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プログレおすすめ:The Dear Hunter「Migrant」(2013年アメリカ)

公開日: : 最終更新日:2015/12/29 2010年‐2013年, アメリカ, エモコア


The Dear Hunter - 「Migrant」

第37回目おすすめアルバムは、アメリカのプログレッシブ・ロックバンド:The Dear Hunterが2013年に発表した5thアルバム「Migrant」をご紹介します。

The Dear Hunter「Migrant」
ポスト・ハードコアのバンド:The Receiving End Of Sirensのギタリスト兼ボーカリスト:Casey Crescenzoによるプロジェクトから結成され、ドラム、ギター×2、ベースを含む5人編成のバンドです。

当プロジェクト発足時に、発表していくアルバム6枚を通じ「第一次世界大戦の頃を舞台としたある一人の少年の誕生から死を迎えるまでの物語」を描くコンセプトものの作品だとの前置きがありました。プログレッシブ・ロックの一つの手法としてのコンセプトを複数枚のアルバムで展開するところに心が留まったんです。そして購入のきっかけは、2007年発表の2ndアルバム「Act II: Meaning of & All Things Regarding Ms Leadi」の帯コピー「新世代プログレッシブ・ロック雄」でした。CDジャケットによる所謂「ジャケ買い」ではなかったんです。それからこのThe Dear HunterのCDを買い続けています。
そして、この5thアルバム「Migrant」のみを一聴すると、オルタナティブロックともポストロックとも感じてしまいますが、ミュージカルや映像音楽を思わせるようなシアトリカル性のプログレッシブ・ロックバンドではないかとアルバム前半部では思うんです。

楽曲について

冒頭曲1「Don’t Let Me Bring You Down」は中途半端にも感じてしまう不穏なサウンドのイントロから、白玉のピアノとボーカルだけのヴァースで開始する楽曲。「Don’t Let Me Bring You Down」と連呼するヴァースからフィルインするドラム、ギター、ベースのアンサンブルはまさにオルタナティブとも思えてしまう。それでも独特の清涼感のあるコーラスワークが聴けたり、次曲2「Whisper」のイントロ、およびコーラスワークを耳にすれば、スウェーデンのMoo Safariを想起してしまうんです。

アルバムの前半部は、アンニュイなイントロから陰鬱な唄メロが奏でられる3「Shame」、アコースティカルなギターのストロークが印象的な5「Shouting at the Rain」、戦前ブルースのようなイントロから焦燥感をあおるようなアンサンブルの6「The Kiss of Life」、意表をつく女性コーラスがアクセントの7「Girl」など、エッジの効いたギターなども交え、バラエティ豊かな曲調の楽曲が印象的に並んでいます。

8「Cycle」以降のアルバムの後半部は、シンフォニックな展開を魅せる10「Let Go」をはじめ、憂いを帯びた流麗な唄メロが続きます。Moon Safariというう印象が薄れ、おそらく4thアルバムまで聴き続けたファンの方々には、この後半部のような楽曲の比重が高まったアルバムではないかと印象を感じるかもしれませんね。
最終曲の12「Don’t Look Back」はクロージング前に「Don’t Look Back」と連呼するボーカリゼーションを耳にした時、冒頭曲1「Don’t Let Me Bring You Down」を思い出してしまうんです。個人的な感想ですが、その1で展開された中途半端にも感じてしまう不穏なサウンドは、12を聴いてから再度聴くことですんなりと心が受け止めてくれたんです。

また、6枚を通じたコンセプト作の1つ前のアルバムとして聴くことでアルバムに対する印象も変わるかもしれませんね。

[収録曲]

1. Don’t Let Me Bring You Down
2. Whisper
3. Shame
4. An Escape
5. Shouting at the Rain
6. The Kiss of Life
7. Girl
8. Cycles
9. Sweet Naivete
10. Let Go
11. This Vicious Place
12. Don’t Look Back

後述の「当バンドを聴くポイント」で記述させても頂きましたが、バンドの情報として勘違いしてしまうことをクリアしていけば、シアトリカルさのあるサウンド感、6枚を通じたコンセプト作としての楽しみ、アルバム後半のシンフォニック性を感じる展開などでプログレシッブなロックを楽しみたい方におすすめです。

当バンドを聴くポイント

勘違いが起きやすい「前触り」や「バンドの名称」を考察することで、当バンドを聴くポイントを考えてみたいと思います。

1.ポスト・ハードコアと勘違いされる。
Casey Crescenzoが所属するバンド:The Receiving End Of Sirensによる前触りの影響かポスト・ハードコアのバンドと勘違いされてしまうようです。どちからといえばオルナタティブに近いが、2006年発表の1stアルバム「Act I: The Lake South, The River North」の1曲目からMoon Safariのようなコーラス感を見せたり、バイオリン、チェロ、ハープなどを取り入れ、レンジが拡く展開をするシンフォニックなプログレのバンドではないかと思うんです。ただ、当5thアルバムでは楽器配分は薄れています。

2.Deer Hunterと勘違いされる。
バンドの名称だけの問題だけかもしれません。もしかすると先入観からシューゲイザ―と勘違いされてしまうようです。綴りは「Deer」と「Dear」。前者の「Deer」はマーティンスコセッシ監督でロバート・デ・ニーロ主演の1978年の映画「Deer Hunter」の綴りであり、Deer Hunterはシューゲイザ―で有名なバンドですよね。シューゲイザ―といえば、ブラックメタルで有名なフランスのAlcentはシューゲイザ―とポストロックを融合させたサウンドと括られ、近年ではブラックメタル色が薄れ、プログレ色をも垣間見せてくれる。初期の音楽性から転身し、プログレッシブなサウンドを聴かせるバンドというならば、個人的な印象ではフランスのAlcentのように素晴らしい音楽性があると思うんです。でも、バンドのフロント:Neigeは「Alcestは他のバンドから影響を受けていないと思っている。そのほうがどんなジャンルからも離れた、自由な世界観を醸し出せるから。」と。果たしてThe Dear Hunterの音楽性はCD帯どおりと捉えるべきかどうか。

アルバム「Migrant」のおすすめ曲

1曲目は11曲目の「Sweet Naivete」
ピアノを主体とし陰鬱なヴァースが耳に残る楽曲なのですが、サビにあたる唄メロの展開がじわじわと心に沁みこむような印象的だから。

2曲目は、最終曲の「Don’t Look Back」
アルバム前半部のコーラスとは異にする感覚と同時に、クロージング直前の「Don’t Look Back」のボーカリゼーションが印象的だから。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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