プログレおすすめ:Genesis「Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐)」(1976年イギリス)
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1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス Genesis, Mike Rutherford, Phil Collins, Steve Hackett, Tony Banks
Genesis -「Wind & Wuthering」
第241回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1976年に発表した8thアルバム「Wind & Wuthering」をご紹介します。
英国文学の薫り高き始まりと終わり
・・・「The House of the Four Winds」・・・
・・・スコットランドの小説家にて男爵John Buchanがカナダ提督となった1935年に発表した著書「The House of the Four Winds」に由来する「Wind」は、その一節が楽曲「Eleventh Earl of Mar」のブリッジ部になったという・・・。
・・・「Wuthering Heights」・・・
・・・イギリスの女性小説家:Emily Brontëが1847年に発表した唯一の小説「Wuthering Heights(邦題:嵐が丘)」から引き合いに出された「Wuthering」は、楽曲「Unquiet Slumbers for the Sleepers…」と楽曲「…In That Quiet Earth」の最後の一節になったという・・・。
そう、名高き英国文学の一節は、当アルバムのタイトルにもなり、最初と最後の一連の楽曲に印象的に盛り込まれることで、英国薫り高きGenesisの傑作を印象付けるかのように重るのです。
当アルバム「Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐)」は、前作7thアルバム「A Trick of the Tail」から10か月振りのアルバムで、新生Genesisの新生2作目として、Tony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ベースギター、12弦アコースティックギター)、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)の4人で制作されてます。
のちに、ネオ・プログレ系のバンドに多大な影響を与え、その原点ともなった傑作アルバム「A Trick of the Tail」に対し、当アルバムは、Gensisがバンド黎明期から目指してきたプログレッシブ・ロックのクリエイティブが聴ける最後の作品と云われています。
Peter Gabrielボーカル期のメロウでファンタジックさ溢れるサウンドに、より複雑なリズムを違和感なく活かしたテクニカルでダイナミックなアンサンブルは、当アルバムではインストルメンタル部よりも唄メロのメロディラインを活かす方向性に向けられます。結果として、Steve Hackettが脱退してしまうこととなりますが、
英国情緒とプログレッシブ・ロックのバランスが有終の美を飾るかのような構成美が聴ける傑作アルバムです。
さあ、Hipgnosisが描いたアルバム・ジャケットのアートワークに包まれ、冬も深まる12月下旬に発売された音源に耳を傾けてみましょう。
楽曲について
冒頭曲1「Eleventh Earl Of Mar」は、キーボードとシンセサイザーによる威風堂々としたアンサンブルで幕を上げ、ヴァースもまた、キーボードをメインとしたアンサンブルにリズミカルさもある唄メロのヴァースが印象的な楽曲です。4分前後からのアコースティック・ギターをメインとする哀愁さにファンタジックさ溢れるアンサンブル以上に、突き抜けるようなメインの唄メロのポップさとリズミカルさが印象的です。
ブリッジ部の「Wind」のことだけでなく、最初のヴァースでは、英国作家:D.K. Brosterが1925年に発表した著書「The Flight of the Heron」がそのまま盛り込まれるなど、やはり英国文学の薫り高き作品となっています。いっぽうで、ストーリーテラーであったPeter Gabriel不在によるものとファンとしては感じらずにいられません。
2「One For The Vine」は、ピアノとエレクトリック・ピアノがメインのアンサンブルによるメロウさに、ファンタジックにもダイナミックな展開を魅せる約10分にも及ぶ楽曲です。楽曲「Mad Man Moon」(アルバム「A Trick Of The Tail」収録」と同じ作曲家:Tony Banksであることも頷けます。Genesisの1つの魅力である宮廷音楽風の気品さをエレクトニクスでしとやかに聴かせてくれます。
2分20秒前後からは、Phil Collinsのファルセットのヴォイシングも印象的ですが、シンセサイザーを巧みに盛り込み、ファンタジックなサウンドへ繋げる展開の妙にうっとりと聴き入ってしまうのも束の間、3分前後からのピアノやシンセサイザーがしっとりとしたアンサンブルによるファンタジックさ、4分40秒前後からの新生Genesisらしさ溢れるリズミカルなアプローチ、そのまま5分30秒前後からの2分20秒前後のアプローチとは異なるダイナミックさ溢れるままにシンセサイザーが奏でる悠々たるテーマ、6分30秒前後のThe Beatles直系と思われる英国ポップ溢れるポップセンスの短いヴァース、6分40秒前後からのシンセサイザーが奏でるテーマのオリエンタルさ、8分20秒前後からのリズミカルさのリプライズなど・・・7分20秒前後の冒頭部のヴァースのリプライズを挟みつつ、楽曲は、ピアノの愛くるしい旋律と共にクロージングを迎えます。
キーボードをメインとした流麗なファンタジックさに包まれる。
