プログレおすすめ:Genesis「We Can’t Dance」(1991年イギリス)
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1990年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス Genesis, Mike Rutherford, Phil Collins, Tony Banks
Genesis -「We Can’t Dance」
第275回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1991年に発表した14thアルバム「We Can’t Dance」をご紹介します。
当アルバム「We Can’t Dance」は、1986年発表のアルバム「Invisible Toych」以来、5年振りのアルバムです。
Tony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ギター、ベースギター、12弦アコースティックギター)、Phil Collins(ドラム)の3人で制作し1978年発表したアルバム「…And Then There Were Three…」以降、ライブ時にサポートメンバーをいれるものの、当アルバムまでメンバーの3人は不動のままに、1990年初頭を飾った名作といえます。
驚くべきは、アルバム「…And Then There Were Three…」以降、1980年代のアルバム4枚(「Duke」、「Abacab」、「Genesis」、「Invisible Touch」)と当アルバムの5枚のアルバムは、イギリスのアルバム・チャート1位を5作連続で成し遂げていることです。1980年以降、プログレッシブ・ロックのアンサンブルよりも、唄メロにポップさを強め、そのメロディラインを重視したアンサンブルが、結果的に、ワールドワイドに音楽ファンからの反響も良く、成功と云う記録を残したこととなっています。さらに、Phil Collins自身のソロ・アルバム、Mike RutherfordがリーダーによるMike & The Mechanics、そして、いち早く脱退しているPeter Gabrielのソロ活動でも、名作やチャートでの成功を収めています。俗に云う5大プログレバンドでいえば、1980年代以降、YesやPink Floydも成功を収めた作品があるものの、Genesisは新旧メンバーの活動とともに、最も成功しているといえるでしょう。
そして、当アルバムを最後にPhil Collinsは脱退し、連なる成功の「連鎖」が収束していく印象もあるため、
久々に長尺な楽曲を収録し、Genesisに関わる音楽活動の集大成を感じさせてくれるアルバムです。
その後、Phil Collinsはメンバーとして復帰するも健康状態もあり、ドラマーとしてボーカルとしての最後の雄姿を魅せてくれる感慨深いアルバムでもあります。
楽曲について
冒頭曲1「No Son Of Mine」は、時を刻むかのようなパーカッションに、オルガンの音色がかすかに響き渡り、獣が吠えるが如くギターのフレーズで進行するヴァースから、「おまえは私の子供ではない。」と重苦しいテーマをPhil Collinsが高らかに唄い上げるサビ部が印象的な楽曲です。まるで、Phil Collinsがソロ・プロジェクトでの名曲「In The Air Tonight」(アルバム「Face Value」収録)のように、淡々と綴られるヴァースを彷彿とさせてくれるアルバムの幕開けは、1970年代と比べればシンプルであり、プログレッシブな展開はいくぶん意識したかのような感触です。まるで違うと知りながらも、繰り返されるサビのリフレインにも、名曲「In The Air Tonight」を想起してしまいます。
2「Jesus He Knows Me」は、2分10秒前後からリズムチェンジしたパートを挟む、全体的には、ビートが効いたファーストタッチで爽快なロック楽曲であり、シンセサイザーやギターの旋律はストレートにシンプルで、1980年代のGenesisサウンドに彩られています。
3「Driving The Last Spike」は、約10分にも及ぶ大作です。シンセサイザーとギターがメインのアンサンブルがアンビエントさを漂わせ幕をあげ、センチメンタルなヴァースの唄メロのメロディライン、1分30秒前後から1分55秒前後まで唄メロの間を埋めるTony Banksのメロウなシンセサイザーの旋律、キメ細かなPhil Collinsのシンバル使い、2分30秒前後からのリズムをメインとしたアンサンブルとコーラスワーク、3分前後からのさらにリズムを強めオルガンとギターのリフが冴えるアンサンブル、5分35秒前後からリフのパートを挟みギターの16拍子のカッティングをメインとしたアンサンブルなど、テクニカルやスキルフルなプログレッシブな展開が愉しめる長尺な楽曲ではなく、ミドルテンポなロックの楽曲のそれぞれのパートを長尺に繋げていった印象をもつ楽曲です。
4「I Can’t Dance」は、ギターをメインに、スローでブルージ―な展開は骨太なロック楽曲です。Phil Collinsによるボーカリゼーションは奔放にも熱を孕み、途中から加わるオルガンのリフとともに、プログレッシブな楽曲やポップさとは無縁な展開を聴かせてくれます。
5「Never A Time」は、ミドルテンポの楽曲で、1980年代のポップさに、1970年代のファンタジックなサウンドを仄かにただよわせ、シンプルなアンサンブルからはシティ・ポップなイメージを感じえます。たとえば、Mike RutherfordがリーダーによるMike & The Mechanicsの名曲「Take In」(アルバム「Mike & The Mechanics」)を少し力強くしたかのような印象を抱きました。
