プログレおすすめ:Barock Project「Coffee In Neukölln」(2012年イタリア)
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最終更新日:2015/12/02
2010年‐2013年, イタリア, イタリアン・プログレ, フルート Barock Project
Barock Project -「Coffee In Neukölln」
第34回目おすすめアルバムは、イタリアのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Barock Projectが2012年に発表した3rdアルバム「Coffee In Neukölln」をご紹介します。
当アルバム「Coffee In Neukölln」制作時のBarock Projectは、Luca Zabbini(ギター、キーボード、ボーカル)と、Luca Pancaldi(ボーカル)、Giambattista Giorgi(ベース)によるトリオ編成です。
前作2ndアルバム「Rebus」発表後に、Max Scarcia(ギター)とGiacomo Calabria(ドラム)が脱退したとはいえ、バンドの音楽性の特徴である1970年代のクラシカルなプログレッシブ・ロックが持つダイナミズムは健在です。特に、Keith Emerson(イギリスの5大プログレバンド:Emerson, Lake & Palmerのキーボード奏者)をリスペクトするバンド創設者のLuca Zabbiniによる、クラシカル・ロックからジャズまで幅広い音楽ジャンルに目を向けた造詣さが楽曲に溢れていると思います。
バンドの音楽の比較対象に出されることが多いEmerson, Lake & Palmerのシンセやピアノをはじめとしたダイナミズム溢れる各楽器のアンサンブルだけでなく、同国イタリアのプログレッシブ・ロックバンド:New Trollを彷彿とさせるオーケストレーションやバロック調の格調高いクラシカルなアンサンブルも巧みに盛り込まれています。
また、英語圏にも通常フォーマットして届けたいと云うバンドの意欲がひしひしと伝わってくるかのように、バンド史上はじめて全篇英語でアルバム制作しています。Genesisを彷彿とさせるヴァースでのアンサンブル随所で聴けるフィルインやコーラスワークとバンドの名称にもある「barock」調の室内音楽系のエッセンスも洗練されていますが、このイタリア語と英語の発音やイントネーションの違いからなのか、室内音楽系で感じえる優雅さと合わせてロマンチックな唄メロのメロディラインも冴えわたっています。
楽曲について
冒頭曲1「Back to You」は、そのイントロを聴くだけでもバンドの勢い溢れるままに、ダイナミックなシンフォニック系の扉へ触れたかのような素晴らしい時間が始まる感覚を憶えます。アコースティック・ギターとリズム・セクションによるアンサンブルと、シンセがリードする旋律のイントロの威風堂々さも然ることながら、ヴァースで聴けるボーカルのLuca Pancaldiの声質には、英語詞になることでGrek Lakeの1970年代全盛期の張りのある声質を想起してしまい、実感してしまったんです。その声質のためか、唄メロがEmerson, Lake & Palmer風のメロディラインに近しいと感じた時には、イントロの雰囲気とにギャップを起こし戸惑いも感じました。ただし、それは1つの戸惑いにしか過ぎず、変拍子を多用したテーマの異なるヴァースや、オーケストレーションやピアノが印象的なフレーズが繰り返されているのを聴くと、前作アルバムまで以上に、1つの楽曲に豊富なアイデアを紡ぎだしているため、
心が内からざわめき、アルバムの続きにわくわくしてたまらない、期待せずにいられない衝動が残るだけです。きっと、クロージング前にイントロのフレーズが再度提示されなければ、ダイナミックなBarock Projectの音楽に飲み込まれてしまいそうにもなります。
タイトなリズムに、オーケストレーションがダイナミックに奏でられれば、ロッキングな唄メロの楽曲と勘違いそうにもなる2「Coffee In Neukölln」は、最初のヴァースから、オブリガード気味のピアノの旋律やアメリカのロックバンド:TOTOを彷彿とさせるロマンチシズム溢れる唄メロのフックが聴けます。2番目のヴァース以降は、そのTOTOのMike Porcaroを彷彿とさせる印象的なフレーズを弾くベース、中盤の分厚くシアトリカルなコーラスワークなども交え、6分10秒過ぎに突如聴かれるスクリーム的なボーカリゼーションさえアクセントの1つにしか過ぎないと言わんばかりに、ヴァースのメインのメロディラインを様々なスタイルのアンサンブルで繰り返していきます。当アルバムでは、メロウでロマンチシズムさを感じながらも、綺麗なイメージだけでは終わらせない1曲を通じ最もダイナミックな展開を感じさせてくれる楽曲ですね。
