プログレッシブ・ロックのおすすめアルバム、楽曲、関連話など

   

プログレおすすめ:Emerson, Lake & Palmer「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)」(1973年イギリス)


Emerson, Lake & Palmer -「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)」

第122回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Emerson, Lake & Palmerが1973年に発表した4thアルバム「Brain Salad Surgery」をご紹介します。
Emerson, Lake & Palmer「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)」
Greg Lake(ボーカル、ベース、ギター)、Keith Emerson(ピアノ、オルガン、ハープシコード、アコーディオン、ムーグ・シンセ、ボーカル)、Carl Palmer(ドラム、パーカッション、パーカッション・シンセ)によるトリオ形態で制作され、世間一般的に、Emerson, Lake & Palmerによる最高傑作と云われる1枚です。

Emerson, Lake & Palmerの全アルバムでは「原石」のような輝きさを感じる1970年発表の同名1stアルバムが最も好きです。「プログレおすすめアルバム」として取り上げるにあたり、Emerson, Lake & Palmerの最高傑作だから、ロックの名盤だから、という理由以外を考えてみたのですが・・・

過去アルバム3作で提示してきた各アプローチ(クラシカルさやジャズとロックの融合、攻撃的で暴力的なハードロック、シンフォニック、叙情性やリリカルなバラード)を進化させた、当時の最上楽曲が収録しているのが素晴らしいと思いました。そう考えてしまうと、俗に「ホワイトアルバム」と云われるアルバム「The Beatles」を1968年に発表したThe Beatlesのように、各メンバーが楽曲を持ち寄った感もある次作「Works(邦題:四部作)」以降、十分な成果のあるアルバムが数少ないのは、Emerson, Lake & Palmerの最上楽曲が一堂に介すアルバムが当アルバムでいったん落ち着いてしまうイメージも否めませんが、あらためて年代別に全アルバム篇を聴きなおしてみると、溜まったマグマが暴発するかのように放熱していくサウンドに、ただただ聴き入ってしまいます。

もちろん、当アルバム発表以降も名曲「Fanfare For The Common Man(邦題:庶民のファンファーレ)」、「The Pirates(邦題:海賊)」が発表されるようにクリエティビティに底は見せません。

クラシカルさとジャズをロックと融合し、時にハードロック調、時にチェンバーロック調、時にシンフォニック調に

1973年当時のEmerson, Lake & Palmerの最上級の楽曲が聴けるアルバム

に触れてみましょう!

楽曲について

冒頭曲1「Jerusalem(邦題:聖地エルサレム)」は、同国イギリスの聖歌「Jerusalem」を編曲したものであり、Keith EmersonのハモンドオルガンとCarl Palmerの力強いドラミングというEmerson, Lake & Palmerのサウンドに、高らかに唄い上げるGreg Lakeのボーカリゼーションがマッチした「らしさ」を凝縮した楽曲です。楽曲「The Endless Enigma, Part 1(邦題:永遠の鍵パート1)」(1972年発表の3rdアルバム「Trilogy」収録曲)の類似したパートも想起させてくれますが、

3人個々の最もたる特徴をシンプルに活かしアルバム冒頭曲として相応しい仕上がりですね。

2「Toccata(邦題:トッカータ)」は、アルゼンチンのAlberto Evaristo Ginasteraが作曲「ピアノ協奏曲第1番第4楽章」を編曲したものであり、Keith Emersonの荒れ狂うかのごとくキーボードのリフやフレーズも素晴らしいが、そのサウンドに呼応するかのようにCarl Palmerによるパーカッションとエレクトロに響くパーカッション・シンセの乱れ具合さ、Grek Lakeのベースも含め、ただただ圧倒されてしまう音の洪水を受けてしまいます。楽曲「Tank」(1970年発表の同名1stアルバム収録)でのドラムとシンセによる凄まじい演奏を想起させてくれますが、より硬質さと一体感を強く感じました。

3「Still…You turn me on」は、楽曲「Luckey Man」(1970年発表の同名1stアルバム収録)よりもアコースティカルに、楽曲「From The Beginning」(1972年発表の3rdアルバム「Trilogy」収録曲)よりもソフトな、Grek Lakeによるリリカルさのあるアコースティカルなサウンドがメインの楽曲です。

