プログレおすすめ:YES「Fly From Here」(2011年イギリス)
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最終更新日:2021/06/27
2010年‐2013年, YES(5大プログレ), イギリス Alan White, Benoit David, Chris Squire, Geoffrey Downes, Steve Howe, Trevor Horn, YES
YES -「Fly From Here」
第90回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:YESが2011年に発表した18thアルバム「Fly From Here」をご紹介します。
YESは、2001年にキーボード奏者が不在のまま、オーケストラを起用した17thアルバム「Maginification」を発表しました。その後、Rick Wakemanが再加入し、1970年代の黄金期メンバー(ボーカル:Jon Anderson、ギター:Steve Howe、ベース:Chris Squiare、ドラム:Alan White、キーボード:Rick Wakeman)による編成で、YES結成35周年ツアーが実施されます。
ですが、
・・・心臓病を患うRick Wakemanの変わりに、息子のOliver Wakemanの加入
・・・急性呼吸不全によるJon Andersonの代わりに、YESコピーバンドのボーカル:Benoit Davidのスカウト
・・・足の手術のChris Squire
・・・Oliver Wakemanの代わりに、Geoffrey Downesの再加入
・・・アルバムのプロデュースに、Trevor Hornが参加
など、めぐるめくメンバーに関わる出来事や変更が重なり、アルバム制作時には1980年代発表のアルバム「Drama」の編成に近いメンバー構成でした。そのメンバー構成に落ち着くことで、アルバム「Drama」から21年の時を経て、当時ライブで演奏されていたがスタジオ音源を公式発表していない楽曲「We Can Fly From Here」がクローズアップされました。組曲「Fly From Here」の一部としてアルバムに色を添えています。
当アルバム「Fly From Here」の楽曲を聴くことで、発表当時に賛否両論をよんだアルバム「Drama」の再評価に繋がれば良いと思うんです。1970年代のYES黄金期メンバーによるアルバム(「Fragile(邦題:こわれもの)」、「Close To The Edge(邦題:危機)」など)とは異なるかもしれませんが、YES遺伝子を受け継ぐようなメロウでファンタジックなシンフォニック系のプログレッシブ・ロックは素敵じゃないですか!
楽曲について
冒頭曲「Fly From Here」は、6つのパートから成る約23分にも及ぶ楽曲。冒頭部「Overture」を最初に耳にした瞬間、まずはアルバム「Drama」期に近い、キーボードとギターのリフの質感をしっかりと心で受け止めなければいけないと感じましたね。おそらく「Machine Messiah(邦題:マシン・メシア)」(アルバム「Drama」収録楽曲)を聴いた時分よりは心落ち着いて聴けていたかもしれません。アルバム「Drama」ではテクノポップとプログレシッブロックの楽器の融合のようなイメージを持ちましたが、当アルバム「Fly From Here」のレコーディング技術やTrevor Hornのプロデュースの良さが、よりファンタジックな質感を創出させていると感じました。「Into The Lens(邦題:レンズの中に)」(アルバム「Drama」収録楽曲)のような哀愁さのある唄メロで穏やかにはじまる2分前後の第1部「We Can Fly」でさえ、アクティビティよりもファンタジックな質感がまず心を揺さぶるんです。また、一度聴けば記憶に留まるであろうJon Andersonの高音を活かした唯一無比な声質や、切迫さとスリリングさでもぶれることなく高音でのボーカリゼーションに対し、少し高音を抑え気味であるがメロウな楽曲を伸びやかに唄うBenoit Davidの声質が違和感なく聴けるのも良かったです。もちろん、Jon Andersonがボーカルである楽曲を聴きたいことに代わりはありませんが、ないモノねだりは出来ない。
今可能としうるYESのプログレッシブ・ロックのサウンドに陶酔していた。
7分55秒前後の2部「Sad Night At The Airfield」との繋ぎ目を聴く頃には「Fly From Here」は組曲であろうと認識しながらも、Steve Howeのモダンなアコースティック・ギターのフレーズとGeoffrey Downesによるキーボードのプレイをアンサンブルに、Benoit Davidが唄い上げる唄メロを聴き入ってしまいましたね。唄メロを活かすようなSteve HoweとGeoffrey Downesのプレイにはプログレ感を離れても素敵なサウンドスケープへ導いてくれます。一連のパートが穏やかなイメージであることから、急激な変化をつけるのではなく、第1部「Overture」のキーボードとギターのリフを再提示した14分40秒前後の第3部「Madman At The Screens」は、その後の力強いポップさのある唄メロにスムーズに心踊らされます。19分55秒前後の4部「Bumpy Ride」のSteve HoweのギターとChris Squireのベース・ギターによるインター・プレイは、22分10分前後の最終部「We Can Fly (reprise)」で組曲をクロージングするために、色添えている感じがありますね。
万華鏡を通じたメロウでカラフルなファンタジックさ溢れる組曲に溜息ついてしまう。
繋ぎ目のある組曲形式であることも、すんなりと約24分を聴けることに、いつでも爽やかなイメージを残し楽曲が聴けるんです。素敵な時間をありがとう、と言いたいです。
