プログレおすすめ:King Crimson「Lizard」(1970年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, King Crimson(5大プログレ), イギリス, フルート, メロトロン Andy McCulloch, Gordon Haskell, jon anderson, Keith Tippet, king Crimson, Mark Charig, Mel Collins, Peter Sinfield, Robert Fripp, Robin Miller
King Crimson -「Lizard」
第123回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:King Crimsonが1970年に発表した3rdアルバム「Lizard」をご紹介します。
前作2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」は、イギリスのアルバム・チャートで最高4位でした。このチャート記録は、ロックの名盤と云われる1969年発表の前々作1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」の最高5位よりも上位であり、2015年現在、King Crimsonの過去アルバム中、最高位を記録しています。
ですが・・・・
前作で参加していたMel Collins(フルート&サックス)、Gordon Haskell(ボーカル)は残るものの、Peter Sinfield(詩、照明)以外の演奏メンバーは脱退し、オリジナル・メンバーはRobert Fripp(ギター)のただ一人となり、King Crimsonは事実上、「解散」状態に陥るのです。
当アルバムを制作するにあたり、前作2ndアルバムの楽曲「Cat Food」でゲスト参加していたKeith Tippet(ピアノ)が、自身のバンドメンバーであるRobin Miller(オーボエ、コーラングレ)、 Mark Charig(コルネット)、Nick Evans(トロンボーン)を引き連れて参加します。
そして、5大プログレの1つ:YESのJon Andersonが組曲「Lizard」の一部パート(Prince Rupert Awakes(邦題:ルーパート王子のめざめ))のボーカルとしてゲスト参加しています。YESでは、Peter Banksが脱退しギター奏者が不在、一方でKing Crimsonはボーカルが固定しきれていなかった状況下、Robert FrippとJon Andersonのやりとりから実現したことのようです。
さらに、1973年にイギリスのプログレッシブ・ロック史にも形跡を残すこととなるGreensladeのメンバーとなるAndy McCullochがドラマーとして参加しています。
Peter Sinfieldが詞を担当とすることで、King Crimsonの発するメッセージ性はあるものの、Robert Fripp以外はゲスト参加に近しいメンバーで、かつ、フリー・ジャズ系のミュージシャンや楽曲によって異なるボーカルが担当していることで、
1stアルバムとは異質の「危うさ」の熱を孕む混沌さ、カタルシスさに包まれたアルバム
の印象になったのかと思います。ジャズ系に不慣れなの方が、さらにクラシックと融合しロックを想像させようとした当アルバムは難解に聴こえるかもしれません。それでも、個人的には、King Crimsonでは好きなアルバムの1つなんです。
ジャズ系のミュージシャンが参加した煌びやかなカタルシスの世界へようこそ。
楽曲について
Keith Tippetによるフリー・タッチなピアノの調べに誘われ、Gordon Haskellによるボーカルのヴァースで幕をあげる冒頭曲「Circus」は、メインのアンサンブルに、Robert Frippによるハードエッジなリフが垣間見えるものの、Andy McCullochのねちっこいドラミングとRobert Frippのアヴァンギャルドさも危うさとも取れるアコースティックギターの旋律を中心に、これまでのKing Crimsonのクリエイティビティ以上に、前衛的でフリーな演奏が聴けます。
一聴すれば、音と音の交錯にとっつきにくさで心に動揺を受けてしまう。
2分30秒前後からのメロトロンの音色に、何故かしら安堵をしてしまいそうになりながらも、フルート、サックス、ブラス・セクションが奏でる音の交錯には、悪の経典なのかともサウンドスケープを感じさせつつ、圧倒を飛び越え、言葉を失ってしまいます。
2「Indoor Games」は、加工処理されたGordon Haskellのヴォイシングも印象的に、1「Cirkus」を聴く経験をしたことで多少の衝動を抑えながらも交錯し合う音に、そのまま陶酔してしまいますね。Gordon Haskellの声質や楽曲の与える印象には、聴き手の好みもあるかと思いますが、名曲「21st Century Schizoid Man」(アルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿) 」収録)や楽曲「Pictures Of A City(邦題:冷たい街の情景)」(アルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」収録)の冒頭部のギターのリフを彷彿とされるリフが聴かれながらも、楽曲全体を包み込むフリー・ジャズのアプローチと、2「Indoor Games」以上に加工処理させたGordon Haskellのヴォイシングが聴けることで、何も見えない暗黒さ、第2期King Crimsonの目指すアプローチをサウンドスケープとして感じる瞬間でもありますね。
続く4「Lady Of The Dancing Water」のアコースティカルギターとフルート、オーボエをメインとした落ち着いた佇まいの楽曲が聴ければ、心に落ち着きを取り戻すのに十分です。チェンバー・ロック調とも室内楽的とも想起される唄メロもある楽曲の展開に清々しさを感じえてしまいます。
