プログレおすすめ:Quella Vecchia Locanda「Il Tempo Della Gioia」(1974年イタリア)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, イタリア, イタリアン・プログレ, ヴァイオリン Quella Vecchia Locanda
Quella Vecchia Locanda -「Il Tempo Della Gioia」
第42回目おすすめアルバムは、イタリアのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Quella Vecchia Locandaが1974年に発表した2ndアルバム「Il Tempo Della Gioia」をご紹介します。
当アルバムは「ジャケ買い」したアルバムであり、プログレをワールドワイドに聴くきっかけともなった思い入れのあるアルバムです。バンド編成はヴァイオリン奏者がClaudio Gilice、ベーシスト兼コントラバス奏者がMassima Giorgiに交代するものの、その他キーボード、ドラム、ギター兼クラリネット、フルート兼ピッコロ奏者など、全6人編成のバンドです。
1972年発表の1stアルバムに続き、2ndアルバムとなる当アルバムでもピアノやヴァイオリンのアコースティックな響きを伴うクラシカルな演奏が存分に聴けます。1stアルバムで垣間見せていたハードロックな要素は、2ndアルバムではクラシカルな要素の方が強く印象づけるかもしれません。
楽曲について
冒頭曲1「Villa Doria Pamphili」では、ピアノにアコースティックギターが絡むことではじまり、ピアノがクレッシェンドを強めたフレーズを奏でると、ヴァイオリンによるテーマが聴こえてきます。この物悲しくロマンチシズム溢れるイントロの印象のままに、楽曲は進行していきます。アコースティックギターとピアノの伴奏に哀愁を帯びたヴォーカルが聴けて、オブリカードで聴かれるヴァイオリンのヴァースとともにヴォーカルが高らかに歌い上げた瞬間、力強いピアノとキーボードによるストリングスのアンサンブルが聴けます。このアンサンブルでドラムのフレーズが聴けるまでの流れは、プログレフォーマットのバンドではなく、バロックを基調としたクラシカルな楽曲にヴォーカルが入った楽曲ではないかと錯覚してしまうほどなんです。後半のピアノの独奏からクロージングまでは本当にドラマチックな流れで、ピアノが静かに終わった時の余韻もたまらないんです。
冒頭曲を聴き、すでにQuella Vecchia Locandaの世界観に浸ってしまったら、もうファンですよ?!
2「A Forma Di」は、ヴァイオリン、コントラバスなど管弦楽器の伴奏に、フルートによるテーマを奏でながらフェードインするイントロが印象的な楽曲です。フルートに続きバンドのメンバーによるクワイアを効かせたコーラスワーク、ヴァイオリンによるテーマなど、もうクラシックを聴いているのではないかと冒頭曲と同様に感じてしまうインストルメンタルです。このアルバムがイタリア・プログレを初めて聴いたのですから、個人的にはクラシカルさということだけでなく、クラシックかと聴き入ってしまいそうになる心持ちに驚愕させられましたよ。ヴァイオリンとコーラスワークの後に、冒頭曲「Villa Doria Pamphili」と同様に、3分30秒前後からピアノが入り込み、そのままクロージングしてしまうのですが、クラシックかと想起してしまう心持ちと比べれば、この急な展開も不思議な流れではなく、プログレッシブ・ロックならではと受け止めるだけのアレンジと感じずにはいられないんです。
3「Il Tempo Della Gioia」は日本の演歌にも通じるような(もしくはその逆か?)キーボードの物悲しいストリングのイントロから、アコースティックギターのアルペジオとピアノに導かれるように、哀愁を帯びたヴォーカルが印象的なヴァースで、冒頭曲1と2と同様な展開と思いきや、1分10秒前後から小刻みなドラムともに転調します。転調後のピアノ、ギター、ドラムによる演奏は荒々しくなり、ヴォーカリゼーションも堂々たる振る舞いに変貌し、まるで室内音楽の各楽器を利用したハードロックと思わせるような威風堂々としたアンサンブルが聴けます。それぞれの楽器が奏でるフレーズやテーマは一聴しただけでは受け止めきれないぐらいに表現力や楽器種類が混在しており、ドラマチックというよりも大胆さやアヴァンギャルドさが似つかわしいかもしれません。そして、5分30秒以降に転調直後の唄メロが聴けますが、各楽器のアンサンブルは乱れ放題と形容すべきままに、ボーカルによる唐突なクロージングなど、冒頭曲1と2とは異質な世界観が聴けるのではないかと思います。
3で抱いた大胆さやアヴァンギャルドさからいったん小休止させるようなピアノのイントロで4「Un Giorno, un Amico」ははじまります。それでもその様相は10秒ほどしか続かず、続くヴァイオリンの不穏な響きからスピーディな展開へと楽曲は進行していきます。ヴァイオリンに、ギターのカッティング、ワウワウが絡むアンサンブルとコーラスワークが落ち着いたかと思えば、2分35秒前後からヴァイオリンによる独奏が聴けます。他楽器のないヴァイオリンだけによる1分弱ほどの独奏が続いた後には、再度アンサンブルが加わります。そして、ドラムのタムとピアノの強めの演奏後には、クラリネットによるジャージな演奏が流れ出す。この伴奏でドラムとピアノのフレーズはとても印象的なのですが、長時間続くかと思えば、短時間で終わってしまうのが個人的には物足りなさを感じてしまいました。本当に束の間を思わせるようなジャージな演奏後には、ピアノによるフレーズと同時に、冒頭1と同様なロマンチシズム溢れるピアノとヴァイオリンのアンサンブルに伴うヴォーカルのヴァース、キーボードによるストリングスが聴けます。冒頭1に類似する展開なのですが、異なるのはギターによるフレーズが印象的に聴こえるところでしょうか。そして、このパートも短時間で終え、サックスによるジャージな演奏が聴けたかと思えば、そのまま唐突にクロージングを迎えてます。
