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プログレおすすめ:Billy Sherwood「Citizen」(2015年アメリカ)


Billy Sherwood -「Citizen」

第200回目おすすめアルバムは、アメリカのミュージシャン:Billy Sherwoodが2015年10月28日に発表したアルバム「Citizen」をご紹介します。
Billy Sherwood「Citizen」

Billy Sherwoodは、2015年5月、病気治療のため、5大プログレバンド:Yesのツアー活動途中でバンドから離れたChris Square(ベース)の代わりに、メンバーとして参加しています。そして、6月28日に、世界中のプログレッシブ・ロックのファンは、Chris Square死去と云う悲しい知らせを受けてしまいます。メンバーのAlan White(ドラム)は故Chris Squareの意志を尊重し、バンド継続を打ち出すと声明を出しますが、その想いに合わせるかのようにして、Billy Sherwoodは、Yesのベーシストして正式メンバーのキャリアを歩み始めます。

Yesファンの方はご存知のことと思いますが、ボーカル、ベース、ギター、キーボード、ドラムなどをこなすマルチミュージシャンとして知られているBilly Sherwoodのソロ・キャリア開始は1999年に遡ります。それまでの過程はYesと密接に繋がりがありますよね。

・・・ボーカリストとして、1989年に、Jon Andersonが脱退した時には、その後釜に名前があがった。

・・・プロデューサーとして、1991年発表のアルバム「Union(邦題:結晶)」の楽曲を担当していた。

・・・ギター奏者、ベース奏者、キーボード奏者として、1994年のツアーに参加していた。

・・・キーボード奏者として、1997年発表のアルバム「Open Your Eyes」に参加していた。

・・・ギター奏者として、1999年発表の傑作アルバム「Ladder」に参加していた。

・・・そして、2000年にYesを脱退し、前年1999年にソロ1stアルバム「The Big Peace」を発表した。

そして、ソロ8枚目にあたる当アルバム「Citen」は、1990年代Yes参加期のコンポンザーやアレンジャーとしての経験だけでなく、Yesが直近に発売しているアルバム(「Fly From here」、「Heaven & Earth」)のサウンド・メイキングやスタイルを踏襲するかのようなに、メロウさやファンタジックさもたぶんに感じさせる素敵な仕上がりを魅せていると思いました。

主要楽器(ギター、ベース、キーボード)をツアーやアルバムで経験した過去をもち、Yesメンバーの人脈を含め豪華なゲスト・メンバーが仕上げたアルバムは、モダンなYesのスタイルを踏襲し、

過去ソロ・アルバム以上にYesを意識し聴いてしまう1枚であり、それに応える素晴らしいアルバムと思います。

楽曲について

いずれの楽曲も1970年代からのプログレッシブ・ロックシーンを多少知る方には、いちどは耳に聴いたことがある指名度が高いミュージシャンが参加しています。ただし、その豪華なメンバーと云う謳い文句だけに的外れとならない素晴らしい演奏をしていると同時に、Billy Sherwoodのアレンジャーやプロデュースによるアイデンティが活かされています。

ずばり、アルバムのハイライトと云うべき1曲が冒頭曲1「The Citizen」でしょう。

故Chris Squireがベースで、同じく元YesのTony Kayeがキーボードとハモンド・オルガンで参加し、Billy Sherwoodはギターとボーカルを担っています。新旧Yesメンバーによる参加からは想像しがたく、アルバムのオープニングを飾るには、3分前後からのTony KayeによるキーボードとBilly Sherwoodのギターが交互にソロ。フレーズを交わし、続いてTony Kayeによるハモンド・オルガンのソロも含め、そのボーカリゼーションがPhill Collinsを彷彿とさせるBilly Sherwoodの存在だけでなくPhill Collinsボーカル期のGenesisを彷彿とさせるシリアスさに溢れています。

