プログレッシブ・ロックのおすすめアルバム、楽曲、関連話など

   

プログレおすすめ:Genesis「The Lamb Lies Down on Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」(1974年イギリス)


Genesis -「The Lamb Lies Down on Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」

第166回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1974年に発表した6thアルバム「The Lamb Lies Down on Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」をご紹介します。
Genesis「The Lamb Lies Down on Broadway(邦題:眩惑のブロードウェイ)」

当アルバムは、Peter Gabriel(ボーカル、フルート)、Tony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ベースギター、12弦アコースティックギター)、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)の5人編成で制作した最後のアルバムです。収録された楽曲のインストルメンタル部に歌詞をつけたいと他メンバーと揉めることさえありましたが、アルバムのツアー終了後、家族との関係を大切にしたいというPeter Gabrielが脱退してしまいます。

2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入)」以降、着実にクオリティを高め、Genesisといえば、4thアルバム「Nursery Crime」や前作5thアルバム「Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)」などを最高傑作という声もありますが、いっぽうで当アルバムを最高傑作に推すファンもいます。

間違いなくPeter Gabriel在籍時のラスト・アルバムにして傑作なのですが、それでもなお、これまでのアルバムとは大きく異なる点があります。

簡単にいえば、ファンタジーさからリアルさ、幻想さから現実さという印象ででしょうか。ただし、そのリアルさや現実さは、ヒプノシスが描くジャケットからも醸し出されていますが、具体的というよりも抽象的です。そして、レコード、CD、音源に耳を傾ければ、その歌詞やサウンド・メイキングに戸惑いを隠せずにいられなくなるんです。

元々プログレッシブ・ロックは難解さという面を持ちますが、その難解さが際立つアルバムとして、いつまで経っても魅力が尽きないんです。

アルバムのコンセプトと楽曲について

アルバムは、プエルトリコ人の主人公ラエルが、マンハッタンをメインに時空を越え、自己追求の旅をするというストーリー仕立てのコンセプト・アルバムです。

これまでのアルバムでは、Peter Gabrielは怪奇さもある寓話的な物語を詞に落とし込み、時にメロウでファンタステック、時にシアトリカルさで各楽器のアンサンブルとともに聴かせてくれてました。さらに、ライブでは、キツネの被り物やパフォーマンスなどをしながら、そのファンタジックな世界観を魅せてくれる映像の数々が残っています。

当アルバムでは、ラエルが自分自身を見つめなおすかのように、妄想とも取れる抽象的な歌詞の数々や、最後に巡り合った兄の顔がラエル自身だったという奇妙さからは、寓話性と怪奇性のうち怪奇性を醸し出す歌詞が全篇に溢れています。そして、その難解な歌詞感を伝えるべく各楽器のアンサンブルは、不気味さや混沌さを纏ったソリッドな質感があったり、サイケデリック/スペース系たっぷりなサウンド・メイキングで聴かせてくれます。

前作5thアルバム「Selling England By The Pound」で取り入れられムーグ・シンセをメインに取り入れ、変調や変拍子が多用されることも合い間って、よりシュールなサウンド・メイキングとなっていると思うんです。

耳で感じるサウンドの質感に違和感を憶えながらも、これまでのシアトリカルさは変わらず発揮され、アルバムのタイトルにもある「ブロードウェイ」を彷彿とさせるミュージカルさや演劇性で、1つ1つの音を感じえるのではないでしょうか。

さあ迷宮ともいうべきサウンド・スケープに身を委ねてみませんか?
じっくりと長い時間をかけて聴き重ねていきましょう。

冒頭曲1「The Lamb Lies Down On Broadway」は、鍵盤の小刻みなフレーズに、蚊が舞うような耳障りなSEが重なり合うオープニングや、「The Lamb Lies Down On Broadway」のコーラスワークが印象的な楽曲です。ヴァースではシンセのミニマルなフレーズのリフレインがメインのため、Mike Rutherfordによる低音を効かせたベースが唸り力強く聴かせてくれます。当楽曲は、これまでのアルバムの楽曲以上に開けたポップさも感じえるため、先に触れた「難解さ」なんてないだろう、と一聴し感じるかもしれません。

その感触も次曲2「Fly on a Windshield」の陰鬱さもあるサウンドに覆されてしまうんです。Phil Collinsのタイトなドラミングに囁くように語られるPeter Gabrielのボーカリゼーションに、緊張感溢れる佇まいは、次アルバム「A Trick Of The Tail」以降のGenesisや、Mike RutherfordがMike&The Mechicsの1stアルバムでその一端を垣間魅せてくれます。

アルバムは全23曲には、ハープ風の音がゆったりと木霊する小品3「Broadway Melody of 1974」、Yesの楽曲「Heat Of The Sunrize(邦題:燃える朝焼け)」を想起させるシンセのフレーズに、ヴァイオリン奏法のギターとムーグが極まる8「Hairless Heart」、サイケデリック/スペース系が充満した17「Silent Sorrow in Empty Boats」、シューゲイザ―を予見したようなサウンド・メイキングの19「Ravine」など、前後の楽曲の序曲ともリンクともとれる印象的なインストルメンタルな楽曲を交えながら、様々な楽曲が散りばめられています。

