プログレおすすめ:Pink Floyd「Animals(アニマルズ)」(1977年イギリス)
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最終更新日:2015/12/12
1970年代, Pink Floyd(5大プログレ), イギリス David Gilmour, Nick Mason, Pink Floyd, Richard Wright, Roger Waters
Pink Floyd -「Animals」
第182回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Pink Floydが1977年に発表したアルバム「Animals」をご紹介します。
Pink Floydの8枚目にあたるスタジオ・アルバム「Animals(アニマルズ)」は、「Wish You Wew Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)」に続くアルバムです。
アルバム全篇、冒頭曲「Pings On The Wings(Part1)」からはじまる世界観は、動物の鳴き声のSEとシンセサイザーを用いたサウンド・メイキングがあるものの、過去アルバムでのサイケデリック/スペースさのエッセンスやトリップ感は薄れ、人間を動物に比喩し社会批判を行うコンセプト仕立てのアルバムを象徴するかのように、David GilmourのギターやRoger Watersのボーカリゼーションが痛々しいまでに情感を讃えたハードなアンサンブルで聴かせるアルバムです。
制作メンバーは、1968年からRoger Waters(ベース兼ボーカル)、David Gilmour(ギター)、Richard Wright(キーボード)、Nick Mason(ドラム、パーカッション)の4人構成は変わらずに、この攻撃的でハードなアンサンブルをアルバムに落とし込んでます。
たとえば、同国イギリスのDavid Bowieもまた小説「1984年」を基にアルバム制作を試みようとしたが許可が出なかったという、George Orwellの寓意的な小説「動物農場」に影響を受けたとされています。アルバムの楽曲のタイトルにも直接関わる豚(Pigs)以外の犬(Dogs)と羊(Sheeps)は小説の位置付けとは異なってます。
・・・ずる賢いインテリ気味のエリート・ビジネスマンなど、野心層が犬(Dogs)
・・・汚職や金にまみれた資本家など、支配層が豚(Pigs)
・・・力の持たない民衆など、労働階級者層が羊(Sheep)
などに喩えられた楽曲たちは、(アルバム・ジャケットの撮影中に)いつの間にか自力で飛び立った豚(Pigs)に向けて、
「あいつの何に対して批判をぶつけるのか」と問いかけから始まる社会風刺が効いた世界観
は痛々しいまでに考えさせられるアルバムです。
楽曲について
冒頭曲「Pings On The Wings(Part1)」はRoger Watersのアコースティック・ギターによる弾き語りの楽曲です。
・・・あいつの何に対して批判をぶつけるのか・・・
・・・空を飛んでいる豚を見るんだ・・・
最後の歌詞の節は何を風刺しようとしているのだろうか、アコースティック・ギターだけによる静かなるアルバムのオープニングはざわざわとした質感ではなく、誰かを批判する人々へ向け、おまえはどうなんだ?とも考えてしまいます。聴き手によって解釈は異なるかもしれませんが、世の中に不満がない者なんてないからこそ、それを直接ぶつけることが出来るのか、間接的にぶつけることが出来るのか、
胸の内を曝け出す
2「Dogs」は、冒頭曲「Pings On The Wings(Part1)」よりも性急さあるアコースティック・ギターのストロークに、オルガンが醸し出すサウンド感が緊張感を漂わせながら、ハードな展開を魅せてくれる楽曲です。この楽曲をアルバムの冒頭曲と考えたとしても、従来のDavid Gilmourの弾くブルース・フィーリングも溢れたアプローチよりも、ハードなテイストであることは否が応にも伝わってきます。焦燥感に苛まれ、孤独になり自問自答を繰り返すかのような歌詞の世界を表現するかのように、シンセサイザーとギターによるダイナミックなアンサンブルから、4分30秒前後のアコースティック・ギターの一定のフレーズに自然と鳴り響く犬のSEが痛々しくも違和感なく聴けてしまうところに、サウンド・メイキングのクオリティの高さを感じずにいられません。8分前後から11分45秒前後のシンセをメインとしたサウンドには従来の「幻想さ」よりも「情感のある現実さ」を感じてしまいますし、執拗なまでに繰り広げられるDavid Gilmourのささくれだったギターのフレーズと煮えたぎらぬ想いを咆哮するRoger Watersのボーカリゼーションにただただ聴き入ってしまいます。
そして、自問自答を繰り返し、弱い犬の遠吠えのように「・・・したのは誰だ? 」と問う想いはどう帰結するのだろうと。
3「Pigs」はミステリアスなフレーズをリフレインするオルガンに、ベース、ギター、シンセサイザーが加わっていく冒頭部が印象的な楽曲です。その冒頭部は、名曲「One of These Days」とは明らかに意をする感覚を憶えるにちがいありません。2「Dogs」以上に咆哮するRoger Waterの変幻自在のボーカリゼーション、犬を彷彿させる数々のコーラスワーク、Roger Watersのリリカルなベースのフレーズもまじえ、クールさよりも悲哀さを漂わせる冒頭部にも、財力、権力、法の下に支配層への叱劣な想いを表現するかのように、執拗なまでに研ぎ澄まされたようにシャープなアンサンブルが印象的です。クロージング直前のギターとベースによる執拗なアプローチには高揚さという言葉は似つかわしくなく、サウンドからにも憤りさえ感じてしまいます。
楽曲のサブタイトル「Three Different Ones」の異なる3つとは、財力、権力、道徳として豚なのだろうかと。
