プログレおすすめ:YES「Tormato(トーマト)」(1978年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
1970年代, YES(5大プログレ), イギリス Alan White, Chris Squire, jon anderson, Rick Wakeman, Steve Howe, YES
YES -「Tormato」
第135回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが1978年に発表したアルバム「Tormato」をご紹介します。
前作8thアルバム「Going For The One(邦題:究極)」に続き、Jon Anderson(ボーカル)、Chris Square(ベース)、Steve Howe(ギター)、Rick Wakeman(キーボード)、Alan White(ドラム)で制作されています。
10年単位でいえば、1970年代はロックというジャンルが大きく幅広い音楽性を生んでいったのではないかと個人的に感じています。特に、1970年代後半は、プログレッシブ・ロックからの派生ジャンルやクロスオーバーするバンドやミュージシャンというよりも、パンク、ディスコ、AOR、エレクトロなどの新機軸が発生し、さらに「産業ロック」というジャンルまで出現しています。
この1970年代後半に、前作8thアルバム「Going For The One」におけるYesの回答は、従来のポップさもあるファンタスティックな楽曲や10分以上にも及ぶ大作から、よりストレートなサウンドを意識しつつもYes本来のシンフォニック性やコーラス性をコンパクトに纏めた楽曲の発表だったのかと思います。
さらに、当アルバム「Tormato」では、当時の路線を推し進め、より短めの楽曲へと移行していたのでしょうか・・・。
個人的には、シングルカットされた楽曲「Don’t Kill The Whale」やパンク台頭に立ち向かうような「Release, Release」があるものの、
名盤「Close To The Egde(邦題:危機)」を彷彿とさせる豊富なメロディセンスが散りばめられたアルバム
と思っているんです。約19分にも及ぶ名作「Close To The Egde」もフレームワークは最初から長尺ではなく、さまざまな楽曲のモチーフを繋ぎ制作されたと云われています。「クジラ」や「UFO」といったこれまでの壮大さを想起させるファンタジックさではない楽曲があることや、4thアルバム「Fragile(邦題:こわれもの)」や5thアルバム「Close To The Egde」をはじめとする数々の名作からすればクリエイティビティが薄まった印象ともとられがちですが、当アルバム「Tormato」は過小評価してしまうにはもったいないぐらいに、Yesらしさが溢れています。
楽曲について
煌びやかなシンセのフレーズに、エコー処理されたベースが絡み合うイントロで幕を上げる冒頭曲「Future Times/Rejoice(邦題:輝く明日/歓喜)」は、どこまでも澄み切った青空を想起させるようなヴァースのポップな唄メロが印象的な楽曲です。ヴァースに呼応するかのように、ギターのフレーズも水を得た魚のように伸びやかに拡がっていきます。左右にPanを動き回るシンセなども印象的に、タイトルの邦題を的を得たような「輝く明日」を表現しているかのようですね。3分後半部「Future Times」もまた、ヴァースの裏で、これまでの楽曲以上に高音にアタックをかけたうねりをあげるベース、シンセのここみ良いキビキビとしたフレーズなど、ポジティブな演奏が堪能出来ます。
楽曲「Close To The Egde」の一部を想像してしまいませんか?