チャーチ・オルガンをバックにコーラスが響き渡る教会でのミサをサウンドスケープさせる3「Kyrie」から、本格的なバロック調のクラシカルの曲と錯覚してしまいそうな4「Fool’s Epilogue」の冒頭部30秒までの流れは流麗で格調高く感じ、プログレッシブ・ロックのアルバムを聴いているということや、冒頭曲1「Back to You」で感じたLuca Pancaldiの声質の印象なんてすでに脳裏から消えてしまうんです。ヴァースに入っても、バロック調のピアノの旋律とオーケストレーションに包まれ、リズミカルにも優雅に楽曲は「バロック・ロック」的に展開し、3分55秒前後からエレクトリック・ギターのブレイクとともに、ロックのダイナミズムさもアンサンブルに加わり、エッジの効いたギターをメインとしたハードロック調へと変貌します。約11分40秒の間に、どこまでもドラマチックに、まるでイギリスのロックバンド:Queenを彷彿とさせるシアトリカルさも垣間見せつつ、この予想せぬ展開がプログレの醍醐味とあらためて感じさせてくれますね。それにしても、Luca Zabbiniのピアノの旋律はこうもうっとりとさせてくれるんだろう・・・。
5「Streets of Berlin」は、アルバム前半の楽曲よりも、アコースティック・ギターのストロークやフルートの旋律が印象的に聴かせる楽曲です。冒頭曲1「Back to You」で戸惑いを感じたEmerson, Lake & Palmer風の唄メロも聴けますが、個人的には、アメリカのプログレ・ハード系のバンド(BostonやJourneyなど)や都会派のTOTOの楽曲をどことなく想起させてくれるアンサンブルなのですが、それはポジティブな感触です。
ミステリアスなパートと5「Streets of Berlin」の快活さなパートが共存した陽と陰のコントラストをダイナミックに描く6「Starfull Jack」に続き、7「Inside My Dreamer’s Eyes 1」では、当アルバムで最もワイルドでハードなギターのリフによるアプローチと変拍子を多用したパートが聴けます。さらに、ドリミーング溢れるオープニングの8「Inside My Dreamer’s Eyes 2」では、ジャージーなピアノのアンサンブルにハードなR&B風のメロディのアプローチ、3分前後でのディレイを効かせたサウンド処理によるミステリアスにも哀愁さも醸し出すピアノのパートなど、楽曲のタイトルの「Dreamer」を想起するようなロマンチシズムを感じさせてくれます。
ピアノの単音で幕を上げる最終曲9「The Lives of Others」は、前半部のロマンチシズム溢れるパートと中間部以降のロックのダイナミックでハードさやダンサンブルさのアプローチのパートに分かれる約11分にも及ぶ大作です。ピアノのアンサンブルとともに綴られる唄メロのメロディラインには儚くも哀しみを讃える前半部は、順を追ってアンサンブルに加わるオーケストラ、ギター、フルートがアルバムで最も刹那さ溢れる時間へと心を誘います。3分55秒前後からは唄メロもあるロックのアンサンブルへと場面は切り替わり、7分30秒前後からはロックなアプローチを維持しながらも、さらにタイトでダンサンブルなリズムが進行し、ギターソロが入ることで、アルバムをクロージングへと一気に加速させます。
アルバム全篇、前作2ndアルバム「Rebus」で比重の高かったシンセのフレームワークを下げた印象がし、よりプログレ・ハード系のダイナミックで快活なサウンドが冴えわたっていると思います。また、バロック音楽をベースにした格調高い室内音楽的なアプローチに見る繊細さや、唄メロのロマンチシズム溢れるメロディラインは磨きをかけており、次作アルバムにさらに期待せずにいられないです。
[収録曲]
1. Back to You
2. Coffee In Neukölln
3. Kyrie
4. Fool’s Epilogue
5. Streets of Berlin
6. Starfull Jack
7. Inside My Dreamer’s Eyes 1
8. Inside My Dreamer’s Eyes 2
9. The Lives of Others
楽曲3「Kyrie」を除き、ほぼ7分以上の楽曲で占められており、1曲1曲の尺が長くもダイナミックなアンサンブルのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックが好きな方におすすめです。
また、バンドの音楽性に引き合いに出されることが多いNew Troll、Genesis、Emerson, Lake & Palmerを聴く方にもおすすめです。
個人的には、ダイナミックなアンサンブルに、口ずさみたくなる、時としてロマンチシズム溢れる唄メロのメロディラインとアメリカのプログレ・ハード系や都会派の洗練されたTOTOなどのバンドを聴く方にもおすすめです。
アルバム「Coffee in Neukolln」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲1「Back to You」
いくぶんボーカリゼーションや唄メロにEmerson, Lake & Palmerを感じるところもありますが、1曲を通じポジティブなエッセンスが詰まっており、躍動的なサウンドは心揺さぶられずにはいられないです。
2曲目は、8曲目の「Inside My Dreamer’s Eyes 2」
中間部にあたるピアノの旋律、その後のオーケストラとのアンサンブルやコンビネーションが楽曲タイトルの「Dreamer」をイメージさせてくれるぐらいに、当アルバムで最もロマンチシズムを感じるからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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