プログレおすすめ:TM NETWORK「Major Turn-Round」(2000年日本)
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最終更新日:2015/12/02
2000年代, メロトロン, 日本, 関連プログレ[日本] Simon Phillips, TM NETWORK
TM NETWORK -「Major Turn-Round」
第93回目おすすめアルバムは、日本のミュージシャン:TM NETWORKがプログレッシブ・ロックを意識し、2000年に発表したアルバム「Major Turn-Round」をご紹介します。
2015年3月22日に充電期間に入ると発表したことも記憶に新しいTM NETWORKは、宇都宮隆さん(ボーカル)、木根尚登さん(リズムギター・ピアノ)、小室哲哉さん(シンセサイザー・キーボード)のトリオで構成されており、作詞には、小室みつ子さんが携わることが多く、当アルバム「Major Turn-Round」も全担当されています。1980年代から数々のヒット曲を出したヒットメーカーであり、一度聴けば忘れることの出来ないメロディに、デジタル感もあるクオリティの高い楽曲を出し続ける日本でも有数のユニットです。
そして「キヲクトキロク ~ Major Turn-Round」と
とはいっても、筆者は当アルバムを購入出来ていません。8thアルバム「EXPO」を発表後、TM NETWORKは自らインディー・レーベル<ROJAM>を自ら設立し、9年ぶりに当アルバムを発表するのですが、完全限定で流通も限られていたんですよね。通販購入が苦手だということもありますが・・・。
クリスマスの日が誕生日のため、アルバム発表日が「2000年12月25日」と云うのはとても運命を感じましたよ。購入出来なくてモヤモヤしていた記憶があります。そしたら、2003年に未発表音源とともに2枚組アルバム「キヲクトキロク ~ Major Turn-Round」の2枚目として発表されたんです!
発売日は「2月5日」だけれど気にしない。
「絶対に好きなようにしかやらない、そうでないと意味がない」
と云う小室哲哉さんの言葉に導かれ、アルバムを購入し耳を傾けました。
楽曲について
9thアルバム「EXPO」の楽曲でも女性のナレーションを活かした楽曲「Crazy For You」や小室さんのキーボードの音使いやフレーズ、リズム感覚などに特徴がある「Think Of Earth」にプログレッシブなエッセンスを十分に感じていたので、焦点は、アルバム全篇でプログレッシブ・ロックをどう表現するのかという点でした。
冒頭、水の音を潜っていく音を再現した「WORLDPROOF」にてアルバムは幕を上げます。インストルメンタルの楽曲で、2「IGNITION,SEQUENCE,START」へとリンクするだけでなく、もしかすると、3「MAJOR TURN-ROUND」の冒頭部と対になり、プログレッシブ・ロックの1つの手法である連なる楽曲をコンセプトアルバムに見立てる手法でしょうか。
2「IGNITION,SEQUENCE,START」は、車の走り出すSEかと思えば、1970年代のノイジーなプログレ・ハードのようにも聴こえるSEかとニンマリしつつ、50秒前後のデジタル感溢れるタッチのシンセに導かれ、宇都宮さんがヴァースで唄う出だしの一節
・・・「今夜この手の中に握りしめていた見えないナイフをかざそう」・・・
・・・「このまま身動きできずあきらめはしない」・・・
には抑制を効かせて唄うからこそ、小室みつ子さんの歌詞の数々が心に響いてきます。TM NETWORKによる静かな情熱や闘志が、1分前後からの1分間に強く印象的に残っています。「もういちど自由になる」・・・楽曲の後半の展開に心躍るんです。アメリカのロック・バンドでも有名なTOTOのドラマー:Simon Phillipsが叩く、特に、2分44秒前後のドラムのひきずるようなリズム感など、いっそう楽曲の世界観へ没頭していくんです。Simon Phillipsは、2014年に上原ひろみが発表したアルバム「Alive」でもAnthony Jacksonとともにフィーチャリングされているとおり、インストやプログレッシブ感のある楽曲での演奏が多いイメージがあるものだから、アップテンポのあるプログレッシブな楽曲としてより一層イメージをかきたててくれますね。