2「The Man You Always Wanted Me To Be」は、よりキーボードの打音リフやギターのストロークをアンサンブルに活かしたミディアムな楽曲で、1「Fly From Here」とは少し印象が異なるように聴けるかもしれません。「Year」のコーラスとその裏メロで響くベースのフレーズがさりげなくもゆったりとした行進曲をイメージさせてくれて、落ち着いて聴いてしまいますね。
Trevor HornとGeoffrey Downesが所属していたThe Bugglesの「Riding A Tide」を下敷きにしたと云われる3「Life On A Film Set」は、「White Car(邦題:白い車)」(アルバム「Drama」収録楽曲)のようなアンニュイさや悲哀さもある前半部と、ディスト―ションの効いたリフがありながらも唄メロも含め軽やかに躍動する後半部が印象的な楽曲です。
4「Hour Of Need」は、Steve Howeによる2つの側面(フォークタッチ、ロック)を持ったギタープレイに圧倒されてしまいますね。冒頭イントロ部では、Steve HoweとGeoffrey Downesが所属するASIAのテイストを感じもしますが、1分以降のアコースティカルなアンサンブルによる唄メロとの世界観にはメロウさが溢れてたフォーク寄りであり、4分前後までのSteve Howeの水を得た魚の如くプレイするアコースティックのプレイに、次曲5「Solitaire」よりも心躍らせてしまいます。4分前後からはイントロ部のモチーフが再度繰り返されますが、勇ましく躍動するギターのソロ・プレイには、当アルバムでも随一のロマン性を感じずにいられません。フラメンコ風のフレーズも垣間見せながらも、ソリリストとしてのSteve Howeのフィンガーピッキングが楽しめる5「Solitaire」は、個人的に前曲4「Hour Of Need」のおまけに聴けてしまいます。ただ、何度も聴き返すたびに、Steve Howeのギタープレイに圧倒されてしまうんですよね。そして、元気に弾き続けて欲しいと感じずにいられません。
ラスト楽曲6「Into The Storm」は、当アルバムで最もスリリングなアンサンブルが聴ける楽曲です。最初の唄メロのテーマやアンサンブル(2分15分前後までと、3分前後から3分50秒前後まで)には、実験性も感じられた楽曲「Tempus Fugit(邦題:光陰矢のごとし)」(アルバム「Drama」収録楽曲)のフュージュン寄りのリズム感があるロック然を想起します。それでもなお、1978年発表の9thアルバム「Tormato(邦題:トーマト)」の楽曲「Release, Release」や「On the Silent Wings of Freedom(邦題:自由の翼)」よりも楽曲にカラフルさが感じられるんです。そして、マイナー調の次の唄メロのテーマやアンサンブル(2分15分前後から3分前後までと、3分50秒前後からクロージングまで)には、タイトルを和訳した「嵐の中へ」を十分にサウンドスケープさせてくれます。代表曲「Heart Of The Sunrise(邦題:燃える朝焼け)」(アルバム「Fragile」収録曲)とは異なるけれども、また同じく代表曲「Starship Trooper」(アルバム「The Yes Album」収録曲)を想起させる混沌としたスリリングさが名曲として残っていって欲しいと感じずにいられません。
各楽曲のことを調べれば調べるほど、寄せ集めなイメージが抱いてしまうかもしれません。それよりもアルバム「Drama」の姉妹版、それ以上にメロウでファンタジックさを感じさせてくれるシンフォニックなアルバムとして、素敵に仕上がっているのではないかと思います。アルバム「Drama」から21年を経て、当アルバム「Fly From Here」に還元された2010年以降のYESサウンドを聴き入りたいものですね。
[収録曲]
1. Fly From Here – Overture
Fly From Here – Pt I – We Can Fly
Fly From Here – Pt II – Sad Night At The Airfield
Fly From Here – Pt III – Madman At The Screens
Fly From Here – Pt IV – Bumpy Ride
Fly From Here – Pt V – We Can Fly (reprise)
2. The Man You Always Wanted Me To Be
3. Life On A Film Set
4. Hour Of Need
5. Solitaire
6. Into The Storm
当アルバムのメロウさファンタジックさがYESファンだけでなく、プログレッシブ・ロックファンを惹きつけたからこそ、次アルバム「Heaven & Earth」でもメロウさのあるファンタジックなシンフォニック系のアルバムを纏めてくれたのだと、感謝してしまいます。その意味で、2014年発表のアルバム「Heaven & Earth」のYESサウンドが好きな方や、もちろんアルバム「Drama」を好む方にはおすすめです。
もちろんYESに先入観をもたず、メロウでファンタスティックなシンフォニック系のプログレッシブ・ロックのアルバムを聴きたい方にもおすすめです。
アルバム「Fly From Here」のおすすめ曲
1曲目は、1「Fly From Here」
プログレッシブ・ロック然よりも組曲として長尺に纏め上げたことで、ボーカル・パートのある楽曲がそれぞれメリハリがあり聴けるんです。
2曲目は、4「Hour Of Need」
バンドとしてのYESよりも、Steve Howeのスキルフルさやそのスキルフルをアンサンブルに活かした曲調に聴き入ってしまいますが、そのクオリティは素晴らしく、あらためて、その存在の凄さを感じてしまったからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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