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プログレおすすめ:Atoll「L’Araignee-Mal(邦題:組曲「夢魔」)」(1975年フランス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/26 1970年代, ヴァイオリン, シンフォニック, フランス, メロトロン


Atoll -「L’Araignee-Mal」

第239回目おすすめアルバムは、フランスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Atollが1975年に発表した2ndアルバム「L’Araignee-Mal」をご紹介します。

Atoll「L'Araignee-Mal」

仏のYes・・・か。

Atollは、1974年に、フランスで、Andre Balzer(ボーカル)、Alain Gozzo(ドラム、パーカッション)、Luc Serra(ギター、シンセサイザー)、Michel Taillet(シンセサイザー、クラビネット)、Jean Luc Thillot(ベース、ボーカル)、Gianez Ler(テノール&ソプラノ・サックス、フルート、ピッコロ)の6人で結成したバンドです。

1970年代に4枚のアルバムを残しますが、その音楽の特徴は、それぞれのアルバムで異なる印象をもつかもしれません。共通しているのは、ダイナミックにもユーロ圏特有のバンドが持つ翳りをもったメロディックさに、シアトリカルがある点かと思います。たとえば、5大プログレバンド:GenesisのシアトリカルさとYesのスキルフルにも緻密なアンサンブル、アメリカのジャズ・フュージュンやジャズ・ロックの先駆者ともいうべきバンド:Mahavshu Ochestraのジャズ・フュージュンのエッセンスが引き合いに出されることも多いです。そして、Ange、Pulsar、Mona Lisaとともに1970年代のフランスを代表するシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンドの1つなんです。

1974年発表の1stアルバム「Musiciens-Magiciens」の1年後に発売された当アルバム「L’Araignee Mal」では、Gianez LerとLuc Serraがバンドを離れ、あらたに、Richard Aubert(ヴァイオリン)とChristian Beya(ギター)が参加しています。この弦楽奏者と管楽奏者と云うアンサンブルの表現一端を伺える存在の変更は、バンドにプラスをもたらしたのでしょう。Richard Aubertが弾くヴァイオリンの旋律は楽曲に即興さや緊迫さをもたらし、Christian Beyaのギタープレイは、繊細にも整ったリズムセクションをよりまとめあげフュージュン系の比重を高め、緻密なアンサンブルをもたらしています。さらに、もともと独特の翳りをもったメロディックさは、ゲストとして迎えたBruno Gehinによるピアノ、フェンダー・ローズ・ピアノ、メロトロン、ミニ・ムーグの多種多様な音色が増えることで、

独特の翳りに耽美さ溢れ、それ以上に緻密なアンサンブルが聴けるワールドワイドな名盤です。

緻密さがゆえに、難解さがフュージュン寄りにも第2期King Crimsonの凶暴さ溢れるアンサンブルをも彷彿とさせてくれるのです。それは、一時期、Atollの音楽を「仏のYes」と称されていたことのギャップではないかと思うんです。その「仏のYes」とは当時賛否両論だったそうですが、個人的に「仏のYes」と思い当たるのは、当アルバムで極めて顕著に各楽器が奏でる手数が多く緻密なアンサンブルによりシンフォニックなサウンドを構築する点と、当アルバムでは希薄となった1stアルバムでのコーラスワークのイメージではないかでしょうか。そのような論議は関係ないほどに、クオリティの高さに関係ないアルバムです。

楽曲について

冒頭曲1「Le Photographe Exorciste」は、徐々にストリング・シンセの旋律が響きわたり、ミステリアスさに包まれ、淡々とリズムセクションとギターのフレーズに、Andre Balzerの語りが始まります。

2分前後から徐々にストリング・シンセとギターは不協和音へと変貌し、語りも狂気や絶叫へと満ちていきます。笑い声は、まるで悪魔があざ笑うかのように不気味さ極まりないです。3分前後には冒頭の落ち着いたアンサンブルへと立ち戻り、彼方で咆哮するヴォイシングとともに、4分50秒前後に、エレクトリック・ピアノをアンサンブルに、6分4拍子によるメロディックなシンセのソロ、そしてギターソロが奏でられます。それは、Atollがもつ翳りに満ちたメロディックな旋律は優美でいて、それまでのミステリアスさと不気味さに安堵してしまう心地です。ただそれも束の間の平和なのか、6分10秒前後のギターとシンセの不穏なリフが一変させて、ギターによるインプロビゼーション溢れるフレーズが綴られていきます。続くヴァイオリンの狂おしさと合わせて、狂気に満ちた楽曲はクロージングを迎えます。ギターのフレーズは、第2期King Crimsonでも感じえるRobert Frippのギター・プレイを彷彿とさせるものがありますね。

