プログレおすすめ:Albion「Broken Hopes」(2007年ポーランド)
Albion -「Broken Hopes」
第58回目おすすめアルバムは、ポーランドのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Albionが2007年に発表した4thアルバム「Broken Hopes」をご紹介します。
女性ボーカル:Katarzyna Sobkowicz-Malecをメインとし、Jerzy Antczak(ギター)、Krzysztof Malec(キーボード)の3人編成のバンドです。ベース、ドラム、サックスのパートはゲスト参加してます。
次作5th「The Indefinite State Of Matter」では、ギターとキーボードのアンサンブルよりもゲストのベースやドラムの演奏が際立ちを見せていましたが、当アルバムではメインメンバーのギターとキーボードのアンサンブルに重要視した印象があります。また、当バンドの特徴である特有のSEで空間を埋め尽くされながらも、
バンドが発表したアルバムの中で最もメロディアスな楽曲が多いアルバム
として、東欧のバンドが持つ独特の感性を感じさせてくれるメロディ感の素敵な楽曲を愉しむことが出来ます。
楽曲について
幻想的なSEで幕を上げる冒頭1「XX / XXI」から徐々に電子音が拡がりを見せて切れ目なく2「The Place」へ繋がります。少しばかりのノイズ、拡声器を通じた女性ボーカルに、クリーントーンによるギターの切なげなアルペジオを聴けば、色褪せたセピア色彩のサウンドスケープを感じさせてくれます。2分前後からはクリアなトーンを活かしたキーボードとギターにより、静と動のメリハリを効かせたアンサンブルを聴かせてくれます。またボーカルのKatarzyna Sobkowicz-Malecのたおやかで穏やかなボーカリゼーションにマッチングした唄メロでは、そのイメージを壊すことのないようアルペジオがメインとしたフレーズを弾くキーボードとギターのアプローチが良く、後半部の長尺でいて、ささくれだったフレーズのパートとロングトーンを活かしたフレーズの2種類のギターソロに、9分前後から絡み合うサックスのソロ、続く2回目のギターのソロなど、唄モノでありながらも、いくつものメロディアスなソロを続くさまにも心が揺さぶられてしまいます。
印象的なSEのシークエンスに導かれ幕を上げる3「Once Upon A Time」もまた、マイナー調の音階フレーズのキーボードの伴奏と、どことなくアフリカ・テイストなパーカッシブさを感ずるポリシズムさとともに、Katarzyna Sobkowicz-Malecの憂いのあるボーカリゼーションを活かし、当アルバム中で最も翳りのあるセンチメンタリズムな唄メロを聴かせてくれます。サビのパートで抑制を効かせた「Once Upon A Time」のフレーズの連呼やキーボードが弾く単音フレーズのアレンジは、より楽曲の持つ魅力を際立たせ、聴き手の心を惹きこんでしまうように展開していきます。3分20秒前後からのギター・ソロ以降では、Katarzyna Sobkowicz-Malecが張り上げてボーカリゼーションで迫り、ヴォーカル含めてより一層盛り上がりを見せてくれますし、2度目の「Once Upon A Time」のコーラスワークも印象的に楽曲はクロージングします。
4「This Is It(Ikarus)」はギターのフレーズに、小鳥や水辺を想起させるSEに導かれ、男性による朗読とKatarzyna Sobkowicz-Malecの唄メロの断片が聴ける小曲で、おそらくアルバム全篇で感じる本来の印象は当楽曲のようにSEやインストだけの印象が大きいかもしれません。