3「MAJOR TURN-ROUND」は3部構成(「I FIRST IMPRESSION」、「II SECOND IMPRESSION」、「III THIRD IMPRESSION」)の約35分前後の楽曲です。
「I FIRST IMPRESSION」は、ピアノで始まるヴァースのパートから、めくるめく曲調やリズムチェンジが重なっていく楽曲ですね。メロトロン、オルガン、ミニ・ムーグがふんだんに盛り込まれながらも、さまざまなテーマの唄メロが変わっていくのはまさに組曲風のプログレッシブ・ロックな構成です。アグレッシブに攻めるEmerson, Lake & Palmer風のオルガンサウンドに畳み掛ける唄メロと、メロウで抒情性溢れる唄メロの2つの印象的なパートに、6分30秒から7分30秒前後のオルガンのフレーズに導かれ、メロトロンが奏でられるパートをアクセントにしつつ聴き入ってしまいます。
9分前後からの「II SECOND IMPRESSION」はインストルメンタル中心のパートです。Pink Floyd風のリリカルなフィーリングのギターソロから、「Relayer」期のYESを連想させるギターやRick Wakemanを想起させるピアノなど、イメージを膨らませるには十分過ぎるぐらいにプログレのエッセンスに溢れているんです。そして、アップテンポでパーカッシブさに溢れ、一定のリズムでシークエンスするピアノが展開する中、22分前後に突如インクルーディングされるベートベンの「月光」のメロディには、名曲「Human System」のイントロを彩ったモーツァルトの「トルコ行進曲」で耳に触れた時と異なる感覚を憶えたものです。
26分前後からの「III THIRD IMPRESSION」は、2「IGNITION,SEQUENCE,START」よりも強く希望を願い唄い上げる様が印象的に感じます。「I FIRST IMPRESSION」や「II SECOND IMPRESSION」よりもスペーシーな音使いには、YES初期のエコー処理やPink Floydの幻想さもを想起させるサウンドメイキングを想起します。Wikipediaの当アルバム紹介では、「Turn Round」という言葉の意味「仕方なく戻る」ではなく、「Turn-Round」という言葉の意味「積極的に振り返る」として、ネガティブではなくポジティブに感じたいという小室さんの想いに合わせて、「Turn-Round」の歌詞とともに楽曲に接していきたいですね。
3部構成の「IMPRESSION」という名称をみれば、5大プログレバンドのうちの1つ:Emerson, Lake & Palmerの1974年発表の4thアルバム「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)」の後半部を彩る組曲「Karn Evil 9(邦題:悪の教典#9)」を想起するプログレッシブ・ロックのファンもいるかもしれませんが、楽曲の本質は、TM NETWORKから聴き手に対しポジティブなメッセージが詰め込まれた素晴らしい楽曲だと思いました。
4「PALE SHELTER」はアルバム中、最もアンニュイなメロディ感を持った楽曲で、イントロの刹那さ溢れるギターのフレーズに導かれ、アコースティックギターとモーグとのアンサンブルにヴァースの唄メロが重なる様には、もがき苦しむかのような世界観をただただ感じます。サビ部の「壊れた心~」からの一節に少し救いを感じながらも、コーラスワークがより一層、悲壮感をきわたたせますね。
5「WE ARE STARTING OVER」、6「MESSAGE」、7「CUBE」と続く3曲には、TM NETWORKらしさ溢れるメロウな唄メロを中心としたサウンドが聴けます。筆者は、名曲「Confession」や「Time Passed Me By」に代表されるメロウな楽曲で、宇都宮さんが聴かせてくれるボーカリゼーションはその声質と合いまって素晴らしいと思うんです。ただ、既発楽曲と異なるのは、アナログシンセがアンサンブルに加わることで、楽曲1つ1つにヴィンテージさによる郷愁さに浮遊さが増していることでしょうか。