不穏さ、狂気、そして安堵も束の間、邪悪さが止まらない。

2「Cazotte No.1」は、テクニカルにもヘビーなアプローチで交えたジャズ・フュージュン系の楽曲です。エレクトリック・ピアノのコード・ヴォイシングに、ヘビーなギターのリフと前衛的なピアノのフレーズが絡みつつ、ファーストタッチで軽快に進行していきます。のたうちまわるベースラインも印象的に、テンポチェンジを交え、ヴァイオリン、シンセサイザー、ギターがそれぞれソロを繰り広げていきます。エレクトリック・ピアノのソロを終えた5分55秒前後にドラムのソロが終わると同時に、ギターとベースのユニゾンによるリフととも楽曲はクロージングします。それぞれのソロはと複雑なベースラインは、緻密なアンサンブルにも軽快に進行する曲調と共に、横ノリで感じえるシャッフルさが心地良さもあります。

3「Le Voleur d’Extase」は、エレクトリップ・ピアノとギターをアンサンブルに、ヴァイオリンが優美な旋律で幕を上げ、穏やかさに包み込まれるかのようにロマンチシズムを讃える唄メロが聴けます。このロマンチシズムに浸れると思いきや、1分20秒前後にファルセットによる咆哮にテンポアップし、ヴァイオリンのソロとアンサンブルが繰り広げられます。異質さに違和感がありながらも、2分20秒前後から3分前後までのヴァイオリンの旋律はリズムセクションとのコンビネーションが圧巻です。3分前後からのダミ声とスキャットによるヴァースを挟み、エレクトリック・ピアノとリズムセクションのアンサンブルに、ヴァイオリンとギターが交互にソロをとります。ファルセットによる咆哮とともに楽曲はクロージングします。2「Cazotte No.1」以上に、各楽器が奏でるフレーズが絡み合うアンサンブルの緻密さにただただ脱帽です。

4「L’Araignee ? Mal(組曲「夢魔」)」は、1975年発売当時のレコード・フォーマットでは、B面を1曲で占め、大きく4つのパートに分かれる約22分にも及ぶ組曲です。

パート1「i. Imaginez Le Temps」は、呪術のようにつぶやく人の声と、パーカッションに、ヴァイオリンの響きが展開していきます。まるで第2期King Crimsonの名曲「Larks’ Tongues in Aspic Part.1」を彷彿とさせるアンサンブルを感じます。続いて緻密なリズムセクションにゆったりとヴァイオリンの旋律は響き渡り、3分30秒前後からは、エレクトリック・ピアノの残響さも余韻に幻想さ包まれ、翳りあるメロディックな唄メロが綴れれていきます。唄メロのメロディラインを拡張するか如くギターのソロが綴られていきます。そして、シンセとギターによるヘビーで短めのアンサンブルにリンクし・・・・

パート2「ii. L’Araignee-Mal」は、エレクトリック・ピアノのミニマルなフレーズがほのかに幻想さを醸し出し、シンセサイザーの旋律がうずまくなか、穏やかな唄メロのメロディラインが進行します。7拍子で進行するリズムセクションに、徐々に情熱を迸るように張り上げるボーカルゼーションと、よりうずまくシンセサイザーの旋律は、ファンタジックさ溢れるシンフォニックな展開です。そして、シンセサイザーのうずまく旋律にリンクし・・・

パート3「iii.Les Robots Debiles」は、エレクトリック・ピアノのミニマルな低音のフレーズに、シンセサイザーの旋律とベースライン、ギターのカッティングが7拍子で進行していきます。そのまま7拍子でのリズムセクションに、1分10秒前後には4拍子へと展開し、拍子変化による緊張感さを漂わせ続けます。そひて1分30秒前後から、突如翳りあるメロディックな旋律をエレクトリック・ピアノのパートを挟み、再度、7拍子による冒頭部のアンサンブルへと戻ります。そして、2分30秒前後からはハードなアプローチで唄メロのヴァースが展開します。Emerson, Lake & Pamerのハードロックなアプローチに近いアンサンブルとボーカリゼーションを彷彿とさせてくれます。楽曲は、緩急や静と動と云うには大胆極まりない変拍子を巧みに利用し緻密にもクリエイティブ豊かなアンサンブルが堪能出来ます。そして、シャウトにリンクし・・・