6「Dreaming While You Sleep」は、Genesis版Peter Gabrielのワールド・ミュージック的なアンサンブルが印象を抱く楽曲です。パーカッシブなエレクトロ・サウンドとギターをアンサンブルに綴られるヴァースの唄メロのメロディラインは、どことなく、Peter Gabrielのソロ・プロジェクト初期を想起してしまいます。サビ部でのオルガンやギターのリフレインの旋律にも、特に、Peter Gabrielのアルバム「Us」のワールドワイドな世界観と同様な感覚を憶えます。ただ、2分50秒前後や5分35秒前後から展開されるミドル部の唄メロのメロディラインには、3人編成によるGenesisの力点を感じさせてくれます。3「Driving The Last Spike」と同様に、それほどプログレッシブな展開を感じさせない約7分にも及ぶ大曲です。
7「Tell Me Why」は、シンセサイザーのサウンドをバックに、クリーントーンのギターのアルペジオのフレーズをメインに、マイルドでふくよかなポップなメロディラインが展開する楽曲です。終始楽曲を鳴り響くクリーントーンのギターのフレーズが煌びやに響き渡り、当アルバム全体での朗らかな印象が最も表現されたアンサンブルとサウンド・メイキングを感じえました。
8「Living Forever」は、ヴァースやサビ部でも複雑なリズム、ギターとシンセが交錯するリフなどが展開されるなど、プログレッシブなエッセンスを感じる楽曲です。1分55秒前後からダウナーな唄メロ、3分前後からのリズミカルさに、アンニュイさを漂わすサウンドのパートなど、クロージング直前に変拍子を織り交ぜ、全体的にテクニカルさが活きた1970年代の一連のアルバム(「A Trick Of The Tail」と「Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐))のリズムをメインとした楽曲を想起させてくれます。
9「Hold On My Heart」は、Phil Collinsらしさ溢れるスローテンポのバラード楽曲です。シンセサイザーとエレクトロなサウンドをメインに、ゆったりと進行するさまは、5「Never A Time」よりもソフトな仕上がりで、プログレッシブ・ロックとは無縁に、ひっそりとした夜の静寂な時間に耳を傾けて聴きたいメロディックなバラードなんです。
跳ねたリズムが効いた10「Way Of The World」、5「Never A Time」や9「Hold On My Heart」と同様のバラード11「Since I Lost You」を挟み、最終曲12「Fading Lights」は、プログレッシブな展開が聴ける楽曲です。
前曲11「Since I Lost You」に続き、Phil Collinsがヴァースを唄い上げるスタイルでエレクトロ・サウンドを含むスローテンポに楽曲は進行していきます。ただ、当アルバムの楽曲中ではTony Banksのキーボードのプレイに、1970年代のGenesisらしさが最も溢れていると感じるのです。3分40秒前後からのMike Rutherfordのディレイを効かせたギターのリフに、シンセのアタックの強い音色が重なり、4分10秒前後から8分前後までのシンセ・ソロは聴きどころといえるでしょう。決して高速タッチなフレーズを弾くのではなく、デジタルチックな感覚にもアルバム全篇のサウンド・メイキングにフィットした旋律を聴かせてくれます。中間部にプログレのエッセンスを盛り込んだ約10分にも及ぶ素敵な楽曲ですね。
アルバム発表当時、「プログレッシブ・ロックの回帰」と謳われたものの、1970年代のプログレッシブな展開とは異なり、奥行きのあるサウンドを重視したアンビエント感も感じるところにプログレッシブなエッセンスがあるのか、前作アルバム「Invisible Toych」と同様に盛り込まれたエレクトロ・サウンドが彩り、キーボードをメインとしたアンサンブルが聴けるアルバムです。
[収録曲]
1. No Son Of Mine
2. Jesus He Knows Me
3. Driving The Last Spike
4. I Can’t Dance
5. Never A Time
6. Dreaming While You Sleep
7. Tell Me Why
8. Living Forever
9. Hold On My Heart
10. Way Of The World
11. Since I Lost You
12. Fading Lights
キーボードをメインとしたメロディックなロックを聴きたい方におすすめです。
長尺な楽曲があるものの、シンプルなアンサンブルが進行する楽曲が多く、温かみのある空気感に包まれています。当アルバムを聴き、Genesisを好きになった方は、まず、前作アルバム「Invisible Toych」を聴くことをおすすめします。
当アルバムをきっかけに、Genesisの各アルバムを聴くとなると、前作アルバム「Invisible Toych」から導入頻度が高いエレクトロ・サウンドの影響からか、奥行きのあるサウンドを重視した感があるからか、そのアンサンブルやサウンド・メイキングを遡り、「これが次におすすめのアルバムだ!」と選択しづらいところがあるんです。
当アルバムで感じるポップさ、メロディックさ、ファンタジックさ、ロックさのいずれかに興味を持ったのあれば、一層のこと、先入観をすべて捨てて、1970年発表の1stアルバム「From Genesis to Revelation(邦題:創世記)」か、1971年発表の2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入)」から順を追って、当アルバムまで聴いてみることも良いかもしれません。
アルバム「We Can’t Dance」のおすすめ曲
1曲目は、12「Fading Lights」
アルバム全篇のクリエイティビティから、決して当楽曲1曲を浮いた存在にすることなく、それでいてプログレッシブなエッセンスも感じるシンセ・ソロを中間部に配した楽曲構成が素敵です。
2曲目は、1「No Son Of Mine」
Genesisと最初に出逢ったのは楽曲「Counting Out Time」(アルバム「The Lamb Lies Down On Broadway」収録)でしたが、リアルタイムではじめて聴いたGenesisの楽曲であることから想い出深いです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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