それでもなお、楽曲の屋台骨をしっかりと支える故Chris Squireの低音をゴリゴリした効かせたベースのフレーズに耳を澄まし、ただただ聴き入りたくなりますね。

ヘビーなアンサンブルで重苦しくも展開するさまは、ベースのプレイを含めた故Chris Squireへの追悼歌も聴こえます。

2「Man And The Machine」は、元GenesisのSteve Hackettがギター・ソロで参加している楽曲です。Peter Gabrielのボーカルを想起してしまうBilly Sherwoodのボーカルゼーションとともに、Phill Collinsボーカル期のGenesisがもつアンサンブルのリズミカルさやドラマチックさと、1990年代のYesの楽曲を彷彿とさせてくれます。5分30秒前後のメイン・テーマの唄メロに絡むコーラスワークには、Billy Sherwoodらしさが溢れていますね。

3「Just Galileo and Me」は、XTCのColin Mouldingがボーカルをとる楽曲です。アコースティック・ギターをメインとするアンサンブルには、英国ロックの古き良きのどかなサウンドスケープを感じさせてくれます。シンセ・オーケストラやハープのソロの旋律は色を色を添えると同時に、いっぽうでリフレインする唄メロの「Just Galileo and Me」の一節が儚くも物悲しく聞こえてなりません。

4「No Mans Land」は、現Deep PurpleのSteve Morseがギターで参加している楽曲です。拡声器を通じマイナー調の第一ヴァースと、解放されたメロディが聴ける伸びやかさあるサビ部は、コントラストだけでなく、サビ部のメロディラインにYesの楽曲「The Game」(アルバム「Heaven & Earth」収録)や、Aisaの楽曲「Sleeping Giant / No Way Back / Reprise」を想起してしまうぐらいに印象的です。3分前後やクロージングでのSteve Morseによるクリーントーンでの流麗なギター・ソロは、第一ヴァースから解放されたメロディをより飛躍させるようなサウンドスケープを感じさせてくれます。

5「The Great Depression」は、元YesのRick Wakemanがキーボードで参加している楽曲です。前曲4「No Mans Land」をよりスローテンポにした印象の楽曲にも、唄メロのメロディラインにオブリガード気味のRick Wakemanのクラシカルなフレーズや2分前後のアコースティック・ギターのフレーズなど、アコースティカルな展開をし、4分10秒前後からのディスト―ションを効かせたギターによる断片的なフレーズのソロ以降はダイナミックな演奏へと展開しますが、5分40秒前後での流麗なキメ・フレーズや、6分前後からのソロ独奏には、Rick Wakemanの存在感をまざまざとみせつけられ、ただただ圧倒されます。そして、ギターとピアノをメインにメロディラインは伸びやかにクロージングへ向かいます。

6「Empire」は、Alan Parsonsがボーカル、元The Mahavishnu OrchestraのJerry Goodmanがヴァイオリンで参加している楽曲です。やはりコーラスワークのアレンジが見事としか言いようがありませんが、仄かにオリエンタル・ムードな感覚なメロディラインやデジタル音の比重の高さには、どうしたかものかAlan Parsons Projectの「I Robot」期を想起してしまいます。Jerry Goodmanによるヴァイオリンが奏でる旋律がサックスの音色や旋律を想起してしまったり、5分前後のギターのミニマルなリフとヴァイオリンの掛け合いとともに、聴き手によって異なる印象をもつかもしれませんね。

7「Age of the Atom」は、現Yes、AsiaのGeoffrey Downesがキーボードで参加している楽曲です。哀感もあるメロディックな唄メロのメロディラインには、特にサビ部では、やはりAsiaの楽曲を想起してしまいます。2分30秒前後のオリエンタルな旋律のキーボード・ソロ、3分45秒前後のサウンド処理など、YesやAsiaではあまり聴かれない旋律をで楽曲に色を添えるかのようなGeoffrey Downesのプレイが印象的です。

8「Trail of Tears」は、元Yes、The Moody BluesのPatrick Morazがキーボードで参加している楽曲です。ユニークなクワイアで幕を上げ、インストルメンタル・パートでのフルートの旋律やアンサンブルでのシンセ・オーケストラとともにアクセントをもたせていますが、個人的にPatrick Morazでは感じえないアプローチが印象的です。4分15秒前後からのPatrick Morazらしさ溢れる音色とシンセ・ソロに少し落ち着きますね。

