プログレおすすめ:Pink Floyd「The Endless River(邦題:永遠/TOWA(とわ))」(2014年イギリス)
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最終更新日:2015/12/02
2014年, Pink Floyd(5大プログレ), イギリス David Gilmour, Nick Mason, Pink Floyd, Richard Wright
Pink Floyd -「The Endless River(邦題:永遠/TOWA(とわ))」
第91回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが2014年に発表したアルバム「The Endless River」をご紹介します。
Pink Floydの13枚目にあたるスタジオ・アルバム「The Endless River(邦題:永遠/TOWA(とわ))」は、1994年発表の前作「The Division Bell(邦題:対(TSUI)」から20年ぶりに発表されました。収録された音源には、ギターにDavid Gilmour、ドラムにNick Mason、キーボードにRichard Wrightによるメインの3人に、ゲスト・ミュージシャンとしてベース・ギター、サックス、ヴィオラ、ヴァイオリン、チェロなどが連なっています。
20年ぶりに提示された当アルバムに驚かれたPink Floydやプログレッシブ・ロックのファンは少なからずいただろうと思います。2008年9月15日に、Richard Wrighが癌のため65歳で逝去し、Pink Floydはどのようなカタチで、このタイミングでアルバムを発表するのだろうと想いを巡らす。
20年の時の流れを超えて
本来は、前作「The Division Bell(邦題:対(TSUI)」のアルバム制作時に、約20時間にも及ぶ長時間のレコーディングのマテリアル(録音テープ)があり、アルバムとしては9曲分しか発表されなかったことが発端となっているそうです。残されたマテリアルを含め、当初、Pink Floydは歌入りのアルバムと演奏だけのアルバムの2枚を発表するプロジェクトであったといいます。前作アルバムの発表後、エンジニア担当のAndy Jacksonがサイケデリックでアンビエントな楽曲だけの編集アルバムを作成したが発表されず、マテリアルはDavid Gilmourの倉庫に眠ってしまうことに。
時は流れ、2006年にDavid Gilmourがソロアルバム制作にRichard Wrightと組むことになるのですが、2008年には・・・。
この時に、1983年の未発表音源となるマテリアルをカタチにすることで「Richard Wrightとの音源を形にしたい。」とDavid Gilmourと感じたのでしょうね。
元Roxy MusicのPhil Manzaneraにマテリアルを委ね、交響曲のように4つのパートに楽曲が散りばめられますが、その後、Paul McCartneyとのThe Firemanを組むYouthが不十分さを指摘が入ります。そう、アルバムのプロデュースに、David Gilmour、Phil Manzanera、Youth、Andy Jacksonの4人の名前が連なるのはこの所以です。そして、本格的にアルバム制作が開始します。
マテリアルの整理だけでなく、新たな録音も行うことで編集・再構築し当アルバムは仕上がりました。
ただただRichard Wrightへの追悼の意を表すように。
楽曲について
和訳すると「言い残したこと」とも捉えられる冒頭曲「Things Left Unsaid」は、David Gilmourらの言葉が挿入されて始まります。バックに流れるRichard Wrightによるシンセの音の波に呼応するかのように、David GilmourのEボウによるギターが重なる様はアンビエント風に展開していきます。まるで楽曲「Claster One」(前作「The Devision Bell」収録)を連想させてくれますね。Richard Wrightの「言い残したこと」を伝えようとしているのか、残されたメンバーであるDavid GilmourとNick MasonがRichard Wrightに「言い残したこと」があるのか、アルバムは落ち着きを払うかのように撓曲で静かに幕をあげます。
まるで楽曲「Shine On You Crazy Diamond (Part One) (1-5)」(アルバム「Wish You Were Here」収録)を想起させるような曲調の2「It’s What We Do」は、かのSyd Barrettをも意識したようにも聴けてしまうのは筆者だけでしょうか。イントロのオルガンから、Nick Masonのドラム、そして、Richard WrightのシンセとDavid Gilmourのギターで重ねられていくブルース・フィーリングに聴き入ってしまいます。
Richard Wrightの電気ピアノとDavid Gilmourのギターによる3「Edd And Flow」には、サイケデリック時代のPink Floydを想起させると同時に、Brian EnoとUndergroundのKarl Hydeが組んだ2014年発表のアルバム「Someday World」のようなキラキラしたポップ感覚を想起してしまいます。共通していえるのは、アンビエント風からポップへのアプローチか、サイケデリック系のポップからアンビエントへのアプローチなのか、クリエイティビティは素晴らしいと感じてしまいますね。
