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プログレおすすめ:White Willow「Ignis Fatuus(邦題:鬼火)」(1995年ノルウェー)


White Willow -「Ignis Fatuus」

第10回目おすすめアルバムは、ノルウェーのWhite Willowが1995年に発表した1stアルバム「Ignis Fatuus」をご紹介します。
White Willow「Ignis Fatuus(邦題:鬼火)」
White Willowは、1992年にギタリストのJacob Holm-Lupoを中心に結成したバンドです。Holm-Lupo(ギター)、Jan Tariq Rahman(キーボード、メロトロン、シンセ、ローズ、リコーダー、シタール、ミニムーグ、フルート、クラリネット、ベース、ギター)、Alexander Engebretsen(5弦ベース)、Tirill Mohn(ヴァイオリン、ギター)、Erik Holm(ドラム)、Pal Sovik(ドラム)、Audun Kjus(フルート、ボーカル)、Sara Trondal(ボーカル)、Eldrid Johansen(ボーカル)など、男女ボーカルを取り揃え、総勢10名の基本構成に、その他、楽曲によって、チェロ奏者、クワイヤ、ベース、ドラマーなど多くのゲスト・ミュージシャンを迎え、1stアルバムは制作されています。

バンドの特徴は、アルバムを発表するごとに変化を繰り返していきますが、時に薄暗さ、時に狂気さや高揚させながらも共通しているのはメランコリックなサウンドです。当アルバムには、まだフォーキーな抒情性があり、以降のアルバムで感じるゴシック色は抑え気味です。とりわけメロトロンやフルートの旋律がイギリスの5大プログレバンド:King CrimsonやGenesisの初期のフォーキーさを彷彿させて懐かしき心地に郷愁を誘い聴き入ってしまいます。楽曲によってはマイナー調でトーンが沈む込んだり、曲調を際立たせたりと、ヴィンテージなクラシカル・ロックに色を添えています。

メランコリックさと愛らしさに溢れた1970年代のヴィンテージなプログレ・フォーク
を愉しめる1枚です。

楽曲について

冒頭曲1「Snowfall」は、テープの逆回転を取り入れ、その不穏さを煽るサウンド・エフェクトにその後にどのような音の展開があるのかと不安げな心地にするには十分なオープニングですが、アコースティック・ギターに導かれ、男女混成による唄メロが聴けると妙に安堵を感じてしまいます。そのアコースティック・ギターと唄メロのメロディラインにはノルウェーの冬の寒々とした大地をサウンドスケープさせてくれます。そして、1分40秒前後からのサスティーンを効かせたギターのフレーズが耳に入ってきますが、オープニングのテープの逆回転によるサウンド・エフェクトにより違和感なく心に問いかけてくるようです。アコースティック・ギターのアルペジオ、エレクトリック・ギターのフレーズ、フルートの旋律、ドラムなどが次々とアンサンブルに加わるパートやシンセやメロトロンで浮遊さを醸し出すパートなど、ヴァースでのアコースティック・ギターをメインに展開するフォーキーな抒情性だけでなく、シンフォニック系のプログレッシブなバンドだと感じるんです。

楽曲の和訳「降雪」を想起させる素敵なサウンドスケープが堪能出来る。

2「Lord of Night」は、アコースティック・ギターとメロトロンを伴奏に、女性ボーカルの唄メロが楽曲をリードし、フルートやヴァイオリンが寂しげな旋律を聴かせ楽曲のトーンはより深く沈み込み、2分55秒前後からは2ndアルバム以降を予見するようなゴシック調を垣間見せるポストロック的な特徴あるギター奏法が聴けます。クワイヤがよりいっそう深く沈み込むサウンドに不穏さを煽りますが、6分30秒前後から突如流れるリコーダーとシタールの旋律により、場面は一転し楽曲はクロージングします。このリコーダーとシタールの旋律があることで、ほっと一息がつけるぐらいに、きっとWhite Willowの薄暗くメランコリックな世界観に浸ってしまいますし、2分弱の次曲3「Song」の曲調にスムーズに感情移入していけます。

アメリカのRed Hot Chili Peppersの元ギタリスト:John Fruscianteを彷彿とさせるクラシカルなギターやベースのフレーズが印象的な男性ボーカルによる4「Ingenting」、アルバムの楽曲中で最もたおやかなサウンド・メイキングで秋の夕食時の食卓をサウンドスケープさせてくれる6「Lines on an Autumnal Evening」、アコースティック・ギターをアンサンブルに、フルートの並奏と女性ボーカルのスキャットで聴かせる8「Piletreet」、不思議なぐらいにただただフォーキーな抒情さに仄かな躍動さもある9「Till He Arrives」などを聴けば、冒頭曲や2「Lord of Night」とは異なり、プログレ・フォーク系のエッセンスの比重が高いアンサンブルを堪能出来ます。

また、プログレ・フォーク系をより推し進め、ノルウェーの地特有と思われるメロディ感を交えたシンフォニック系への展開として、4分前後のノルウェーの土着のリズム感を反映させたようなドラミングとメロディアスなベースがボトムを支え繊細にもリズミカルなフルートの旋律が印象的な5「The Withering of the Boughs」、前半部の女性ボーカルの唄メロのメロディラインにオブリガードに重なるウッドウィンドや後半部のリズミカルなパートも印象的に曲名の世界観(妖精の地)を表現するかのような7「Now in These Fairly Lands」の2曲は印象的です。