特に、ゆったりとしたピアノの伴奏ではじまるラスト7「CUBE」は、じわじわとハモンドオルガンが鳴り響くアンサンブルのもと、宇都宮さんが淡々と唄うのが印象的に感じました。ただ、楽曲はそれだけで終わらず、曲が高揚したかのように、宇都宮さんが気持ちをぶつけるように、言葉を吐き出すように唄うヴォーカリゼーションと移行し、「Listen to me」や「Come Back to me」が脳裏を覆い尽くすのようにし、ギターとベースがアンサンブルに加わり、さらに楽曲はクレッシェンドしていきます。Emerson Lake and Parmer風にミニ・モーグの音が響きつつ、最後の歌詞の一節を宇都宮さんは唄い、ハモンドオルガンとミニ・モーグがシンクロしながら、アルバムはクロージングします。「CUBE」を小室さんが「30年に1つの名曲」と評したのも分かるぐらい、唄メロを活かしつつ、繊細でいて大胆なアナログシンセ類の演奏に聴き入ってしまいます。
シングル楽曲の2「IGNITION,SEQUENCE,START」、5「WE ARE STARTING OVER」、6「MESSAGE」がアルバムバージョンとして再度レコーディングしなおし収録したことから、シングル楽曲とアルバム楽曲との整合性、言い換えれば、プログレッシブ・ロックへの造形に徹底しようとする姿勢が伺えます。また、全楽曲中、冒頭曲「WORLDPROOF」を除けば、半数の楽曲(4「PALE SHELTER」、5「WE ARE STARTING OVER」、7「CUBE」)が木根さん作曲というのが嬉しいですね。
タイトル楽曲「Major Turn Around」だけでなく、全ての楽曲に通じ、これまでのTM NETWORKが持つ特有な唄メロを損なうことなく、アンサンブルで聴けていたキーボードやシンセ類に、よりヴィンテージなアナログ楽器が絡み合う素晴らしいアルバムと思いました。
希望の前に立ち返る「振り返り」と「未来のまなざし」を強く感じました。
[収録曲]
1. WORLDPROOF (Inst)
2. IGNITION,SEQUENCE,START (Album Version)
3. MAJOR TURN-ROUND
I FIRST IMPRESSION
II SECOND IMPRESSION
III THIRD IMPRESSION
4. PALE SHELTER
5. WE ARE STANDING OVER (Album Version)
6. MESSAGE (Album Version)
7. CUBE
小室さんは、Hammond B-3、メロトロン、ミニムーグ、Oberheim OB-8、フェンダー・ローズ、チューブラー・ベルなど、アナログシンセサイザーを多用しています。1970年代の古き良きプログレッシブ・ロックのヴィンテージ感を強く感じられるため、ヴィンテージ感のあるサウンドが好きな方にはおすすめなアルバムです。
既にTM NETWORKの楽曲に、これぞと先入観を持っている方や、当アルバムジャケットを手掛けたのはRoger Deanですが、そのロゴにはYESのアルバム「Close To The Edge(邦題:危機)」のロゴを連想させるように、5大プログレバンド(Emerson, Lake & Palmer、King Crimson、GENESIS、Pink Floyd、YES)のサウンドが好きな方には、先入観を捨てて聴いて欲しいアルバムです。
もういちど、あらためて・・・
「絶対に好きなようにしかやらない、そうでないと意味がない」という小室さんの言葉からも、当時表現したかったプログレッシブ・ロックの素晴らしさが詰まっているとアルバムと思います。
アルバム「Major Turn-Round」のおすすめ曲
1曲目は、ラスト7曲目の「CUBE」
淡々とした前半部、高揚する後半部。ピアノとハモンドオルガンとミニムーグが繊細にも大胆に楽曲に色を添えているのが素敵だからです。
2曲目は、3曲目の「MAJOR TURN-ROUND」
プログレッシブなエッセンス溢れるインストルメンタルのパートが多く、約35分前後の「MAJOR TURN-ROUND」にはプログレッシブ・ロックのファンでなければ、とっつきにくい印象があるかもしれません。ただ、「TURN-ROUND」に込められた想いと、その想いに、現在、過去、未来にパートを分けて聴かせることに、ポジティブさがあることを知り、聴けば聴くほど、素敵な楽曲と感じたからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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