3「Your Own Special Way」は、アコースティック・ギターのストロークがメインのアンサンブルに、ほどよく拡がりあるファンタジックさ溢れる楽曲です。コーラスワークも印象的に「Your Own Special Way」の一節が聴けるサビ部の美しげも繊細さは、楽曲「Ripples…」(アルバム「A Trick Of The Tail」収録」を彷彿とさせ、当時シングル・ヒットしたことも頷ける同作曲家のMike Rutherfordのメロディ・メーカーとしてのセンスを強く感じます。4分40秒前後からの解放感を感じるアンサンブルなども含め、ただただバラード調というだけでなく、心穏やかに聴かせてくれます。
4「Wot Gorilla ?」は、ジャズ・フュージュン系の影響を感じながらも、ファンタジックさにも溢れ、耳を澄ませば澄ますほどにGenesisにとっては異色と感じられるインストルメンタルの楽曲です。アメリカのジャズ・フュージュン系のバンド:Weather Reportを彷彿とさせる感覚とファンタジックさは、新生Genesisにあって、より繊細ささえも感じえます。
5「All In A Mouse’s Night」は、シンセサイザーをメインとしたイントロ部から最初のヴァースのアンサンブルでのファンタジックさにも、1分前後からの変拍子で展開するヴァースには、終始鳴り響くシンセサイザーの小刻みな旋律の印象とともに、Peter Gabriel期のシアトリカルさに溢れた楽曲のアンサンブルを彷彿とさせるファンタジックさが聴ける楽曲です。それでもなお、Phil Collinsのドラムのアタックさから新生Genesisであると感じられ、Genesisの過去のクリエイティブが走馬灯のようにサウンドスケープしてしまいます。
6「Blood On The Rooftops」は、もともとラブ・ソングと書かれながらも、ニュース記事によるシニカルさに溢れた歌詞へと変えたというSteve Hackettの言葉とは裏腹に、アコースティック・ギターの独奏によるクラシカルなイントロから展開していくアンサンブルとサウンド・メイキングに、Phil Collinsによる唄メロのメロディラインには、アンニュイさを漂わせつつも、宮廷音楽風からシンフォニックへと展開する素敵な仕上がりです。
ギターとシンセサイザーによるシンフォニックな7「Unquiet Slumbers for the Sleepers…」から、ダンサンブルでダイナミックな8「…In That Quiet Earth」は、小説「嵐が丘」の一節が盛り込まれていることから両者を通じて感じえたい楽曲です。アトモスフェリックさから卓越した熱を迸るようなPhil Collinsのドラミング、シンセサイザーのテーマに力強く絡み合う従来以上にSteve Hackettがギターでハードなアプローチを聴かせるなど、印象深いです。
最終曲9「Afterglow」は、後年、Tony Banksがインタビューで2「One For The Vine」から派生し作成された楽曲と語ったことを知り、2「One For The Vine」のリプライズかのようにアルバムが当楽曲をもってクロージングすると感慨深さを感じてしまいます。スローナンバーに対する力強いPhil Collinsのボーカリゼーションと伸びやかなコーラスワークに、淡々とファンタジックさが途切れそうにも展開するさまが、アルバムのアートワークの荒涼とした寂しさへと迫るサウンドスケープを魅せてくれます。
アルバム全篇、ファンタジックさにポップさがあることで、プログレッシブ・ロックとしてのクリエイティブ性が薄れたと感じてしまうかと思いますが、1「Eleventh Earl of Mar」ではじまり、7「Unquiet Slumbers for the Sleepers…」と8「…In That Quiet Earth」で終わり、2「One for the Vine」ではじまり、9「Afterglow」で終わるとさえ、錯覚してしまうアルバムの構成力には、英国情緒とプログレッシブ・ロックのバランスが有終の美を飾るかのような構成美を感じずに入られない素晴らしいアルバムと思います。
[収録曲]
1. Eleventh Earl of Mar
2. One for the Vine
3. Your Own Special Way
4. Wot Gorilla ?
5. All in a Mouse’s Night
6. Blood on the Rooftops
7. Unquiet Slumbers for the Sleepers…
8. …In That Quiet Earth
9. Afterglow
1980年代に隆盛したGenesisフォロワーのネオ・プログレ系のバンドにも通じるサウンドへシフトしたアルバムとして、Marillion、Pendragon、Twelfth Night、It Bits、Abel Ganz、Third Quardrant、IQ、Pallas、Quasarなどネオ・プログレ系を好きな方にも聴いて欲しいアルバムです。
当アルバムを聴き、Genesisを好きになった方は、当アルバムのメンバー体制ではじめて制作した前作7thアルバム「A Trick of the Tail」を聴くことをおすすめしますし、また、2ndアルバム「Tresspass(邦題:侵入)」から辿ってGenesisの全アルバムを聴いて欲しいとも思います。
アルバム「Wind & Wuthering」のおすすめ曲
1曲目は、2「One for the Vine」
キーボードをメインに豊富なモチーフを盛り込んだファンタジックさでシンフォニックに展開する楽曲には、ふくよかさを感じるとともに、最終曲9「Afterglow」と合わせて聴きたいと感じてしまいます。
2曲目は、3「Your Own Special Way」
つい口ずさみたくなるようなポップさが素敵です。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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