フランスのDelusion Squaredを彷彿とさせるギター・リフがメインのアンサンブルの5「Angel」に続く、6「I Am」や7「Turks Fruit」も3「Once Upon A Time」と同様に翳りのあるセンチメンタリズムさも感じる唄メロや構成が特徴的な楽曲と思います。互いに印象的なキーボードやギターのフレーズが聴けますが、特に、後者の7「Turks Fruit」は、キーボードの異なる2つのフレーズが重なるイントロや、ヴァースでのフリーキーなギターのフレーズも耳に残りますが、やはり唄メロではそのメロディラインの印象を崩さないようにアンサンブルが構築されているさまが他楽曲以上に際立たせています。ギター・ソロとシークエンスを効かせたキーボードのフレームも含め、3曲目の「Once Upon A Time」とは異なるアプローチで物憂げで哀愁を帯びたイメージを伝えてくれます。ブリッジ部では、Katarzyna Sobkowicz-Malecによるアカペラの歌唱が良いアクセントだと感じてしまうのに、楽曲後半部ではより一層盛り上がりをみせるボーカリゼーションを聴かせてくれます。フリーキーなギターのソロが奏でられ、そのままクロージングするかと思えば、楽曲全体の曲調にマッチングした2番目のパートともいうべきギター・ソロが続きます。物憂げな楽曲なのに、この2番目のギター・ソロが聴けることで安堵してしまうことに戸惑いすら感じてしまいます。
メロディアスなロマンチシズムがじわじわと形を変えて循環し感じえる。
唄メロとヴァース以外も含めたアンサンブルによる翳りのあるセンチメンタリズムさの世界観を損なわないように、また、時として唄メロ以上に印象深いテーマやフレーズを1曲の中でいくつも聴かせるギターやキーボードの豊富なアプローチも印象的です。
8「This Is The Way Where We Go」は、印象深いテーマやフレーズよりも幻想さを醸し出すシンセやギターのアプローチや3「Once Upon A Time」と同様にパーカッシブさも盛り込んだインストルメンタルの楽曲で、アルバム全体の翳りのあるトーンからアルバム中最も穏やかな時間を感じさせてくれる最終曲9「Near The End」へリンクさせる序曲のようなイメージをもたせてくれます。
そして最終曲9「Near The End」はクリーントーンの2つのギターによるリズミカルなアルペジオのアンサンブルにボーカルだけの冒頭部、ヴァースの唄メロやクロージング直前のギター・ソロには、終始、清涼さを感じさせてくれるため、アルバムのクロージング直前に一息をつかせてくれますね。アルバムの大半の楽曲で、アルバム・タイトル「Broken Hopes」の和訳「壊れた希望」を象徴するかのように翳りのあるロマンチシズムで儚いイメージのサウンドスケープを魅せてくれながらも、最後に希望があることをサウンドで伝えてくれるようなクロージングが印象的なアルバムと思います。
[収録曲]
1. XX / XXI
2. The Place
3. Once Upon A Time
4. This Is It(Ikarus)
5. Angel
6. I Am
7. Turks Fruit
8. This Is The Way Where We Go
9. Near The End
優美でいて抑制が効いた女性ボーカルで唄メロをしっかりと聴かせる楽曲や、メロディアスでロマンチシズム溢れる楽曲が好きな方におすすめです。
また、SE使用がサウンドスケープの一端を担い、5大プログレバンド:Pink Floydを想起させてくれるかもしれません。唄メロとプログレッシブ・ロックのエッセンスを活かしたアンサンブルの融合と捉えがちですが、アルバム全篇に配しているSEは、何度も繰り返し聞くことで、楽曲1曲としての構成要素、もしくは、楽曲1曲1曲をアルバムで聴かせる構成要素としたクリエイティブの高さからサウンド・メイキングでのコンセプトさを感じ取りながら聴きたい方にもおすすめです。
アルバム「Broken Hopes」のおすすめ曲
1曲目は、7曲目の「Turks Fruit」
アルバム中の翳りあるロマンチシズム溢れた楽曲を象徴し、3「「Once Upon A Time」と同様に甲乙つけがたいのですが、ギターでのアプローチよりも、キーボードのクリエイティブさの際立ち素敵だからです。
2曲目は3曲目の「Once Upon A Time」
「Once Upon A Time」の抑制を効かせたコーラスワークが印象的だからです。また、キーボードとギターの1つ1つのアプローチには切なげな楽曲の印象をより深め、聴いていて、じわじわと心へ訴えかけ刹那さで苦しくなるような感覚さえ憶えてしまいます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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