クワイアによるイントロから最終曲5「E Accaduto una Notte」は幕をあげ、不穏な雰囲気を醸し出しながら爆音と思わせるSEと同時に、アコースティックなギターとフルートによるアンサンブルが聴けます。アコースティックなギターとピアノの伴奏に合わせ、これまでの楽曲よりもトーンを下げたヴォーカリゼーション。そのヴォーカルにギター、ヴァイオリン、ピアノがアヴァンギャルドでいて変則的に絡み合うアンサンブルが聴けます。たとえば、イギリスの5大プログレバンドでいえば、King Crimsonの4thアルバム「lizard」での室内音楽を意識したフリーフォームなジャズの世界観を想起するかもしれません。想起させてくれるのか、これが本来イタリア・プログレの持つ不穏でいて、アヴァンギャルドさも感じる世界観の1つかもしれませんが、King Crimsonで感じた世界観と異なるのは、キーボードによるストリングス、低音で響き渡らせるコントラバスの不気味さなど、徹底してクラシックをベースにという気持ちが伝わってくるところでしょうか。
強烈にも繰り返される不穏な演奏の数々は、シンセのトーンがクレッシェンドし、電子ノイズが充満したところで途切れて終わります。
哀愁を帯びロマンチシズム溢れる前半の楽曲(1と2)と、フリーフォームな印象に大胆でいてアヴァンギャルドさの印象もある後半の楽曲(3と4と5)により、アルバムの前半と後半で異なる印象を感じるかと思います。
この前半と後半の楽曲群で共通しているのは、バロックやクラッシクさをベースとしたドラマチックな演奏ではないでしょうか。そこからハードロック調、フリージャズさ、アヴァンギャルドさなどを感じていくことで、アルバム1枚を通じ楽しめる作品ではないかと思うんです。
[収録曲]
1. Villa Doria Pamphili
2. A Forma Di
3. Il Tempo Della Gioia
4. Un Giorno, un Amico
5. E Accaduto una Notte
同じイタリアのプログレッシブ・ロックで、バロックや室内音楽を取り入れたシンフォニック系を感じるバンドでは、P.F.M(Premiata Forneria Marconi)、New Trollなどが好きな方、本来クラシックが好きでプログレッシブ・ロックを聴き始めた方などにおすすめです。
当アルバムを聴き、Quella Vecchia Locandaを好きになった方には、1972年発表の1stアルバムもおすすめですね。少しハードロック調であり、クラシカル・ロック調を感じさせますが、当アルバム「Il Tempo Della Gioia」で感じたようなアコースティカルでいて、ヴァイオリンやピアノなどを絡めたクラシカルなアンサンブルも聴けます。
グローバル・ワイドな「きっかけ」と趣味「ジャケ買い」
このアルバムを購入するまでは、俗にいう5大プログレバンドやハード・プログレなど、イギリスで有名なプログレのCDばかり聴いてました。現在、グローバル・ワイドにプログレを聴くようになった「きっかけ」は、このCDを購入したのがきっかけだったのかもしれません。
当時(約15年前)は、ディスク・ユニオンの中古CD店で、帯もなくシュリンクパックされたイギリスのプログレCDジャケットを見ては帰宅しインターネットや本でそのアルバムの情報を調べたりしたものです。そして、再度、お店を足を運び、気になっていたCDが残っていれば購入してた、日々の繰り返しでした。
そのプログレのCD購入の方法にだんだん疲れてきて、たまたまイタリアのコーナーを見た時に、このCDジャケットを目にしたんです。
見ただけでは、購入するのか判断出来ませんよね?当時でなくとも1,000円以上の買い物を決定するには勇気がいるもので、このCDジャケットに惹かれてしまったんです。イタリア・プログレとは何か?このバンドの奏でる音像はどんなものか?想像出来ずに購入していました。
「プログレおすすめ」のアルバムとして紹介が遅れてしまいましたが、当アルバムは個人的にも出逢って良かったなと思う1枚なんです。趣味「ジャケ買い」も悪くないでしょう?
そんなプログレな気持ち・・・。
アルバム「Il Tempo Della Gioia」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲の「Villa Doria Pamphili」
ピアノにアコースティックギターが絡むイントロを聴いただけで心を奪われてしまうには十分で、クロージングのピアノの最後の1音までドラマチックでいてロマンチシズム溢れる素敵な構成です。
2曲目は最終曲の「E Accaduto una Notte」
3曲目と4曲目と同様に唐突にクロージングしてしまうように見えて、それまでの楽曲の展開からすると、最後に途切れる瞬間までの管弦楽器なども含めた緊張感に溜め息をついてしまうからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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