あらためて、この冒頭曲「Future Times/Rejoice」のように、楽曲「Close To The Egde」で一部ともなっていたパートが拡張された印象を受け、それは、過去の一連のアルバム(6th「Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語)」、7th「Relayer」、8th「Going For The One」)では抱かなかった率直な感想なんです。
2「Don’t Kill The Whale(邦題:クジラに愛を)」は「クジラ」をテーマにした楽曲で、これまでの疾走感溢れるマイナー調の名曲よりもコンパクトなロックのフォーマットの印象が高い楽曲です。一連の名曲(「Roundabout」、「Heart Of The Sunrise」、「Siberian Khatru」など)と比べても、テクニカルさのエッセンスは薄く、ロックなビートが溢れ、「クジラ愛護」のメッセージ性の方を強く打ち出した印象ですよね。多くのYesファンにとって、この楽曲への受け止め方が登竜門ではないでしょうか。終始アンサンブルのメインとなるSteve Howeによるギターのフレーズや、3分22秒前後の数秒間のベースとのユニゾンのフレーズがクールでかっこいい。さらに、そのギターのフレーズに耳を奪われがちながらも、Rick Wakemanによるシンセの目立つフレーズや少し希薄にも取れる唐突なフレーズなど、当楽曲を仄かにミステリアスさを醸し出しているところが実は聴きどころな気がします。
3「Madrigal」は、終始冒頭部から奏でられるハープシコードの煌びやかなフレーズが華麗にも優雅に響くのが印象的な小曲です。ほんの約2分半前後の小曲ですが、クラシカルなフレーズを醸し出すアコースティックギターとのアンサンブル、そして、ボーカルに沿えるコーラスワークが、どこまでも繊細に美しさを讃えた感は、ほんのりと落ち着きます。
4「Release, Release(邦題:自由の解放)」は、2「Don’t Kill The Whale」以上にロック然としたビートがスリリングに展開する楽曲です。3分前後からライブ感を彷彿とさせるオーディエンスのSEと、ギターとドラムのソロのパートがあり、過去アルバムから考えても新機軸とも取れるし、長いYesの歴史を辿れば、次作の10thアルバム「Drama」のテクノさも彷彿とさせるようなリズム感やシンセ・サウンドも印象的でしょうか。
5「Arriving UFO(邦題:UFOの到来)」はイントロのフレーズから「UFO」をテーマとしていることを想起させてくれる楽曲です。どことなく東洋的なメロディ感に、前曲4「Release, Release」にビート感を失くしたシンセで浮遊感あるパートを拡大していったような印象があり、ハードなアプローチを除けば、個人的に、楽曲「Close To The Egde」の一部を想起してしまうんですよね。いっぽうで、3分前後からのシンセとギターのユニゾンによるハードなリフに、うねりをもつベースと、ユニークなコーラスとのパートには、当時だからこそ想像されたクリエイティビティを感じます。4分30秒前後からのシンセをメインとしたエレクトロさのあるフレーズも楽曲のテーマに沿ったアンサンブルが聴けますし、イマジネーション溢れた素晴らしい仕上がりと思うんです。
6「Circus of Heaven(邦題:天国のサーカス)」は、楽曲「To Be Over」(7thアルバム「Relayer」収録曲)に感じえたトロピカルなエッセンスがより曲調に濃厚に表現された楽曲です。唄メロのメロディラインのカウンターメロディとも捉える、終始、印象的なフレーズを弾くメロディアスなベースのフレーズに、オブリガートを紡ぐギターの縦横無尽なプレイ、The Beatlesを彷彿とさせる「Oh la la」のコーラスワークなど、明朗でポップな楽曲を彩るエッセンスが溢れています。2分30秒前後からは、シンセとギターのパートに、子供のナレーションがアクセントになりつつも、4分15秒前後から前半部のモチーフをインストルメンタルなパートで聴かせ、楽曲はクロージングします。
7「Onward(邦題:オンワード)」は、前曲6「Circus of Heaven(邦題:天国のサーカス)」とは異なり、楽曲「To Be Over」(7thアルバム「Relayer」収録曲)に感じえた叙情性溢れる唄メロを重視した楽曲です。Steve Howeの弾くギターのミニマルなフレーズに、Chris Squireのベースラインを中心としたアンサンブルに、オブリガードするフルートのフレーズ、楽曲を包み込むようなホルンなど、管楽器をメインとしたオーケストラが色を添え、穏やかな世界観へゆったりと身を任せてしまいそうなぐらいにリラックスさせてくれます。
最終曲8「On The Silent Wings of Freedom(邦題:自由の翼)」は、軽快なリズムでありながらも、重厚さ比重が低いYesの楽曲でも名曲とも云われる楽曲で、楽曲のオープニングからエンディングまで計算され尽くされたような「じわじわと持続させる疾走さ」が従来の楽曲にもない魅力ともいえるのではないでしょうか。個人的には、冒頭曲「Future Times/Rejoice」の後半部のここみ良さをリフレインさせたアルバムのエンディングに相応しい、ハイエンドの楽曲と思いました。ベースをメインとし、ベースに絡むアドリブ風とも取れる即興性豊かな唐突なギターのフレーズやモチーフが醸し出す2分30秒前の冒頭部のパートは、軽快なリズムの印象からは想像しがたいともいうべき、緊張感が溢れています。ヴァースへ移行後も、その冒頭部のパートが持つクオリティを落とすことなく、疾走する激しさには、当時台頭していたパンクへのYesなりの回答かと思いました。いったん5分前後からのシンセによる浮遊さのあるパートが楽曲を落ち着かせた感がありつつも、6分30秒前後からポリシンセの音色を大きく強調させながら、楽曲はクロージングします。当アルバム「Tormato(トーマト)」を最後に脱退するRick Wakemanの最後の咆哮でもあるかのような当パートは印象的です。
