プログレおすすめ:Oktober「Sandcastles」(2015年イギリス他)
Oktober -「Sandcastles」
第162回目おすすめアルバムは、ハンガリーとイギリスのミュージシャンが集うプロジェクト・バンド:Oktoberが2015年7月に発表した1stアルバム「Sandcastles」をご紹介します。
Oktoberは、イギリスで活躍するシンフォニック系のプログレッシブ・バンド:YakのメンバーであるGary Bennett (ベース、ギター、キーボード)とDavid Speight (ドラム、パーカッション) と、2006年に、ハンガリー/ルーマニアの地でプログレッシブ・フォーク系のバンド:Yesterdaysの名作「Holdfenykert」の初代ボーカルである女性:Molnar Kinga (ボーカル)の基本3人によるバンドです。
バンドの結成は、David Speightがハンガリーのプログレッシブ・ロックのフェスティバルに招待され、ドラムをプレイした2007年に遡ります。イギリスの5大プログレバンドの1つ:Yesの初代ギタリスト:故Peter Banksのグループにドラムとして参加していましたが、当フェスティバルには、ルーマニア北西部(トランシルヴァニア)の都市:クルジュ=ナポカを拠点に活動するYesterdaysのボーカルとして参加するMolnar Kingaに出逢います。
David Speightは、Yakの活動を通じGary Bennettと繋がりがあり、彼ら2人が選び出した複雑な展開を示すプログレッシブ・ロック系の楽曲をMolnar Kingaが唄いこなすだろうと判断し、彼女をボーカルに据えるプロジェクトを持ちかけます。Gary Bennettは、Molnar Kingaとともにオリジナル楽曲を制作し続け、2011年には楽曲にリズムセクションを加える段階まで仕上がりました。2013年にボーカルをイギリスでレコーディングし、2014年12月にはミキングやマスタリングを終了します。
そして、2015年7月に当アルバムは発売されました。
その音楽性は、プログレッシブ・ロックでいえば、プログレ・フォーク寄りのエッセンスを感じさせてくれます。Molnar Kingaは、たとえば、RenaissanceのAnnie HaslamやThieves’KitchenのAmy Darbyのボーカルを彷彿とさせるMolnar Kingaのボーカリゼーションは、透明度が高く、それでいて力強さもあり、Yestedaysでもフォーク寄りの楽曲やポップさのある楽曲も唄いこなしていたため、違和感なくYakの2人が奏でる音楽にフィットしていると感じましたよ!
Gary BennettとDavid Speightは自ら加入したYakのメンバーとしてほぼ同時期(2015年6月)に4thアルバム「Quest for the Stones」を発表していますが、そのYakの音楽性でもあるイギリスの5大プログレバンドの1つ:GenesisのSteve Hackett在籍時やCamelに通じるメロウなシンフォニック系よりもフォーク寄りのアプローチに近く、純粋なプログレ・フォークよりもポップさもある英国情緒とルーマニア出身のMolnar Kingaを語り手にする音楽として愉しめると思います。
楽曲について
冒頭曲「Other People’s Parties」は、Bennettがハーモニクスを多用したアコースティック・ギターの綴れ織りのフレーズをメインにアンサンブルとして、Molnar Kingaが語りかけるように唄う牧歌的な楽曲です。クロージング直前のMolnar KingaによるスキャットとMike Oldfieldを彷彿とさせる繊細なBennettのギターのフレーズが心へ問いかけるように響き渡りますね。
2「Don’t Stop」は、クリーントーンによるアコースティカルな8ビートのアンサンブルで聴かせてくれるポップ・フィーリングに溢れた楽曲です。当楽曲でも、中間部のMike Oldfieldを彷彿とさせるBennettのギターのソロ・フレーズやMolnar Kingaによる独特のスキャットは印象的ですが、それ以上に、Molnar Kinga在籍時のYesterdaysの楽曲に少しばかりリズムをタイトにしたイメージを想起させてくれます。
3「Dust and Rain」は、Steve Hackettのギター・プレイを彷彿とさせるクラシカルな響きが印象的な楽曲です。前曲まで以上に、囁きかけるように唄うMolnar Kingaのボーカリゼーションも合い間って、アシッド・フォーク寄りのアプローチが聴けます。
