邦題:幻の翼)
3. The Dogs Of War(邦題:戦争の犬たち)
4. One Slip(邦題:理性喪失)
5. On The Turning Away(邦題:現実との差異)
6. Yet Another Movie(邦題:空虚なスクリーン)
7. Round And Round(邦題:輪転)
8. A New Machine Part One(邦題:ニュー・マシーン Part 1)
9. Terminal Frost(邦題:末梢神経の凍結)
10. A New Machine Part Two(邦題:ニュー・マシーン Part 2)
11. Sorrow(邦題:時のない世界)

Pink Floydであれば、アルバム「Animals」やアルバム「Wall」などのシリアスなコンセプトを好む方や、David Gilmourのソロやギター奏法が好きな方におすすめです。

また、当アルバムではじめてPink Floydの音楽に触れる方で、その音楽にご興味を持たれた方は、次作の傑作アルバム「The Division Bell(邦題:対)」や次々のバンドとしてのラスト・アルバム「The Endless River」に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

アルバム「A Momentary Lapse Of Reason」のおすすめ曲

1曲目は、冒頭曲1「Signs Of Life」
はじめて当アルバムを聴いた時には、ただただ音響のあるアンビエントな音楽としか感じず、続けて連なる楽曲も含め、David Gilmourのギターの音色とクールなフレーズの感覚に聴き入り、それを「美意識」と捉えていただけなんですよね。当時のバンド情報、更にバンドの歴史、更に更にプログレッシブ・ロックシーンについて、触れれば触れるほど、プログレッシブ・ロックを聴こうとする時の自分の気構え?が肥大化してしまうことは否めないですね。先入観をもたずに、否定的な気持ちよりも、まずは目の前の音に集中して聴こうと云う気持ちを再認識させてくれるのは、この1「Signs Of Life」でもあります。

2曲目は、11「Sorrow」
David Gilmourのソロ・プロジェクトから発展したであろう足跡を濃厚に感じさせてくれますが、Pink Floydとしての純然たる作品として当初から制作されていないことを補って余りあったとしても、名演にふさわしいと思うのです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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