4「Cuckoo Cocoon」は、ヴァースの一節「Cuckoo Cocoon」は軽快で箱庭的なサウンドには愛くるしさを感じます。

5「In the Cage」は、楽曲「The Battle Pf Epping Forest」(アルバム「Selling England By The Pound」収録)を彷彿とさせる、これまでのGenesisサウンドを感じえるシアトリカルさとダイナミックな演奏を楽しめる数少ない楽曲です。そして、6「The Grand Parade Of Lifeless Packaging」から7「Back in N.Y.C.」へ難解さをますサウンドと詞の世界観に対し、聴き終えるとそのポップさのある9「Counting Out Time」と流麗でメロディアスな10「Carpet Crawlers」に戸惑いを隠せずにいられなくなります。

11「The Chamber of 32 Doors」はこれまでの楽曲にあまり見受けられなかったR&B系も感じえながらも、1曲の中で刹那さと緊迫さをソフトなミュージカルさで聴かせてくれる楽曲です。

2「Fly on a Windshield」と同様に陰鬱さや緊張感を醸し出す12「Lilywhite Lilith」に続き、アルバム後半では、14「Anyway」、16「The Lamia」、20「The Light Dies Down on Broadway」はマイナー調でメロウな唄メロのメロディラインが印象的な楽曲です。特に、20「The Light Dies Down on Broadway」は楽曲タイトルからも分かるとおり、冒頭曲1「The Lamb Lies Down On Broadway」のリプライズ曲の位置付けの印象深い楽曲ですが、あからさまな唄メロのリプライズではなく、2「Fly on a Windshield」から前曲19「Ravine」までのサウンドの世界観を踏襲したかのようなクリエイティブを感じさせてくれる素敵な仕上がりと思います。

起伏激しいフレーズを奏でるムーグ・シンセが楽曲をリードする21「Riding the Scree」、静かな情緒を讃えるメロウな22「In the Rapids」に続く最終曲23「It.」は、他楽曲にはない軽快なリズミカルさやキャッチ―なギターのリフが印象的な楽曲です。その軽快さは冒頭曲1「The Lamb Lies Down On Broadway」とは異なりますが、詞とは裏腹に仄かにも爽やかな感触を残し、アルバムをクロージングさせます。

Peter Gabielのフルート、Steve Hackettによるライトハンド奏法やヴィヴラードを駆使したヴァイオリン奏法などに代表される各楽器が醸し出す優雅さと気品さは抑えられ、抽象的な世界観をシュールなシアトリカルさで表現するサウンド・メイキングには、一部重厚すら感じさせるアルバムとして、歌詞を読まなくてもサウンドに難解と感じてしまうかもしれません。それでも、アルバム全篇を聴き終えると、不思議と明快で分かり易さのあるポップな楽曲やメロウな楽曲があったと感じるかもしれません。難解さと聴きやすさは聴き手の印象で異なるかもしれませんが、基本的に1つ1つの楽曲が繋がっているかのようなアルバム編集に対し、どうしても独立しているかのように錯覚してしまいます。かえって、アルバム・タイトルの和訳「眩惑のブロードウェイ」が似つかわしい、その音の「迷宮」が心地良いと感じることでしょう。

[収録曲]

[Disc 1]
1. The Lamb Lies Down on Broadway
2. Fly on a Windshield
3. Broadway Melody of 1974
4. Cuckoo Cocoon
5. In the Cage
6. The Grand Parade of Lifeless Packaging
7. Back in N.Y.C.
8. Hairless Heart
9. Counting Out Time
10. The Carpet Crawlers
11. The Chamber of 32 Doors

[Disc 2]
12. Lillywhite Lilith
13. The Waiting Room
14. Anyway
15. The Supernatural Anaesthetist
16. The Lamia
17. Silent Sorrow in Empty Boats
18. Colony of Slippermen(a) The Arrival、b) A Visit to the Doktor、c) Raven)
19. Ravine
20. The Light Dies Down on Broadway
21. Riding the Scree
22. In the Rapids
23. It.

Peter Gabriel在籍時最後のアルバムにして、その集大成として、Genesis、Peter Gabrielやプログレッシブ・ロックのファンにぜひすすめたいアルバムです。

また、前作アルバム「Selling England By The Pound」収録の楽曲(「Dancing With The Moonit Knight」、「Firth Of Fifth」、「The Cinema Show」)のように、プログレッシブ・ロックのエッセンスのうち、気品さやメロウなファンタジックさな楽曲はあまり感じえませんが、当アルバムにあるミュージカルや演劇性のあるシアトリカルさが好きな方におすすめです。

アルバム「The Lamb Lies Down on Broadway」のおすすめ曲

1曲目は、9曲目の「Counting Out Time」
人生ではじめて「プログレッシブ・ロック」を奏でるバンドが作成した楽曲と知りながら、聴いた楽曲として思い出深いからです。1970年代の某コンポピレーション・アルバムに収録されていたことを憶えています。「プログレッシブ・ロック」のバンドと知らず、CDのジャケット買いをしたYesのアルバム「Fragile」よりは後の出来事ですが、そのリズミカルなメロディラインにポップさ溢れていて、つい口ずさんでしまいます。

2曲目は、20曲目の「The Light Dies Down on Broadway」
冒頭曲1「The Lamb Lies Down on Broadway」のリプライズの位置付けの印象がありながらも、当楽曲までのサウンドを踏襲するアンサンブルが素敵だからです。また、続く3つの楽曲にミュージカルな側面での幕引き直前のアンコール楽曲のような印象もあたえ、コンセプト・アルバムとして引き締めることを強く感じさせるからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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