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プログレおすすめ:上原ひろみ「Time Control」(2007年日本)

公開日: : 最終更新日:2015/12/29 2000年代, ジャズ&フュージュン, 日本


上原ひろみ -「Time Control」

第7回目おすすめアルバムは、上原ひろみが2007年に発表した4thアルバム「Time Control」をご紹介します。
上原ひろみ「Time Control」
上原ひろみのアルバムの中で、プログレッシブ・ロックな展開を感じられるアルバムとして、プログレ色が強くテクニカルなアルバムと引き合いに出されるアルバムが当4thアルバム「Time Control」と言われています。もちろん、上原ひろみ本来のピアノが強調される箇所もありますが、それ以上に、ギターやベース、そしてシンセによるアンサンブルの比重が高い楽曲がおさめられています。

当アルバムは、上原ひろみがトリオ編成ではなく、Martin Valihora(ドラム)とTony Grey(ベース)のリズム・セクションに、
フレットレス・ギターでユニークなフレーズを弾きまくるDavid Fiuczynski(ギター)とのカルテットでSonic Bloomとして制作されています。

ほとんどの曲にはタイトルに「Time」というワードが含まれ、アルバムを通じ「時間」をテーマに作られたアルバムだそうで、このテーマを意識しながら、アルバムを聴きとより一層楽しめるかもしれません。当アルバム発表後、2008年にスイングジャーナル主催の「ジャズ・ディスク大賞 最優秀ジャズ・ビデオ賞受賞」を受賞し、2007年当時、さらに飛躍していく音楽性の眩さの入り口に触れてみましょう。

楽曲について

冒頭曲1「Time Difference」は、ピアノの速弾きフレーズで始まりますが、間もなくギターのリフが大胆にもそのフレーズを切り裂いていきます。それまでの上原ひろみのアルバムではあまり感じなかった印象かと思いますが、ロック的なアプローチと思いきや、途中からピアノとのユニゾンになっていくんです。1分30秒過ぎからはシンセの音が浮遊しながら、逆のチャネルではギターが独特のフレーズを奏でます。ドラムのシンバルワークがとても素晴らしく、いつの間にかピアノ演奏がないままに曲が進行していることも違和感なく聴き入ってしまいました。そして、そのピアノの無演奏のパートでは、予備知識をもたずに聴かずに聴いてしまうと、ロック・アーティストがフュージュン的なアプローチに近づいた印象を感じえます。ギターの音色も含め、アルバム「Wired」や「Now And Then」といったジャズ系やフュージュン系のエッセンスに近づいた時代のイギリスのギタリスト:Jeff Beckの印象がしました。

2「Time Out」では、ワウワウやトーキング・モジュレータ?なども含めたギターのアプローチも濃厚に、「Time Difference」よりもファンキーでダイナミックな展開が愉しめる楽曲です。ギターに、ベース、キーボードがユニゾンするパートなど、変拍子とポリリズムを満載で、バンドとして一体感を感じさせてくれる聴きごたえのある構成だと感じる曲です。

3「Time Travel」は2「Time Out」」よりも、ポリリズムさよりもフュージュン系でのフレキシブルさに、よりダイナミックなアプローチなフレーズが堪能出来ます。5「Real Vs. Body Clock = Jet Lag」でも、プログレッシブ・ロックな側面の豊かに、1970年代に活躍したアメリカのロック・バンド:Little Feetを彷彿とさせるギターのアプローチのパートを含め、エクセントリックさある異質なサウンドを聴かせてくれます。

その前半の楽曲3曲や次の5「Real Vs. Body Clock = Jet Lag」とは異なり、イントロからセンチメンタリズムに奏でる印象的なギターのフレーズと並奏するピアノで幕を上げる4「Deep Into The Night」では、ダイナミックにもメロディックな比重が高いアンサンブルが聴けます。ギターが弾くテーマと思われるフレーズをベースが弾き終わると同時に、ピアノのレンジは大きくなり、曲がダイナミックに盛り上がると、4曲目にして、やっと上原ひろみのピアノが十二分に聴けた心地に安堵すら憶えますが、トリオ編成に1を足した音楽の世界を聴かせようとしているアルバムであると、当楽曲で伝わってきます。楽曲後半部は、ピアノがテーマと思われるフレーズを弾き、ギターがフリーキーなフレーズを聴かせながらも、リズムセクションも含めロック的なアプローチを十分に感じさせながら心高揚させ楽曲はクロージングします。

6「Time And Space」は、ギターもピアノも楽曲タイトルに相応しい音と音の間を意識したテクニカルにも端正なフレージングを聴けて、前曲5「Real Vs. Body Clock = Jet Lag」でのエクセントリックさにいったん小休止を置きアルバム中盤を引き締める存在