4「Benny The Bouncer」は、楽曲「Are You Ready Eddy ?」(1971年発表の2ndアルバム「Tarkus」収録)や楽曲「The Sheriff」(1972年発表の3rdアルバム「Trilogy」収録曲)のように、ホンキー・トンク調やオールディーズ・ロック調に聴かせるユーモラスさを伴う楽曲です。ハードロック系、リリカルさ、ジャズ系などだけで括れないEmerson, Lake & Palmerの奏でるジャンルのふり幅を思い知らされますね。このふり幅は、発売当時のレコードでいえば、後半部を占める大作「Karn Evil #9」の5「Karn Evil #9 (1st Impression – Part 1)(邦題:悪の経典 第1印象パート1)」の最初のヴァースのリズム・セクションに仄かに活かされていると感じるんです。

そして、

大作「Karn Evil #9」に繋がる。

大作「Karn Evil #9」は、本来であれば、3つのパート(1st Impression、2nd Impression、3nd Impression)ですが、発売時には、レコードの特性ともなる盤面(A面とB面)の影響で、5「1st Impression – Part 1(邦題:第1印象パート1)」と6「1st Impression – Part 2(邦題:第1印象パート2)」の2つに分かれています。もしも、1つのリンクする公式音源が手元に合ったら、どのような異なる表情を見せてくれる楽曲だろうかと想いも馳せてしまいます。

5「Karn Evil #9 (1st Impression – Part 1)」は、第1ヴァースのGrek Lakeの「I’ll Be There」の連呼が印象的に、ハモンド・オルガンの一定のシークエンスと、ムーグ・シンセサイザーを中心に畳み掛けるアンサンブルが素晴らしく、唄メロのメロディラインはモータウンの楽曲をテンポアップしたかのうような唄心を想起させてくれます。7分前後のディスト―ションを効かせたギター風のソロ・フレーズでさらに追い立てるハイテンションな展開にただただ聴き受け止めずにいられないです。そして、6「Karn Evil #9 (1st Impression – Part 2)」と繋げるため、突如、シンセのきめ細やかなシークエンスでフェードアウトします。そのシークエンスを活かしたフェードイン後は、さらにオルガンのサウンドが比重がましたアンサンブルで追い打ちをかけ、クロージングまで凶暴という言葉が似つかわしい圧倒的にパフォーマンスを聴かせてくれます。

7「Karn Evil #9 (2nd Impression)」は、ジャズ・ピアノが魅せるフレーズのパートに、続くオリエンタルなパーカッシブさが絡み合うアンサンブルで、クラシカルとジャズをロックに融合が結実した前半部パート、約3分前後からピアノを含め室内音楽的にもミステリアルさを醸し出すエッセンスのアンサンブルを聴かせる中間部パート、そして、中間部の延長上のようでいてピアノ独奏による一人称の凶暴さを感じさせてくれる後半部パートの3つに分かれます。特に、中間部パートは、たとえば、同国の5大プログレバンドのうちの1つ:King Crimsonの名曲「Moonchild」(1969年発表の1stアルバム「In the Court Of The Crimson King」収録)の後半部のパートのインプレゼーションと比べ、ジャズ要素がありながらもKeith Emersonのピアノ独奏による土壇場と分かっていながらも、クラシックの交響曲の起承転結の章でいえば、第3章の転ともなる要素に近く、大作「Karn Evil #9」でいえば1つの構成パートに過ぎないのに、1人のパーソナリティの強烈さに圧倒されてしまいますね。

8「Karn Evil #9 (3rd Impression)」は、「第1印象」と「第2印象」を通じて「結」となるべきパートとして相応しい仕上がりです。ファンファーレのように響くムーグ・シンセサイザーのフレーズと電子処理されたボコーダによるコーラスが華やかにもアルバムのハイライトやクライマックスと感じさせてくれますし、4分前後に畳み掛けるリズム・セクション、5分前後からのオルガンによる跳ねたリズム感漂うオルガンのソロ・フレーズ、6分45前後からムーグ・シンセサイザーを活かした音処理などパートを重ねながら、7分30秒以降、冒頭パートが再提示され、8分30秒前後から電子音が左右のPANをテンポアップしつつ行き交い、クロージングします。

そういえば、2ndアルバム「Tarkus」ではアルバム前半部を占める代表作の組曲「Tarkus」の圧倒的な演奏力に対し、以降続く楽曲のクオリティが乏しいとの評論を目にします。当アルバムでは、大作「Karn Evil #9」は真逆のアルバム後半部の曲順です。2「Toccata」を除く前半部の楽曲が3分以内にコンパクトネスであることとと、2「Toccata」を含む前半部に代表曲ともいうべき楽曲が揃っているため、各パートが4分以上もある「Karn Evil #9」は、アルバムのクロージングまで起承転結で一気に聴かせる素晴らしい構成力を発揮しているのではないかと思うんです。「Karn Evil #9」もまた「強引すぎる」との評論を目にしますが、当時の最先端となるムーグ・シンセサイザーを縦横無尽に駆使し、豊富なアイデアとテーマを提示しつつも緊張感を切らさない姿勢が素晴らしいではないですか!