パート4「iv.Le Cimetiere De Plastique」は、ストリング・シンセが響き、哀しみに満ちた唄メロのヴァースとギター・ソロが進行します。2分10秒前後のドラムのフィルインとともに、エレクトリック・ピアノがほんのりと旋律を奏で、ストリング・シンセがミニマルなアルペジオを響かせ、シンセサイザー、ギターがソロを続け、複雑なベースライン、ヴァイオリンも加わり、それぞれの音が絡み合うようにシンフォニックに展開していきます。そして、4分20秒前後からシャッフル・ビートへ移行し、オルガンをバックに、ギター、ヴァイオリンが交互にソロを重ね、長いキメを2回繰り返し、シンセの1音とともに、楽曲はクロージングします。

約22分間、だれることなく、邪悪さと不穏さ、幻想さ、エキセントリックさ、優美さなど、緻密なアンサンブルで聴ける。

アルバム全篇、シンセサイザー、ギター、ヴァイオリンが奏でる豊富なアイデア、複雑なベースラインと手数の多いドラムによる緻密なアンサンブルが、時に、ジャズ・フュージュン系で進行し、特に、シンフォニックに展開していきます。そして、表現豊かなボーカリゼーション(語り調、シアトリカル)をまじえ、邪悪さ、不穏さ、幻想さ、エクセントリックさ、優美さなど、音が表情を変えては、聴き手に迫って来ます。

プログレッシブ・ロックの特徴の1つである、変拍子やリズムチェンジは、多用がプログレッシブ・ロックの一部をしたしめてるような柔なものではなく、聴けば聴き込むほどに、聴き手へ伝えるニュアンスを大切にしたテクニカルさを強く感じます。

いっぽうで、いちど聴いただけでは理解おさまりきれない予測不可能な展開が盛り込まれ、Atollのクリエイティブな音楽が発揮された傑作アルバムです。

[収録曲]

1. Le Photographe Exorciste(邦題:悪魔払いのフォトグラファー)
2. Cazotte No.1(邦題:カゾットNo.1)
3. Le Voleur d’Extase(邦題:恍惚の盗人)
4. L’Araignee-Mal(邦題:組曲「夢魔」)
-i. Imaginez le temps(邦題:思考時間)
-ii. L’Araignee-Mal(邦題:夢魔)
-iii. Les robots debiles(邦題:狂った操り人形)
-iv. Le cimetiere de plastique(邦題:プラスチックの墓碑)

Genesisのシアトリカルさ、Yesのスキルフルにも緻密なアンサンブル、Mahavshu Ochestraのジャズ・フュージュンさ、および、バンド特有の翳りあるメロディックさが発揮されつつも、より第2期King Crimsonの凶暴さ溢れるアンサンブルの印象が強いアルバムです。各エッセンスのバランス感覚からも、手数が多いプレイで緻密にシンフォニックな構築をするプログレッシブ・ロック(=シンフォニック系)が好きな方におすすめです。

当アルバムでAtollを好きになった方は、当アルバムよりもメロディックな比重が高い1977年発表の3rdアルバム「Tertio」、現AsiaのJohn WettonがAsia結成直前に参加しようとしレコーディングした楽曲がボーナストラックとして収録されたポップさの比重が高い1979年発表の4thアルバム「Rock Puzzle」に触れてみることをおすすめします。

アルバム「L’Araignee-Mal」のおすすめ曲

1曲目は、最終曲4「L’Araignee-Mal」
音が聴き手に与えるさまざまなテーマ(邪悪さ、不穏さ、幻想さ、エクセントリックさ、優美さなど)を、メンバーのスキルフルでテクニカルさが発揮されています。

2曲目は、冒頭曲1「Le Photographe Exorciste」
翳りあるメロディックさと、途中、予測不可能なパートに、Atollが奏でる音楽性へ一気に惹き込まれるきっかけとなりました。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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