他にも、1分20秒のDavid Gilmourによるギターのアプローチに名曲「One Of These Days(邦題:吹けよ風、呼べよ嵐)」(アルバム「Middle(邦題:おせっかい)収録曲」を連想させてくれる4「Sum」や、名曲「Echos」を連想させてくれる6「Unsung」、イントロ冒頭部からのギターのディレイによるアプローチに楽曲「The Happiest Days Of Our Lives」や楽曲「Run Like Hell」など「(アルバム「The Wall」収録曲)の楽曲を想起させる11「Allons-y (1)」をはじめとし、ノイズ・トリップとNick Masonのパーカッシブなプレイがサイケデリック時代のPink Floydを連想させてくれる5「Skins」、名曲「Us & Them」を連想させるサックスやクラリネットによるアンサンブルで聴かせる7「Anisina」(アルバム「Dark Side Of Moon(邦題:狂気)」収録曲)など、聴き込めば聴き込むほど、Pink Floydファンであれば、ニンマリするようなクリエイティブを感じえるかもしれません。
アルバムタイトル「The Endless River」は前作アルバム「The Division Bell(邦題:対(TSUI)」のクロージング曲「High Hopes(邦題:運命の鐘)」の歌詞の最後から引用したとのことですが、当アルバムの1曲1曲がほぼ3分以内で構成され、1つの組曲のように耳に入っては消える様に、アルバムタイトルを和訳した一部である「川」の流れをサウンドスケープしてしまいますね。
そして、当アルバムで唯一歌詞のある楽曲「Louder Than Words」が最終曲です。David Gilmourによる穏やかでいてクリーントーンによるギターでイントロは刻まれ、ライトのピアノが重なるアンサンブルに、David Gilmourによるボーカリゼーションが重なります。じわじわと味わい深く4分20秒前後からのDavid Gilmourのギターが耳に入る頃には、当アルバムがラスト・アルバムとなるのかとあらためて感じてしまうんです。クロージング前の約50秒前後のシンセによる音使いが残響しながらクロージングします。その残響感に少しだけ心が救われた、と聴く時にはいつも感じてしまいます。
デビュー当時のSyd Barrett在籍時のサイケデリック感やブルーズ感、その後のより洗練されてスタイリッシュなサウンドへ変貌した幻想感など、過去のPink Floydの様々なクリエイティブをアルバム全18曲に散りばめられた素敵なアルバムですね。
[収録曲]
Side 1:
1. Things Left Unsaid
2. It’s What We Do
3. Ebb and Flow
Side 2:
4. Sum
5. Skins
6. Unsung
7. Anisina
Side 3:
8. The Lost Art of Conversation
9. On Noodle Street
10. Night Light
11. Allons-y (1)
12. Autumn ’68
13. Allons-y (2)
14. Talkin’ Hawkin’
Side 4:
15. Calling
16. Eyes to Pearls
17. Surfacing
18. Louder Than Words
過去の各アルバムと比較しても良いとは思うのですが、あえて比較することをおすすめしたくありません。当アルバムの楽曲を聴くことで、過去のPinkFloydの音楽が脳裏に思い浮かび、どのアルバムにも携わってきたRichard Wrightの素晴らしいクリエイティブを再認識させてくれると思うんです。
「サイケデリック」、「幻想さ」などが好きな方はぜひおすすめします。
また、当アルバムではじめてPink Floydの音楽に触れる方で、その音楽にご興味を持たれた方には、これをきっかけにしPink Floydの過去アルバムにぜひを手を伸ばして欲しいですね。
幻想感の1つの終焉
気怠さ、妖しさ、虚無さ、なんともいえない不満足感というか、映像に「幻想性」で誘惑されるような心地ちへトリップさせてくれる、サウンドスケープさせてくれた数々の楽曲は、間違いなくDavid Gilmour、Nick Mason、Richard Wrightの3人のアンサンブルから生まれたものであり、以降のプログレッシブ・ロックのフォロワーとなるバンドのサウンドには、この「幻想性」のサウンドが多く溢れているのです。
当アルバムの楽曲は、前作アルバム「The Division Bell(邦題:対(TSUI)」の制作プロジェクト時の目的によるマテリアルであり、不十分な状態であることから未発表音源とした経緯ではありませんでした。今後も過去のマテリアルが出てくるかもしれませんが、それらとは一線を画すことは確かな事実です。ラストアルバムになるかもしれないが、カタチにしてくれた残りのメンバーに感謝せずにいられません。
もちろん、素敵な音楽を奏でてくれてありがとうと、あらためてRichard Wrightの冥福をお祈り申し上げます。
アルバム「The Endless River」のおすすめ曲
※今回は、あえて「おすすめ曲」を控えさせていただきます※
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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