落ち着いた心地になった瞬間に、大きく4つのパート(a、b、c、d)に分かれる組曲「Lizard」が待っています。
前衛的なフレーズをアンサンブルに挟みながらも、メロトロンと流麗なピアノのフレーズをアンサンブルのメインに、Jon Andersonがボーカルを担当する「a. Prince Rupert Awakes(邦題:ルーパート王子のめざめ)」は、物憂げで今にも壊れてしまいそうな儚さ溢れる第1テーマと、仄かに賛美風にも盛り上がる第2テーマのヴァースは、映画のワンシーンを見ているか如くサウンドスケープをしてしまいます。特に、Keith Tippetの流麗なピアノは終始特筆しがたいクオリティかと思います。
高らかなコーラングレの音色を宣言前後に、「b. Bolero – The Peacock’s Tale(邦題:ピーコック物語のボレロ)」は、ボレロのリズムを刻むAndy McCullochのシンバルの妙、そして、乱れあうコルネット、オーボエ、サックスのブラス・セクションのパートに、アルバム前半部の楽曲とは異なる混沌さが溢れ、Keith Tippetのピアノも呼応するかのようにタッチでたえず変貌していきます。そして、最初の流麗でメロウなテーマが再提示し、次のパートへと移行します。
「c. The Battle Of The Glass Tears(邦題:戦場のガラスの涙)」は、4「Lady Of The Dancing Water」のように落ち着いた佇まいのある前半部(i) Dawn Song)、陰鬱さを醸し出すメロトロンによる響き、フルートとブラス・セクションの対位的な共演なども交え、再び混沌とした世界観に乱れ狂うアンサンブルで絶望感を煽るさまが印象的な中間部(ii) Last Skirmish)、一瞬の無音後、鋭利なナイフのように鳴り響くロングトーンのギターのフレーズがささくれだち痛々しくも印象的な後半部(iii) Prince Rupert’s Lament)の3つに分かれます。それぞれの邦題が意味する「夜明けの歌」、「最後の戦い」、「ルーパート王子の嘆き」を再現したかのような世界観ですね。
「d. Big Top」は、冒頭曲「Cirkus」のパートの断片がフェードインし、1分程度でフェードアウトしていきます。組曲としても、アルバムをコンセプト立てるとしても、締めくくるに用いられるリプライズ手法の一種でしょうか。約23分の長尺の組曲「Lizard」は、ギター、ベース、ピアノ、ブラス・セクションなどのフレーズが前衛的に音が交錯し合う中で、楽曲のベースラインを縦横無尽なドラミングをしつつも支えるAndy McCullochにただただ脱帽ですね。
[収録曲]
1. Cirkus(including Entry Of The Chameleons)(邦題:サーカス~カメレオンの参上~)
2. Indoor Games(インドア・ゲーム)
3. Happy Family(ハッピー・ファミリー)
4. Lady Of The Dancing Water(レディ・オブ・ザ・ダンシング・ウォーター)
5. Lizard:(リザード)
– a. Prince Rupert Awakes(邦題:ルーパート王子のめざめ)
– b. Bolero – The Peacock’s Tale(邦題:ピーコック物語のボレロ)
– c. The Battle Of The Glass Tears(邦題:戦場のガラスの涙)
– i) Dawn Song(邦題:夜明けの歌)
– ii) Last Skirmish(邦題:最後の戦い)
– iii) Prince Rupert’s Lament(邦題:ルーパート王子の嘆き)
– d. Big Top(邦題:ビッグ・トップ)
当アルバムは、1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」や2ndアルバム「In The Wake Of Poseidon(邦題:ポセイドンのめざめ)」にサウンドの方向性はあるものの、よりフリー・ジャズ的な展開が混沌さを醸し出す当時のKing Crimsonにしか成しえなかったクリエイティビティに溢れています。音の密度、アンサンブルのクオリティはハイエンドの水準です。アヴァンギャルドとはいかないまでも聴き手を選んでしまうかもしれません。
King Crimsonの持つ抒情性のある唄メロのメロディライン、アンサンブルを担うメロトロンという要素よりも、ロックにジャズが絡み合いサウンド感に興味を示す方におすすめです。もしくは、Keith Tippetを代表とするフリー・ジャズ系からのアプローチとしてプログレッシブ・ロックを聴きたい方におすすめです。
「Lizard」のおすすめ曲
1曲目は5曲目「Lizard」
劇場版アニメ「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙篇」挿入歌「ビギニング」の旋律が、最初のパート「Prince Rupert Awakes(邦題:ルーパート王子のめざめ)」を彷彿とさせ、いつもガンダムのワンシーンを想い描き聴き入りながら、続く混沌さを深めるパートを聴き入ってしまうからです。
下記で、そんな「ビギニング」とパート「Prince Rupert Awakes(邦題:ルーパート王子のめざめ)」を考察していますので、気になったら、ぜひご一読下さい。
劇場版「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙篇」挿入歌「ビギニング」がプログレKing Crimsonの名曲に聴こえる?!
2曲目は冒頭曲「Cirkus」
はじめて聴いた時の「感覚」を忘れられません。ジャズ系のプログレッシブ・ロックをあまり好んで聴かないなかで、当楽曲に出逢うことで、その後、プログレッシブ・ロックの多種多様なエッセンスへ目を向けるきっかけともなりました。自分も最初からなかなか心に受け止めきれないでいました。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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