そして、アルバム・クロージング直前の3曲は、White Willowがもつ薄暗さや陰鬱さがハードな側面で魅せてくれる展開が愉します。

10「Crytomenysis」は、オルガンの音色が幾重もユニークに重なるオープニングから、エレクトリック・ギターのアンサンブル、ピアノの旋律とベースのみによるパート、チェロの旋律など、不穏な空気を醸し出しインストルメンタルの楽曲で、King Crimsonのメタリック第2期を彷彿とさせてくれます。フォーキ―な抒情性にだけ捉われない今後のWhite Willowが展開する音楽性の一端を予見するようなサウンドが充満していますが、9分前後から加わる女性のスキャットがクロージング約1分にわたり、コーラスワークを重ねるパートを聴けば、アシッド・フォーク系のエッセンスも感じさせ、一筋縄では終わらせないですね。

11「Signs」は、アコースティカルで女性ボーカルが唄う曲調は、女性スキャットでクロージングする10「Crytomenysis」と整然としたピアノの旋律で幕を上げる最終曲12「John Dee’s Lament」をリンクする印象をもつ約2分ほどの小曲です。

最終曲12「John Dee’s Lament」のイントロの鍵盤のフレーズは、イギリスのプログレフォーク系のバンド:Renaissanceの楽曲「Can You Understand ?」(1stアルバム「Ash Are Burning」収録曲)ほどの躍動さはなく、10「Crytomenysis」と同様に、これから楽曲のトーンが薄暗さや不穏さで深く沈む込んでいくには十分すぎるほど、整然とした佇まいが印象的です。また、ヴァイオリンの旋律には、King Crimsonの1973年発売の5thアルバム「Larks’ Tongues In Aspic(邦題:太陽と戦慄)」で展開する世界観さえ想起してしまう人もいるかもしれません。

アルバム全篇、バンドに男女ボーカルがいる特性を活かし、北欧の地ノルウェーに想いを馳せてしまうような唄メロを印象的に聴かせてくれます。また、Peter Gabriel期のGenesisや、King Crimsonを現代風に昇華させたようなプログレ・フォーク系のエッセンスや、後者のKing Crimsonを想起させる薄暗さの向こう側に見える仄かな狂気さも魅せるハードなアンサンブルなど、1970年代のヴィンテージなサウンドをリスペクトする素晴らしいクオリティのアルバムと思います。

[収録曲]

1. Snowfall
2. Lord of Night
3. Song
4. Ingenting
5. The Withering of the Boughs
6. Lines on an Autumnal Evening
7. Now in These Fairly Lands
8. Piletreet
9. Till He Arrives
10. Crytomenysis
11. Signs
12. John Dee’s Lament

※Bonus CD Tracks(2013年リリース追加)※
1. Lord of Night (live)
2. Grankvad (demo)
3. I in the Eye (studio outtake)
4. Snowfall (demo)
5. Till He Arrives (demo)
6. Det Omvendte Baeger (studio outtake)
7. Moonchild (demo)

なお、この1stアルバムは2013年にリマスターされており、ボーナスCDがついています。7曲目にはKing Crimsonの名曲「Moonchild」(1stアルバム「In The Court Of The Crimson King(邦題:クリムゾン・キングの宮殿)」収録)がカバー収録されてます。原曲のもつ唄メロでの「これぞプログレ」と感じた繊細なドラミング、唄メロと唄メロ以外でのメロトロンの使い方、さらにテンポアップする展開を聴き比べてみると、原曲を忠実に再現するよりも、モダンな解釈でKing Crimosnをリスペクトする姿勢が伝わってくる気がしました。

King Crimsonの持つフォーキーな抒情性(たとえば「I Talk To The Wind」、「Cadence And Cascade」)は、北欧のメロディアスでいて薄暗い世界観のサウンドが好きな方にはおすすめのバンドであり、アルバムです。

北欧音楽に抱く想いをプログレでも感じさせてくれたバンド

北欧のバンドでは、北欧のプログレッシブ・ロックバンド(Anekdoten、Anglagardなど)以外にも、ポストロックなバンド(Eskju Divine、Kent、Mew、Ariel Kill Him、Kashmir、Sigur Rosなど)も好きなんです。演奏力の高さ、冬の情景を想起させるサウンド感はプログレ的にすら感じてしまいます。

アルバム「Ignis Fatuus」のおすすめ曲

1曲目は7曲目の「Now in These Fairly Lands」
各楽器の奏でるアンサンブルの妙が素晴らしく、曲名の世界観(妖精の地)をサウンドスケープさせてくれるからです。

2曲目は10曲目の「The Withering of the Boughs」
楽曲の唄メロにはノルウェーの地独特のメロディセンスは感じられます。個人的に、当楽曲はアルバム全篇で最もWhite Willowらしさ溢れる、ノルウェーの地独特と思わせるアンサンブルが4分前後以降で感じられるのです。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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