9「Escape Velocity」は、Dream TheaterのJordan Rudessがキーボードで参加している楽曲です。ノイジーなSEからファーストタッチでビートを効かせながら、コミカルな唄メロのメロディラインやリフのキーボードの旋律も印象的にリズムチェンジや変調を多用したアンサンブルは、当アルバムでも最もプログレッシブな展開を聴かせてくれますが、4分35秒前後の高速フレーズによるキーボード・ソロを含めJordan Rudessによるプレイを引き出した楽曲全体の構成に脱帽です。

10「A Theory All It’s Own」は、Porcupine TreeのJohn Wesleyがギターで参加している楽曲です。ミステリアスなヴァースのメロディラインに、唄メロの合間を埋めるリフやサビ部、および、2分50秒前後でのアラビックなフレーズのギター・ソロ、クロージング直前のロングトーンで残響さ溢れるギターのフレーズなど、John Wesleyによるギター・プレイが冴えています。

最終曲11「Written in the Centuries」は、現Yes、Glass HammerのJon Davisonがボーカルで参加している楽曲です。もしかすると、聴き手によっては、現Yesから、ギター、キーボード、ドラムをそっくり変えて2人Yesによる楽曲と捉えて聴き入る方もいたかと思います。

シンセ・オーケストラによるドラマチックに幕を上げる「Written in the Centuries」は、繊細にもミステリアスな展開をみせつつも、サビ部でのJon Davisonの伸びやかなボーカリゼーションを聴けば、いったん当アルバムの他楽曲でのBilly Sherwoodのボーカリゼーションの印象を忘れてしまいそうになります。いっぽうで、Billy Sherwoodは、2分50秒前後から本来のギタリストとしての存在感をみせるソロを聴かせ、続く3分40秒前後からはJon Davisonをコーラスにメイン・ボーカルとテンション溢れるギターのオブリガードをとっています。4分45秒前後からは、再度、Jon Davisonによるボーカル・パートへ戻り、伸びやかなボーカリゼーションを効かせたサビへ展開し、エンディングでは、荒れぶるうBilly Sherwoodのギター・ソロが聴けます。

アルバム全篇、それぞれの楽曲に参加するゲストの演奏やボーカルがしっかりと個性を出しながらも、Billy Sherwoodによるアイデンティがしっかりとプロデュースに活き、結果的に、1990年代以降のYesやPhill Collins期のGenesis(もしくはネオ・プログレ系)のアンサンブルとサウンド・メイキングへと統一感のある素晴らしい仕上がりのアルバムと思います。

[収録曲]

1. The Citizen
2. Man and the Machine
3. Just Galileo and Me
4. No Mans Land
5. The Great Depression
6. Empire
7. Age of the Atom
8. Trail of Tears
9. Escape Velocity
10. A Theory All It’s Own
11. Written in the Centuries

Yesが直近に発売しているアルバム(「Fly From here」、「Heaven & Earth」)でのファンタジックさ溢れるサウンド・メイキングやスタイル、および、Phill Collinsボーカル期のGenesisによるメロウでメロディックさとダイナミックさが好きな方におすすめです。

また、Chris Squreをはじめとした豪華なゲスト・ミュージシャンの名前をみて、その演奏やボーカルを聴きたいと云う方にもおすすめです。その演奏やボーカルはそれぞれの楽曲に活かされていると思いますので聴いて損はしないと思います。特に、故Chris Squireの生前最後のベースの演奏を体感して欲しいです。

「Citizen」のおすすめ曲

1曲目は冒頭曲の「The Citizen」
それほど、リード的なフレーズを聴かせることはなくとも、低音をゴリゴリと響かせる独特のベースのフレーズが聴けて嬉しいからです。

2曲目は5曲目の「The Great Depression」
何度も心臓発作に襲われ体調を崩すことが多いRick Wakemanのバンド形態での楽曲に、演奏の一員として参加しているプレイが聴けて、さらにその演奏に存在感を感じられて嬉しいからです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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