7「Time Control, Or Controlled By Time」は、ピアノによる躍動的な旋律で幕を上げ、変拍子とポリリズムさが際立つスピーディな展開の楽曲です。そのスピーディさにミニマルさや不規則極まりない旋律などが凝縮され、4分前後から上原ひろみのピアノのフレージングにはの跳ねたリズムで冴えるファンキーさも特筆しがたいですが、ギターやベースもピアノの旋律に呼応するようなフレージングに溢れており、6分前後から7分50秒前後までのピアノとギターとベースが交互に高速極まりないユニゾン・プレイは素晴らしいです。

「和」の郷愁を誘うかのような旋律の電子音?にリードされ弾かれる上原ひろみのピアノのフレーズで幕を上げる8「Time Flies」は、時折、Yan Hammerを彷彿とさせるテーマを弾くギターによるアプローチがあるものの、呼応するかのように流麗なフレーズを弾くピアノのアプローチが聴ける楽曲かと思います。仄かにダイナミックさを讃えながらも、楽曲全体にしっとりした雰囲気を壊さずにするピアノのアプローチが素敵な楽曲です。そして、約47秒ほどの小品9「Time’s Up」でアルバムはクロージングします。

アルバム全篇、カルテット編成でバンドでのアンサンブルを意識した構成が際立つと同時に、個人的には、イギリスの3大ギタリスト:Jeff BeckがYan Hammerと組み、ジャズ系やフュージュン系のアプローチとは異なるカタチでアプローチを感じてしまいます。ギタリストを加え、トリオ編成に1を足したのではないと上原ひろみ本人が語る「Hiromi’s sonicbloom」が奏でる音楽には、フレキシブルさがあり、イマジネーション溢れる世界観を楽しめる素敵なアルバムと思います。

[収録曲]

1. Time Difference
2. Time Out
3. Time Travel
4. Deep Into The Night
5. Real Vs. Body Clock = Jet Lag
6. Time And Space
7. Time Control, Or Controlled By Time
8. Time Flies
9. Time’s Up

人によっては、上原ひろみの演奏する数々の曲に、フリージャズか、プログレか、はたまたそれ以外かと意見は分かれるかもしれません。
それでもダイナミックでいて、様々なアプローチをする姿勢にプログレ的な発想を感じてしまうんです。発想を具現化させていくことはとても素敵なことだから、よりロック的になっても、曲の中にうすらうすら感じるプログレ的なアプローチがあれば、これからもぜひ聴き続けていきたいですね。
ジャズにプログレらしさを感じえたい方におすすめのアルバムです。

女エマーソンか・・・

巷では女エマーソンと呼ばれているぐらい、EL&PのKeith Emersonの印象があるのでしょうか。でも、自分は敬愛するYESのRick Wakemanのクラシック的なアプローチに近いかなと勝手に感じています。

他のアルバムと異なり上原ひろみのピアノが抑えられた印象のあるアルバム「Time Control」ですが、プログレッシブ感だけでなく、本来のジャズ、ポップス、クラシックなど幅広いアプローチと、テクニカルであるから安心して聴けるピアニストの一人と思っています。

「Time Control」を真っ先におすすめで取り上げたのは・・・

多くの聴くべきアルバムがある中で、真っ先にこのアルバムを取り上げてみました。多くの方々がどのアルバムよりもプログレ的に感じるという意見を聞くことが多いのですが、イギリスのJeff Beckが1976年に発表したアルバム「Wired」の存在もあり、どうしてもこのアルバムを紹介したいと思いました。

Jeff Beckにとって、アルバム「Wired」は前作「Blow By Blow(邦題:ギター殺人者の凱旋)」からフュージュン色を入れた演奏に加え、Yan Hammer(キーボード)を迎え、さらにJazz Rock的な要素が濃く、よりハードに、よりテクニカルな曲が満載のアルバムでした。Jeff Beckはアートロック、ハードロックから、フュージュン的なインストルメンタルのアプローチを展開し始めていた。いっぽうで、上原ひろみは、当アルバム「Time Control」以降、「Voice」、「Move」とロック色を強く感じるアルバムが発表し続け、よりワールドワイドに認知される存在へと飛躍していきますが、上原ひろみとJeff Beckは全く逆のアプローチでより音楽の幅を拡げ表現工夫していたのではないかと思ったんです。

そして、当アルバム「Time Control」を聴くと、アルバム「Wired」をイメージしてしまうんです。

そしてそして、
上原ひろみはJeff Beckの曲「Led Boots」をカバーしています!
さらにその「Led Boots」はアルバム「Wired」の冒頭曲でもあるんです。

アルバム「Time Control」のおすすめ曲

1曲目は「Time Flies」
イントロのセンチメンタルなフレーズ、途中途中に流れるテーマ、曲の最後のアプローチなど、ギターが曲の要所を抑えながらも、他の曲と比べて、ギターやベースとは明確にメリハリをつけたピアノのパートを感じるからです。

2曲目は「Deep Into The Night」
ギターとベースが順にメロディックに奏でるテーマには感傷的でセンチメンタリズムを感じますが、ダイナミックにレンジが拡がった瞬間に聴ける上原ひろみのピアノにはメロディックにもテクニカルさが溢れ、かえって、テクニカルさ溢れた演奏に聴いているとホッと心が落ち着くんです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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