新しいサウンドを模索しアプローチした感のある当アルバム「Tormato(トーマト)」も、プログレ5大バンドの1つとして名前が挙がるYesによる豊富なメロディセンスが溢れています。1970年代後半の事情や、Yes内部のメンバーによる葛藤などもあり、それぞれの当時の個性が発揮され過ぎたのではないかと思います。
個人的には、名曲「Close To The Edge」を断片的に彷彿とさせるパートが1つ1つの楽曲で感じさせてくれるんです。当時、「断片」を繋ぎ合わせた大作のようになっていたら、どのようなアルバムとなっていただろう、と感じずにはいられません。次期1978年発表アルバム「Drama(ドラマ)」以降、Geoffrey DownesとSteve Howeが加わるバンド:ASIAの楽曲群にリンクするプロトタイプな印象の楽曲ではありません。プログレッシブ・ロックと産業ロックの「中間」をリンクしても、前後いずれにも繋がらないあの時代だから出来た奇跡的なアルバムではないでしょうか。
[収録曲]
1. Future Times/Rejoice(邦題:輝く明日/歓喜)
2. Don’t Kill The Whale(邦題:クジラに愛を)
3. Madrigal(邦題:マドリガル)
4. Release, Release(邦題:自由の解放)
5. Arriving UFO(邦題:UFOの到来)
6. Circus of Heaven(邦題:天国のサーカス)
7. Onward(邦題:オンワード)
8. On The Silent Wings of Freedom(邦題:自由の翼)
プログレッシブ・ロックにある「大作」ではなく短めな楽曲がアルバムを占めるため、ファンタジックさ溢れるシンフォニック感よりも、尺が短くなったことで自然とボーカルパートの比重が高くなりポップさのメロディの際立ちます。プログレッシブ・ロックに「親しみやすさ」と云う点でおすすめです。
また、スマートなキャッチーさもある1977年発表アルバム「Going For The One(邦題:究極)」の楽曲の印象よりも、名曲「Close To The Edge」を断片的に感じる豊かなメロディセンスが溢れていると思います。名盤「Close To The Edge」が好きな方が、大作という概念を捨てて聴いて欲しいアルバムです。
「Tormato」の意味するモノ
荒涼とした地で、スーツを着用した紳士がドラムスティックで今にもリズムを刻もうとする情景に、切り刻んだトマトの果肉が散りばめたヒプノシスのジャケットが印象的ですね。当アルバムは当初原案では「Yes Tor」、つまり、「Yes 岩石の露頭」を意味していたそうです。イギリス南部のデヴォンのダートムーアやコーンウォールのボッドミン・ムーアが該当するそうです。
プログレッシブ・ロックに出逢った頃は、その前後でも「ジャケット買い」を好んでいて、幻想さや壮大さのあるジャケットを連想していました。その法則を考えると、取っつきにくいジャケットでした。ドラムスティックがナイフにも想像してしまい、これまでの音楽(=トマト)をドラム(=ナイフ)で切り刻んで、ぶっ壊している印象すらあったんです。
でも、「Tormato」と云うアルバムのタイトルは、「Yes Tor」をアルバムのタイトルするか否か議論となった時に、当時のYesのマネージメント会社は「潰れたトマト」を連想し、「Tor」と「トマト(tomato)」がくっついて、造語「Tormato」が生まれたとのことです。個人的には「トマト」は「Close To The Edge」の固まりであり、切り刻まれ潰れたトマトの断片は、そんな「Close To The Edge」の断片が、このアルバムには散りばめられているんだ、という妄想してしまいました。
そんなプログレな気持ち。
みなさんはいかがですか?
アルバム「Tormato」のおすすめ曲
1曲目は最終曲「On The Silent Wings of Freedom」
軽快なリズムで連想させる「軽さ」よりも緊張感や切迫感を各楽器のアンサンブルに感じさせてくれる、個人的に奇跡的な名曲と思うからです。Yes史上の全アルバムの全楽曲を聴くことなく、名盤と云われる数枚のアルバムの楽曲だけを聴いていた時期がありました。その時分には当楽曲の良さを感じられず、楽曲「Madrigal」や「Onward」に気持ちを馳せてしまったものです。
2曲目は1曲目「Future Times/Rejoice」
当楽曲にで感じ得た、個人的な「Close To The Edge」のメロディセンスがあったからこそ、当アルバムの楽曲の素晴らしさをあらためて感じさせてくれたんです。過小評価されてしまうことが多い当アルバムに先入観を持たず聴けたこと、本当に感謝しきれません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ
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