4「Lost and Found」は、フィドル奏者:Mick Gravesとアイルランド音楽に利用されるドラムの一種バウロン奏者:Fez Powellがゲスト参加しており、トラディッショナルなアイリッシュ・スタイルのリズムセクションが心地良く聴ける楽曲です。当楽曲でも、Molnar Kingaは、唄メロのメロディラインに対し、カウンター・メロディとハーモニムを重ね、まるでカンタベリー系のバンド:Hatfiled And The Northのボーカリスト:Northettesを彷彿とさせてくれるクリエイティビティを魅せてくれます。
5「Sleepers Awake」は、ブズーキーや12弦ギターがヴァースでメインのアンサンブルを担い、サビ部ではキーボードが音の厚みを加えるのが印象的な楽曲です。4分25秒前後でリフレインされる12弦ギターのフレーズとブズーキーのパートから5分前後にアンビエント風のパーカッションのパートや、クロージング直前6分30秒前後のMolnar Kingaによるカウンター・コーラスや幽玄さもあるアシッドなアプローチから、前曲4「Lost and Found」のリプライズともいうべきギターのパートまで、プログレッシブ・ロックのエッセンスを濃厚に感じさせてくれます。
6「Sandcastles」は、5「Sleepers Awake」以上にプログレッシブ・ロックのアプローチを魅せてくれる楽曲です。キックドラムのビートに導かれ楽曲ははじまり、アコースティック・ギターをメインのアンサンブルにヴァースは進行していきます。ヴァースのブレイク時のギターのフレーズ、2分55秒前後からの数秒程度のギター・ソロや5分前後のカントリー風味あるギターのアンサンブルで弾かれるギター・ソロは、他楽曲以上にMike Oldfieldを彷彿とさせるプレイが聴けます。そして、ギター・ソロのエンディングとともに楽曲はいったん終焉するものの、続く海の水音のSEが流れだし、ふとMolnar Kingaがアカペラで、
・・・Sing me to sleep underneath weeping willows・・・
・・・Wild fragrant roses are still in full bloom・・・
・・・I need to be gone by the first chill of autumn・・・
・・・My old friend the west wind is calling me home. ・・・
と口ずさみ、アルバムとしては全篇6曲約32分の短めな構成ですが、いつの間にかポップさ溢れる楽曲2「Don’t Stop」を聴い
ていたことも忘れるかのように、幽玄なる趣きに導かれ、アルバムはクロージングします。
David SpeightがMolnar Kingaをボーカルに据えたかった気持ちが伝わりましたでしょうか。直接その真意を確かめることは出来ないのですが、複雑なプログレッシブ・ロックの楽曲構成には、Molnar Kingaによる様々なヴォイスでのアプローチ(スキャット、カウンター・メロディ、ハーモニウムなど)も複雑に絡み合っていると思うんです。そして、Mike OldfieldやSteve Hackettのメロディラインを彷彿とさせながらも、英国情緒溢れる唄心を大切にした楽曲は、アルバムを聴き終える頃に、ほんのりとした気分にも浸るかなと思います。
[収録曲]
1. Other People’s Parties
2. Don’t Stop
3. Dust and Rain
4. Lost and Found
5. Sleepers Awake
6. Sandcastles
イギリスの5大プログレバンド:YesやGenesisのアコースティック・ギターによる牧歌的な楽曲が好きな方におすすめです。また、イギリスのトラッド調やフォーク調のプログレ・フォーク系のバンドで、たとえば、Mellow CandleやRenaissanceなどが好きな方ににもおすすめです。
アルバム「Sandcastles」のおすすめ曲
1曲目は、最終6曲目の「Sandcastles」
アルバム中で最も様々なギターのアプローチが聴けると同時に、クロージング直前のMolnar Kingaによるアカペラの一節が印象的だからです。
2曲目は、5曲目の「Sleepers Awake」
テクニカルなギターのプレイも聴きどころの1つですが、当楽曲をプログレッシブ・ロックの構成へとするには、それだけでなく、Molnar Kingaが様々なアプローチでヴォイシングが重要なパートとなっている感じたからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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