4「Sheep」は、2「Dogs」と3「Pigs」とは異なり、羊の鳴き声と鳥のさえずりのSEとともにエレクトリック・ピアノが柔和なイメージを想起させながらも、次第にRoger Watersの脈打つベース音が重なりいく冒頭部をもつ楽曲です。1分45秒前後からのヴァースに入れば、2「Dogs」と3「Pigs」と同様にRoger Watersの荒々しさ溢れるボーカリゼーションが聴けます。そのヴォイシングは消え入ると同時にシンセサイザーの音色に重なりフェードアウトするかのような音処理が印象的ですね。
他楽曲よりは落ち着き払った印象のベースのフレーズが、ヴァースでのオルガンやギターによるアンサンブルと、6分20秒前後のシンセサイザーの警告とも取れる音、ヴォコーダーを通したナレーション、羊の群れによるSEなどをずっしりと重くのしかかるように心へ問いかけてくるようです。8分15秒前後からのギターをメインとするハードなアプローチには、大人しくも抑圧によって溜まりゆく不満や憤りが頂点に達し暴動へと繋がるのではないかと想像を駆り立てられます。
・・・犬たちは死んだんだ・・・
・・・おまえたちは家にいたほうがいいんだ・・・
・・・これからの余生をゆったりと過ごしたいのなら・・・
あたかも、犬(Dogs)はいなくなったけれど、まだ豚(Pigs)がいるのだから、強迫観念で脅かされているかのようにも。
最終曲「Pings On The Wings(Part2)」は、冒頭曲「Pings On The Wings(Part1)」と同様に、Roger Watersのアコースティック・ギターによる弾き語りの楽曲です。
聴き手にも歌い手自身にも切々と語られるのは、自分を知り孤独ではないということ。
・・・どんな愚者でも犬には居場所が必要だと知っているよ・・・
・・・空飛ぶ豚から身を守る隠れ家に・・・
犬(Dogs)はいなくなった、でもその犬(Dogs)にも居場所があると最後に語られる歌詞に、身震いせずにいられません。社会風刺となる当アルバムのコンセプトに、個人的にその主人公をSheep(羊)と思いこんでしまっていたからです。
犬(Dogs)、豚(Pigs)、Sheep(羊)の3つの立場は、楽曲とアルバムを通じて相互に補完し合うかのように歌詞は綴られているのではないかと、どの立場が悪なのか、正義なのか、それは聴き手の受け止め方によりさまざまに変わるかもしれませんが、本来、そう考えてしまうことがおかしいかもしれません。
もしも解釈が出来るのなら、聴き手が自分自身にアルバムの世界観を投影し、そこに「希望」を見出しながら聴くことをおすすめしたいです。そうすれば、「The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)」と「Wish You Wew Here(邦題:炎~あなたがここにいてほしい)」を含めた3部作の最終作と括られている理由が見いだせるのかもしれません。
[収録曲]
1. Pings On The Wings(Part1)
2.Dogs
3.Pigs(Three Different Ones)
4.Sheep
5. Pings On The Wings(Part2)
Pink Floydの音楽性でキーワードとなるサイケデリック/スペース系による「幻想さ」やブルース・フィーリングも感じる「情感さ」のうち、後者に近しく、よりハードなアプローチとなったアンサンブルは、ギターやベースなど、よりロック・バンドとしてのアンサンブルのクオリティを高く感じるアルバムです。
人間を動物に比喩し社会批判を行うコンセプトから、「社会風刺」の効いたアルバムを聴きたい方におすすめです。
また、前作「Wish You Wew Here」に収録が見送られた2つの楽曲(「You’ve Gotta Be Crazy」と「Raving And Drooling」)が改変し収録されてたことや、アルバム「The Dark Side Of The Moon」と「Wish You Wew Here」を順に聴き、3部作の最終作として聴くカタチも良いかもしれません。
飛べない豚はただの豚だ、だから一人で飛んだんだろう。
アルバム・ジャケットは、ロンドンのテムズ川沿いにあるバターシー発電所の上空を豚が飛んでいるイメージのジャケットです。
イメージと云う所以は・・・
アルバム「Animals」のジャケットは当初Hipgnosisによりデザイン案が提示されながらも、その案を却下したRoger Watersによる案だそうです。実際に、約12メートルにも及び巨大な豚の風船を飛ばし撮影がされました。ただし、撮影中の事故で豚が、勝手に飛んでいってしまったそうです。飛行機のフライトを停止させ、イギリスの空軍が探索をするレベルまでとなった当事件は、ケント州の農場で発見されるも、事件翌日の新聞の一面を飾ったとのことです。
・・・だが、しかし、豚を利用した写真はアルバム・ジャケットに利用されずに、後からコラージュされたのです。
あたかも、宮崎駿の名作アニメ映画「紅の豚」で主人公ポルコの台詞「飛べない豚はただの豚」といわんばかりに一人で飛んだにも関わらずに・・・。
そんなプログレな気持ち。みなさんはいかがですか?
アルバム「Animals」のおすすめ曲
1曲目は2曲目の「Dogs」
3つの立場では居場所がなくなる存在、もしくはどこかに隠れているのかもしれません。アルバム全篇を聴き返すたびに、犬(Dogs)の存在は、羊(Sheeps)を脅かしながらも、果たして豚(Pigs)につき従う存在なのかと考えずにいらなくなります。
2曲目は4曲目の「Sheep」
いちど、アルバム全篇を聴き、再度、当楽曲を聴く時には、3つの立場に対し先入観を忘れ、逆に考えさせられて聴いてしまうからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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