[収録曲]

1. Jerusalem(邦題:聖地エルサレム)
2. Toccata(邦題:トッカータ)
3. Still… You Turn Me On
4. Benny The Bouncer
5. Karn Evil #9 (1st Impression – Part 1)(邦題:悪の経典 第1印象パート1)
6. Karn Evil #9 (1st Impression – Part 2)(邦題:悪の経典 第1印象パート2)
7. Karn Evil #9 (2nd Impression)(邦題:悪の経典 第2印象)
8. Karn Evil #9 (3rd Impression)(邦題:悪の経典 第3印象)

過去のEmerson, Lake & Palmerの魅力を存分に魅せてくれる素晴らしいアルバムです。全篇キーボードを基調とした激しさもあるプログレ・ハード系が好きな方におすすめです。

また、前述したとおり、過去楽曲の発展系ともいうべき最上楽曲が含まれると考えていますので、もしも、当アルバムを好きになったら、過去4作(1stアルバム「Emerson, Lake & Palmer」、2ndアルバム「Tarkus」、ライブ・アルバム「Pictures At An Exhibition(邦題:展示会の絵)」、3rdアルバム「Trilogy」)を聴いてみるのはいかがでしょうか。楽曲に感じる印象は聴き手によって様々ですし、過去アルバムの楽曲により嗜好が合う、もしくは自身のベストと感じる楽曲が見つかるかもしれません。

1970年代のプログレッシブ・ロックの隆盛期に、当アルバムまでのEmerson, Lake & Palmerの楽曲は「無敵」とも相応しい印象を残しています。5大プログレバンド(King Crimson、Emerson, Lake & Palmer、Genesis、Yes、Pink Floyd)のうち、最も「最強」な存在と思う人も多いようです。トリオ編成による創造力と一体感で数々の傑作や名曲を創り上げ、後に続くEmerson, Lake & Palmerに影響を受けたバンドやミュージシャンはワールドワイドに拡がっています。クラシカルさとジャズのロックの融合のもと、Keith Emersonが一貫したアイデンティでバンド活動の中心にいた所以ではないでしょうか。

アルバム・ジャケットに馳せるもの

当アルバムのアートワークは、アメリカ映画「エイリアン」のデザインでも有名なスイスの画家:Ans Rudolf Gigerが手掛けています。本来は映画やイラストなどをメインで、Roger DeanやHypnosisのように音楽のアルバムジャケットのデザイン制作では有名ではないようです。当制作もはじめての試みだったそうです。アルバムタイトルの直訳「脳みそサラダ外科手術」や邦題の「恐怖の頭脳改革」はワケワカメですが、その意味に近しい意匠として、メタリックさや硬質さにゴシック調はEmerson, Lake & Palmerの音楽性を連想させ、Ans Rudolf Gigerが「エイリアン」でも得意とするデザイン作風が合わさったことで、プログレッシブ・ロックが担う「進歩的な音楽の未来」を感じさせるイメージのデザインなのではないかと思いました。骸骨と女性の交錯、そこにはそれ以上にも想像しがたい思惑もあるかと思いますが・・・。

実は、2005年に開催したAns Rudolf Gigerの個展で、当アルバム・ジャケットの原画が盗難にあいました。その後、2014年、Ans Rudolf Gigerは惜しくもらく他界し、2015年現在も原画は行方不明とのことです。

原画が早く見つかることと、Ans Rudolf Gigerの冥福を祈り申し上げます。

「Brain Salad Surgery」のおすすめ曲

1曲目は、5曲目「Karn Evil #9 (1st Impression – Part 1)」と6曲目「Karn Evil #9 (1st Impression – Part 2)」を1曲として
大作「Karn Evil #9」で、起承転結のパートでいえば、「起」と「承」に位置するパートです。レコードの収録上、2つの独立した音源の楽曲ですが、「起」と「承」となるところを、「起」にさらに「起」ともいうべき凶暴すらあるアンサンブルは、かえって心地良いんです。

2曲目は冒頭曲「Jerusalem」
バンドのアンサンブルとして、凶暴さともいえるハードロック調の楽曲を聴かせてくれる一方で、メンバー個々の特徴が最もシンプルに最も均等に1つの楽曲で表現しているの好きです。また、本来、聖歌「Jerusalem」の元詩人であるイギリスの詩人:Wiliam Breakの権威や権力に負けない自由な精神活動を続けていきたいと願う想いも合わせてサウンドスケープを感じてしまうからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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